手術

執筆者:André V Coombs, MBBS, University of South Florida
レビュー/改訂 修正済み 2024年 6月
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やさしくわかる病気事典

手術という用語は、組織に切り込み(切開)を入れることで病気、けが、その他の病態を治療する処置(外科的処置、外科手術、または手術といいます)を指して元来用いられてきました。切開を行ったら、臓器や筋骨格系の一部を診察、治療、修復、または除去します。外科的な手法は時代とともに進歩し、現在ではメス、レーザー、その他の手技で切開を行うことができます。切開した部分は縫合、ステープラー、接着剤、またはその他の方法で閉鎖することができます。

現代医療では、病気の診断または治療を目的として、手術とはみなされない処置(例えば大腸内視鏡検査、膀胱鏡検査)が行われることもあり、外科的な処置と内科的な処置の区別は必ずしも容易ではありません。しかし、その処置を行う医師が十分な訓練と経験を積んでいる限りにおいては、厳密な区別は重要ではありません。

手術には様々な種類があり、多様な手法が用いられます。膿瘍や腫瘍などの組織を切除する手術もあれば、閉塞している部位を開通させる手術もあります。さらに、動脈や静脈を新たな位置でつなぎかえ、血液が十分に届いていなかった部位への血流を回復させる手術もあります。

移植と呼ばれる種類の外科的処置では、ある人の体から皮膚、腎臓、肝臓などの臓器を取り除き、同じ人の体(皮膚の場合など)に戻したり、別の人の体に移しかえたりします。

血管や結合組織の代用として移植片(人工素材でできているものもあります)を移植することもあれば、骨折部位を固定または置換するために金属棒を骨の内部に挿入する手術もあります。

場合によっては、手術を行うことで診断を確定することもあります。生検は、顕微鏡で調べるために小さな組織片を採取する医療行為ですが、採取する組織の種類と大きさに応じて、診察室で行う場合と手術専用の環境で行う場合があります。緊急の状況では、診断検査を行う時間の余裕がないために、診断と治療を兼ねた手術が行われる場合もあります。例えば、銃撃による傷や自動車事故で出血が起きているケースでは、出血している臓器を速やかに特定して治療するために手術が必要になる場合があります。

手術の緊急度は、しばしば次の3つに分類されます。

  • 緊急

  • 準緊急

  • 待機

緊急手術は、急激な内出血を止める場合など、数分の差が生死を分ける可能性があるため、可及的速やかに行われます。

準緊急手術は、炎症を起こした虫垂を切除する場合など、数時間以内に行うことが望まれます。

待機手術は、膝関節の置換手術など、手術中や手術後の患者の状態が最良になる条件が整うまで待つことができます。

美容外科手術

美容外科手術は、外見の向上に焦点を置いた待機手術の一種です。

美容外科手術では、例えば以下のような幅広い種類が行われます。

  • しわ取り手術:顔や首からしわをなくす手術で、フェイスリフトとしても知られています。

  • 腹壁形成術:腹部の脂肪や皮膚のたるみをなくす手術です。

  • 乳房形成術:乳房を大きくしたり小さくしたりする手術です。

  • 植毛術:頭髪を増やす手術です。

  • 下顎骨形成術:顎の外観を変える手術です。

  • 眼瞼形成術:まぶたの外観を変える手術です。

  • 鼻形成術:鼻の外観を変える手術です。

  • 脂肪吸引:体の脂肪を取り除く手術です。

  • 硬化療法:静脈瘤をなくす手術です。

執刀医を選ぶときは、専門医の資格(学会の認定)をもち、その手術に関して豊富な経験をもつ医師を選ぶべきです。

最良の結果を得るには手術後の指示に忠実に従う必要があるため、美容外科手術は強い動機のある人だけに勧められます。

美容外科手術は人気があり、心惹かれるものかもしれませんが、手術は高額でリスクを伴い、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があるだけでなく、手術前の容姿の方がよかったと後悔する可能性もあります。

麻酔

手術は通常は痛みを伴うため、ほとんどの場合、開始前に麻酔薬、鎮痛薬、またはその両方が投与されます。麻酔薬は、感覚の消失(しびれ)や意識の低下をもたらすことで痛みの知覚を妨げる薬剤で、鎮痛薬は、痛みを軽減するために投与される薬剤です。麻酔薬の投与は、一般的には麻酔の専門的な訓練を受けて資格を取得した医療専門職が行います。米国では、この役割は医師(麻酔医)またはナースプラクティショナー(麻酔看護師)が担います。麻酔看護師は麻酔医の指示のもとに麻酔を施行します。

