臨死患者のための症状緩和

執筆者:Elizabeth L. Cobbs, MD, George Washington University;
Joanne Lynn, MD, MA, MS, The George Washington University Medical Center;Rita A. Manfredi, MD, George Washington University School of Medicine and Health Sciences
Reviewed ByMichael R. Wasserman, MD, California Association of Long Term Care Medicine (CALTCM)
レビュー/改訂 2024年 7月 | 修正済み 2024年 8月
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身体的,心理的,感情的,および精神的な苦痛は,致死的疾患を抱えて生きる患者によくみられ,一般的に患者は長引いて解消されない苦しみを恐れる。医療従事者は,苦痛を伴う症状を日頃から予測・予防し,出現した際には治療することを患者に説明し安心させる。

症状の治療は可能な場合,病因に基づいて行われるべきである。例えば,高カルシウム血症による嘔吐に対しては,頭蓋内圧の上昇によるものとは異なる治療が要求される。しかしながら,検査の負担が大きい場合やリスクを伴う場合,または特異的な治療法(例,大手術)がすでに除外されている場合には,症状の原因を診断することは不適当となりうる。臨死患者には,徹底的な診断的評価よりも,非特異的な治療法,または経験的治療を短期間連続して試みるなどの快適な手段の方が患者にとって役立つことが多い。

1つの症状に多くの原因がある場合があり,患者の状態の悪化に伴って治療に対する反応が異なることがあるため,臨床チームは頻繁に状況を観察し再評価を行わなければならない。薬物の過量投与または過少投与は有害であるが,生理的状態の悪化により薬物代謝と薬物クリアランスが変化するにつれて,両者とも可能性が高まる。慎重な再評価と長期投薬の適切な中止が必要である。

余命が短い可能性が高い場合には,しばしば症状の重症度によって初期治療および継続的治療が決定される。

臨死患者における疼痛

疼痛管理戦略が利用可能であるにもかかわらず,終末期にある患者のかなりの割合で,疼痛緩和が得られていない。臨死のがん患者では約50%に重度の疼痛がみられるが,確実に疼痛が緩和されているのは重度の疼痛を有する患者の約50%に過ぎない(1)。全国規模のコホート研究では,人生最後の週にあった患者の約25%で,オピオイドが処方されていたにもかかわらず,疼痛が緩和されていなかった(2)。臓器不全や認知症のある臨死状態の患者の多くにも,重度の疼痛がある。疼痛とその治療に使用されるオピオイドやその他の薬剤に対する誤解のために,家族や医師が,不十分な用量の鎮痛薬を使用し続けていることがある。医師は,慢性疼痛の徴候および症状(例,疲労感,抑うつ,活動しなくなる,諦め)は,急性疼痛の徴候および症状(例,叫ぶ,疼痛の場所を指し示す,興奮する,緩和を求める)とは全く異なるということを覚えておく必要がある。

他の要因(例,疲労感,不眠症,不安,抑うつ,悪心)が存在するか否かによっても,患者の疼痛の感じ方が異なる。鎮痛薬の選択は,主として疼痛の強度および原因に依存するが,これは患者との会話や観察によってのみ察知しうる。患者および医師は,適切な強度の薬剤を適切な用量で使用することにより全ての疼痛が緩和されることを認識する必要があるが,積極的な治療によって鎮静または錯乱が引き起こされることもある。一般的に使用される薬剤は,軽度の疼痛に対してはアスピリン,アセトアミノフェン,または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);中等度の疼痛に対してはオキシコドン;重度の疼痛に対してはヒドロモルフォン,モルヒネ,もしくはフェンタニルである(疼痛の治療を参照)。

