原因
分娩後出血の最も一般的な原因は以下のものである:
子宮弛緩
子宮弛緩の危険因子としては以下のものがある:
子宮の過度の伸展(多胎妊娠 多胎妊娠 多胎妊娠では子宮内に胎児が複数存在する。 多胎児(多胎)妊娠は,最大で分娩30件当たり1件発生する。 多胎妊娠の危険因子としては以下のものがある: 排卵誘発(通常クロミフェンまたはゴナドトロピンによる) 生殖補助医療(例,体外受精) さらに読む , 羊水過多 羊水過多 羊水過多とは過剰な羊水のことである;母体および胎児の合併症と関連がある。診断は超音波検査による羊水量の計測による。羊水過多に寄与している母体疾患を治療する。症状が重度であったり痛みを伴う早期子宮収縮を認める場合は,治療として羊水量の用手的な減量を行うことがある。 羊水過多の原因としては以下のものがある: 胎児奇形(例,消化管または尿路閉塞) 多胎妊娠 母体糖尿病 さらに読む ,胎児異常,または 巨大児 在胎不当過大児(LGA児) 在胎期間に対して体重が90パーセンタイル以上の新生児は,在胎不当過大(large for gestational age)に分類される。巨大児とは,出生体重が4000g以上の正期産児をさす。主な原因は母体糖尿病である。合併症には,分娩外傷,低血糖,過粘稠度,および高ビリルビン血症がある。 在胎期間は,大まかには,最後の正常な月経がみられた日から分娩日までの週数として定義されている。より正確には,在胎期間は受胎日の14日前から分娩日までの... さらに読む が原因となる)
頻産婦(5人以上の生児の分娩)
弛緩作用をもつ麻酔薬
急速な分娩
分娩後出血のその他の原因としては以下のものがある:
性器の裂傷
胎盤遺残
血腫
羊膜内感染
胎盤付着部の退縮不全(不完全な復古)(通常は早期に起こるが,産後1カ月程度経過してから起こる場合がある)
診断
臨床的評価
分娩後出血の診断は臨床的に行う(例,出血量に注意を払う,バイタルサインをモニタリングする)。
治療
遺残した胎盤組織の除去および性器裂傷の修復
子宮収縮薬(例,オキシトシン,プロスタグランジン,メチルエルゴメトリン)
急速輸液およびときに輸血
ときに外科的処置
生理食塩水を最大2Lまで静注して血管内容量を補充する;この量の生理食塩水で不十分であれば輸血を用いる。
双手子宮マッサージおよびオキシトシン静注による止血を試みる。胎盤の娩出後速やかに希釈オキシトシン(10または20[最大80]単位/1000mLの点滴静注)を125~200mL/時にて投与する。子宮が硬くなるまで投与を続け,その後減量するか投与を終了する。重度の低血圧が起こることがあるため,オキシトシンを急速静注してはならない。
さらに,子宮に裂傷や胎盤遺残がないか調べる。頸管と腟も診察する;裂傷があれば修復する。カテーテルにより膀胱をドレナージすることで子宮弛緩を改善することがある。
オキシトシン投与中に過度の出血が持続する場合は,15-メチルプロスタグランジンF2α(250μg,筋注,15~90分毎,最高8回まで)またはメチルエルゴメトリン(0.2mg,筋注,2~4時間毎,その後0.2mg,経口,1日3~4回,1週間継続可能)を試みるべきである;帝王切開中にはこれらの薬物を直接子宮筋層に注射する場合がある。オキシトシン10単位を筋層に直接注射することもできる。オキシトシンが利用できない場合,代わりに熱安定性の高いカルベトシンを筋注により投与することが可能である。喘息の妊婦にはプロスタグランジンを避け,高血圧の妊婦にはメチルエルゴメトリンを避けるべきである。ミソプロストール(800~1000μg,直腸内)により子宮収縮を促進できることがある。
子宮パッキングまたはBakriバルーンを挿入することでタンポナーデできる場合がある。このシリコン製のバルーンは最大500mLを保つことができ,最大300mmHgまでの内圧および外圧に耐える。止血が得られない場合は,外科的にB-Lynch縫合(縫い目が多く,子宮下部を圧迫するために用いる縫合)を行うか,内腸骨動脈結紮または子宮摘出が必要になる場合がある。子宮破裂は外科的修復を必要とする。
失血の程度およびショックの臨床所見に基づき,必要に応じて血液製剤を輸血する。熟練した血液専門医と血液バンクへのコンサルテーション後,濃厚赤血球,新鮮凍結血漿,および血小板の1:1:1の割合での 大量輸血 大量輸血の合併症 輸血の最も頻度の高い合併症は,以下のものである: 発熱性非溶血性反応 悪寒-硬直反応 最も重篤な合併症で,死亡率が非常に高いのは,以下のものである: ABO血液型不適合輸血による急性溶血反応(AHTR) さらに読む を考慮することが可能である(1 治療に関する参考文献 分娩後出血は,1000mLを超える失血または分娩24時間以内の循環血液量減少の症状または徴候を伴う失血である。診断は臨床的に行う。治療は出血の病因により異なる。 分娩後出血の最も一般的な原因は以下のものである: 子宮弛緩 子宮弛緩の危険因子としては以下のものがある: 子宮の過度の伸展( 多胎妊娠, 羊水過多,胎児異常,または 巨大児が原因となる) さらに読む )。初期の内科的管理が無効な場合には,トラネキサム酸も使用できる。
治療に関する参考文献
1.American College of Obstetricians and Gynecologists’ Committee on Practice Bulletins—Obstetrics: Practice Bulletin No. 183: Postpartum hemorrhage.Obstet Gynecol 130:e168–186, 2017.