麻酔には以下の3種類があります。

  • 局所麻酔

  • 区域麻酔

  • 全身麻酔

局所麻酔と区域麻酔

これらの種類の麻酔では、体の特定の部分だけ一時的に感覚を失わせる薬剤(リドカインやブピバカインなど)を注射します。

局所麻酔では、切開する部位の皮膚の下に薬剤を注射することで、その部分だけ一時的に感覚を失わせます。

区域麻酔は、より広い範囲の感覚を一時的に失わせる麻酔で、1つまたは複数の神経の周囲に薬剤を注射して、それらの神経が支配する領域の感覚を失わせます。例えば、特定の神経の周囲に薬剤を注射すると、指、つま先、または腕や脚の特定の部分やその全体の感覚を一時的に失わせることができます。ある種の区域麻酔では、静脈に薬剤を注射します(静脈内区域麻酔)。この場合、弾性包帯や血圧計のカフなどを用いて腕や脚の付け根を締めつけることで、その腕や脚の静脈の中に薬剤をとどめておきます。静脈内区域麻酔では、1つの腕や脚全体の感覚を一時的に失わせることができます。

局所麻酔や区域麻酔では、患者には意識があります。しかし、患者をリラックスさせるために、軽い鎮静作用のある抗不安薬を静脈から投与することもあります。まれに、手術を終えた後の数日から数週間にわたって、麻酔をかけた部位にしびれやピリピリする感覚、痛みなどが残ることがあります。

脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔は、腰部の脊髄の周辺に薬剤を注射する区域麻酔の一種です。麻酔薬を注射する場所や体の姿勢によって、広範囲(例えば、ウエストからつま先まで)にわたって感覚を一時的に失わせることができます。脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔は、ヘルニアの修復や、前立腺、直腸、膀胱、脚の手術、一部の婦人科の手術など、下半身の手術に有用です。これらの麻酔は出産にも有用です。脊髄くも膜下麻酔後の数日間は頭痛が起こることがありますが、この頭痛は通常、効果的に治療することができます。

全身麻酔

全身麻酔では、投与された麻酔薬が血流に乗って全身を循環することで、患者は意識を失います。全身麻酔の麻酔薬は、静脈内注射または吸入で投与されます。全身麻酔は呼吸を遅くするため、麻酔医は気管内に呼吸用のチューブを挿入します。しかし、短時間の手術では、そのような呼吸用のチューブは不要で、その代わり、麻酔医が呼吸用マスクを手で支えながら患者の呼吸を補助します。手術が長時間にわたる場合は、人工呼吸器で患者の呼吸を代行します。全身麻酔は重要臓器に影響を及ぼすため、麻酔医は麻酔薬の効果がなくなるまで、心拍数と心拍リズム、呼吸、体温、血圧を注意深くモニタリングします。深刻な副作用が起こることは非常にまれです。

知っていますか?

  • 全身麻酔によって深刻な副作用が起こることは非常にまれです。

大手術と小手術

手術は大手術と小手術に区別されることがありますが、両方の特徴を兼ね備えている外科手術も多くあります。

大手術

大手術では、しばしば主要な体腔(腹部、胸部、頭蓋骨)の1つに至る穴をあけます。腹部に穴をあけることを開腹手術、胸部に穴をあけることを開胸手術、頭蓋骨に穴をあけることを開頭手術といいます。

大手術では、重要臓器にストレスがかかります。そうした手術は通常、複数の医師がチームを組み、病院の手術室で全身麻酔によって行います。大手術の後は最低一晩の入院が必要になるのが通常ですが、現在では一部の大手術は、病院であれ独立した外来手術センターであれ、外来診療として安全に行われています。医師は、大手術を外来診療で行えるかどうか判断する上で、患者の全体的な健康状態や合併症のリスク、手術の複雑さ、転院が必要になった場合に利用できる病院が近くにあるかどうかなど、様々な要因を考慮します。

小手術

小手術では、主要な体腔に至る穴をあけることはありません。小手術は、局所麻酔、区域麻酔、または全身麻酔で行われ、病院の救急外来や外来外科センターのほか、診療所でも行われます。通常は重要臓器にストレスがかかることはなく、しばしば1人の医師で手術を行えます。患者は手術を受けたその日に帰宅することができます。

手術のリスク

手術のリスク、すなわち手術が原因で死亡や深刻な問題が起こる可能性は、手術の種類、手術の医学的理由、および患者の特徴によって変わります。

最もリスクの高い手術には次のようなものがあります。

  • 心臓または肺の手術

  • 肝臓の手術

  • 腹部の手術のうち、長時間かかるものまたは大出血のリスクが高いもの

  • 前立腺の摘出

  • 骨や関節の大手術(例えば、人工股関節置換術)