オピオイド療法

臨死患者には,経口オピオイド療法が便利であり費用対効果が高い。舌下投与も,嚥下の必要性がないため,便利である。患者が安定した有効量を服用するようになれば,経皮パッチを使用することで,頻回の投与を必要とせずに着実な症状緩和が得られる。オピオイドは直腸内または注射(筋注,静注,もしくは皮下)でも投与できる。長く持続する疼痛には長時間作用型オピオイドが最適である。医師はオピオイドを十分な用量で継続的に処方し,突出痛の治療や予防および疼痛が伴うような動作が予想される場合(例,ドレッシングの交換,理学療法)には付加的な短時間作用型オピオイドが使用できるようにしておくべきである。

嗜癖に対して一般の人や医療専門職が抱く不安により,臨死患者においてオピオイドの適切な使用が不合理に制限されることがある。物質使用歴がある患者であっても,十分な疼痛緩和のためにオピオイド薬を処方すべきであるが,処方者は転用される可能性が低い製剤を使用し,処方された用量以外での使用の徴候に注意することで,乱用のリスクを制限することができる。転用を減らすための戦略としては,オピオイド(例,メサドンおよびブプレノルフィン)の選択,患者が必要とするよりも多くの錠剤を処方することの回避,および薬剤供給の注意深いモニタリングなどがある。薬理学的な依存症は常用によって起こり,意図しない離脱を避けるためには注意が必要とされる。ブプレノルフィンは,効果的で長時間作用型のオピオイドであり,メサドンと同様,他のオピオイドが引き起こす多幸感を回避できる鎮痛薬である。ブプレノルフィンの動態は,綿密なモニタリングを必要とするメサドンの動態よりも予測可能である。ペチジンは作用持続時間が短く,有害作用(例,痙攣発作)の発生率が高いため,慢性疼痛には推奨されない。Prescription Drug Monitoring Programやナロキソンのようなオピオイド拮抗薬など,処方オピオイドのリスクを軽減するための戦略は,通常,臨死患者には必要ではない。

オピオイドによる有害作用には,悪心,鎮静,錯乱,便秘,そう痒,および呼吸抑制などがある。オピオイド誘発性便秘は予防的に治療するべきである。患者には通常,オピオイドの呼吸抑制および鎮静作用に対してかなりの耐性が生じるが,鎮痛および便秘作用に対してはそれほど耐性を生じない。オピオイドはさらにミオクローヌス,過活動性のせん妄,痛覚過敏および痙攣を引き起こす場合がある。これらの神経毒性作用は有害な代謝物の蓄積に起因することがあり,通常は他のオピオイドへの変更により解消する。これらの有害作用および持続する疼痛を有する患者は,しばしば,緩和ケアまたは疼痛の専門医とのコンサルテーションが必要となる。

オピオイドの維持量では不十分になった場合は,それまでの用量の1.5~2倍(例,1日用量に基づいて計算される)まで増量するのが妥当である。重篤な呼吸抑制は通常,増量がそれまでの耐用量の2倍を超えたときのみに起こる。あるオピオイドから他のオピオイドへの変更または投与方法の変更により,有害作用が減少し,疼痛コントロールが改善する。有害症状が生じた場合には,オピオイドを「ローテーション」すべきである。他のオピオイドに切り替える場合は,モルヒネ換算が等鎮痛用量の決定に役立つ可能性がある(3)。

その他の補助療法

疼痛緩和に補助薬を使用することにより,しばしば快適さが増し,オピオイドの投与量およびその結果生じる有害作用のリスクが減少する。コルチコステロイドにより,炎症および腫脹の疼痛が軽減する。三環系抗うつ薬(例,ノルトリプチリン,ドキセピン)は,神経障害性疼痛の管理に役立つ;ドキセピンは就寝時の鎮静効果をもたらす。セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のデュロキセチンも神経障害性疼痛によく作用する。抗てんかん薬およびγ-アミノ酪酸(GABA)アナログであるガバペンチンは,神経障害性疼痛の緩和に役立つ。ケタミンは,疼痛治療における効果的な非オピオイド代替薬である。ベンゾジアゼピン系薬剤は,不安により疼痛が悪化する患者に対して有用である。