予防
素因となる病態(例, 子宮筋腫 子宮筋腫 子宮筋腫は平滑筋由来の良性子宮腫瘍である。筋腫は,異常子宮出血,骨盤痛や圧迫感,泌尿器や腸管の症状,および妊娠合併症を頻繁に引き起こす。診断は内診,超音波検査,または他の画像検査による。症状のある患者の治療は,患者の妊孕性および子宮温存の希望に基づく。治療法としては,経口避妊薬,筋腫を縮小させるための短期間の術前ゴナドトロピン放出ホルモン... さらに読む , 羊水過多 羊水過多 羊水過多とは過剰な羊水のことである;母体および胎児の合併症と関連がある。診断は超音波検査による羊水量の計測による。羊水過多に寄与している母体疾患を治療する。症状が重度であったり痛みを伴う早期子宮収縮を認める場合は,治療として羊水量の用手的な減量を行うことがある。 羊水過多の原因としては以下のものがある: 胎児奇形(例,消化管または尿路閉塞) 多胎妊娠 母体糖尿病 さらに読む , 多胎妊娠 多胎妊娠 多胎妊娠では子宮内に胎児が複数存在する。 多胎児(多胎)妊娠は,最大で分娩30件当たり1件発生する。 多胎妊娠の危険因子としては以下のものがある: 排卵誘発(通常クロミフェンまたはゴナドトロピンによる) 生殖補助医療(例,体外受精) さらに読む ,母体の 出血性疾患 過度の出血 いくつかの異なった徴候および症状により,異常な出血または過度の出血が示唆される場合がある。原因不明の鼻血(鼻出血),過剰または長期の月経出血(過多月経)のほか,軽度の切創,歯磨き,デンタルフロス,または外傷後の長期の出血がみられることがある。また,点状出血(小さな皮内出血または粘膜出血),紫斑(点状出血より大きい粘膜または皮膚の出血部位),斑状出血(皮下出血),または毛細血管拡張(拡張した小血管が皮膚または粘膜上に認められるようになる)... さらに読む ,産褥期出血のまたは分娩後出血の既往)は分娩前に同定し,可能であれば是正する。
女性がまれな血液型を有する場合は,前もってその型の血液を入手可能にしておく。分娩は,慎重に,急がず,最小限の介入にとどめるのが常に賢明である。
胎盤分離後,オキシトシン(10単位,筋注)や希釈オキシトシン輸液(静注液1000mLに10~20単位,125~200mL/時で1~2時間)により通常は子宮収縮が確保され,失血は減少する。
胎盤の娩出後,胎盤が完全かどうか十分に調べる;不完全ならば子宮内を用手的に調べ,残留した断片を除去する。まれに掻爬が必要となる。
分娩第3期が完了した後の1時間は,子宮収縮および性器出血の量を観察しなければならない。
要点
分娩前に,出生前の危険因子(例,出血性疾患,多胎妊娠,羊水過多,異常に大きな子宮,頻産婦)の同定を含め,分娩後出血のリスクを評価する。
血管内容量を補充し,性器裂傷を修復し,遺残した胎盤組織を除去する。
子宮をマッサージし,必要であれば,子宮収縮薬(例,オキシトシン,プロスタグランジン,メチルエルゴメトリン)を用いる。
出血が持続する場合は,パッキング,外科手術,および血液製剤の輸血を考慮する。
リスクのある女性では,分娩は緩徐に,不必要な介入を回避して行う。