胃腸炎

執筆者:Thomas G. Boyce, MD, MPH, University of North Carolina School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 6月
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胃腸炎は,胃,小腸,および大腸の粘膜組織に炎症が生じる病態である。大半の症例が感染性胃腸炎であるが,薬剤や化学的毒性物質(例,金属,植物性物質)の摂取後に発生する場合もある。感染は食品,水,またはヒトからヒトの経路を介して成立する。米国では,毎年6人に1人が食中毒にかかると推定されている。症状としては食欲不振,悪心,嘔吐,下痢,腹部不快感などがある。診断は臨床所見または便培養によるが,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査と免疫測定法の利用が増加している。治療は対症療法であるが,一部の寄生虫感染症および一部の細菌感染症は特異的な感染症治療を行う必要がある。

胃腸炎は通常,不快であるものの自然治癒する疾患である。電解質および水分の喪失は,その他の点では正常である成人にとっては通常ごくわずかな不都合にすぎないが,非常に低年齢の者( see page 小児における脱水),高齢者,易感染者,重篤な合併症を有する患者では重篤化する可能性がある。推定では世界全体で毎年150万~250万人の小児が感染性胃腸炎で死亡しており (1),この数字は依然として高いものの,過去の死亡率と比較すると2分の1から4分の1である。この減少は,世界の多くの地域で水の衛生状態が改善したこと,および下痢の乳児に対する経口補水療法の適切な使用によってもたらされている可能性が高い。

総論の参考文献

  1. 1.Sattar SBA, Singh S: Bacterial gastroenteritis [Updated 2019 Mar 8].In StatPearls (Internet).Treasure Island, StatPearls Publishing, 2020.

胃腸炎の病因

感染性胃腸炎はウイルス,細菌,または寄生虫によって引き起こされる。具体的な微生物の多くについては,感染症の節で詳細に論じられている。

ウイルス性胃腸炎

最も頻度の高いウイルスは以下のものである:

  • ノロウイルス

  • ロタウイルス

米国では,胃腸炎の最も一般的な原因はウイルスである。感染は小腸の絨毛上皮細胞に起こる。その結果,水および電解質が腸管内腔に漏出するほか,ときに炭水化物の吸収不良によって浸透圧性下痢が起こることで症状が悪化する。下痢は水様である。炎症性の下痢(赤痢)はまれであるが,便中の白血球と赤血球または肉眼的血便がみられる。4種類のウイルスが胃腸炎の大半を引き起こすが,ノロウイルスとロタウイルスでウイルス性胃腸炎の大半を引き起こしており,それにアストロウイルス,腸管アデノウイルスが続く。

ノロウイルスはあらゆる年齢の人に感染する。ロタウイルスワクチンの導入以来,米国では小児を含めて,ノロウイルスが急性胃腸炎の最も一般的な原因となっている。感染は1年を通して発生するが,80%が11月から4月までに起きている。ノロウイルスは現在,全ての年齢層で散発性および流行性ウイルス性胃腸炎の第一の原因となっているが,そのピーク年齢は生後6~18カ月である。飲料水や食品を介した大規模なアウトブレイクが発生する。ノロウイルスは非常に感染性が高いため,ヒトからヒトへの伝播も起こる。大型客船および介護施設での胃腸炎の流行は,大半がこのウイルスによるものである。潜伏期間は24~48時間である。

ロタウイルスは,幼児における脱水を伴う重度の散発性下痢症の原因として世界的に最も頻度が高い(発生のピークは生後3~15カ月)。米国ではルーチンのロタウイルス予防接種の導入以降,発生率が約80%低下した。ロタウイルスは非常に感染性が高く,大半は糞口感染で生じる。成人は,感染した乳児との濃厚な接触によって感染することがある。成人は一般に軽症である。潜伏期間は1~3日である。温帯気候では,ほとんどの感染が冬に発生する。米国では,ロタウイルス感染症の流行は毎年11月に南西部から始まり,3月に北東部で終わる。

