ラリンジアルマスクの挿入

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レビュー/改訂 2020年 1月
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ラリンジアルマスク(LMA)換気は,意識のない患者または咽頭反射のない患者に人工換気を提供する方法であり,他のほとんどの効果的な換気方法より技術的に容易である。以前であれば気管挿管が必要であった多くの状況で麻酔医によって使用されている。

気道の確保および管理ならびに気道確保および人工呼吸の器具も参照のこと。)

ラリンジアルマスク(LMA)は,一般的に用いられる声門上エアウェイである。LMAは口から挿入する声門上エアウェイであり,一端に付いたカフ付きマスクによって喉頭の入り口付近を低圧で密閉できる。LMAによる換気は,他の方法と比べていくつかの利点がある。

  • 気管内チューブと異なり,LMAは経験の浅い術者がブラインドで挿入しても成功する。

  • バッグバルブマスク(BVM)換気と異なり,LMAはフェイスマスクをしっかり密着させ,その状態を維持しなければならない困難を回避でき,軟部組織による上気道の閉塞を回避でき,さらにBVM換気と比べて胃への送気が少ない。

LMAの中には,気管内チューブ(挿管用LMA)または胃減圧チューブを中に通すことができるものもある。解剖学的に正しい形状に定形され,さらに挿入しやすくなった製品もある。より新しいデザインの中には,空気で膨らむカフではなく,カフがゲルで満たされ気道に合わせて変形するようになっているものもある。

LMAは,他の声門上エアウェイ(例,ラリンジアルチューブおよび食道・気管用ダブルルーメンチューブ[Combitube®])と同じく一時的な気道確保のための器具であり,数時間後には除去するか,気管内チューブまたは外科的気道確保(輪状甲状間膜切開または気管切開)などの確実な気道管理方法に切り替える必要がある。

ラリンジアルマスク挿入の適応

  • 無呼吸,重度の呼吸不全,または呼吸停止が切迫しており,気管挿管を達成できない

  • 特定の待機的麻酔

LMAは,バッグバルブマスク換気が困難な状況で有用である:

  • 重度の顔面変形(外傷性または生来),濃いひげ,またはフェイスマスクの密着を妨げるその他の因子がある患者

ラリンジアルマスク挿入の禁忌

絶対的禁忌

  • 患者の換気を補助することに対する医学的な禁忌はない;ただし,法的な禁忌(蘇生処置拒否指示または特定の事前指示書)が効力をもっている場合がある。

  • 切歯間の最大開口幅が2cm未満(この場合,経鼻気管挿管または外科的気道確保が適応となる)

  • 通過不可能な上気道閉塞(この場合,外科的気道確保が適応となる)

相対的禁忌

  • 意識がある,または咽頭反射がある(LMA挿入前に意識がないことを確認するか,挿管を補助する薬剤[鎮静薬および筋弛緩薬など]を投与すべきである)

  • 逆流のリスクが高い:それまでの長時間のBVM換気,肥満,妊娠 > 10週,絶食していない患者,または上部消化管の問題(例,手術の既往,出血,食道裂孔ヘルニア,胃食道逆流症,消化性潰瘍)を有する患者。緊急時には,たとえこれらの相対的禁忌があってもLMAを使用できる。

  • 高度の加圧換気が必要である(声門下気道または肺に過度の気流抵抗がある患者には,より密閉度の高い気管内チューブ,またはより高度に密閉できるよう設計された特殊なLMAが必要である)

ラリンジアルマスク挿入の合併症

合併症としては以下のものがある:

  • 嘔吐および誤嚥

  • 長時間の留置またはカフの過膨張による舌浮腫

  • 挿入時の歯または中咽頭軟部組織の外傷

ラリンジアルマスクの挿入に使用する器具

  • 手袋,マスク,ガウン,および眼の保護具(すなわち,普遍的予防策[ユニバーサルプリコーション])

