免疫性血小板減少症(ITP)

(特発性血小板減少性紫斑病;免疫性血小板減少性紫斑病)

執筆者:David J. Kuter, MD, DPhil, Harvard Medical School
レビュー/改訂 修正済み 2022年 6月
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免疫性血小板減少症(ITP)は,通常は貧血または白血球減少を伴わない出血性疾患である。典型的には,成人では慢性となるが,小児では通常急性に経過して自然に軽快する。他の基礎疾患がなければ脾臓の大きさは正常である。診断は通常,臨床的に行い,血小板減少症の他の原因(例,HIV感染症,C型肝炎)を除外することに基づく。治療法としては,コルチコステロイド,脾臓摘出,免疫抑制療法,トロンボポエチン受容体作動薬,脾臓チロシンキナーゼ阻害薬のホスタマチニブなどがある。生命を脅かす出血に対しては,血小板輸血,静注コルチコステロイド,静注用抗D免疫グロブリン,または静注用免疫グロブリン製剤を単独または組み合わせて使用する。

血小板疾患の概要も参照のこと。)

免疫性血小板減少症は通常,血小板の構造タンパク質抗原に対する自己抗体の出現に起因する。それらの抗血小板抗体は,通常は脾臓における血小板破壊の亢進をもたらし,血小板の産生と巨核球からの放出を阻害する。小児期のITPでは,ウイルス抗原によって自己抗体が誘発されることがある。成人における誘因は不明であるが,一部の国(例,日本,イタリア)では,ITPにHelicobacter pylori感染症との関連が報告されており,感染症の治療後にITPの寛解が認められている(1)。COVID-19がITPの原因となることはまれであるが,COVID-19ワクチンがITP患者の2~12%で血小板減少症を悪化させる可能性がある。ITPは妊娠中に増悪する傾向があり,母体異常のリスクを高める。

総論の参考文献

  1. 1.Kuter DJ: The treatment of immune thrombocytopenia (ITP)—focus on thrombopoietin receptor agonists.Annals of Blood Volume 6 March 2021

ITPの症状と徴候

無症状のことが多く,ルーチン検査での血小板数低値によってのみ同定されるが,免疫性血小板減少症の症候が現れる場合には以下がみられる:

  • 点状出血

  • 紫斑および/または斑状出血

  • 粘膜出血

  • 月経出血量の増加

大量の消化管出血および血尿はまれである。ウイルス感染症または自己免疫性溶血性貧血の合併(エヴァンズ症候群)によって腫大しない限り,脾臓の大きさは正常である。血小板破壊が亢進する他の疾患と同様に,ITPでも血栓症のリスク増加を伴う。

免疫性血小板減少症の臨床像
点状出血(硬口蓋)
点状出血(硬口蓋)

点状出血は,この患者の口蓋にみられるような小さな赤い点状斑を特徴とする。

点状出血は,この患者の口蓋にみられるような小さな赤い点状斑を特徴とする。

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

免疫性血小板減少症(ITP)における点状出血
免疫性血小板減少症(ITP)における点状出血

By permission of the publisher. From Deitcher S.In Atlas of Clinical Hematology.Edited by JO Armitage. Philadelphia, Current Medicine, 2004.

斑状出血
斑状出血

この患者の下肢にみられる大きな紫斑は斑状出血である。

この患者の下肢にみられる大きな紫斑は斑状出血である。

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

免疫性血小板減少症における斑状出血
免疫性血小板減少症における斑状出血

By permission of the publisher. From Deitcher S.In Atlas of Clinical Hematology. Edited by JO Armitage. Philadelphia, Current Medicine, 2004.