アストロウイルスは年齢層を問わず感染しうるが,通常は乳幼児に感染する。感染は冬に最も多い。糞口感染により発生する。潜伏期間は3~4日である。

アデノウイルスは,小児のウイルス性胃腸炎で4番目に多くみられる原因である。感染は1年中発生し,夏にわずかに増加する。主に2歳未満の小児が罹患する。糞口感染により発生する。潜伏期間は3~10日である。

易感染性患者では,他のウイルス(例,サイトメガロウイルスエンテロウイルス)も胃腸炎を引き起こす可能性がある。

細菌性胃腸炎

最も頻度の高い細菌は以下のものである:

細菌性胃腸炎はウイルス性胃腸炎と比較して頻度が低い。細菌は複数の機序によって胃腸炎を引き起こす。

腸管粘膜に付着するものの侵入はしない特定の菌種(例,コレラ菌[Vibrio cholerae],大腸菌(E. coli)の腸管毒素原性株)は,エンテロトキシンを産生する。それらの毒素は腸管での吸収を阻害するとともに,アデニル酸シクラーゼを刺激することによって電解質および水の分泌を引き起こし,結果として水様性下痢を来す。C. difficileも同様の毒素を産生する。

一部の細菌(例,黄色ブドウ球菌,セレウス菌[Bacillus cereus],ウェルシュ菌)は汚染食品中で外毒素を産生し,これが摂取される。外毒素は細菌感染なしで胃腸炎を引き起こすことができる。これらの毒素は一般に,汚染された食物の摂取後12時間以内に急性の悪心,嘔吐,および下痢を引き起こす。症状は36時間以内に軽減する。

小腸または結腸粘膜に侵入する他の細菌(例,Shigella属Salmonella属Campylobacter属C. difficile大腸菌[Escherichia coli]の一部の亜型)が粘膜への侵入を起こすことで,顕微鏡的潰瘍,出血,タンパク質を豊富に含む体液の滲出,ならびに電解質および水の分泌が生じることもある。侵入過程とその結果は,細菌のエンテロトキシン産生の有無に関係なく生じうる。その結果もたらされる下痢は,白血球および赤血球を含有し,ときに肉眼的血便を認める。

Salmonella属およびCampylobacter属細菌は,米国では下痢性疾患の一般的な起因菌となっている。どちらも加熱調理が不十分な家禽肉から感染することが最も多く,無殺菌牛乳から感染する可能性もある。Campylobacter属細菌はときに,下痢のあるイヌまたはネコから伝播する。Salmonella属細菌は,加熱調理の不十分な卵を摂取するか,爬虫類,鳥類,または両生類に触れることで感染することがある。Shigella属細菌も米国における下痢の起因菌としてよくみられ,通常はヒトからヒトの経路で感染するが,食品を媒介した流行も起きている。志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)1型(米国には存在しない)は,志賀毒素を産生し,溶血性尿毒症症候群(hemolytic-uremic syndrome:HUS)を引き起こすことがある。

大腸菌(E. coli)のいくつかの亜型が下痢を引き起こす。疫学および臨床像は亜型によって大きく異なる:

  • 腸管出血性大腸菌(は,米国において臨床的に最も重要な亜型である。志賀毒素を産生し,血性下痢(出血性大腸炎)を引き起こす。そのため,これらの亜型はときに志賀毒素産生性大腸菌(E. coli)(STEC)と呼ばれる。この亜型の中で米国で最も頻度の高い菌株が大腸菌(E. coli)O157:H7である。加熱調理が不十分な牛挽肉,無殺菌牛乳およびジュース,ならびに汚染された水が感染源となりうる。ヒトからヒトへの感染は託児所の環境でよくみられる。レクリエーションの場(例,プール,湖,親水公園)での水への曝露に関連したアウトブレイクも報告されている。溶血性尿毒症症候群は重篤な合併症であり,STEC症例の5~10%(およびO157:H7の10~15%)で発生し,若年者および高齢者で最も多くみられる。

  • 腸管毒素原性大腸菌(は,水様性下痢を引き起こす2種類の毒素(1つはコレラ毒素と類似)を産生する。この亜型は発展途上国を訪れた人々にみられる旅行者下痢症で最も一般的な原因である。

