血小板減少症:その他の原因

執筆者:David J. Kuter, MD, DPhil, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2020年 6月
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    免疫性の原因(ウイルス感染,薬剤,結合組織疾患,リンパ増殖性疾患,輸血)または非免疫性の原因(敗血症,急性呼吸窮迫症候群)によって,血小板破壊が起きることがある。症状は,点状出血,紫斑,および粘膜出血である。臨床検査所見は,原因により異なる。病歴が本症を示唆する唯一の情報となる場合もある。治療は基礎疾患の是正である。

    血小板疾患の概要も参照のこと。)

    急性呼吸窮迫症候群

    急性呼吸窮迫症候群の患者は,おそらくは肺毛細血管床への血小板沈着に起因する非免疫性の血小板減少症を発症することがある。

    輸血

    輸血後紫斑では,免疫学的機序による血小板破壊が起きるが,これは過去7~10日間に輸血の既往がある場合を除き,免疫性血小板減少症(ITP)と鑑別できない。患者は通常女性で,ほとんどの人に存在する血小板抗原(PLA-1)が欠失している。PLA-1陽性の血小板を輸血すると,抗PLA-1抗体の産生が刺激され,その抗体が(未知の機序により)患者のPLA-1陰性血小板と反応する可能性がある。それにより重度の血小板減少症が生じ,回復までに2~6週間を要する。通常は静注用免疫グロブリン製剤(IVIG)による治療が奏効する。

    結合組織疾患およびリンパ増殖性疾患

    結合組織疾患(例,全身性エリテマトーデス抗リン脂質抗体症候群)またはリンパ増殖性疾患(例,慢性リンパ性白血病[CLLまたはLGL白血病])が二次性ITPを引き起こすことがある。コルチコステロイドと通常の免疫性血小板減少症に対する治療がしばしば効果的であるが,基礎疾患の治療は,常に寛解期間の延長につながるわけではなく,不要な場合がある。

    薬剤性の免疫学的機序による血小板破壊

    一般的に使用される薬剤のうち以下のものは,ときに血小板減少症を引き起こす:

    • ヘパリン

    • キニーネ

    • トリメトプリム/スルファメトキサゾール

    • 糖タンパク質IIb/IIIa阻害薬(例,アブシキシマブ,エプチフィバチド[eptifibatide],チロフィバン[tirofiban])

    • ヒドロクロロチアジド

    • カルバマゼピン

    • クロルプロパミド

    • ラニチジン

    • リファンピシン

    • バンコマイシン

    薬剤性血小板減少症は典型的には,血小板に結合した薬物が新たな「外来性」抗原となって免疫反応を引き起こした場合に生じる。この疾患は,薬物摂取の既往がなければ,ITPと鑑別できない。薬剤を中止すると,典型的に血小板数の増加が1~2日以内にみられ,7日以内に正常値に回復する。(血小板減少症を引き起こすことが報告されている薬剤に加え,薬剤と血小板減少症の因果関係に関するエビデンスの解析結果を提示した一覧表がPlatelets on the Webで公開されている。)

    ヘパリン起因性血小板減少症

    ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は,未分画ヘパリンの投与を受けた患者の最大1%にみられる。ヘパリン起因性血小板減少症は,非常に低い用量でヘパリンを使用した場合(例,静脈または動脈ラインの開存を保つためのヘパリンフラッシュ)にも発生することがある。その機序は通常,免疫性である。まれに出血が起きるが,それよりも多いのが血小板の過剰凝集で,血管を閉塞させて奇異性の動脈および静脈血栓症を引き起こし,それにより生命が脅かされることもある(例,四肢動脈の血栓塞栓性閉塞,脳卒中急性心筋梗塞)。

    血小板減少症になって新たに血栓症を発症した患者や,血小板数に50%を超える減少がみられた患者では,ヘパリンを直ちに中止すべきであり,血小板因子4に結合するヘパリンに対する抗体を検出する検査を実施する。少なくとも血小板数が回復するまでは,ヘパリン以外の抗凝固薬(例,アルガトロバン,ビバリルジン[bivalirudin],フォンダパリヌクス)による抗凝固療法で代替すべきである。

    低分子ヘパリン(LMWH)は未分画ヘパリンよりも免疫原性が低いが,ほとんどのHIT抗体がLMWHと交差反応を起こすため,ヘパリン起因性血小板減少症患者に対する抗凝固療法に用いることはできない。フォンダパリヌクスは多くの患者で許容可能な代替薬であるが,半減期が17時間と長いことを考慮すると,すぐに処置が必要になる可能性がある患者や出血リスクが高い患者では不適切である。ヘパリン起因性血小板減少症の患者にはヘパリンの代わりにワルファリンを投与してはならず,長期の抗凝固療法を要する場合は,血小板数が回復した後にのみ,ワルファリンを開始すべきである。

    感染症

    HIV感染症により免疫性の血小板減少症が生じることがあり,HIVとの関連を除き免疫性血小板減少症と区別できない。グルココルチコイドを投与すると,血小板数が増加することがある。しかしながら,これらの薬剤では免疫機能がさらに低下する可能性があるため,血小板数が20,000/μLを下回った場合を除き,グルココルチコイドの使用を控えることが多い。通常は抗ウイルス薬による治療後にも血小板数が増加する。

    C型肝炎の感染は,一般的に血小板減少症と関連している。活動性の感染症によって免疫性血小板減少症と鑑別できない血小板減少症が生じることがあり,血小板数は10,000/μLを下回る。より軽度の血小板減少症(血小板数が40,000~70,000/μL)は,巨核球の増殖と血小板の産生を調節する造血成長因子であるトロンボポエチンの産生が肝傷害によって低下したことが原因である場合もある。C型肝炎に起因する血小板減少症は,免疫性血小板減少症と同じ治療法に反応する。

    その他の感染症として,全身性ウイルス感染症(例,エプスタイン-バーウイルスサイトメガロウイルス),リケッチア感染症(例,ロッキー山紅斑熱),細菌性敗血症などが血小板減少症を合併することも多い。

    妊娠

    正常妊娠の約5%では,典型的には無症状の血小板減少症が妊娠後期にみられ(妊娠性血小板減少症),通常は軽度(血小板数が70,000/μLを下回ることはまれ)で,治療を必要とせず,分娩後に回復する。ただし,妊娠高血圧腎症およびHELLP症候群(溶血,肝酵素値高値,および血小板数低値)を有する妊婦では,重度の血小板減少症が生じることがあり,そのような妊婦では,典型的には早急な分娩が必要で,血小板数が20,000/μL(分娩を帝王切開で行う場合は50,000/μL)を下回る場合は,血小板輸血を考慮する。

    敗血症

    敗血症では,原因となる感染症の重症度に相関する非免疫性の血小板減少症がしばしばみられる。それらの血小板減少症には複数の原因がある:

    • 播種性血管内凝固症候群

    • 血小板に作用する免疫複合体の形成

    • 補体の活性化

    • 損傷した血管内皮表面への血小板沈着

    • 肝臓におけるAshwell-Morell受容体による血小板除去の増加につながる,血小板表面の糖タンパク質の喪失

    • 血小板アポトーシス

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