一般に、その患者に医学的な問題が多くあるほど、手術のリスクは高くなります。手術のリスクを高める健康上の問題には次のようなものがあります。

多くの場合、リスクは高齢になるほど高くなります(加齢に関連する注意点:手術のリスクと年齢を参照)。しかし、年齢以上に手術のリスクに影響を与えるのは、患者の健康状態です。手術のリスクを高める慢性疾患、脱水症、感染症、体液と電解質の不均衡などの治療可能な病気、そして特に心不全や狭心症がある場合、手術前に治療して、できるだけよい状態に調整しておくべきです。

手術に対するセカンドオピニオン

手術を受けるという選択が最善であるということは、必ずしも明らかではありません。治療には手術以外の選択肢がある場合があり、手術を受けると決めても、いくつかの手術法がある場合があります。したがって、患者は2人以上の医師の意見を求めることがあります(セカンドオピニオンの取得を参照)。米国の医療保険プランの中には、待機手術を行う場合にはセカンドオピニオンを必要とするものがあります。しかし、どの医師からセカンドオピニオンを得るべきかについては、専門家の意見が一致しない場合もあります。

  • 選択肢として手術以外の治療法がある場合には、手術への偏重をなくすために、外科医ではない医師にセカンドオピニオンを求めるように助言する専門家もいます。

  • 他方で、外科医の方が他科の医師よりも、手術の長所も短所もよく知っているという理由から、セカンドオピニオンは別の外科医に求めるように助言する専門家もいます。

  • また、利害の対立をなくすために、セカンドオピニオンを与えた医師は手術を行えないという取り決めを事前に規定することを提言する専門家もいます。

低侵襲手術

最新の外科的手技を用いれば、多くの場合、小さな切開(1~3センチメートル)と従来の開放手術(大きく切開して行う手術)よりも少ない組織損傷で手術を行うことが可能になっています。低侵襲手術では、外科医が小さな切開口を通して非常に小さな光源、カメラ、および手術器具を体内に挿入します。そして、モニター画面に映し出される体内の画像をガイドにして手術器具を操作します。ロボット手術では、外科医がカメラで撮影された三次元画像を見ながら、コンピュータを介して手術器具をコントロールします。

全体として、小さな切開口から特殊な器具とカメラを挿入して行う低侵襲手術は、内視鏡下手術と呼ばれます。内視鏡手術は、手術をする部位によって様々な名前で呼ばれていて、腹部では腹腔鏡下手術、関節では関節鏡下手術、胸部では胸腔鏡下手術と呼ばれます。

従来の手術と比べて組織の損傷が少ない内視鏡手術の利点として、以下のものがあります。

  • 入院期間が短くなる(大半のケース)

  • 多くの場合、手術後の痛みがより少ない

  • 手術部位の感染リスクがより低い

  • 仕事への復帰が早まる

  • 傷あとが小さい傾向がある

しかし、内視鏡手術には場合により欠点もあります

  • 外科医はモニターの画面を見ながら手術を行うため、手術している部分を平面的な画像でしか見ていない

  • 内視鏡手術は従来の手術より時間がかかる場合が多い

  • 内視鏡手術は特別な機器を必要とするため、ときに手術費用がより高くなることがある

また、内視鏡手術は従来の手術より痛みが軽くなる傾向がありますが、痛みがないわけではなく、予想以上に痛む場合も多いということも理解しておくべきです。

内視鏡手術は技術的な難易度が高いため、患者は以下のことを行うべきです。

  • 経験豊富な外科医を選ぶ

  • 手術が本当に必要であることを確認する

  • 外科医と麻酔医に痛みに対する治療法を質問しておく

手術前の準備

手術の前には、数日間から数週間にわたって様々な準備が行われます。健康状態が良好であると手術で受けたストレスからの回復が早まるため、体調や栄養状態をできる限り改善しておくことがしばしば勧められます。貴重品は自宅に置いておきます。典型的には、手術前の数時間または夜12時以降は飲食を一切しないよう指示されます。

飲酒と違法薬物の使用

全身麻酔による手術をする前は、飲酒をやめるか最低限度にとどめておくことにより、安全性を高めることができます。過度の飲酒は肝臓にダメージを与えるため、手術中に大出血を起こしたり、全身麻酔に使用する薬剤の効き目が予想外に変化することがあります。