  • 腸管病原性大腸菌(は,水様性下痢を引き起こす。この亜型は,かつては保育所における下痢症のアウトブレイクの一般的な原因であったが,現在ではまれである。

  • 腸管侵入性大腸菌(は,血性または非血性下痢を引き起こし,主に発展途上国でみられる。米国ではまれである。

  • 腸管凝集性大腸菌(は,他の亜型と比べて軽症ながら持続期間の長い下痢を引き起こす。他の亜型の一部と同じく,発展途上国での頻度がより高く,旅行者下痢症の原因となりうる。

これらの亜型の大腸菌(E. coli)は,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査で便中に検出することができ,典型的にはマルチプレックスパネルが用いられる。ときに複数の微生物が同時に検出されることがあるが,その臨床的意義は不明である。

かつては,Clostridium difficile感染症の発生は抗菌薬投与を受ける入院患者にほぼ限定されていた。しかしながら,2000年代後半に米国で強毒型NAP1株が出現したことに伴い,現在では多数の市中感染例が発生している。現在では,おそらくC. difficileが米国で最も頻度の高い下痢の起因菌である。

パール&ピットフォール

  • 現在では,おそらくC. difficileが米国で最も頻度の高い下痢の起因菌である。

他にもいくつかの細菌が胃腸炎を引き起こすが,米国ではその大半がまれである。腸炎エルシニアは,胃腸炎や虫垂炎に酷似した症候群を引き起こす可能性がある。加熱調理が不十分な豚肉,無殺菌牛乳,または汚染された水から感染する。いくつかのVibrio属細菌(例,腸炎ビブリオ[Vibrio parahaemolyticus])は,加熱調理が不十分な魚介類の摂取後に下痢を引き起こす。コレラ菌は,ときに発展途上国で脱水を伴う重度の下痢を引き起こし,自然災害後や難民キャンプでの発生が特に懸念される。リステリア属細菌は,まれに食物を介した胃腸炎を引き起こすが,妊婦,新生児(新生児リステリア症を参照),または高齢者に血流感染症または髄膜炎を引き起こす場合の方が多い。Aeromonas属細菌は,汚染された淡水または汽水での水泳または飲水により感染する。生貝を摂取した患者または熱帯の発展途上地域を旅行した患者では,Plesiomonas shigelloidesによる下痢が起こることがある。

寄生虫性胃腸炎

最も頻度の高い寄生虫は以下のものである:

特定の腸管寄生虫,特にランブル鞭毛虫(Giardia intestinalisG. lamblia])は,腸管粘膜に付着または侵入して,悪心,嘔吐,下痢,および全身倦怠感を引き起こす。ジアルジア症は,米国および世界中のあらゆる地域で発生している。感染は慢性化し,吸収不良症候群を引き起こす可能性がある。通常は,ヒトからヒトへの伝播(しばしば託児所で発生する)または汚染された水を介して感染する。

Cryptosporidium parvumは,水様性下痢を引き起こし,ときに腹部痙攣,悪心,および嘔吐を伴う。健常者では,この疾患は自然治癒し,約2週間続く。易感染性患者では重症化および長期化することがあり,大量の電解質と水分が失われる。Cryptosporidiumは通常,汚染された水を介して感染する。塩素では容易に死滅せず,米国ではレクリエーション活動中に感染する水系疾患の原因で最も頻度が高く,アウトブレイクの約4分の3を占めている。

クリプトスポリジウム症と類似した症状を引き起こす他の寄生虫として,Cyclospora cayetanensis,易感染性患者でのCystoisospora (Isospora) belli微胞子虫と呼ばれる寄生虫の一群(例,Enterocytozoon bieneusiEncephalitozoon intestinalis)などがある。赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)(アメーバ症を参照)は,発展途上国では亜急性血性下痢症の一般的な原因であるが,米国ではまれである。

