転子部滑液包の注射

執筆者:Alexandra Villa-Forte, MD, MPH, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2020年 10月
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転子部滑液包注射療法は,大転子痛症候群の治療に役立てるため,滑液包を針で穿刺し,麻酔薬(ときにコルチコステロイドを添加)を注入する処置である。

単独の転子部滑液包炎はまれにしか発生しないと現在では考えられており,股関節外側痛は大転子痛症候群と呼ばれることの方が多く,これはほとんどの場合,中殿筋および小殿筋の腱障害に起因し,ときに関連する滑液包炎を伴う。しかしながら,注射療法(圧痛の最も強い点を狙う)は両疾患で同様である。

深部の滑液包(転子部,肩峰下,または鵞足包)は,骨とその上の腱との間にある。深部の滑液包の滑液包炎は,目に見える腫脹または発赤を呈することはまれである。

滑液包炎も参照のこと。)

適応

  • 炎症を治療するためのコルチコステロイド注射

化膿性でない転子部滑液包炎および大転子痛症候群の症状は,安静,非ステロイド系抗炎症薬,および運動療法により効果的に治療される。しかしながら,保存的治療にもかかわらず転子部滑液包炎が持続する場合は,滑液包注射により迅速な軽快が得られる。

化膿性または結晶誘発性の滑液包炎を診断するには滑液の分析が必要である。

禁忌

絶対的禁忌

  • 関節上に位置する蜂窩織炎または皮膚潰瘍,菌血症,隣接する人工関節

  • 注射する物質に対する過敏症

  • コルチコステロイド注射に対して,化膿性滑液包炎の疑い

相対的禁忌

  • 認識されていない腱損傷:コルチコステロイド注射による鎮痛が正確な診断を遅らせる可能性がある。

  • コントロール不良の糖尿病:コルチコステロイドの便益と血糖コントロール悪化のリスクを比較検討する。

  • 同じ部位へのコルチコステロイド注射の既往:多くの専門家は,注射と注射の間は3~4カ月間待機し,生涯で計4回の注射を超えないよう推奨している。

凝固障害は禁忌ではない(1)。

合併症

合併症はまれであるが,以下のものがある:

  • 不注意によるコルチコステロイド皮下注射に起因する,皮下脂肪の萎縮,皮膚の萎縮および瘻孔,ならびに一時的な皮膚の色素脱失

  • コルチコステロイドのデポ剤の注射から数時間以内に痛みを伴う局所反応(ときにsteroid flareと呼ばれる)が生じ,通常の持続時間は48時間以内となる(おそらく注射の基剤中の結晶による刺激)

  • 感染症

  • 糖尿病患者では,コルチコステロイドのデポ剤の注射後数週間持続する高血糖

器具

  • 消毒液(例,クロルヘキシジン,ポビドンヨード,イソプロピルアルコール)

  • 滅菌ドレープ

  • 滅菌ガーゼ,滅菌手袋,滅菌絆創膏

  • 刺入部の麻酔(例,外用の冷却スプレーまたはアドレナリン無添加の注射用1%リドカイン)

  • 治療目的の注射では,10mLシリンジにアドレナリン無添加1%リドカイン約3~10mL,コルチコステロイドのデポ剤(注射剤)(例,酢酸トリアムシノロン,40mg)を添加

  • 止血鉗子

  • 2インチ針,22~25G

  • 3mLシリンジ数本

助手がいると役に立つ。

その他の留意事項

  • 滑液包注射療法では,局所麻酔薬とコルチコステロイドのデポ剤を1本のシリンジ内で混合することが多い(麻酔薬によりコルチコステロイドの痛みが消失する)。

  • 病歴または身体診察から化膿性滑液包炎の可能性が示唆される場合は,コルチコステロイド注射は控える。

  • 局所麻酔薬の注射後直ちに鎮痛が得られれば,針が正しい位置に挿入されたこと,および大転子痛症候群が痛みの発生源であることを確認するのに役立つ。

関連する解剖

  • 大転子またはその付近の圧痛が特徴的であるが,転子部滑液包は通常痛みの発生源ではない。

  • よく侵される転子部滑液包は,大殿筋下滑液包(多房性で,大転子と大殿筋腱との間にある)ならびに,大転子と中殿筋腱との間,および小殿筋腱との間にある滑液包である。

  • 触診により誘発される痛みを利用して刺入部を決定する。

体位

  • 健側を下にした側臥位をとらせ,患側の下肢を軽く屈曲させ内転させて,外側の筋肉を大転子から離れる方向へ動かす。

  • 血管迷走神経発作を回避するため,処置を行う場所が患者に見えないように,患者の頭部を回転させる。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

この処置は無菌操作で行う。

処置部位の準備

  • 皮膚に刺入部の印をつける。

  • 消毒液で刺入部の準備を行う。

  • 滅菌ドレープをかける。

  • 刺入部が蒼白になるまで冷却スプレーを噴霧するか,皮膚に局所麻酔薬(例,1mL以下)を注入して膨疹を作るか,その両方を行う。

滑液包の注射

  • 滅菌手袋を着用する。

  • 最も圧痛の強い点で,大転子へ向けて皮膚に垂直に針を刺入する。プランジャーを愛護的に引きながら進めていき,血管内への刺入の可能性を排除する。

    針先が大転子に触れた場合は,針を約1mm引き戻す。

  • ゆっくりと麻酔薬/コルチコステロイドの混合液を全て注入し,針を抜去する。

    注入に抵抗を感じる場合は,針先が上の腱の中にある可能性がある。注入を中止し,注入しても抵抗を感じなくなるまで,針を進めるか引き抜く。

  • 適切な位置に麻酔薬を注入すると,痛みが直ちに軽減する。

  • 絆創膏または滅菌ドレッシング材を貼付する。

アフターケア

  • 痛みが治まるまで,股関節の運動制限(例,階段,長時間の歩行),氷冷,および経口非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を処方する。

  • 患者に対して,痛みが数時間後に継続的かつ進行性に増強する場合,または48時間を超えて持続する場合は,感染症を除外する再評価のために再受診するよう指示する。

  • 相対的固定は,コルチコステロイドの隣接組織内への拡散を最小限に抑え,その治療効果を最大化するのに役立つ。

注意点とよくあるエラー

  • 腱の損傷を避けるため,抵抗に逆らってコルチコステロイドを注入してはならない。

アドバイスとこつ

  • 腱の穿刺を回避しやすくするため,太い針(20G)の使用を考慮する(太い針は細い針よりも腱に接触した際に受ける抵抗が大きい)。

参考文献

  1. 1.Yui JC, Preskill C, Greenlund LS: Arthrocentesis and joint injection in patients receiving direct oral anticoagulants.Mayo Clin Proc 92(8):1223–1226, 2017. doi: 10.1016/j.mayocp.2017.04.007

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