寄生虫感染症へのアプローチ

執筆者:Richard D. Pearson, MD, University of Virginia School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 8月
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ヒトの寄生虫は,ヒトの体表または体内に生息して,その個体(宿主)から栄養を摂取する微生物である。寄生虫には以下の3種類がある:

  • 単細胞生物(原虫,微胞子虫)

  • 多細胞生物である蠕虫

  • ダニやシラミなどの外部寄生虫

原虫および蠕虫による寄生虫感染症は,世界的に疾患および死亡の原因としてかなりの割合を占めている。寄生虫感染症は中南米,アフリカ,およびアジアで蔓延している。一方,オーストラリア,カナダ,欧州,日本,ニュージーランド,および米国では,はるかに頻度が低い。熱帯の衛生環境が不良な貧困地域の住民に及ぼす影響が群を抜いて大きいが,先進国でも移民および流行地域から戻った旅行者に寄生虫感染症がみられ,ときに旅行経験のない住民,特にAIDSまたは免疫不全の原因となる他の疾患を有する人にもみられる。

一部の寄生虫は嫌気条件の腸管腔または腟腔における生息に適応している一方,好気条件の血液または組織に生息するものもある。

多くの腸管寄生虫感染症が,食品または水の糞便汚染を通して広がる。寄生虫感染症は,下水設備および衛生状態の悪い地域で最も頻度が高い。鉤虫など一部の寄生虫は,汚染された土(住血吸虫の場合は汚染された淡水)との接触中に皮膚に侵入できる。マラリアなど他の寄生虫は媒介節足動物によって伝播される。まれに,輸血もしくは注射針の共用による寄生虫の伝播,または母親から胎児への先天的伝播がある。

一部の寄生虫は,米国および他の先進国で流行している。例としては,ヒト蟯虫(Enterobius vermicularis),腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis),Toxoplasma gondiiのほか,ランブル鞭毛虫(Giardia intestinalisG. duodenalisまたはG. lambliaとしても知られる])やCryptosporidium属などの腸管寄生虫が挙げられる。

原虫感染症と蠕虫感染症の特徴は重要な点で異なっている。

原虫

原虫は,単純な2分裂で増殖する単細胞生物である(腸管外寄生原虫ならびに腸管内寄生原虫および微胞子虫を参照)。原虫はヒト宿主内で増殖可能で,数が増えて極めて重症の感染症をもたらす。まれな例外を除き,原虫感染症は好酸球増多を引き起こさない。

微胞子虫

微胞子虫は胞子を形成する細胞内寄生生物であり,かつては原虫に分類されていたが,遺伝子解析から真菌またはその近縁種であることが判明している。微胞子虫によるヒトの疾患は,主にAIDSやその他の重度の易感染状態にある患者に限られる。臨床像は寄生した種によって異なり,胃腸炎,眼の異常,播種性感染症などがある。

蠕虫

蠕虫は多細胞生物であり,複雑な器官系を有する。蠕虫はさらに以下に分類される:

  • 線虫(線形動物)

  • 条虫(条虫綱)および吸虫(吸虫綱)を含む扁形動物(扁形動物門)

原虫とは対照的に,蠕虫はヒトの体内では増殖しないが,組織を移行する際に好酸球増多の反応を引き起こす。大部分の蠕虫の生活環は複雑で,ヒト宿主外でかなりの時間を過ごす。糞線虫(Strongyloides stercoralis),フィリピン毛細虫(Capillaria philippinensis),および小形条虫(Hymenolepis nana)を含む数種は,自家感染(子孫が別の宿主に伝播して感染するのでなく,同じ宿主に再感染する)により増殖できる。糞線虫症では,自家感染が免疫抑制患者(特にコルチコステロイド使用者)において生命を脅かす播種性の過剰感染を来しうる。

蠕虫感染症の重症度は通常感染虫体数と相関するが,1匹の回虫が膵管に移動し,膵管を閉塞して生命を脅かす膵炎を引き起こすなどの例外もある。感染虫体数は環境性曝露の程度,寄生虫側の要因,および遺伝的に決定される宿主の免疫応答によって異なる。人が流行地域から離れると,成虫数は時間とともに減少する。いくつかの寄生虫(例,肝吸虫[Clonorchis sinensis])はヒトの体内で数十年生存できるが,多くの種の寿命は数年に過ぎない。