疼痛管理の経験を積んだ麻酔医または臨床医が行う局所神経ブロックは,限局性の重度の疼痛に対し,有害作用をほとんど引き起こすことなく緩和をもたらしうる。様々な神経ブロックの方法が用いられる。硬膜外または髄腔内の留置カテーテルは,鎮痛薬の持続注入に用いられ,投与はしばしば麻酔薬と混合して行われる。

疼痛修飾法(例,誘導イメージ法催眠療法鍼治療,ヨガ,リラクゼーションバイオフィードバックレイキ)は,一部の患者に有用である。ストレスおよび不安に対するカウンセリングは非常に有用である可能性があり,聖職者や宗教指導者による精神的な支援も同様である。芸術療法,音楽療法,およびアロマセラピーなどの他の治療法は,薬物療法を補完するものとなりうる。

終末期の患者は,疼痛,不眠症,興奮,抑うつの緩和など,様々な症状に対して大麻製品を用いる。緩和ケアにおける大麻製品の使用を支持するエビデンスは限られており,ほとんどが質の低いものであるが,これは使用される大麻製品,測定されるアウトカム,およびその他の方法論的問題の標準化が欠如していることが一因である(4)。症状緩和のために様々な形態の大麻のいずれかを試すことを合理的に選択する患者では,定期的にその効果を評価すべきである。低用量または間欠的な大麻の使用は,一般に他の薬剤との相互作用がほとんどない。しかし,カンナビジオール(CBD)には様々な薬物相互作用が報告されており(例,チトクロムP450を介するもの),この経路によって代謝される薬物の濃度を上昇させる(5)。このような状況では,熟練した臨床薬理学者からの助言が役立つことがある。

重篤な疾患に対処するため,主流の医療には含まれない治療法,例えばハーブ,薬剤の通常とは異なる使用法,皮膚および身体へのマニピュレーション,祈り,儀式などに頼る患者や家族は多い。患者および家族が,自らが実践している治療法を進んで説明できるように,臨床医は率直かつ肯定的態度でその治療法について話し合う必要がある。一部の治療法には,薬物間相互作用など,意図された従来の医療との実質的な相互作用があり,全体的なケア計画を作成する際にはこれらを考慮しなければならない。祈りなどの実践は医学的に無害であり,患者の全体的なウェルビーングに役立つと思われる場合は,従来の医療を継続しつつ奨励してもよい。患者が従来の医療による治療を中止することを選択した場合でも,医師は専門家としての関係を維持し,問題または質問が生じた場合に対応できるようにしておくべきである。

疼痛に関する参考文献

  1. 1.van den Beuken-van Everdingen MH, Hochstenbach LM, Joosten EA, Tjan-Heijnen VC, Janssen DJ: Update on Prevalence of Pain in Patients With Cancer: Systematic Review and Meta-Analysis. J Pain Symptom Manage.2016;51(6):1070-1090.e9.doi:10.1016/j.jpainsymman.2015.12.340

  2. 2.Klint Å, Bondesson E, Rasmussen BH, Fürst CJ, Schelin MEC: Dying With Unrelieved Pain-Prescription of Opioids Is Not Enough. J Pain Symptom Manage.2019;58(5):784-791.e1.doi:10.1016/j.jpainsymman.2019.07.006

  3. 3.Nielsen S, Degenhardt L, Hoban B, Gisev N: A synthesis of oral morphine equivalents (OME) for opioid utilisation studies. Pharmacoepidemiol Drug Saf.2016;25(6):733-737.doi:10.1002/pds.3945

  4. 4.Kogan M, Sexton M: Medical Cannabis: A New Old Tool for Palliative Care. J Altern Complement Med.2020;26(9):776-778.doi:10.1089/acm.2019.0184