胃腸炎の症状と徴候

胃腸炎の症状の特徴および重症度は様々である。一般に,発症は突然で,食欲不振,悪心,嘔吐,腹部痙攣,下痢(血便および粘液便を伴う場合または伴わない場合がある)が発生する。倦怠感,筋肉痛,および極度の疲労が起こることがある。腹部は膨満し,軽度の圧痛を呈することがあり,重症例では筋性防御が認められる場合がある。ガスで拡張した腸係蹄を触知することがある。聴診では,亢進した腸音が下痢のない場合にも聴取される(腸音が消失または減弱する麻痺性イレウスとの鑑別で重要な所見である)。嘔吐と下痢が持続する場合は,低血圧および頻脈を伴う血管内液の喪失が起こる可能性がある。重症例では,ショック(血管虚脱および乏尿性腎不全を伴う)を来す。

体液喪失の主な原因が嘔吐である場合は,低クロール血症を伴う代謝性アルカローシスが起こることがある。下痢がより著明な場合は,代謝性アシドーシスが起こる可能性が高くなる。嘔吐および下痢は,ともに低カリウム血症の原因となりうる。低ナトリウム血症が生じることもあり,特に補充療法に低張液を使用した場合に起こりやすい。

ウイルス性胃腸炎

ウイルス感染症の最も一般的な症状は水様性下痢であり,粘液便や血便はまれである。

乳幼児におけるロタウイルス胃腸炎は5~7日間続くことがある。90%の患者で嘔吐がみられ,約30%で39℃(102.2°F)を超える発熱が発生する。

ノロウイルスは典型的には急性発生の嘔吐,腹部痙攣,および下痢を引き起こし,症状は1~2日間しか持続しない。小児では,下痢より嘔吐が著明となるが,成人では通常,下痢が著明となる。また発熱,頭痛,および筋肉痛も起こりうる。

アデノウイルス胃腸炎の特徴は,1~2週間続く下痢である。感染した乳児および小児では,軽度の嘔吐が起こることがあり,典型的には下痢発生から1~2日後に始まる。約50%の患者で微熱がみられる。呼吸器症状がみられる場合もある。症状は一般に軽度であるが,胃腸炎の他の原因ウイルスと比較して長期間持続することがある。

アストロウイルスは,軽症のロタウイルス感染症に類似した症候群を引き起こす。

細菌性胃腸炎

侵襲性感染症を引き起こす細菌(例,Shigella属Salmonella属)は,発熱,極度の疲労,および血性下痢を引き起こす可能性が高い。

大腸菌(E. coli)O157:H7 感染は,通常1~2日間の水様性下痢に始まり,続いて血性下痢がみられる。発熱はないか,あっても微熱である。

C. difficileの感染による疾患スペクトラムは,軽度の腹部痙攣と粘液性の下痢から,重度の出血性大腸炎およびショックまでに及ぶ。

エンテロトキシンを産生する細菌(例,黄色ブドウ球菌,セレウス菌[B. cereus],ウェルシュ菌)は通常,水様性下痢を引き起こす。黄色ブドウ球菌(S. aureus)と一部の菌株のセレウス菌(B. cereus)は,主に嘔吐を引き起こす。

寄生虫性胃腸炎

寄生虫感染症は典型的には亜急性下痢または慢性下痢を引き起こす。大半は非血性下痢を引き起こすが,例外として赤痢アメーバ(E. histolytica)はアメーバ赤痢を引き起こす(アメーバ症を参照)。下痢が持続する場合,疲労および体重減少が一般的にみられる。

胃腸炎の診断

  • 臨床的評価

  • 一部の症例では便検査

同様の症状を引き起こす他の消化管疾患(例,虫垂炎胆嚢炎潰瘍性大腸炎)を除外しなければならない(下痢の評価も参照)。

胃腸炎を示唆する所見としては,大量の水様性下痢,汚染されている可能性のある食物(特にアウトブレイクが判明している場合),処理されていない地上水,または既知の消化管刺激物の摂取,最近の旅行,特定の動物または同様の病状の人との接触などがある。

大腸菌(E. coli)O157:H7による下痢は,感染症というよりむしろ出血疾患の様相を呈することでよく知られており,便がほとんどないか全くない消化管出血として現れる。続いて溶血性尿毒症症候群が起こることがあり,腎不全および溶血性貧血の所見が認められる。

経口抗菌薬の最近(3カ月以内)の使用歴があれば,C. difficile感染症を疑う必要がある。しかしながら,市中感染型のC. difficile感染症患者の約4分の1では,抗菌薬の最近の使用歴がみられない。

