挿管を補助する薬剤

執筆者:Abdulghani Sankari, MD, PhD, MS, Wayne State University
Reviewed ByDavid A. Spain, MD, Department of Surgery, Stanford University
レビュー/改訂 修正済み 2024年 7月
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脈および呼吸がない患者,または重度の意識障害がある患者は薬剤による補助なしで挿管ができる(また,そうすべきである)。その他の患者には,患者への不快感を最小限にして挿管しやすくするため,鎮静薬および筋弛緩薬による前処置を施す(RSI[迅速導入気管挿管:rapid sequence intubation]と呼ばれる)(挿管補助に用いる鎮静薬および鎮痛薬の表を参照)。

呼吸停止の概要気道確保および管理,および気管挿管も参照のこと。)

挿管のための鎮静および鎮痛

喉頭鏡による観察および挿管は意識のある患者にとって不快な操作である;鎮静作用または鎮静および鎮痛両方の作用を有する短時間作用型の静注薬が必須である。

非バルビツール酸系催眠鎮静薬であるエトミデート(etomidate)(0.3mg/kg)が補助薬として用いられることがある。エトミデート(etomidate)は一部の重症(critically ill)患者で死亡率を上昇させうるという懸念があるが,依然として重篤患者における迅速導入気管挿管に推奨されている(1, 2)。

フェンタニルは速効性の合成オピオイドであり,挿管手技による刺激に対する高血圧および頻脈などの反応を軽減するために使用できる(3)。フェンタニルの静注投与量は,成人では理想体重1kg当たり5μg(小児では2~5μg/kg)である。注:これは鎮痛用量よりも高用量であり,催眠鎮静薬(例,プロポフォール,エトミデート[etomidate])と併用する場合は用量を減量する必要がある。フェンタニルはオピオイドであり,鎮静作用と同時に鎮痛作用も有する。しかしながら,高用量では胸壁の硬直が起こりうる(4)。

ケタミン(1~2mg/kgを静注)は心刺激作用を有する解離性麻酔薬である。一般的には安全であるが,覚醒時に幻覚または奇異な行動を引き起こす場合がある。このような有害作用は,低用量のベンゾジアゼピン系薬剤を予防的に投与することで管理できる。挿管を必要とする重篤患者におけるケタミンおよびエトミデート(etomidate)の使用では,挿管後の28日生存率は同等である(5)。

鎮静薬かつ麻酔薬であるプロポフォールが一般的には導入時に1.5~3mg/kgの用量で静注されるが,心血管機能を抑制して低血圧を引き起こす恐れがある。

バルビツール酸系薬剤(例,チオペンタール,メトヘキシタール)は低血圧を引き起こす傾向があるため,一般的には使用されない。

挿管のための筋弛緩薬

神経筋遮断薬(NMBA)の静脈内投与に伴う骨格筋の弛緩により,挿管が容易となる(6)。

脱分極性神経筋遮断薬のスキサメトニウム(1.5mg/kg静注,乳児では2.0mg/kg)は効果発現が非常に早く(30秒~1分),作用持続時間が非常に短い(3~5分)。1~2日より前からある筋挫滅,熱傷,および急性腎障害のある患者では,高カリウム血症が懸念されうるため,この薬剤の使用は避けるべきである(7)。また,脊髄損傷や特定の神経筋疾患(例,多発性硬化症,筋ジストロフィー)の患者でも,医原性の高カリウム血症が懸念されるため,スキサメトニウムの使用は避けるべきである(8)。線維束性収縮による眼圧上昇が懸念されるため,穿孔性の眼損傷が疑われる患者でも他のNMBAを考慮すべきである。悪性高熱症は,ある種の麻酔薬だけでなく,脱分極性神経筋遮断薬によっても引き起こされる。麻酔関連死亡全体に占める悪性高熱症による死亡の割合は小さい(9, 10)。

スキサメトニウムを投与する前に,起こりうる徐脈を予防するためにアトロピンを前投与することは推奨されない(11)。

代用として用いられる非脱分極性神経筋遮断薬は作用持続時間がより長い(30分を超える)うえに,麻痺を著しく長引かせるような高用量を投与しない限り,作用の発現が遅い(1, 12)。これにはアトラクリウム(atracurium),シサトラクリウム(cisatracurium),ミバクリウム(mivacurium),ロクロニウム,ベクロニウムなどがある。

スキサメトニウムまたはロクロニウム(スキサメトニウムに対する禁忌がある場合)のいずれかを迅速導入気管挿管に使用できる(1)。

線維束性収縮および筋肉痛を予防するために,スキサメトニウムの前に低用量の非脱分極性NMBAを前投与することが提唱されている(13)。

表&コラム
表&コラム

挿管のための表面麻酔

意識のある患者への挿管には,鼻および咽頭の麻酔が必要である。ベンゾカイン,テトラカイン,アミノ安息香酸ブチル(ブタンベン),ベンザルコニウムを含有する市販のエアゾル製品が(米国では)一般に用いられている(14)。あるいは,4%リドカインを噴霧投与およびフェイスマスクから吸入投与することもある。ベンゾカインはメトヘモグロビン血症を引き起こす可能性があるため,使用する場合は注意が必要である(15)。