アルコールまたは薬物に対して依存のある人が手術前にその使用を突然やめたり減量したりすると、離脱症状を起こすことがあります(アルコールの離脱症状および違法薬物の離脱症状を参照)。そのため、アルコール使用症の人には手術当日に鎮静薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)が投与されることがあります。オピオイド依存症の人には、離脱症状を予防するため、オピオイド鎮痛薬(強力な痛み止め)を投与することがあります。あるいは、オピオイド使用症の人には、手術前後の離脱症状を予防するためにメサドンが投与されることもあり、これには重度の痛みを緩和する効果もあります。

喫煙

喫煙者が胸部または腹部の処置を受ける場合は、事前にできるだけ早くから禁煙することが勧められます。直前までタバコの使用を続けていると、全身麻酔中に不整脈が起こる可能性が高まり、肺の機能が損なわれます。呼吸器系の防御機構の機能を回復させるには、手術の数週間前から禁煙する必要があります。

大麻の頻繁または大量の使用は、手術後の潜在的なリスク(吐き気や嘔吐など)が高まります。大麻を使用した患者に精神状態の変化や意思決定能力の低下が認められる場合には、外科医が待機手術の延期を勧めることがあります。また、大麻は心臓発作のリスクを高めるため、手術を安全に延期できる場合には、患者が大麻の喫煙または摂取をしてから最低2時間、手術を延期することがあります。

医師による評価

外科医は身体診察を行い、以下の項目を含めた病歴を聴取します。

  • 最近の症状

  • 過去の病歴

  • 過去に起こった麻酔への反応(あれば)

  • タバコ、アルコール、違法薬物の使用

  • 感染症

  • 血栓の危険因子

  • 心臓や肺に関連する問題(せきまたは胸痛など)

  • アレルギー

また、使用中のすべての薬剤についても尋ねられます。深刻な健康上の問題を招く可能性があるため、処方薬だけでなく市販薬についても、すべて医師に伝える必要があります。例えば、アスピリンの使用は報告するほどのことではないと考えがちですが、それが原因で手術中の出血量が増える可能性があります。さらに、サプリメントや薬用ハーブ(例えば、イチョウセントジョーンズワート[セイヨウオトギリソウ])は術中や術後に影響を及ぼすことがあるため、これらの使用についても伝えておくべきです。

手術の5~7日前からは、ワルファリンやアスピリンなど、一部の薬剤の使用を中止するように指示されることがあります。血圧を下げる薬剤など、慢性疾患をコントロールするための薬剤については、使用を継続するよう指示されることもあります。大半の経口薬は、手術当日に少量の水で服用することができます。一方で、静脈からの投与や術後まで使用延期を必要とするものもあります。

麻酔医は手術前に患者と面会して、検査結果を見直すとともに、麻酔薬の選択に影響を及ぼしそうな病態がないか確認します。どの種類の麻酔薬が最も安全かつ最も効果的であるかについても、話し合うことがあります。呼吸用のチューブを挿入しなければならない手術では、患者に鼻中隔のずれなどの気道の異常がないかについても評価が行われます。

検査

患者の全般的な健康状態や行われる手術の種類に応じて、手術の前に、血液検査、尿検査、心電図検査、X線検査、肺気量の検査(肺機能検査)などの検査を行います(術前検査)。これらの検査は、重要臓器の状態を判定するのに役立ちます。これらの臓器が十分に機能していなければ、手術や麻酔のストレスで合併症を起こす可能性があります。また、術前検査の際に、症状の出ていない一時的な病気(感染症など)が新たに見つかることもあり、場合によっては手術の延期が必要になります。

輸血用血液の保存

手術中に輸血が必要になった場合に備え、患者自身の血液を前もって保存しておくことを、患者が希望する場合があります。保存しておいた自分の血液を使用すること(自己血輸血)で、感染症や大半の輸血反応のリスクを排除することができます。患者からは一度に約500ミリリットルの血液を採取して、手術まで保存しておくことができます。採血は1週間に1回までとし、少なくとも手術の2週間前までに最後の採血を済ませておくべきです。体から失われた分の血液は体内でつくられ、採血後の数週間で回復します。

意思決定

手術前のどこかの時点で、外科医は患者から手術への同意を取得しますが、その手続きをインフォームド・コンセントといいます。外科医は、行われる手術の潜在的な害とメリットに加えて、ほかの治療法についても説明し、患者からの質問に答えます。患者は同意書の説明を読んで署名をします。患者のインフォームド・コンセントが得られない緊急手術の場合、医師は家族に連絡を取るよう努めますが、まれに、家族に連絡がつく前に、緊急手術を開始しなければならないことがあります。