線虫は無体節の円柱状の蠕虫であり,体長は1mm~1mである。線虫は体腔を有する点で条虫および吸虫と異なる。ヒトに対して感染性を示す発育段階は種によって異なる。腸管内に生息し便中の虫卵または幼虫により伝播する線虫は何億人ものヒトに寄生しており,その中で最も頻度が高いものは回虫(Ascaris属ー回虫症),鉤虫,鞭虫(Trichuris属ー鞭虫症),および糞線虫(Strongyloides属ー糞線虫症)である。

条虫条虫類)の成虫は複数の体節で構成される扁平な蠕虫であり,消化管を欠き,宿主の小腸から栄養分を直接吸収する。成虫は宿主の消化管内で大きくなることがあり,全長が40mにもなる種もある。ヒトに感染する条虫としては,広節裂頭条虫(Diphyllobothrium latum魚条虫[fish tapeworm]),無鉤条虫(Taenia saginataウシ条虫[beef tapeworm]),有鉤条虫(Taenia soliumブタ条虫[pork tapeworm])などがある。

吸虫吸虫類)は血管,肝臓,肺,または消化管に寄生する体節を欠く扁形動物である。通常は体長数センチメートルに過ぎないが,中にはたった1mmのものや,7cmに及ぶものもある。ヒトの吸虫感染症のほとんどは,住血吸虫属(Schistosoma属ー住血吸虫症),肝蛭(Fasciola hepatica肝蛭症)や肝吸虫(Clonorchis sinensis肝吸虫症)などの肝吸虫類,特定のParagonimus属などの肺吸虫(肺吸虫症)のいずれかによって引き起こされる。

寄生虫感染症の診断

  • 鏡検

  • 抗原およびDNA検査

具体的な寄生虫感染症の診断法については,寄生虫感染症の顕微鏡診断のための検体の採取および取扱いの表に要約する。

表&コラム

下水設備および衛生環境が不良の地域または昆虫媒介性疾患の流行地域の住人もしくは旅行者にみられる臨床症候群の鑑別診断では,寄生虫感染症を考慮すべきである。例えば,流行地域から戻ってきた旅行者の発熱はマラリアの可能性を示唆する。経験的には,流行地域から先進国への移民が友人や親戚を訪ねる目的で帰省した場合に特に高リスクであることが示されている。そういった人々はしばしば旅行前にワクチン,薬剤,および疾患予防に関する助言を求めないか,その余裕がないため,行楽地の施設に滞在する旅行者より高リスク環境に入る可能性が高い。

より頻度は低いが,疑わしい臨床症候群を呈する先進国の住人においても(たとえ旅行歴がなくても),流行している病寄生虫感染症または輸入寄生虫感染症の可能性を考慮しなければならない。

病歴情報,身体所見,および検査データからも特定の寄生虫感染症が示唆されうる。例えば,好酸球増多は蠕虫の組織移行の際によくみられ,移民または旅行から戻った者における寄生虫感染症を示唆する。

かつての寄生虫感染症の診断は,便,血液,組織,その他の検体中で虫卵,幼虫,または成虫を同定するか,血清抗体の存在に基づいて行われていたが,現在では寄生虫抗原の同定や寄生虫DNAに対する分子生物学的検査が用いられることが増えている。

多くの主要な医療施設,トラベルクリニック,および保健局において,寄生虫感染症および熱帯医学の専門知識をもつ医師へのコンサルテーションが可能である。

診断方法の詳細については,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)のLaboratory Identification of Parasites of Public Health Concernを参照のこと。

消化管の寄生虫

消化管に感染する様々な段階の原虫および蠕虫は,通常便中に排泄される。ルーチンの検出には便検体の検査が必要であり,寄生虫の排泄は日によって異なるため,日を変えて3回採取するのが望ましい。虫卵および虫体に対する便検査の感度はかなり低いため,臨床的に強く疑われる場合は経験的治療を考慮すべきである。現在では,Giardia属,Cryptosporidium属,およびEntamoeba histolyticaの便中抗原を同定する感度および特異度の高い検査法が利用可能になっている。高価ではあるが,Giardia属,Cryptosporidium属,E. histolytica,およびCyclospora属に対しては分子生物学的検査も利用可能である。これらの微生物の1つまたは複数に対する検査は,便検体に含まれる腸内の細菌,ウイルス,および寄生虫病原体を確認するマルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法ベースのスクリーニングに一般的に含まれる(寄生虫感染症の血清学的および分子生物学的検査の表を参照)。