  5. 5.Balachandran P, Elsohly M, Hill KP.Cannabidiol Interactions with Medications, Illicit Substances, and Alcohol: a Comprehensive Review. J Gen Intern Med.2021;36(7):2074-2084.doi:10.1007/s11606-020-06504-8

臨死患者における呼吸困難

呼吸困難は最も恐れられている症状の1つで,臨死患者に非常な恐怖心を抱かせる。呼吸困難の主な原因は心臓および肺の障害である。他の要因としては,重度の貧血のほか,胸壁または腹部の障害で呼吸時の疼痛を引き起こすもの(例,肋骨骨折)もしくは呼吸阻害を引き起こすもの(例,大量の腹水)などがある。代謝性アシドーシスは頻呼吸を引き起こすが,呼吸困難の感覚は通常生じない。不安(ときにせん妄または疼痛による)は,頻呼吸を引き起こすが,呼吸困難の感覚が伴う場合も,伴わない場合もある。

可逆的な原因は特異的に治療するべきである。例えば,緊張性気胸または胸水のドレナージを行うために胸腔ドレーンを留置することは,迅速で確実な緩和をもたらす。酸素投与は,ときに低酸素血症の是正につながる。噴霧用のサルブタモールならびに,経口または注射用のコルチコステロイドは気管支攣縮および気管支炎症を緩和しうる。ただし,死が切迫している場合または呼吸困難の原因に対して確実な治療法がない場合は,適切な対症療法を行えば原因にかかわらず楽になることを患者に伝えて安心させるべきである。死が予期されており,治療の目標として快適さに重点が置かれる場合,パルスオキシメトリー,動脈血ガス,心電図,および画像検査は適応とならない。臨床医は,体位を変える(例,上体を起こす),扇風機を使うか窓を開けて通風をよくする,ベッドサイドのリラクゼーション法を用いるなど,一般的な快適性重視の治療を用いるべきである。

臨終期における呼吸困難にはオピオイドが第1選択薬である。オピオイド使用歴のない患者では,低用量モルヒネを必要に応じて投与することが,息切れの低減に役立つ。モルヒネはCO2の蓄積またはO2の低下に対する延髄の応答を鈍化させることがあり,有害な呼吸抑制を生じることなく,呼吸困難を減弱させて,不安を減少させる。患者が疼痛に対してオピオイドを使用している場合は,新たに出現した呼吸困難を緩和する用量は,しばしば患者の通常量の2倍とする必要がある。ベンゾジアゼピン系薬剤は,呼吸困難やその再発の恐怖によって引き起こされる不安の解消にしばしば有用である。

酸素投与は,たとえ低酸素血症が持続していても,患者および家族に心理的な安らぎを与えうる。患者にとっては,通常,鼻カニューレによる酸素投与が望ましい。酸素マスクは臨死患者の激越を増すことがある。粘性の分泌物がみられる患者には生理食塩水のネブライザーが助けとなりうる。

「死前喘鳴」は,中咽頭および気管支内の分泌物貯留に空気の通過が組み合わさることで起きる大きな呼吸音で,死の数時間または数日前に起こることが多い。死前喘鳴は,臨死患者にとっては苦痛の原因ではないが,家族や介護者を不安にさせることがある。死前喘鳴を最小限に抑えるためには,介護者は患者の水分摂取量(例,経口,静注,経腸)を制限し,患者を横向きまたは半腹臥位にするのがよい。中咽頭の吸引では貯留した分泌物に到達できず,患者に苦痛を引き起こす可能性がある。気道うっ血は,スコポラミン,グリコピロニウム,またはアトロピンなどの抗コリン薬による管理が最善である。有害作用は主に反復投与により引き起こされ,具体的には霧視,鎮静,せん妄,動悸,幻覚,便秘,尿閉などがある。グリコピロニウムは,血液脳関門を通過しないため,他の抗コリン薬よりも神経毒性の有害作用が少ない。