手術後に意思の伝達ができなくなったり判断能力が失われたりする場合に備えて、医療判断代理委任状リビングウィル(生前遺言)を手術前に準備しておくべきです。

消化管の準備

手術中に投与される薬剤の中には嘔吐を引き起こすものがあるため、患者は一般に以下のように飲食を控えるべきです。

  • 手術の8時間前から:肉、揚げもの、および脂肪を多く含む食べものの摂取を控えます

  • 手術の6時間前:食べるのは軽食(トーストと消化の負担にならない液体など)までとし、その後は消化の負担にならない液体しか摂取しないようにします

  • 手術の2時間前から:すべての飲食(固形物、液体、薬剤を含みます)を控えます

患者には具体的な指示が与えられますが、内容は手術の種類に応じて異なります。患者は定期的に処方されている薬剤のうち、手術前にも服用すべきものはどれかを医師に確認しておくべきです。腸の手術を受ける患者には、手術の1~2日前に下剤の投与または浣腸が行われます。

血液中の酸素レベルをモニタリングする装置を指に装着するため、マニキュアや付け爪は入院前に取り除いておきます。こうすることにより、より正確な測定値が出ます。

手術の当日

たいていの場合、患者は手術前にすべての衣服を脱ぎ、アクセサリー、補聴器、入れ歯、コンタクトレンズ、眼鏡などを外し、患者用のガウンを着ます。患者は待機室または手術室へ運ばれ、手術前の最終的な準備が行われます。手術で切開する部位の皮膚には消毒薬を塗布し、細菌の数を最小限に減らすことで感染症を防ぎます。医療専門職が手術部位の毛髪をバリカンや除毛剤で除去することもあります。

ときに、手術中に尿を回収するため、合成樹脂製のチューブ(カテーテル)を膀胱に挿入されることがあります。

手または腕の静脈にもカテーテルが挿入されます。そのカテーテルを通して輸液や薬剤が投与されます。静脈から鎮静薬が投与されることもあります。

多くの外科的処置には抗菌薬は必要ありません。ただし、口、腸管、肺、気道、または泌尿生殖器が対象になる手術では、感染予防のために手術前に抗菌薬が投与されることがあります(予防投与)。抗菌薬の投与は、手術の内容に応じて経口または静脈内投与で行われ、通常は術後24時間以内に中止されます。以上のほかに、感染が特に問題視される手術(例えば、関節や心臓弁置換術)を受ける患者にも、この処置が行われます。

糖尿病

糖尿病治療のためにインスリンを使用している人には、手術当日、典型的には毎朝の用量の3分の1だけインスリンが投与されます。糖尿病の経口薬を使用している人は、手術当日は普段の半分の量を服用します。可能であれば、手術は早い時間帯に行われます。麻酔医は、手術中に血糖値(血中グルコースの値)をモニタリングし、必要に応じて追加でインスリンまたはブドウ糖を投与します。普段の食生活を再開するまでは、普段家庭で行っていたインスリン投与も再開しないようにします。

入れ歯

気管に呼吸用のチューブを挿入する前に、入れ歯を外しておきます。理想的には、待機室から手術室に移動する前に、入れ歯を家族に渡しておくのがよいでしょう。

コルチコステロイド

手術の前1年以内に、3週間以上プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)またはその他のコルチコステロイドを使用していた人は、手術中にコルチコステロイドが必要になることがあります。コルチコステロイドは小手術では投与されません。

手術室の中

最終準備が待機室で行われた場合は、そこから患者は手術室へ運ばれます。この時点で、患者はまだ目が覚めている場合もありますし、意識がもうろうとしているかすでに眠っている場合もあります。患者は手術台に移され、手術用の照明を当てられます。手術部位に直接触れる医師やその近くにいる看護師などのスタッフは、殺菌効果のある石けんで両手を十分に洗浄しますが、この対策により、手術室内の細菌やウイルスの数を最小限に減らします。手術に際して、スタッフは手術着、キャップ、マスク、靴カバー、滅菌ガウン、および滅菌手袋を着用します。手術を開始する前には、いったん手を止めて、手術チームで以下のことを確認する時間をもちます。

  • 正しい患者であること(本人確認)

  • 行う手技と手術する部位および左右(左右の区別がある場合のみ)が正しいこと

  • 必要な備品や設備が利用可能な状態になっていること

  • 感染症や血栓(必要な場合)などの問題を予防するために適切な薬剤が投与されたことの検証

局所麻酔区域麻酔、または全身麻酔が行われます。

手術室しゅじゅつしつなか

手術室しゅじゅつしつには、手術しゅじゅつチームが手術しゅじゅつおこなえるように、無菌むきん環境かんきょうととのえられています。手術しゅじゅつチームはつぎのようなスタッフで構成こうせいされます。