尿,水,汚れ,または消毒薬などの混入していない排便直後の便を1時間以内に検査室へ送付すべきである;形をなさない便または水様便は動く栄養型を含んでいる可能性が高い。直ちに検査しないのであれば,便は冷蔵すべきであるが,凍結すべきではない。消化管に寄生する原虫を保存するため,新鮮便の一部を固定液に溶かして乳化する必要もある。感度向上のために濃縮法を用いることがある。肛門周囲のセロファンテープ法またはスワブにより蟯虫または条虫の卵を採取できることがある。糞線虫症が疑われ,新鮮便の直接観察で幼虫がみられない場合は,特別な便検査を1つまたは複数実施すべきである。抗菌薬,X線造影剤,下剤,および制酸薬は虫卵および虫体の検出を数週間にわたり妨げることがある。

消化管症状が遷延する患者でアメーバ症が疑われるが,ルーチンの便検査で陰性であった場合,S状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査を考慮すべきである。S状結腸内視鏡検査では鋭匙または匙で検体を採取し(綿棒によるスワブは適さない),直ちに顕微鏡検査を行う。クリプトスポリジウム症または微胞子虫症などの感染症の診断には,十二指腸吸引物および小腸生検検体を要することがある。

寄生虫感染症の血清学的検査

一部の寄生虫は血清学的検査により検出できる(寄生虫感染症の血清学的および分子生物学的検査の表を参照)。

表&コラム

寄生虫感染症の治療

  • 治療法は感染症の種類によって異なる

本マニュアルの個々の感染症を参照のこと。

主要な医療施設や保健局およびトラベルクリニックの専門家,Centers for Disease Control and Prevention(CDC)のウェブサイト,感染症および熱帯医学のテキスト,ならびにThe Medical Letter on Drugs and Therapeuticsのサマリーからも,寄生虫感染症の治療に関するアドバイスを得ることができる。

寄生虫感染症に対する米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)によって承認されていない一部の薬剤がCDC Drug Serviceから入手できる。

寄生虫感染症の予防

多大な投資と研究にもかかわらず,ヒトの寄生虫感染症を予防するワクチンはまだ実用化されていない。予防は感染の回避が基本である。

大半の腸管寄生虫は,以下の措置によって伝播を予防できる:

  • 便の衛生的な処理

  • 手洗い

  • 食品の十分な加熱調理

  • 安全な水の供給

国際旅行者への最善のアドバイスは,「食べ物は火を通し,水は沸かし,果物類は皮をむき,さもなければ口にしない」である。これらの対策を遵守すれば,細菌性およびウイルス性胃腸炎のリスクと同様,腸管寄生虫感染症のリスクもまた排除はできないが,軽減することができる。トイレを使用した後および食事を用意する前の手洗いが非常に重要である。肉(特に豚)および魚(特に淡水魚)は摂取する前に十分に加熱調理すべきである。他の安全対策には,トキソプラズマ症予防のために食品調理場所から猫のトイレを取り除くことなどがある。住血吸虫症の流行地域にある淡水湖,小川,または河川で泳いだり,鉤虫が検出された地域で裸足で歩いたり裸で座ったりしてはならない。

マラリアの予防および感染に媒介生物が関与するその他多くの感染症の予防としては,以下の対策を講じる:

  • 長袖のシャツおよびズボンを着用する

  • 露出部の皮膚にジエチルトルアミド(DEET)を含有する防虫剤を,衣類にペルメトリンを適用する

  • 網戸,空調設備,およびペルメトリンまたは他の殺虫剤を浸透させた蚊帳を使用する

  • 非流行地域の居住者がマラリア感染のある地域に旅行する場合は,マラリア予防薬を服用する。

ラテンアメリカ農村部への旅行者は,サシガメによりシャーガス病に感染する可能性がある日干しレンガ造りの住居で寝るべきではない。アフリカでは,アフリカ睡眠病の発生地域への旅行者はツェツェバエを避けるために鮮やかな色の衣服を避け,長袖のシャツと長ズボンを着用すべきである。

旅行に関する国別の推奨事項は,Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Travelers' HealthおよびCDC Yellow Book 2020から入手できる。

寄生虫感染症についてのより詳細な情報

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