臨死患者における食欲不振

臨死患者では食欲不振および著しい体重減少がよく認められる。家族にとって,患者が経口で食事を十分摂取できないことを受け入れるのは,その人の死を受け入れることを意味するため,しばしば困難である。患者には,可能であればいつでも,好きな食べ物を勧めるべきである。食物摂取が不足する原因であり容易に治療できる病態としては,胃炎,便秘,歯痛,口腔カンジダ症,疼痛および悪心などがある。一部の患者には経口コルチコステロイド(デキサメタゾンまたはプレドニゾン),メゲストロール,またはミルタザピンなどの食欲刺激薬が有益である。しかし,患者に死が迫っている場合には,患者の快適さを維持するためには食事も水分も不要であることを家族が理解できるよう手助けすべきである。

輸液および栄養サポート(例,静脈栄養,経管栄養)は臨死患者の余命を延長させず,苦痛を増加させ,場合によっては死を早める可能性がある。臨死患者における人工栄養の有害作用としては,肺うっ血,肺炎,浮腫および炎症に伴う疼痛などがある。これに対し,脱水および摂取カロリーの低下によるケトーシスは鎮痛作用および苦痛の消失に関連している。臨死での脱水に伴う苦痛として唯一報告されているものは口腔乾燥症であり,これは,口腔内の清拭または氷片で予防および緩和しうる。

衰弱し,悪液質状態にある患者は,食事なしで最低限の水分だけで数週間生存しうる。家族は,輸液の中止が直ちに患者の死を引き起こすものではなく,通常は死を早めないことを理解する必要がある。この時期には,患者の不快感を軽減するための支持療法(口腔衛生の改善など)が不可欠である(臨死患者または重度の認知症患者に対する栄養サポートも参照)。

自発的飲食中止(Voluntary stopping of eating and drinking:VSED)とは,飲食を中止することによって死を早めるという,判断能力を有する個人による意図的な決定である(1)。

食欲不振に関する参考文献

  1. 1.Wechkin H, Macauley R, Menzel PT, Reagan PL, Simmers N, Quill TE: Clinical Guidelines for Voluntarily Stopping Eating and Drinking (VSED). J Pain Symptom Manage.2023;66(5):e625-e631.doi:10.1016/j.jpainsymman.2023.06.016

臨死患者における悪心および嘔吐

多くの重篤患者が悪心を経験するが,嘔吐は伴わないことが多い。悪心は消化管疾患(例,便秘,胃炎),代謝異常(例,高カルシウム血症,尿毒症),薬物有害作用,脳腫瘍に続発する頭蓋内圧亢進,および心理社会的ストレスによって発生しうる。可能であれば,治療は可能性が高い原因に合わせるべきである(例,NSAIDの中止,プロトンポンプ阻害薬による胃炎の治療,脳転移が既知または疑われる患者に対するコルチコステロイドの処方など)。悪心が胃の膨隆や胃食道逆流により引き起こされる場合には,メトクロプラミドが有用である(幽門括約筋で弛緩させる一方で胃の緊張および収縮を高めるため)。

5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)3拮抗薬であるオンダンセトロンおよびグラニセトロンは,しばしば,悪心を劇的に軽減する。悪心の原因が特定されない患者には,プロクロルペラジンなどのフェノチアジン系薬剤による治療が有益となりうる。スコポラミンなどの抗コリン薬ならびに抗ヒスタミン薬のメクリジンおよびジフェンヒドラミンは,多くの患者において反復性の悪心を予防する。前述の薬剤を低用量で併用すれば,しばしば効力が高まる。難治性の悪心はハロペリドールに反応することがある。

