ポリオ

(小児麻痺;急性脊髄前角炎;急性灰白髄炎)

執筆者:Kevin Messacar, MD, PhD, University of Colorado Department of Pediatrics, Section of Infectious Diseases
Reviewed ByBrenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2024年 9月 | 修正済み 2024年 12月
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ポリオ(poliovirus poliomyelitis)は,ポリオウイルス(エンテロウイルスの一種)によって引き起こされ,急性弛緩性麻痺を来す急性の神経系感染症である。ポリオウイルス感染症の臨床像としては,非特異的な軽症疾患,ときに麻痺を伴わない無菌性髄膜炎,より頻度は低いが様々な筋群の弛緩性脱力(麻痺型ポリオ)などがある。急性弛緩性麻痺の診断は臨床的に行うが,疾患の原因としてポリオウイルス,ポリオウイルス以外のエンテロウイルス,その他のウイルスを確定するためには,臨床検査による診断が必要である。治療は支持療法による。

ポリオウイルスには3つの血清型がある。1型は最も麻痺を起こしやすく,流行の原因となることが最も多かった。

ヒトが唯一の自然宿主である。感染経路は糞口感染と頻度は低いが呼吸器感染であり,非常に伝播しやすい。無症候性感染と軽症感染症は,無菌性髄膜炎や麻痺型ポリオ(1%未満)よりも多くみられ,感染拡大の主な原因となっている。(エンテロウイルス感染症の概要も参照のこと。)

大規模予防接種の導入により,野生型ポリオウイルスを原因とする本疾患は世界的にほぼ根絶された。3つの野生型ポリオウイルスのうち2つ(2型および3型)が根絶されている。ポリオウイルス1型はパキスタンとアフガニスタンで依然として流行しており,2023年にはマラウイとモザンビークで症例が発生したことから,現在も根絶に向けた取組みが続けられている。対照的に,循環ワクチン由来ポリオウイルス,主にセービンワクチンの2型OPVに由来するものが,さらに31カ国(米国,英国,イスラエルなど)で報告されている。(Polio Eradication Initiativeも参照のこと。)

米国では,2022年7月にニューヨーク州においてワクチン未接種の感染者でワクチン由来の麻痺型ポリオが1例同定された(1)。下水サーベイランスによってニューヨーク州のいくつかの郡のサンプルでウイルスが検出され,局所的な伝播が示唆されたが,このアウトブレイク後に同定された症例はなかった(2)(New York State Department of Health: Wastewater Surveillanceも参照)。米国で野生型ポリオウイルスの感染例が最後に発生したのは1979年のことであった。

参考文献

  1. 1.Link-Gelles R, Lutterloh E, Schnabel Ruppert P, et al: Public Health Response to a Case of Paralytic Poliomyelitis in an Unvaccinated Person and Detection of Poliovirus in Wastewater - New York, June-August 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 71(33):1065-1068, 2022.Published 2022 Aug 19.doi:10.15585/mmwr.mm7133e2

  2. 2.Ryerson AB, Lang D, Alazawi MA, et al: Wastewater Testing and Detection of Poliovirus Type 2 Genetically Linked to Virus Isolated from a Paralytic Polio Case - New York, March 9-October 11, 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep.71(44):1418-1424, 2022.Published 2022 Nov 4.doi:10.15585/mmwr.mm7144e2

ポリオの病態生理

ポリオウイルスは便中および唾液中に排出され,糞口または呼吸器感染で伝播する。その後,中咽頭および下部消化管粘膜で複製され,頸部および腸間膜リンパ節に入る。続いて一次ウイルス血症(軽微)が起こり,網内系にウイルスが拡散する。この時点で感染が阻止される場合もあれば,ウイルスがさらに増殖して数日間にわたり二次ウイルス血症が続き,症状の出現と抗体の発現に至る場合もある。

麻痺型ポリオでは,ポリオウイルスが二次ウイルス血症と末梢神経を介した逆行性移動のいずれかによって,中枢神経系に侵入する。有意な損傷が起こるのは脊髄と脳幹で,特に運動および自律神経機能を制御する領域に発生する。炎症のため,一次的なウイルス侵襲による損傷が悪化する。重篤な神経損傷の素因として以下のものがある:

  • 高齢

  • 最近の扁桃摘出術または筋肉内注射

  • 妊娠

  • 液性免疫不全

  • 中枢神経系症状の発症と同時期の運動

ポリオウイルスは,潜伏期は咽頭および便中に存在し,発症後は咽頭には1~2週間,便には3~6週間以上存在し続ける。

パール&ピットフォール

  • 大半のポリオウイルス感染症は,中枢神経系を侵したり麻痺を起こすことはない。

ポリオの症状と徴候

ポリオウイルス感染の大半(70~75%)は無症状である(Centers for Disease Control and Prevention: Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases, Poliomyelitisを参照)。症状を呈する疾患は以下のように分類される:

  • 軽症感染症

  • 麻痺を伴わないポリオウイルスによる無菌性髄膜炎

  • 麻痺型ポリオ

軽症ポリオウイルス感染症

大半の症候性感染は軽微であり(特に幼児の場合),曝露の3~5日後に微熱,倦怠感,頭痛,咽頭痛,および嘔吐で発症して,1~3日持続する。神経症状はなく,発熱を除けば身体診察で著明な異常はみられない。

麻痺を伴わないポリオウイルスによる無菌性髄膜炎

ポリオウイルス感染症患者の約1~5%では,無菌性髄膜炎による非麻痺型の中枢神経系疾患が発生する(Centers for Disease Control and Prevention: Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases, Poliomyelitisを参照)。典型例では,軽症感染症に類似した数日間の前駆症状に続いて,項部および/または背部の硬直と頭痛がみられる。症候は2~10日間持続する。

麻痺型ポリオ

麻痺型ポリオの頻度はポリオウイルス感染症例全体の1%未満である。乳幼児では,軽微な症状が消失してから数日後に麻痺が起こる二相性の経過で顕在化することがある。潜伏期間は通常7~21日である。

麻痺型ポリオの一般的な臨床像としては,無菌性髄膜炎に加えて,深部の筋肉痛,知覚過敏,錯感覚などがあり,活動性の脊髄炎がある間は尿閉および筋攣縮もみられる。非対称性の弛緩性麻痺が発生し,2~3日以上続くことがある。

延髄障害の初発徴候は通常,嚥下困難および発声障害であるが,一部の患者には咽頭麻痺があり,口腔内分泌物をコントロールできない。骨格筋麻痺と同様に,延髄障害は2~3日以上かけて悪化する可能性があり,また一部の患者では,脳幹の呼吸中枢および循環中枢が侵され,呼吸障害に至る。まれに,横隔膜または肋間筋が侵されると呼吸不全が起こる。

一部の患者は麻痺型ポリオの数年または数十年後にポリオ後症候群を発症する。この症候群は筋疲労と筋持久力低下を特徴とし,しばしば筋力低下,線維束性収縮,および萎縮を伴う。

ポリオの診断

  • 脊髄および脳のMRI

  • 腰椎穿刺

  • ウイルス培養およびウイルス検査(便,咽頭,および髄液)

  • ポリオウイルス以外の他のエンテロウイルスおよびウエストナイルウイルスの検査

中枢神経系の症候がみられない場合,軽度の症状しかないポリオは他の全身性ウイルス感染症に類似するため,流行中でない限り,典型的には考慮されず,診断されない。

ポリオウイルスによる無菌性髄膜炎は他のウイルス性髄膜炎に類似する。そのような患者では通常,腰椎穿刺が行われ,典型的な髄液所見は糖正常,タンパク質の軽度上昇,および細胞数10~500/μL(リンパ球優位)である。咽頭拭い液,便,または髄液検体でウイルスを検出すれば,ポリオウイルスの感染を確定診断できる。

ワクチン未接種の小児または若年成人に,急性発熱エピソード中の非対称性の弛緩性麻痺または球麻痺を認め,感覚消失を伴わない場合,麻痺型ポリオの可能性がある。脊髄および脳のMRIにより,脊髄灰白質の脊髄炎や脳幹病変の存在を確定することができる。しかしながら,ポリオウイルス以外のエンテロウイルス(D68型,A71型など)とウエストナイルウイルスでも類似の所見がみられることがある。ギラン-バレー症候群は弛緩性麻痺を引き起こすが,通常は発熱を伴わず,以下がみられることから,鑑別可能である:

  • 対称性の筋力低下

  • 70%の患者で感覚障害

  • 通常,髄液タンパク質高値であるが,髄液細胞数は正常

疫学的な手がかり(例,予防接種歴,最近の旅行,年齢,季節)がポリオウイルスの感染に対する疑いを高めるのに役立つ可能性がある。急性弛緩性麻痺の原因としてポリオウイルスやその他のエンテロウイルスを同定することは公衆衛生上の理由から重要であるため,疑い例の段階で地域または州の保健局に直ちに報告して,診断検査のための支援を得るべきである。上咽頭および中咽頭拭い液検体と血液および髄液検体を採取すべきである。ポリオウイルスの有無を評価するために,便検体を24時間以上の間隔を空けて2セット採取すべきである。公衆衛生当局の協力の下で,ポリオウイルス,その他のエンテロウイルス,およびウエストナイルウイルスに対する特異的検査をこれらの検体で行うべきである。

ポリオの治療

  • 支持療法

ポリオの標準治療は支持療法であり,具体的には安静,鎮痛薬,必要に応じた解熱薬投与などを行う。特異的な抗ウイルス療法はない。

活動性の脊髄炎がある間は,床上安静による合併症(例,深部静脈血栓症,無気肺,尿路感染症)や長期の不動状態による合併症(例,拘縮)を回避するための予防策を要することがある。呼吸不全には機械的人工換気を要することがある。機械的人工換気をしている患者と球麻痺のある患者には,集中的な呼吸療法が必要である。