  • 30~60mLシリンジ

  • 無菌の水溶性潤滑剤または麻酔ゼリー

  • ラリンジアルマスク

  • バッグバルブ

  • 酸素供給源(100%酸素,15L/分)

  • 必要に応じて咽頭から異物を除去する吸引装置

  • パルスオキシメーター,カプノメーター(呼気終末二酸化炭素モニター),および適切なセンサー

  • 挿管を補助する薬剤

  • LMA挿入が失敗した場合に備え,代替の気道管理に必要な器具(例,バッグバルブマスク換気気管挿管輪状甲状間膜切開の器具)

ラリンジアルマスク挿入に関するその他の留意事項

マスクを縁取っている空気で膨らむカフは,喉頭の入り口周囲を低圧で密閉し,陽圧換気を可能にする。

  • LMAを用いて低圧換気を行うことで,この低圧の密閉部からのエアリークおよび胃への送気を防止できる。

  • 密閉が不十分な場合は,カフ圧をやや下げる。それでも効果がなければより大きいサイズのマスクを試すべきである。カフを膨張させすぎると,シールの効果がむしろ悪化する。

  • LMAは気道を誤嚥から保護することはない。しかしながら,一部のタイプのLMAでは喉頭のシール機能が改善されており,胃減圧チューブ挿入用のポートもついている。

ラリンジアルマスク挿入における関連する解剖

  • 耳が胸骨切痕と同一平面上になるようにすることで,上気道が開通し,また気管挿管が必要になった場合にも気道の可視化に最適な位置を確保できる。

  • 耳が胸骨切痕と同一平面上になるようにするために必要な頭部の挙上の程度は様々である(例,後頭部の大きな小児では挙上せず,肥満患者では大幅に行う)。

ラリンジアルマスク挿入での体位

  • LMA挿入に最適な患者の体位はスニッフィングポジションである。

  • 術者はストレッチャーの頭部に立ってもよい。

  • 助手がその側に立つこともある。

スニッフィングポジションは頸椎損傷がない場合にのみ使用する:

  • ストレッチャーの上で患者を仰臥位にする。

  • タオルなどを折りたたんで頭,頸部,および肩の下に置き,頭が挙上するように頸部を屈曲させ,外耳道が胸骨切痕と同一平面上になるようにする。続いて頭部を傾けて顔面が水平線と平行になるようにする(この平面は前述の平面より上である)。肥満患者では肩および頸部を十分に挙上するために,たくさんの折りたたんだタオルまたは市販の傾斜装置が必要になる場合がある(気道開通のための頭頸部の姿勢の図を参照)。

気道開通のための頭頸部の姿勢

A:ストレッチャーに頭部が接している;気道は圧迫されている。B:顔面が天井と平行になり,耳と胸骨切痕が同一平面上に並び,気道が開通するスニッフィングポジションをとらせる。Adapted from Levitan RM, Kinkle WC: The Airway Cam Pocket Guide to Intubation, ed.2.Wayne (PA), Airway Cam Technologies, 2007.

頸椎損傷の可能性がある場合:

  • 患者をストレッチャー上で仰臥位またはわずかに傾斜をつけた仰臥位にする。頸部の動きを防止するために,下顎挙上法のみを用いるか,または頭部後屈を避けてあご先挙上のみで,上気道を用手的に開通させる。

  • LMAは解剖学的に適した形状に設計されており,頸部を動かすことなく挿入でき,口に指を挿入する必要もない。後方への頸椎の圧迫を引き起こす可能性があるが,一般に不安定な頸椎損傷のある患者にも安全であると考えられている。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

声門上エアウェイまたは気管内チューブの挿入またはそれによる換気中は,患者を覚醒させないようにする。必要であれば,患者の覚醒または咽頭反射を防ぐか(スキサメトニウムの反復投与または長時間作用型筋弛緩薬を用いる),もしくは臨床的適応に応じて抜管または変更する。