  • 執刀医しっとうい手術しゅじゅつ指揮しきします

  • 助手じょしゅ外科医げかいすくなくとも1人ひとり):執刀医しっとういを補佐します。

  • 麻酔医ますいい麻酔薬ますいやく投与とうよりょうをコントロールし、患者かんじゃ状態じょうたい注意深ちゅういぶかくモニタリングします。

  • 器械出きかいだ看護師かんごし執刀医しっとうい器具きぐわたします。

  • 外回そとまわ看護師かんごし手術しゅじゅつチームのために予備よび器具きぐなどを用意よういします。

手術室しゅじゅつしつには通常つうじょう、バイタルサインを表示ひょうじするモニター装置そうち手術器具しゅじゅつきぐ器具きぐだい手術しゅじゅつよう照明しょうめい無影灯むえいとう)が設置せっちされています。麻酔ますいようのガスは、くだとおして麻酔ますい装置そうちおくられます。手術中しゅじゅつちゅうにたまった血液けつえき体液たいえきは、執刀医しっとうい組織そしきさまたげにならないように、吸引装置きゅういんそうち接続せつぞくしたカテーテルでります。手術室しゅじゅつしつはいまえ開始かいしした点滴てんてきは、手術中しゅじゅつちゅうもそのまま続行します。

手術の後

手術が終わったら、患者は回復室に移されて、麻酔の影響が弱まるまで1~2時間ほど綿密な監視下に置かれます。ケアチームが患者が呼吸をできているか、窒息のリスクはないか、鎮痛薬が患者の手元にあるかを確認します。はっきりとした思考ができるかどうかも評価します。大半の患者は、目覚めたとき(特に大手術の後)には意識がもうろうとしています。少しの間吐き気を催したり、寒く感じたりする患者もいます。

手術の性質や麻酔の種類によって、回復室から直接帰宅できる場合と、入院病棟やときには集中治療室(ICU)へ移される場合があります。

直接帰宅

退院する患者は、次の条件を満たす必要があります。

  • 明晰に思考できる

  • 呼吸が正常である

  • 飲みものを飲むことができる

  • 排尿できる

  • 歩行できる

  • 激しい痛みがない

麻酔を受けた患者または鎮静薬を投与された患者は、退院時に誰かに家まで付き添ってもらう必要があります。患者自身が車を運転することはできません。手術部位に出血や予想外の腫れがない状態でなければなりません。

入院

手術後に入院病棟に移された人は、麻酔から目覚めてみると、たくさんのチューブや装置につながれていることがあります。例えば、のどの中に呼吸用のチューブが挿入されていて、胸には心拍数をモニタリングするための粘着パッドが貼られていて、膀胱にチューブが入れられ、指先には血液中の酸素レベルを測定する器具が装着され、手術部位はドレッシング材で覆われていて、鼻や口の中にもチューブが入っていて、静脈にカテーテルが挿入されているといった具合です。

たいていの手術では、術後の痛みが予想されますが、ほとんどの場合、その痛みは和らげることができます。痛みを和らげる薬剤(鎮痛薬)を使用するには、静脈内投与、経口投与、筋肉内注射、パッチ剤を皮膚に貼るなどの方法があります。硬膜外麻酔が使用された場合は、麻酔薬を投与するための合成樹脂製のチューブが背中に留置されていることがあります。モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬はチューブを通して注入します。激しい痛みのある入院患者には、オピオイド鎮痛薬を持続的に静脈内に注入し、患者がボタンを押すと少量の鎮痛薬を追加投与できる装置が使用されることもあります(自己調節鎮痛法)。痛みが持続する場合は、追加の治療が必要になることもあります。オピオイド鎮痛薬を繰り返し使用すると便秘になることがよくあるため、便秘を予防するために、刺激性の下剤または便を軟らかくする薬を投与する場合があります。

十分な栄養を摂取することは、治癒を早めて感染症にかかる危険性を最小限に抑える上で大変重要です。大手術の後は必要となる栄養量が増加します。手術後に1週間以上食事ができない場合は、食事に代わる方法で栄養を摂取しなければならないことがあります。消化管は機能していても食べることができない患者には、胃の中にチューブを通して栄養を与える場合があります(経腸栄養)。このチューブは鼻や口、または腹壁の切開口から挿入します。まれに、消化管の手術を受けたために、長期にわたって口から食べることのできない患者には、太い静脈に挿入したカテーテルを通して栄養を与えることがあります(静脈栄養)。