便検査

便検査では,臨床所見に加えて,患者の病歴および疫学因子(例,免疫抑制,既知のアウトブレイクへの曝露,最近の旅行,最近の抗菌薬使用)から疑われる微生物種を参考にする。症例は典型的には以下のように層別化される:

  • 急性の水様性下痢

  • 亜急性または慢性の水様性下痢

  • 急性の炎症性下痢

これらの各カテゴリーで原因微生物を同定できるマルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法のプラットフォームが用いられることが増えてきている。しかし,この検査は高価であり,カテゴリーは臨床的に鑑別可能であることから,下痢の種類および持続期間に応じて特異的な微生物に対する検査を行う方が通常は費用対効果が高い。さらに,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査を行っても抗菌薬感受性試験が可能になるわけではない。

急性の水様性下痢は,おそらくウイルス性であり,下痢が持続しない限り検査の適応はない。ロタウイルスおよび腸管アデノウイルス感染症は,便中のウイルス抗原を検出する市販の迅速アッセイを用いて診断できるが,これらの検査が適応となることはまれである。

亜急性および慢性の水様性下痢では,寄生虫の検査が必要であり,典型的には便の鏡検で虫卵および虫体を検索する。便抗原検査はGiardia属,Cryptosporidia属,および赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)に対して可能であり,便の鏡検より感度が高い。

肉眼的血便を伴わない急性の炎症性下痢は,便検査で白血球を認めることにより認識できる。典型的な腸内病原体(例,Salmonella属,Shigella属,Campylobacter属,大腸菌[E. coli])に対する便培養を行うべきである。

肉眼的血便を伴う急性の炎症性下痢がみられた場合は,直ちに大腸菌(E. coli)O157:H7の特異的な検査も行うべきであり,アウトブレイクが判明している状況では非血性の下痢でも行うべきである。同菌は標準的な便培養培地では検出されないため,特異的な培養を要請しなければならない。代替法として,便中の志賀毒素を検出する迅速酵素活性測定が可能であり,陽性であれば大腸菌(E. coli)O157:H7または他の血清型の腸管出血性大腸菌(E. coli)の感染が示唆される。(注:米国で検出されるShigella属細菌は志賀毒素を産生しない。)しかしながら,迅速酵素活性測定は培養ほど感度が良好ではない。一部の医療機関では,志賀毒素の検出にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査を用いている。

肉眼的な血性下痢がある成人には通常,S状結腸鏡検査と培養および生検を行うべきである。大腸粘膜の外観は,アメーバ赤痢,細菌性赤痢,大腸菌(E. coli)O157:H7感染の診断に役立つことがあるが,潰瘍性大腸炎でも類似の病変が生じることがある。

抗菌薬の最近の使用歴またはC. difficile感染の他の危険因子(例,炎症性腸疾患,プロトンポンプ阻害薬の使用)を有する患者には,C. difficile毒素の便検査を行うべきであるが,現在ではC. difficile感染症の約25%は危険因子が同定されない患者で発生していることから,有意な病状を呈する患者には,たとえこれらの危険因子がなくとも,検査を行うべきである。C. difficile感染症の診断には,これまでA型およびB型毒素に対する酵素免疫測定法が用いられていた。しかしながら,いずれかのC. difficile毒素遺伝子またはその調節因子を標的とした核酸増幅検査は,より感度が高いことが示されており,現在では第1選択の診断検査となっている。

一般検査

重篤感のある患者では,水分および酸塩基平衡の状態を評価するため,血清電解質,血中尿素窒素(BUN),およびクレアチニンを測定すべきである。血算は特異度が低いが,好酸球増多から寄生虫感染症が示唆される場合がある。大腸菌(E. coli)O157:H7感染患者では,症状の出現から約1週間後に腎機能検査および血算を施行すべきであり,これにより早期発症の溶血性尿毒症症候群を検出する。この検査が大腸菌(E. coli)O157:H7以外の志賀毒素産生菌による感染症患者で必要かどうかは不明である。