  • 適切なサイズのLMAを選択し,カフの最大膨張量を確認する。サイズと最大膨張量は通常,チューブの側面に印字されている。一般的に,サイズ4は体重50~70kgの成人に,サイズ5は体重70~100kgの成人に適している。

  • エアリークがないことを確認するため,カフを膨らませた後脱気する。

  • カフを完全に脱気した状態で,滅菌の水溶性潤滑剤をマスク遠位部の後面とカフの後面に少量ずつ塗布する。

  • 可能であれば,バッグバルブマスク換気によりあらかじめ酸素化を行う。

  • 患者の頸部を屈曲させて顎を持ち上げ,チューブ挿入時には必要に応じて後頭部を手で押して対抗する圧力を加えた状態を維持する。

  • マスクの開口部が前方に向くようにチューブを口腔内に挿入する。標準的なアプローチは,チューブとマスクの接続部にあるV字型の切り込みに示指(または中指もしくは母指)を置いて押し,用手的にマスクを口蓋に沿って喉に導くものである。潤滑剤を塗布したマスクの後面が硬口蓋および軟口蓋のカーブに沿うように,チューブを頭側に押す。マスクの折れを防ぎ,喉頭蓋によるチューブの閉塞を回避するためマスクは下咽頭後壁に沿って挿入すべきである。適切な長さが挿入されれば(チューブ上の印により確認),マスクは喉頭の開口部を覆い,それ以上挿入しようとすると(食道の開口部で)マスク先端に強い抵抗を感じるはずである(ラリンジアルマスクの図を参照)。

  • カフを膨らませる前にチューブから手を離す。

  • カフを膨らませる。カフの推奨最大容量の半分の量を使用する。マスクが声門部に収まると,チューブは口から1~2cm突出した状態になる。

  • バッグバルブをチューブに接続する。

  • 換気を開始する(8~10回/分,1回約1秒間かけて約500mLずつ送気する)。

  • 聴診および胸部の挙上により肺換気を評価する。

  • 呼気終末二酸化炭素によりチューブの留置部位を確認する。

  • チューブを適切な位置に固定する。

ラリンジアルマスク(LMA)

LMAは空気で膨らむカフが付いたチューブであり,中咽頭に挿入する。A:脱気したカフを口腔内に挿入する。B:示指でカフを喉頭の上の位置に導く。C:留置できたらカフを膨らませる。

新しいカフは,空気で膨らむものではなく,気道に合わせて変形するゲルが使用されている。

ラリンジアルマスク挿入の注意点とよくあるエラー

  • 声門上エアウェイまたは気管内チューブの挿入またはそれによる換気中は,患者を覚醒させないようにする。必要であれば,患者の覚醒または咽頭反射を防ぐか(スキサメトニウムの反復投与または長時間作用型筋弛緩薬を用いる),もしくは臨床的適応に応じて抜管または変更する。

  • カフを膨張させすぎてはならない。一般に,カフの最大容量の半分から開始し,必要に応じて調整する。

ラリンジアルマスク挿入のアドバイスとこつ

困難または不十分なLMA換気を改善するには:

  • カフの容量を調整する。カフの容量を減らすことと増やすことの両者を試みる(カフのシール不良はカフの用量が少なすぎても多すぎても起こりうる)。

  • バッグバルブ換気を行いながら,換気しやすいように患者の体位を調整する。

  • より適切に整えたスニッフィングポジション,顎を胸につける体位,下顎挙上法,またはあご先挙上法を試す。

  • LMAを上下に動かす。カフを脱気せずにLMAを5~6cm引き出した後,再び挿入してカフの下またはマスク内に閉じ込められた喉頭蓋を解放する。

  • LMAを回転させながら下咽頭の奥まで進め,持ち手の部分を天井方向に持ち上げる。

  • カフを脱気してLMAを引き抜く。その後,同じLMAまたはより大きいサイズのLMAを使用して,再度LMAを挿入する。

  • 挿管用ラリンジアルマスク,ラリンジアルチューブ,気管挿管,外科的気道確保など,他の気道管理方法を考慮する。

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