手術後の合併症

発熱、血栓(血液のかたまり)、切開部の問題、錯乱、排尿困難または排便困難、筋肉減少、衰弱(デコンディショニング)などの合併症が、手術後の数日間に起こることがあります。

手術後数日から数週間の間にみられる発熱には、以下のように一般的な原因がいくつかあります。

ときに薬剤が発熱の原因になることもあります。別の可能性のある原因として、手術による傷に反応して起こる炎症が挙げられます。手術部位の感染症、深部静脈血栓症、尿路感染症のリスクは、手術後に細心の看護を施すことによって下げることができます。小型の装置を使って強制的に息を吸ったり吐いたりする呼吸訓練(インセンティブスパイロメトリー)を定期的に行い、必要に応じてせきをすることで、肺炎や無気肺になるリスクを低減できる可能性があります。

術後、脚または骨盤部の静脈内に血栓(深部静脈血栓症)ができることがあり、特に患者が術中や術後に横たわってじっとしていた場合や、脚、骨盤、またはその両方の手術を受けた場合によくみられます。静脈にできた血栓が剥がれると、血栓が血流に乗って肺へ運ばれ、そこで血液の循環を妨げることがありますが、この病態を肺塞栓症といいます。その結果、全身への酸素の供給が低下し、場合によっては血圧が低下することもあります。

血栓が特にできやすい手術を受ける患者や、術後あまり動かずベッドで安静にしなければならない患者には、医師は低分子ヘパリンなどの血液をかたまりにくくする薬剤(抗凝固薬)を投与したり、脚の血行をよくする弾性ストッキングを着用させたりします。しかし、抗凝固薬を使用すると出血量が著しく増えることが予想される手術の場合には、抗凝固薬の使用は推奨されません。術後、腕や脚を動かしたり、歩いたりしてもよいと言われれば、すぐにこうした運動を開始すべきです。

切開部の合併症としては、感染症や切開創が開くこと(離開)などがあります。感染症のリスクを低下させるために、術後は切開部をドレッシング材で覆います。手術室で使用されたドレッシング材は、感染の徴候(痛みが激しくなる、腫れる、液体が出てくるなど)が現れない限り、通常は24~48時間そのままにしておきます。

このドレッシング材には滅菌包帯が使われており、通常は抗菌薬の軟膏が塗ってあります。その包帯は細菌を切開部に入れないようにするのと同時に、切開部からにじみ出る体液を吸収します。これらの体液は細菌の繁殖を促し、切開部への感染を起こしやすくするため、ドレッシング材は頻繁に、通常は最初の除去後は1日2回交換します。ドレッシング材を交換するたびに(場合によってはさらに頻繁に)切開部を診察し、ドレナージチューブ、縫合の具合、またはスキンステープラーの様子を確認します。ときには、傷口のケアに最善を尽くしても感染症が発生することがあります。手術部位に感染が起こると、手術の翌日頃からその部位の痛みが次第に強くなり、赤くなって熱をもち、膿などの液体が漏れるようになります。発熱することもあります。このような症状が現れた場合は、できるだけ早く医師の診察を受ける必要があります。

せん妄(錯乱や興奮)がみられることもあり、特に高齢者によく発生します(加齢に関連する注意点:手術のリスクと年齢を参照)。これには、抗コリン作用(錯乱、かすみ目、尿失禁―抗コリン作用:どんな作用か?)のある薬剤、オピオイド、鎮静薬、またはヒスタミンH2受容体拮抗薬や、血液中の酸素の大幅な不足が関係している可能性があります。可能であれば、高齢者には、錯乱を引き起こす可能性のある薬剤の投与は避けるべきです。

排尿や排便が困難になる症状(後者は便秘)は、手術後にはよくみられます。これに関係する要因としては、抗コリン作用のある薬剤やオピオイドの使用、腸管の手術、安静、絶飲食などがあります。尿の流れが完全に遮断される場合があり、それによって膀胱が拡張します。尿の流れの遮断が、尿路感染症につながることもあります。排尿時に下腹部を圧迫することで流れが回復することもありますが、多くの場合、膀胱にカテーテルを挿入する必要があります。カテーテルはそのまま留置するか、膀胱が空になり次第抜き取ります。頻繁に起き上がることは、尿の流れの遮断を予防する上で役立ちます。

