気道確保および人工呼吸の器具

執筆者:Vanessa Moll, MD, DESA, Emory University School of Medicine, Department of Anesthesiology, Division of Critical Care Medicine
レビュー/改訂 2020年 4月
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気道開通後も自発呼吸がなく,呼吸器具がない場合は,人工呼吸(口対マスクまたは口対バリアデバイス)を始める;口対口換気が推奨されることはほとんどない。呼気には酸素が16~18%と二酸化炭素が4~5%含まれており,これは血中の酸素と二酸化炭素値を正常値付近に保つのに十分な含有量である。必要以上に多量の送気は,胃膨隆を引き起こし,誤嚥のリスクを伴う可能性がある。

呼吸停止の概要気道確保および管理,および気管挿管も参照のこと。)

バッグバルブマスク

バッグバルブマスクは,非再呼吸バルブ機能付きの自己膨張式バッグ(蘇生バッグ)と,顔面の組織に適合する軟らかいマスクから構成され,酸素供給源に接続すると,60~100%の酸素を吸入させる(バッグバルブマスク換気も参照)。経験豊富な医療従事者が行えば,多くの場合,バッグバルブマスクにより一時的に十分な換気が得られ,時間的に余裕をもって確実な気道管理の準備を行える。しかしながら,5分を超えてバッグバルブマスク換気を行うと通常は胃への送気が起こるため,溜まった空気を除去するために経鼻胃管を挿入すべきである。

バッグバルブマスクは気道の開通性を維持しないため,軟部組織が弛緩した患者では,気道の開通性を保つために,追加の器具の使用に加え,体位に注意を払い用手的操作(気道開通のための頭頸部の姿勢および下顎挙上の図を参照)を行う必要がある。

気道開通のための頭頸部の姿勢

A:ストレッチャー上で頭部が平坦となっている;気道は圧迫されている。B:顔面が天井に平行になるように,耳と胸骨切痕をそろえることで気道が開通する。Adapted from Levitan RM, Kinkle WC: , ed.2.Wayne (PA), Airway Cam Technologies, 2007.

下顎挙上

バッグバルブマスク換気中には経口エアウェイまたは経鼻エアウェイを使用して,中咽頭の軟部組織による気道閉塞を予防することができる。これらの器具は意識のある患者では咽頭反射を引き起こし,嘔吐および誤嚥を招く可能性があるため,注意して使用すべきである。

経口エアウェイの適切なサイズの選び方には様々な方法があるが,最も一般的なものは患者の口角から下顎角までの距離と同じ長さのものを選ぶ方法である。

気管内チューブ,ならびに声門上エアウェイおよび咽頭エアウェイといった気道確保器具とともに,蘇生バッグを用いることもある。小児用バッグには,最高気道内圧を(通常,35~45cmH2Oまでに)抑えられる調節可能な圧力制限バルブがある;不注意による低換気を避けるため,バルブの設定をモニタリングしなければならない。必要であれば,十分な圧を加えるために圧力制限バルブを閉じることもできる。

ラリンジアルマスク(LMA)

ラリンジアルマスクまたは他の声門上エアウェイは,中咽頭下部に挿入され,軟部組織による気道閉塞を予防し,効果的な換気経路を確保することができる(ラリンジアルマスクの図を参照)。様々なLMAが利用可能であり,これにより気管内チューブまたは胃減圧チューブを通すこともできる。名称から示唆されるように,これらの器具は(顔面をマスクで覆うのではなく)喉頭開口部を密閉することにより,顔面をマスクでうまく密閉できない問題,および顎または舌の位置を変えてしまうリスクを回避できる。LMAは,特定の待機的な麻酔症例および緊急時のほか,気管挿管ができない状況における人工換気の標準的手段となっている。合併症には,正常な咽頭反射がある患者,過剰な換気を受けている患者,またはその両方における,嘔吐および誤嚥などがある。