ITPの診断

  • 血小板数を含めた血算と末梢血塗抹検査

  • まれに骨髄穿刺

  • 他の血小板減少性疾患の除外

免疫性血小板減少症は,孤立性の血小板減少症(すなわち,血小板以外は血算および末梢血塗抹標本が正常)が認められる患者で疑われる。免疫性血小板減少症(ITP)の症状は非特異的であるため,臨床的評価および適切な検査により,孤立性の血小板減少症の他の可逆的な原因(例,薬剤,アルコール,リンパ増殖性疾患,他の自己免疫疾患,ウイルス感染症)を除外する必要がある。典型的には,凝固検査,肝機能検査,C型肝炎およびHIV感染の検査を実施する。血小板の大きさおよび粒度を評価するとともに,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)や遺伝性血小板減少症,白血病など,血小板減少症を引き起こす他の主要な病態を除外するために,末梢血塗抹検査を入念に行う必要がある。一部の症例では抗血小板抗体の検査が診断の助けになることがある(1)。ITPでは,血小板数が50,000/μL(50 × 109/L)未満の場合,幼若血小板分画が増加することがある。

診断を下すのに骨髄検査は必要とならないが,臨床的特徴が典型的ではなく,血算または血液塗抹標本で血小板減少症以外にも異常が認められた場合,または患者が標準治療(例,コルチコステロイド)に反応しない場合は,骨髄検査を行う。ITP患者では,骨髄検査において,正常またはやや増加した巨核球数以外は正常な骨髄検体を示す。

診断に関する参考文献

  1. 1.Al-Samkari H, Rosovsky RP, Karp Leaf RS: A modern reassessment of glycoprotein-specific direct platelet autoantibody testing in immune thrombocytopenia.Blood Adv 4(1):9–18, 2020. doi: 10.1182/bloodadvances.2019000868

ITPの予後

小児では,たとえ重度の血小板減少症でも,典型的には数週間から数カ月で自然に回復する。

成人で自然寛解するのは10%未満である。初回治療を完了すると,約3分の1の患者で寛解が得られる。最大75%の患者が5年以内に改善する(1)。ただし,多くの患者は軽度(血小板数 > 30,000/μL[30 × 109/L])で安定し,出血があっても軽微である;現在ではルーチンに血算と同時に行われる自動血小板計数器による検査で発見されることが多い。

予後に関する参考文献

  1. 1.Sailer T, Lechner K, Panzer S, et al: The course of severe autoimmune thrombocytopenia in patients not undergoing splenectomy.Haematologica 91:1041–1045, 2006.

ITPの治療

  • 経口コルチコステロイド

  • 免疫グロブリン静注療法(IVIG)

  • 静注用抗D免疫グロブリン

  • ときに脾臓摘出

  • トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)

  • リツキシマブ

  • ホスタマチニブ

  • その他の免疫抑制薬

  • 重度の出血に対しては,IVIG,静注用抗D免疫グロブリン,静注コルチコステロイド,血小板輸血を単独または併用で行う

2019年のガイドラインが現在公開されている(1,2)。血小板数が30,000/μL(30 × 109/L)を超え,出血を認めない無症状の患者には治療は不要であり,モニタリングが可能である。

出血がみられ,血小板数が30,000/μL(30 × 109/L)を下回っている初発ITPの成人患者には,通常は最初に経口コルチコステロイド(例,プレドニゾン1mg/kg,経口,1日1回)を投与する。コルチコステロイドの代替レジメンとして,おそらく同等の効果が得られるデキサメタゾン40mg,経口,1日1回がある。 大半の患者で2~5日以内に血小板数が増加する。ただし,一部の患者では反応が得られるまでに2~4週間を要することがある。反応後にコルチコステロイドを漸減すると,大半の成人患者が再発する。コルチコステロイドの反復投与による治療は効果的であるが,有害作用のリスクが高まる。通常は数カ月を超えてコルチコステロイドを継続してはならず,脾臓摘出を避けるために他の薬剤を試みてもよい。内科的治療が効果が得られている場合は,脾臓摘出を考慮する前に少なくとも1年間は継続することが大半のガイドラインで推奨されている。