腸閉塞による悪心および疼痛は,腹部の広範囲にわたるがんがある患者でよくみられる。一般に,輸液および経鼻胃管吸引は,有用性と比較してむしろ負担が大きい。患者は経鼻胃管吸引を受けるよりも,ときに嘔吐することを選ぶことがある。悪心,疼痛および腸攣縮の症状は,ヒヨスチアミン,スコポラミン,モルヒネ,もしくは上記の他の制吐薬のいずれかに反応する。オクトレオチドにより消化管分泌物が抑制され,悪心および疼痛を伴う腹部膨隆は劇的に低減される。オクトレオチドは制吐薬と併用した場合,通常,経鼻胃管吸引の必要性がなくなる。コルチコステロイド(デキサメタゾン)は腫瘍部位における閉塞性の炎症を抑制し,一時的に閉塞を軽減する。輸液は閉塞による浮腫を増悪させることがある。

臨死患者における便秘

臨死患者では,不活動,オピオイドおよび抗コリン作用を有する薬剤の使用に加え,水分および食物繊維の摂取減少により,便秘がよくみられる。規則的な排便は,生涯最期の1~2日前まで,臨死患者の安楽のために極めて重要である。腸機能のモニタリングは必須である。特にオピオイドの投与を受けている患者では,緩下薬で宿便を予防する。大半の患者は,効き目の穏やかな刺激性下剤(例,カサンスラノール,センナ)の1日2回投与で軽快する。刺激性下剤で痙攣性の苦痛が生じる場合には,ラクツロースまたはソルビトールのような浸透圧性下剤で患者に反応がみられることがある。いろいろな種類の適切な下剤が多く存在するものの,このような臨床状況で優位性が示されている下剤は存在しない (1)。

軟らかな宿便には,ビサコジル坐薬または生理食塩水の浣腸が行われることがある。硬い宿便には,鉱油浣腸を場合により経口ベンゾジアゼピン系薬剤(例,ロラゼパム)または鎮痛薬と併用して行った後,摘便を行う。宿便の解除後は再発を避けるため,排便に関してより積極的な管理を行うべきである。

便秘に関する参考文献

  1. 1.Candy B, Jones L, Larkin PJ, et al: Laxatives for the management of constipation in people receiving palliative care.Cochrane Database of Systematic Reviews, Issue 5.Art.No.: CD003448, 2015.doi: 10.1002/14651858.CD003448.pub4

臨死患者における褥瘡

臨死患者の多くは,不動,栄養不良,失禁,および悪液質の状態にあり,褥瘡のリスクが高い。予防には,2時間毎の患者の体重の移行による圧力の緩和が必要である;特製のマットレスまたは一定圧のエアサスペンションのベッドが助けとなることもある。失禁のある患者は,可能な限り乾燥を保つべきである。通常,尿道カテーテルには不便さと感染リスクが伴うため,ベッドのシーツ交換によって疼痛が生じる場合や,患者または家族が強く希望する場合に用いるのがよい。褥瘡に対するデブリドマンおよびその他の侵襲的治療が妥当となるのは,患者が数カ月間生存する可能性が高い場合のみである。それ以外の場合,大半の臨死患者において褥瘡が治癒または改善する可能性は低いため,侵襲的治療はしばしば煩わしく,有益ではない。

臨死患者におけるせん妄および錯乱

疾患の最終段階に伴う精神的変化は,患者および家族の双方に苦痛をもたらす;ただし,患者はそれに気づかないことが多い。せん妄はよくみられるが,繰返しの見当識確認,患者に安心感を与える思いやりのある人の存在,および向精神薬の使用の制限によってある程度は予防可能である(1)。せん妄の原因としては,薬物,睡眠不足,低酸素症,代謝障害および内因性の中枢神経系疾患などがある。原因を明らかにできれば,単純な治療を行うことで,患者が家族および友人とより意味のある会話を行えるようになる場合がある。例えば,睡眠不足は疼痛のコントロール不良が原因である可能性がある。衰弱した患者の錯乱は,睡眠不足により悪化するが,これは就寝習慣を患者の馴染みのあるものとし,部屋を暗くするなどして予防できる。