LMAの挿入方法には非常に多くの手技がある(ラリンジアルマスクの挿入を参照)。標準的なアプローチとしては,脱気したマスクを硬口蓋に押し付け(利き手の長い指を使用して),マスクを回し込みながら舌根を越え,マスクが下咽頭に達するまで進め先端が上部食道に届くようにする。正しい場所に入れば,マスクを膨張させる。挿入前にマスクを推奨容量の半分まで膨張させることで先端が固くなり,より挿入しやすくなる。より新しいタイプのものでは,可膨張性のカフの代わりに気道に合わせて変形するゲル状物質が用いられている。

気管内チューブと同様,ラリンジアルマスクは気道を食道から分離しないが,バッグバルブマスク換気に比べて以下のような利点がある:

  • 胃の膨満を最小限に抑える

  • 受動的な逆流をある程度予防する

より新しいタイプのLMAには,胃を減圧するための細い管を挿入できる開口部がある。

気管内チューブとは違い,LMAによって気道をどの程度効果的に密閉できるかは,マスクを膨張させる圧力とは直接相関しない。気管内チューブであれば,バルーン圧を高くするほどぴったり密閉できる;LMAの場合,膨張させすぎるとマスクの柔軟性が低下し,解剖学的構造にフィットし難くなる。密閉が不十分な場合,マスク圧をいくらか下げるべきである;効果がなければより大きいサイズのマスクを試すべきである。

緊急時には,ラリンジアルマスクは橋渡し的な器具とみなされるべきである。長期の留置,マスクの過膨張,またはその両方により,舌が圧迫され,舌浮腫を来すことがある。昏睡状態でない患者にLMA挿入前に筋弛緩薬を投与した場合(例,喉頭鏡使用のため),薬剤の効果が消えると咽頭反射を起こし,誤嚥する可能性がある。器具を抜去する(換気および咽頭反射が十分である場合)か,あるいは咽頭反射を消す薬剤を投与し別の方法で挿管を行うまでの時間稼ぎをすべきである。

ラリンジアルマスク(LMA)

LMAは膨張性のカフ付きのチューブであり,カフを中咽頭に挿入する。A:縮ませたカフを口に挿入する。B:示指でカフを喉頭上部に導く。C:留置され次第,カフを膨張させる。

より新しいカフは,膨張性ではなく,気道に合わせて変形するゲル状物質が使用されている。

気管内チューブ

気管内チューブは口を介して,またはより頻度は低いが鼻を介して気管に直接挿入される。気管内チューブには,空気漏れを防ぎ,誤嚥のリスクを最小限にする,高容量で低圧のカフがついている。カフ付きチューブは従来から成人と8歳以上の小児にのみ使用されてきたが,空気漏れや誤嚥(特に搬送中)を予防するため,乳児および幼児にも徐々に使用されるようになっている。ときにカフは膨張させないこともあり,膨張させる場合でも明らかな漏れを防ぐのに必要な程度に留めることがある。

気管内チューブは,昏睡状態の患者,自分で気道を保護できない患者,および長期の機械的人工換気を必要とする患者において,不安定な気道の確保,誤嚥の予防,および機械的人工換気を開始するための確実な手段である。気管内チューブにより,下気道の吸引もできる。心停止時には気管内チューブを介して薬剤を投与することがあるが,この方法は推奨されない。

通常は熟練者が喉頭鏡を用いて挿入することが求められるが,様々な新しい挿入器具が利用できるようになり,選択肢の幅が広がっている(気管挿管を参照)。

気道確保および人工呼吸のその他の器具

別のタイプの人工換気器具として,ラリンジアルチューブとダブルルーメンのエアウェイ(例,Combitube®,King LT®)がある。これらの器具は,2つのバルーンカフで喉頭の上下を密閉して,喉頭口(2つのバルーンカフの間に位置する)に換気口が来るようになっている。ラリンジアルマスクと同様,長期の留置およびカフの過膨張により,舌浮腫を来しうる(食道・気管用ダブルルーメンチューブ[Combitube®]またはラリンジアルチューブの挿入を参照)。

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