抜歯,出産,外科手術,またはその他の侵襲的手技のために一時的に血小板数を増加させる必要がある場合は,経口コルチコステロイド,IVIG,または静注用抗D免疫グロブリンを投与してもよい。トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)(例,ロミプロスチム,エルトロンボパグ,アバトロンボパグ)も侵襲的治療の前に使用できるが,出産のために使用してはならない。免疫性血小板減少症(ITP)で生命を脅かす出血には,IVIGおよび抗D免疫グロブリンの静注も有用であるが,反応が数日から数週間しか続かない場合があるため,長期治療に使用されることはまれである。

最初のコルチコステロイド療法後に再発した患者の約3分の2では,脾臓摘出により完全寛解を得ることができる。脾臓摘出は通常,薬物療法では出血リスクをコントロールできない重度の血小板減少症(例,15,000/μL[15 × 109/L]未満)を有する患者,または症状が12カ月以上継続している患者が対象とされる。第2選択の薬物療法で血小板減少症がコントロールできる場合は,しばしば脾臓摘出が必要ない(1, 2)。脾臓摘出により血栓症および感染症(特に肺炎球菌などの莢膜を有する細菌による感染症)のリスクが高まる;肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae),インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae),髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)に対する予防接種が必要である(理想的には手術の少なくとも2週間前までに行う)。

第2選択の薬物療法

第2選択の薬物療法は,以下の免疫性血小板減少症患者に実施可能である:

  • 自然寛解を期待して脾臓摘出を控えることを希望している患者

  • 脾臓摘出の適応がないか脾臓摘出を拒否している患者

  • 脾臓摘出が奏効しなかった患者

このような患者は通常,血小板数が10,000~20,000/μL(10~20 × 109/L)未満である(およびそのため出血のリスクがある)。第2選択の薬物療法としては,トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA),リツキシマブ,ホスタマチニブ,その他の免疫抑制薬などがある。

ロミプロスチム(1~10μg/kg,皮下,週1回),エルトロンボパグ(25~75mg,経口,1日1回),アバトロンボパグ(20mg,経口,1日1回)などのトロンボポエチン受容体作動薬は,奏効率が85%を超えている。血小板数を50,000/μL(50 × 109/L)を上回る水準で維持するには,しばしばTPO-RAを継続的に投与する必要があるが,治療なしの寛解に至る成人患者の割合は1年後で3分の1となり,2年後で50%を超えることがデータから示唆されている。

リツキシマブ(375mg/m2,静注,週1回,4週間)の奏効率は57%であるが,5年後に寛解を維持している成人患者はわずか21%である(3)。 代替の投与計画も効果的である(例,2週間の間隔を空けて1000mgを静注)。リツキシマブは,6~12カ月間にわたってワクチン接種に対する反応に影響を及ぼす可能性がある。

ホスタマチニブは脾臓チロシンキナーゼ阻害薬で,奏効率は18%と報告されている。用量は100mg,経口,1日2回であり,血小板数が50,000/μL(50 × 109/L)を超えるまで増加しなければ1カ月後に150mg,1日2回に増量する(4)。

症状を伴う重度の血小板減少症を有し,他の薬剤で反応が得られなかった患者では,シクロホスファミド,シクロスポリン,ミコフェノール酸,アザチオプリンなどの薬剤を用いるより強力な免疫抑制療法が必要である場合がある。

ITPにおける生命を脅かす出血

生命を脅かす出血がみられる免疫性血小板減少症の小児または成人患者では,IVIG 1g/kg,1日1回,1~2日間による,またはRh陽性患者では静注用抗D免疫グロブリン75μg/kgの単回投与による迅速な食細胞の抑制を試みる。抗D免疫グロブリンの静脈内投与は,脾臓摘出を受けていない患者においてのみ効果的であり,重度の溶血および播種性血管内凝固症候群など,重度の合併症を伴うことがある。通常はこの治療により血小板数が2~4日以内に増加するが,その効果は2~4週間しか持続しない。

高用量のメチルプレドニゾロン(1gの1日1回静注を3日間)は,IVIGまたは静注用抗D免疫グロブリンより投与が容易であるが,同等の効果が得られない場合がある。ITPの患者で生命を脅かす出血を来した場合は,血小板輸血も行う。予防的に血小板輸血を行うことはない。