興奮した患者には, 患者に安心感を与える人の存在,祈り,マッサージ,および身体活動がしばしば有益である。抗精神病薬またはベンゾジアゼピン系薬剤も有用となりうるが,錯乱などの重大な有害作用を引き起こすことが多い。死が近づいており,混乱しているか落ち着いた幻覚状態にあるものの,苦痛はなく周囲の状況をあまり認識していないようであれば,治療を行わない方が良好に経過する場合もある。ときに患者が,亡くなって久しい人に会ったと報告したり,荷造りされたスーツケースなどの記憶を語ったりすることがあるが,これらは患者にとっては安心をもたらすものであっても,家族にとっては当惑させるものとなりうる。

家族および訪問者が頻繁に患者の手を握り,患者がどこにいるかを繰り返し伝え,何が起きているのかを説明することが,錯乱の軽減に役立つ場合がある。他の手段では効果がなく,重度の終末期の激越を示す患者はバルビツール酸系薬剤に最もよく反応しうる。ただし,これらの薬剤の使用後は,家族は患者との交わりが一貫しないものになる可能性があることを理解しておくべきである。考慮すべき薬剤としては,ペントバルビタール(速効性かつ短時間作用型バルビツール酸系薬剤)やフェノバルビタール(作用時間がより長い薬剤)などがある。

せん妄および錯乱に関する参考文献

  1. 1.Delirium: prevention, diagnosis and management in hospital and long-term care.London: National Institute for Health and Care Excellence (NICE); January 18, 2023.

臨死患者におけるフレイル,認知症,および神経筋疾患

フレイル,認知症,および神経筋疾患(例,進行したパーキンソン病)は,機能低下を伴う長期の経過をたどり,生存に関する予後は終始不明確である。家族が長年にわたり身の回りの世話を行うことが多く,患者は支援に対する感謝の気持ちを示すことができない場合がある。医療チームは介護者と協力して,患者の転倒,感染症,および危険な行動を防ぐとともに,家族や介護者に励ましと支援を提供しなければならない。一貫した対応,地域の支援サービスの認識とそれらへの橋渡し,および患者の慢性疾患に対する思慮深いケア計画が非常に有用である。感染症や脳卒中などの併発疾患により死が予測可能になることもあるが,患者は確実な身の回りの世話があれば,最小限の機能しか残っていない状態でも長期間生存できる。このような患者では,機能低下および死亡に関する問題を予測し,ケア計画を立てるべきである。

臨死患者における抑うつおよび自殺

臨死患者の大半が,ある程度の抑うつ症状を経験する。患者を心理面で支援し,心配事および感情を表現できるようにすることが,通常は最善の対処法である。熟練したソーシャルワーカー,医師,看護師,または聖職者は,このような問題に対処するうえで,助けとなりうる。

臨床的に有意な抑うつが続いており,抗うつ作用が現れ始める典型的な期間である2~4週間以上の生存が予想される患者では,抗うつ薬の試験的投与がしばしば適切である。不安および不眠症を伴う抑うつ患者では,鎮静作用のある三環系抗うつ薬の就寝時投与が有益となる可能性がある。引きこもりがちな患者や精神自律神経徴候がみられる患者には,メチルフェニデートの使用を開始してもよく,鎮痛薬と進行した病状のために疲労感や傾眠が生じている患者において,活力の向上が速やかに得られ,数日間から数週間持続する。メチルフェニデートは迅速な効果を有するが,激越を促進することがある。その作用持続時間は短いが,有害作用も短期間である。