便秘がみられる患者は、オピオイド(鎮痛薬)や便秘の原因になるその他の薬剤の用量を減らすとともに、できるだけ早く歩行を再開します。腸管の手術を行った場合を除き、便秘の患者には、ビサコジル、センナ、またはカスカラなど、腸管を刺激する緩下薬を投与することもあります。

筋肉の減少(サルコペニア)や筋力の低下は、長期間の床上安静を必要とする人すべてに起こります。寝たきりになると、若年の成人では1日当たり約1%の筋量が減少しますが、高齢者では、筋組織の維持を担う成長ホルモンの血中濃度が低いため、筋量が1日当たり最大5%減少します。十分な量の筋肉があることは回復に重要な要素です。したがって、自分にとって安全な範囲でよいので、できるだけ早期に、またできるだけ頻繁にベッドの上で上半身を起こし、動き、立ち上がり、運動しましょう。適切な栄養を摂取できていない人は、サルコペニアになるリスクが高まります。そのため、十分な飲食が勧められます。自分で食べたり飲んだりできない人は、経管栄養または、まれに静脈栄養が必要になります。

退院時(退院も参照)

患者には退院前に以下のことをする責任があります。

  • 次回のフォローアップ受診を予約する

  • 使用する薬剤を把握しておく

  • 控えるべき行動や制限するべき行為を把握しておく

一時的に避けなくてはならない行為には、階段の上り下り、車の運転、重い物を持ち上げる動作、性交などがあります。どのような症状が起きた場合、予約した診察日を待たずに医師に連絡を取る必要があるかも把握しておく必要があります。

手術後の回復期から、徐々に日常活動を再開するべきです。筋力や柔軟性を向上させるために、特別な運動や活動を取り入れたリハビリテーションが必要になる場合もあります。例えば、人工股関節置換術後のリハビリテーションでは歩き方、ストレッチや運動の方法を学びます。

加齢に関連する注意点:手術のリスクと年齢

高齢それ自体も手術中や術後の合併症のリスクを高めますが、全般的な健康状態や特定の病気の存在は、年齢以上に手術のリスクを高めます。手術前の6カ月以内に心臓発作を起こした場合や、コントロール不良の心不全がある場合は、外科的処置によるリスクが大幅に高まります。例えば、心不全低栄養(施設に暮らす高齢者に多くみられます)、特に重度または悪化する胸痛(不安定狭心症)は、高齢者における手術のリスクを高めます。慢性閉塞性肺疾患などの肺の病態は、手術のリスクを判定する際に懸念されることがあり、喫煙者の場合特にその傾向が強まります。腎機能障害、1型糖尿病、過去の脳卒中または一過性脳虚血発作、および認知症などの精神機能の異常もリスクを高める場合があります。

しかし、高齢それ自体が手術の合併症のリスクを高める場合もあります。例えば、高齢者は若い人と比べて術後にせん妄を発症する可能性がはるかに高くなります。また高齢者では、術後の安静に起因して重篤な合併症が起こる可能性も高いです。具体的な合併症としては以下のものがあります。

  • 血栓

  • 筋肉の減少

  • 肺炎

  • 尿路感染症

手術中または手術後に死亡するリスクも年齢とともに高くなります。さらに、緊急手術や胸部または腹部を対象とする手術では、すべての年齢層で死亡リスクが増加しますが、高齢者ではこれが大幅に高まります。

特定の外科手術は、他の手術よりリスクが高いです。例えば、腹部または胸部の手術、前立腺の摘出、関節の大手術(人工股関節置換術など)は、リスクの高い手術のリストで上位に入ります。白内障手術や小さな関節の手術など、高齢者がよく受ける手術の多くは、比較的リスクが低いです。高齢者でも全身状態が良好であれば、比較的リスクが高いと考えられているものも含めて、大半の手術を安全に行うことができます。

手術のリスクが高い場合でも、手術で期待されるメリットの方が大きい場合があります。例えば、大きな大動脈瘤を修復する手術は一定の死亡リスクを伴いますが、このような動脈瘤は修復しないと死亡のリスクを高めるため、動脈瘤がなければあと8~10年生きられると予想される場合は、この手術を検討するべきです。一方、ほかの病気のために余命が1~2年と予想されている場合は、このような手術はおそらく避けるべきでしょう。

手術のリスクが低い場合は、リスクが低いことよりも、手術によるメリットが得られないことの方に重点が置かれる可能性があります。例えば、小さな手術(褥瘡[床ずれ]への皮膚移植術など)のリスクは通常は非常に低いですが、それでも、進行した認知症の人に手術を受けさせることを正当化するには大きすぎると考える人もいます。

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