ビンクリスチン(1.4mg/m2;最大用量2mg)も緊急の状況で使用されているが,反復投与により神経障害を生じる可能性がある。

TPO-RAの早期使用は,上記の治療法との併用でも効果的となる場合がある(5, 6)。

小児におけるITPの治療

免疫性血小板減少症の小児患者に対する治療は,大半の患児が自然に回復するため,通常は支持療法となる。血小板減少症が数カ月,数年続いても,大半の小児は自然寛解する。粘膜出血がある場合は,コルチコステロイドまたはIVIGを投与してもよい。血小板数が増加しても臨床転帰が改善しないことがあるため,コルチコステロイドおよびIVIGの使用については議論がある。小児での脾臓摘出はまれである。しかしながら,血小板減少症が重度で,症状が6カ月以上持続する場合は,トロンボポエチン受容体作動薬(例,ロミプロスチム,エルトロンボパグ)を考慮すべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Neunert C, Terrell DR, Arnold DM, et al: American Society of Hematology 2019 guidelines for immune thrombocytopenia.Blood Adv 3(23):3829–3866, 2019.doi: 10.1182/bloodadvances.2019000966

  2. 2.Provan D, Arnold DM, Bussel JB, et al: Updated international consensus report on the investigation and management of primary immune thrombocytopenia.Blood Adv 3(22):3780–3817, 2019.doi: 10.1182/bloodadvances.2019000812

  3. 3.Patel VL, Mahevas M, Lee SY, et al: Outcomes 5 years after response to rituximab therapy in children and adults with immune thrombocytopenia.Blood 119:5989–5995, 2012.doi: 10.1182/blood-2011-11-393975

  4. 4.Bussel J, Arnold DM, Grossbard E, et al: Fostamatinib for the treatment of adult persistent and chronic immune thrombocytopenia: Results of two phase 3, randomized, placebo‐controlled trials.Am J Hematol 93: 921–930, 2018.doi: 10.1002/ajh.25125

  5. 5.Kuter DJ, Tarantino MD, Lawrence T: Clinical overview and practical considerations for optimizing romiplostim therapy in patients with immune thrombocytopenia.Blood Rev 49:100811, 2021. doi: 10.1016/j.blre.2021.100811

  6. 6. Lozano ML, Godeau B, Grainger J, et al: Romiplostim in adults with newly diagnosed or persistent immune thrombocytopenia.Expert Rev Hematol 13(12):1319–1332, 2020.doi: 10.1080/17474086.2020.1850253

要点

  • 免疫性血小板減少症(ITP)では,免疫系によって循環血中の血小板が破壊され,同時に骨髄の巨核球も攻撃されることにより,血小板数の産生が減少する。

  • 孤立性の血小板減少症を引き起こす他の病態(例,薬剤,アルコール,リンパ増殖性疾患,その他の自己免疫疾患,ウイルス感染症)を除外する必要がある。

  • 小児では通常,自然寛解する一方,成人でも発症後1年以内に自然寛解することがあるが,小児よりまれである(約33%)。

  • 出血または重度の血小板減少症に対しては,コルチコステロイド(ときに静注用免疫グロブリン製剤または静注用抗D免疫グロブリンを併用)が第1選択の治療である。

  • 骨髄生検は,ほかに懸念される赤血球または白血球異常がある場合と,脾臓摘出が考慮されているがコルチコステロイドまたはIVIGによる標準治療に反応しない患者を除き,典型的には必要とならない。

  • トロンボポエチン受容体作動薬は,85%を超える成人において安全な血小板数を維持するのに非常に効果的である。

  • COVID-19がITPの原因となることはまれであるが,COVID-19ワクチンがITP患者の2~12%で血小板減少症を悪化させる可能性がある。

  • しばしば脾臓摘出が効果的であるが,薬物療法が無効に終わった患者と症状が12カ月以上継続している患者が対象とされる。

  • 血小板輸血は生命を脅かす出血に対してのみ行う。

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