胃腸炎の治療

  • 経口または経静脈的補液

  • C. difficileまたは大腸菌(E. coli)O157:H7感染の疑いがない場合は止瀉薬を考慮する

  • 選択された症例にのみ抗菌薬

大半の患者で必要になる治療は支持療法のみである。トイレまたは便器がすぐ利用できる状態での床上安静が望ましい。経口ブドウ糖電解質液,ブロス,またはブイヨンにより,脱水の予防または軽度脱水の治療が可能である。嘔吐している場合でも,これらの液体を少量ずつ頻回に摂取すべきであり,水分補充とともに嘔吐が軽減する可能性がある。大腸菌(E. coli)O157:H7感染症の患者に対しては,等張性輸液を用いた水分補給により,溶血性尿毒症症候群が発生した場合の腎障害の重症度が軽減する可能性がある。小児はより迅速に脱水症状に陥る可能性があり,適切な水分補給液(数種類が市販されている― see page 経口補液)を与えるべきである。炭酸飲料およびスポーツドリンクは,ブドウ糖とナトリウムの配合比が適正でなく,そのため不適切であり,5歳未満の小児には特に不適切である。母乳栄養の場合は,授乳を継続すべきである。嘔吐が長引く場合または重度の脱水が顕著な場合は,水分および電解質の静脈内投与による補充が必要である( see page 輸液蘇生(fluid resuscitation))。

患者が嘔吐せずに水分を摂取できるようになり,かつ食欲が戻り始めたら,食事を徐々に再開してもよい。刺激のない食物(例,シリアル,ゼラチン,バナナ,トースト)に限定することの有益性は実証されていない。患者によっては一過性の乳糖不耐症を起こすことがある。

止瀉薬は,水様性下痢(出血のない便としてみられる)を呈する2歳以上の患者では安全に使用できる。ただし止瀉薬は,C. difficileまたは大腸菌(E. coli)O157:H7の感染患者では病状の悪化を招く可能性があるため,抗菌薬を最近使用した患者や便潜血陽性の患者には,特定の診断がつくまで投与してはならない。効果的な止瀉薬として,ロペラミドを初回は4mg,その後は毎回の下痢発作時に2mg(最大6回/日または16mg/日)を経口投与するか,ジフェノキシラート(diphenoxylate)の錠剤または液剤を2.5~5mg,1日3回または1日4回で投与する。小児には,ロペラミドを使用する。その用量は,体重13~21kgの小児では,最初の軟便後に1mg,その後は毎回の軟便後に1mg(最大用量は3mg/日);21~28kgの小児では,最初の軟便後に2mg,その後は毎回の軟便後に1mg(最大用量は4mg/日);12歳以下の27~43kgの小児では,最初の軟便後に2mg,その後は毎回の軟便後に1mg(最大用量は6mg/日)である。

嘔吐が重度で,外科的疾患が除外されている場合には,制吐薬が有益となりうる。成人で有用な薬剤としては,プロクロルペラジン5~10mg,静注,1日3回もしくは1日4回,または25mg,経直腸,1日2回,プロメタジン12.5~25mg,筋注,1日3回もしくは1日4回,または25~50mg,経直腸,1日4回などがある。これらの薬剤は,小児での効力が実証されていないことに加え,ジストニア反応の発生率が高いため,通常,小児に対する使用は避ける。オンダンセトロンは,胃腸炎の患者を含め,小児および成人の悪心および嘔吐の軽減に安全かつ効果的であり,標準的な錠剤,口腔内崩壊錠,または静注用製剤として利用可能である。成人に対する用量は,4または8mg,経口または静注,1日3回である。小児に対する用量は,静注の場合は0.15または0.3mg/kg(最大16mg),経口の場合は体重8~15kgの小児では2mg,15~30kgの小児では4mg,30kgを超える小児では8mgである。小児に対するオンダンセトロンの投与は,通常は単回投与で十分であるが,必要であればさらに2回,8時間毎に再投与してもよい;24時間後も嘔吐が続く小児には再評価が必要である。

プロバイオティクスは下痢の持続期間をわずかに短縮するようであるが,感染性下痢症の治療または予防でのルーチンな使用を裏付ける上で,これらが主要な臨床転帰(例,輸液や入院の必要性の減少)に影響を及ぼすことを示した十分なエビデンスはない。