ポリオウイルス感染症の予後

麻痺を伴わない無菌性髄膜炎は,完全に回復する。

麻痺型ポリオでは,約3分の2の患者で筋力低下が永久に残る。球麻痺は末梢性の麻痺より消失する可能性が高い。死亡率は小児で2~5%,青年および成人で最大15~30%と報告されており,球障害のある患者では25~75%にも及ぶ(1)。死亡率は支持療法の進歩に伴い改善している(2)。

予後に関する参考文献

  1. 1.Centers for Disease Control and Prevention: Epidemiology and Preventionof Vaccine-P reventable Diseases.Hall E., Wodi A.P., Hamborsky J., et al., eds: 14th ed.Washington, D.C.Public Health Foundation, 2021.

  2. 2.Murphy OC, Messacar K, Benson L, et al: Acute flaccid myelitis: cause, diagnosis, and management. Lancet.2021;397(10271):334-346.doi:10.1016/S0140-6736(20)32723-9

ポリオの予防

全ての乳児および小児はポリオウイルスワクチンによる予防接種を受けるべきである。American Academy of Pediatricsは,生後2カ月,4カ月,および6~18カ月時点での不活化ポリオウイルスワクチン(IPV)(ソークワクチン)の接種と4~6歳時点での追加接種を推奨している(Centers for Disease Control and Prevention: Routine Polio Vaccinationを参照)。小児予防接種により,95%を超える接種者が免疫を獲得する。

米国では,IPV(ソークワクチン)の方が弱毒経口生ポリオワクチン(OPV)(セービンワクチン)より望ましい。OPVに含まれる弱毒化ウイルスは,接種を受けた人の腸管内で複製され,一過性に便中に排泄されるため,他者に糞口感染で伝播する可能性があり,ワクチン接種を直接受けていない人も免疫を獲得することがある。ただし,このようにウイルスが複数の個人を経由して伝播すると,ワクチンウイルスが変異して,極めてまれに麻痺型ポリオを引き起こす株(ワクチン由来のポリオウイルス)に変化する可能性があり,OPV接種2,400,000ドーズ当たり1例の頻度で麻痺型ポリオが発生する。それらの変異は通常,ワクチンのポリオウイルス2型の成分で発生する。このため,米国ではOPVはもはや利用できなくなっている。また,野生型ポリオウイルス2型が公式に根絶されたにもかかわらず,遺伝的に多様な循環ワクチン由来ウイルスに起因するアウトブレイクが発生したことを受けて,2016年にはポリオウイルス2型がOPVから除外された。IPVに伴う重篤な有害作用は報告されていない。

米国で循環ワクチン由来ポリオウイルス2型が検出されたことを受けて,Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)は2023年に成人向けポリオウイルス予防接種に関する勧告を更新した(1)。予防接種を完了していない成人には,IPVの一次接種を行うべきであり,4~8週間の間隔を空けて2回の投与を行い,その6~12カ月後に3回目の投与を行う。予防接種を受けた成人にうち,ポリオが風土病として存在するか流行している地域への旅行者など,ポリオウイルスへの曝露リスクが高い人には,高用量のIPVを1回追加接種することで生涯にわたる効果が得られる。易感染性患者とその家庭内接触者にはOPVを接種すべきではない。

予防に関する参考文献

  1. 1.Kidd S, Clark T, Routh J, Cineas S, Bahta L, Brooks O.Use of Inactivated Polio Vaccine Among U.S. Adults: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices - United States, 2023. MMWR Morb Mortal Wkly Rep.2023;72(49):1327-1330.Published 2023 Dec 8.doi:10.15585/mmwr.mm7249a3

要点

  • 大半のポリオウイルス感染症は,無症状に経過するか,症候があっても非特異的な軽症例となるか,麻痺を伴わない無菌性髄膜炎を呈し,古典的な症候群である弛緩性脱力(麻痺型ポリオ)がみられる患者は1%未満である。

  • 予防接種を受けていない小児または若年成人において,急性熱性疾患の経過中に感覚消失を伴わない非対称性の弛緩性四肢麻痺または球麻痺がみられた場合は,麻痺型ポリオを意味している可能性がある。

  • ポリオウイルスが疑われる症例について,地域および州の保健局に直ちに報告すべきである。保健局と連携して,検査のために中咽頭および上咽頭拭い液,ならびに便(24時間の間隔を空けた2つの検体),血液,および髄液検体を採取すべきである。

  • 麻痺型ポリオでは,約3分の2の患者で筋力低下が永久に残る。

  • 全ての乳児および小児が予防接種を受けるべきである。予防接種を完了していない成人には,ワクチン接種を行うべきである。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Polio Eradication Initiative: Information about The Global Polio Eradication Initiative, which intends to eradicate polio worldwide through a public-private partnership

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