重篤な内科的疾患は自殺傾向の重大な危険因子である。死に至るほど重篤な状態の患者では自殺の危険因子がよくみられ,具体的には高齢,男性,精神医学的併存症,重い経済的負担,末期HIV感染症(AIDS)の診断,不十分な疼痛管理などがある。がん患者における自殺発生率は一般集団のほぼ2倍であり,肺癌,胃癌,頭頸部がんの患者は全てのがん患者の中で最も自殺率が高い(1)。臨床医は重篤患者に対し,うつ病および自殺念慮や自殺計画がないかをルーチンにスクリーニングすべきである。患者と介護者の双方を守るため,医療チームは全ての臨死患者および家族に対してどのような銃器またはその他の武器を所有しているかを確認し,全ての武器の安全な保管(例,銃器は弾薬とは別に安全に保管する)を奨励すべきである。自傷行為の可能性が高いか,または自殺念慮を有する全ての患者は,精神科医が緊急に評価すべきである。

抑うつおよび自殺に関する参考文献

  1. 1.Kam D, Salib A, Gorgy G, et al: Incidence of Suicide in Patients With Head and Neck Cancer. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg.2015;141(12):1075-1081.doi:10.1001/jamaoto.2015.2480

臨死患者を取り巻くストレスおよび悲嘆

平穏に死を迎える人もいるが,より一般的には,患者や家族はストレスの多い時期を経験する。対人関係の摩擦によって患者や家族が最期の時を共有することができない場合,死は特に大きなストレスをもたらす。こうした摩擦は,残される者にとっては過剰な罪悪感や悲しむことができないという事態につながり,患者にとっては苦悩の原因となる。臨死状態にある身内のケアを在宅で行う家族は,身体的損傷(例,衰弱した患者の転倒を防ごうとすることによる),精神的ストレス,および苦痛を経験することがある。通常,患者および家族のストレスは,共感,情報,カウンセリング,およびときには短い精神療法で改善する。介護者の重荷を軽減するために,地域のサービスを利用できることがある。鎮静薬は控えめにかつ短期的に使用すべきである。

パートナーが死を迎えたとき,残された配偶者は,法的問題,経済的問題,または家庭の管理に関して決断を下さねばならないことに圧倒される場合がある。高齢の夫婦では,一方のパートナーの死により,その死亡した人がそれまで補っていた他方のパートナーの認知障害が顕性化することがある。臨床チームは,こうした高リスクの状況を同定すべきであり,それにより過度の苦悩および行き詰まりを防ぐために必要な手段を講じることができる。米国では,メディケアの資金援助を受けるホスピスプログラムにおいて,ホスピス患者の死亡後少なくとも1年間,その家族および友人に支援サービス(bereavement service)を提供することが義務づけられている。

悲嘆は,通常,予測される死の前に始まる正常な過程である。患者にとって,悲嘆はしばしば,自制の喪失,離別,苦しみ,不確実な未来および自己の消失などの恐怖によって生じる否認から始まる。喪失の後には順に,否認,怒り,取り引き,抑うつ,そして受容の段階があると以前は考えられていた。しかし,患者や残された人がたどる段階およびその順序は様々である。臨床チームのメンバーは,患者や家族の不安を聞き,人生の重要な要素をコントロールできることを理解させ,疾患がどのように悪化し,死がどのように訪れるかを説明し,身体症状が管理されることを保証することで,患者や家族が予後を受け入れるのを助けることができる。ときに,死後に対処する必要がある具体的な事項(例,どのように知らせて,どのような追悼式を行うか)について残される人と話し合うことが,現実的な対処を開始するのに役立つ。それでもなお,悲嘆が非常に重度であるか,または悲嘆が精神症もしくは希死念慮を引き起こす場合,または患者や家族に重度の精神疾患の既往がある場合には,専門医による評価およびグリーフ・カウンセリングに紹介することで,その人が対処するのに役立つことがある。

患者および家族のことを理解している臨床チームのメンバーであれば,この過程を経る上での助けとなり,必要に応じて専門家のサービスを受けられるように手配できる。医師およびその他の臨床チームメンバーは,悲嘆に暮れる家族に対するフォローアップを確実なものとするための定型的な手順を構築すべきである。

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