抗菌薬

抗菌薬の経験的治療は,一般には推奨されないが,旅行者下痢症の一部の症例とShigella属またはCampylobacter属細菌の感染が強く疑われる場合(例,既知の症例との接触がある)は除く。その他の場合には,便培養の結果が判明するまで抗菌薬を投与すべきではなく,特に小児は大腸菌(E. coli)O157:H7感染率が高く,投与すべきではない(抗菌薬は大腸菌[E. coli]O157:H7感染患者の溶血性尿毒症症候群のリスクを増加させる)。

細菌性胃腸炎が確認されている症例に対して,抗菌薬が常に必要とは限らない。抗菌薬は,サルモネラ(Salmonella)胃腸炎に対しては役に立たず,便中への排菌期間を延長する。例外として,易感染性患者,新生児,およびサルモネラ(Salmonella)菌血症患者が挙げられる。抗菌薬は,中毒性胃腸炎(例,黄色ブドウ球菌[S. aureus],セレウス菌[B. cereus],ウェルシュ菌[C. perfringens])にも無効である。抗菌薬のむやみな使用は薬剤耐性菌の出現を助長する。しかしながら,特定の感染症には抗菌薬が必要である( see table 感染性胃腸炎に対する経口抗菌薬の抜粋*)。

C. difficile大腸炎の初期管理には,可能であれば原因の抗菌薬を中止することがある。C. difficile大腸炎の治療で選択すべき薬剤はバンコマイシンであり,メトロニダゾールより優れている。残念ながら,バンコマイシンの投与を受けた患者の約20%で再発が起きる。より新しい薬剤のフィダキソマイシンは再発率がやや低い可能性があるが,高価であり,小児での使用は承認されていない。多くの医療施設がC. difficile大腸炎を複数回再発した患者に対して便微生物移植を行っている。この治療は,成人および小児で安全かつ効果的であることが示されている( see page 治療)。

免疫能が正常な患者のクリプトスポリジウム症には,3日間のニタゾキサニド投与が役立つことがある。用量は,1~3歳の小児では100mg,経口,1日2回,4~11歳の小児では200mg,経口,1日2回,12歳以上の小児および成人では500mg,経口,1日2回である。ジアルジア症の治療はメトロニダゾールまたはニタゾキサニドによる。

表&コラム

胃腸炎の予防

ロタウイルスに対しては2つの経口弱毒生ワクチンが使用可能であり,どちらも安全で,疾患を引き起こすウイルス株の大部分に対して効果的である。ロタウイルスの予防接種は,乳児を対象とする推奨予防接種スケジュールに組み込まれている( see table 0~6歳を対象とする推奨予防接種スケジュール)。

無症候性感染の頻度が高く,多くの病原体(特にウイルス)はヒトからヒトへ容易に伝播するため,感染の予防は複雑である。一般に,食品の取り扱いおよび調理は適切な手順に従わなければならない。旅行者は,汚染の可能性がある飲食物を避けるべきである。

レクリエーション活動中の水を介した感染を予防するため,下痢がある者は泳ぐべきではない。乳幼児にはおむつのチェックを頻回に行い,水の近くではなく,トイレで交換すべきである。泳ぐ場合は,水泳中に水を飲み込まないようにすべきである。

乳児やその他の易感染者は,特にサルモネラ症が重症化しやすいため,高い頻度でSalmonella属細菌を保菌している爬虫類,鳥類,または両生類への曝露を避けるべきである。

新生児および乳児への感染は,母乳栄養によってある程度予防できる。養育者は,おむつを交換した後,石鹸と水で手を徹底的に洗い,おむつを交換する場所は新たに調製した家庭用漂白剤の64倍希釈液(1/4カップ[60mL]を1ガロン[3.785L]の水で希釈)で消毒すべきである。下痢がみられる小児は,症状が持続している間は保育施設に通わせてはならない。また,腸管出血性大腸菌(E. coli)またはShigella属細菌に感染した小児については,便検査で2回の陰性を確認するまでは登園を控えさせるべきである。

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