挿管後の鎮静および鎮痛

挿管後の鎮静および鎮痛のためにも,適切な薬剤が直ちに使用できるようにしておくべきである。オピオイドとベンゾジアゼピン系薬剤の併用(例,フェンタニルとミダゾラム)は,速やかなボーラス投与が可能である。プロポフォールやデクスメデトミジンなどの鎮静薬の持続注入も可能である。

診療ガイドラインでは,成人の重篤患者に対する初回の挿管および蘇生後に(深い鎮静ではなく)軽い鎮静が推奨されており,また,ベンゾジアゼピン系薬剤よりもプロポフォールまたはデクスメデトミジンの使用が推奨されている。ベンゾジアゼピン系薬剤はせん妄の発生率が高い(16)。

参考文献

  1. 1.Acquisto NM, Mosier JM, Bittner EA, et al: Society of Critical Care Medicine Clinical Practice Guidelines for Rapid Sequence Intubation in the Critically Ill Adult Patient. Crit Care Med51(10):1411–1430, 2023.doi:10.1097/CCM.0000000000006000

  2. 2.Kotani Y, Piersanti G, Maiucci G, et al: Etomidate as an induction agent for endotracheal intubation in critically ill patients: A meta-analysis of randomized trials. J Crit Care 77:154317, 2023.doi:10.1016/j.jcrc.2023.154317

  3. 3.Teong CY, Huang CC, Sun FJ: The Haemodynamic Response to Endotracheal Intubation at Different Time of Fentanyl Given During Induction: A Randomised Controlled Trial. Sci Rep 10(1):8829, 2020.doi:10.1038/s41598-020-65711-9

  4. 4.Tammen AJ, Brescia D, Jonas D, Hodges JL, Keith P: Fentanyl-Induced Rigid Chest Syndrome in Critically Ill Patients. J Intensive Care Med 38(2):196–201, 2023.doi:10.1177/08850666221115635

  5. 5.Matchett G, Gasanova I, Riccio CA, et al: Etomidate versus ketamine for emergency endotracheal intubation: a randomized clinical trial. Intensive Care Med 48(1):78–91, 2022.doi:10.1007/s00134-021-06577-x

  6. 6.Lundstrøm LH, Duez CHV, Nørskov AK, et al: Effects of avoidance or use of neuromuscular blocking agents on outcomes in tracheal intubation: a Cochrane systematic review. Br J Anaesth 120(6):1381–1393, 2018.doi:10.1016/j.bja.2017.11.106

  7. 7.Blanié A, Ract C, Leblanc PE, et al: The limits of succinylcholine for critically ill patients. Anesth Analg 115(4):873–879, 2012.doi:10.1213/ANE.0b013e31825f829d

  8. 8.Cooperman LH: Succinylcholine-induced hyperkalemia in neuromuscular disease. JAMA 213(11):1867–1871, 1970.

  9. 9.Hirshey Dirksen SJ, Larach MG, Rosenberg H, et al: Special article: Future directions in malignant hyperthermia research and patient care. Anesth Analg 113(5):1108–1119, 2011.doi:10.1213/ANE.0b013e318222af2e

  10. 10.Rosenberg H, Davis M, James D, Pollock N, Stowell K: Malignant hyperthermia. Orphanet J Rare Dis 2:21, 2007.doi:10.1186/1750-1172-2-21

  11. 11.de Caen AR, Berg MD, Chameides L, et al: Part 12: Pediatric Advanced Life Support: 2015 American Heart Association Guidelines Update for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation 132(18 Suppl 2):S526–S542, 2015.doi:10.1161/CIR.0000000000000266

  12. 12.Plaud B, Baillard C, Bourgain JL, et al: Guidelines on muscle relaxants and reversal in anaesthesia. Anaesth Crit Care Pain Med 39(1):125–142, 2020.doi:10.1016/j.accpm.2020.01.005

  13. 13.Schreiber JU, Lysakowski C, Fuchs-Buder T, Tramèr MR: Prevention of succinylcholine-induced fasciculation and myalgia: a meta-analysis of randomized trials. Anesthesiology 103(4):877–884, 2005.doi:10.1097/00000542-200510000-00027

  14. 14.Walsh ME, Shorten GD: Preparing to perform an awake fiberoptic intubation. Yale J Biol Med 71(6):537–549, 1998.

  15. 15.Wills BK, Cumpston KL, Downs JW, Rose SR: Causative Agents in Clinically Significant Methemoglobinemia: A National Poison Data System Study. Am J Ther 28(5):e548–e551, 2020.doi:10.1097/MJT.0000000000001277

  16. 16.Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med 46(9):e825-e873, 2018.doi:10.1097/CCM.0000000000003299

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