敗血症は、菌血症や別の感染症に対する重篤な全身反応が起こり、体内の必須器官系の機能障害や不全が生じる病気です。敗血症性ショックは、敗血症によって生命を脅かすレベルの低血圧(ショック)と臓器不全が生じた状態のことです。
通常、敗血症は特定の細菌感染症にかかることがきっかけで発症します(院内感染の場合もあります)。
特定の病気(免疫機能の低下など)、特定の慢性疾患、人工関節や人工心臓弁、特定の心臓弁異常がある場合、敗血症を発症するリスクが高まります。
まず、体温の上昇(または体温の低下)がみられ、ときにふるえを伴う悪寒や脱力もみられます。
敗血症が悪化すると、心拍と呼吸が速くなり、錯乱を来し、血圧も低下します。
医師は症状に基づいて敗血症を疑い、血液や尿あるいは他のサンプル中の細菌を確認することによって診断を確定します。
抗菌薬を速やかに投与し、続けて酸素吸入と静脈からの輸液を行います。血圧を上げるための昇圧薬を投与することもあります。
(菌血症、敗血症、敗血症性ショックの概説も参照)
通常、感染に対する身体の反応は感染部位に限定されます。例えば、尿路感染症の症状の多くは膀胱に限定されます。しかし、敗血症では感染に対する反応が全身で起こります(全身性反応と呼ばれる)。
この反応では、典型的には異常な体温上昇(発熱)または体温低下(低体温症)に加えて、以下のような症状がみられます。
心拍数の増加
呼吸数の増加
他の多くの感染症の場合も同様の症状が全身に現れますが、敗血症では次第に臓器の機能不全が起こり、部位によっては血流が十分に行き届かなくなります。
敗血症性ショックは、敗血症によって起こる危険なレベルの低血圧(ショック)のことです。その結果、肺、腎臓、心臓、脳などの臓器に充分な血液が供給されず、機能不全に陥ります。静脈への輸液による集中的な治療にかかわらず血圧が低いままであれば、敗血症性ショックと診断されます。敗血症性ショックは生命に関わる状態です。
敗血症および敗血症性ショックの原因
細菌が産生する毒素によって、体の中の細胞が炎症を誘発する物質(サイトカイン)を放出すると、敗血症が起こります。サイトカインには免疫系が感染に対処するのを助ける働きがありますが、これによって以下のような有害な影響が出ることがあります。
サイトカインによって血管が拡張し、血圧が低下する
サイトカインによって臓器内部の毛細血管の血液が凝固する
多くの場合、敗血症は特定の種類の細菌による感染症が原因で起こります。まれに、カンジダなどの真菌が敗血症を引き起こすこともあります。敗血症につながる感染は主に、肺、腹部、もしくは尿路で起こります。ほとんどの場合、これらの感染が敗血症につながることはありません。しかし細菌が血流に入ると(この状態を菌血症と呼びます)、敗血症になる可能性があります。ときに、皮膚膿瘍から細菌に感染することがあります。毒素性ショック症候群のように、血流に入った細菌(菌血症)ではなく、細菌によって産生される毒素が敗血症の引き金となることもあります。
敗血症および敗血症性ショックの合併症
血圧の低下と血液の凝固による小さな血栓は、以下のような一連の有害な合併症を引き起こします。
生命維持にかかわる臓器(腎臓、肺、心臓、脳など)への血流量が減少します。
これに対処するために心臓の活動が激しくなり、心拍数と送り出される血液の量が増加します。細菌毒素と心臓への負荷により、やがて心臓が弱ります。その結果、心臓から送り出される血液の量が減少し、生命維持にかかわる臓器への血液供給がさらに低下します。
十分な血液が供給されなくなると、組織は乳酸(老廃物)を過剰に血流に放出するため、血液の酸性度が高まります(アシドーシス)。
こうした一連の作用によって、以下のように臓器の機能不全が悪化していく悪循環がもたらされます。
腎臓から尿がほとんどまたはまったく排出されなくなり、体内の化学的な過程で生じた老廃物(尿素窒素など)が血液中に蓄積する
血管壁から体液が組織内に漏れやすくなり、浮腫が起こる
肺の血管から体液がしみ出して蓄積し、呼吸が困難になり、肺機能が悪化する
微小な血液のかたまり(血栓)が形成され続け、その結果、かたまりをつくる血液中のタンパク質(凝固因子)が使い果たされてしまい、過度の出血(播種性血管内凝固症候群)が起こることがあります。
敗血症および敗血症性ショックの危険因子
重篤な感染症に対する抵抗力が低下している場合には、敗血症のリスクが高まります。具体的には以下の通りです。
新生児(新生児の敗血症を参照)
高齢者
妊娠している
免疫機能を抑制する薬剤(化学療法薬やコルチコステロイド薬)を使用しているか、または特定の疾患(がん、HIV感染症や免疫系の疾患)によって免疫力が低下している
最近、抗菌薬またはコルチコステロイドによる治療を受けた
最近、入院していた(特に集中治療室への入院)
血流に細菌が混入しやすい患者においてもリスクは高まります。たとえば、静脈や尿路にカテーテルを挿入していたり、ドレナージ管や気管内チューブを使用していたりするなど、医療器具を体内に挿入しているケースが該当します。挿入されている医療器具によって、細菌が体内に入り込んでしまう場合があります。細菌がこうした器具の表面に蓄積することで、感染や敗血症が起こりやすくなります。器具が留置される時間が長くなるほど、リスクは高まります。
他にも以下のような場合に敗血症のリスクが高まります。
注射による違法薬物の注入:使用される薬や針が無菌であることはまれです。毎回の注射で程度の差はあれ、菌血症が生じる可能性があります。このような薬物を使用している場合には、免疫力を低下させる疾患(HIV感染症など)にかかるリスクも増大します。
人工関節や人工心臓弁の使用、あるいは特定の心臓弁の異常がある場合:これらの部位に細菌が滞留して蓄積しやすい傾向があります。その結果、これらの細菌は連続的あるいは周期的に血流に入り込みます。
抗菌薬による治療にもかかわらず感染が持続している場合:感染症や敗血症を引き起こす細菌の中には、抗菌薬に耐性をもつものもあります。このような耐性菌は、抗菌薬で完全に死滅させることはできません。抗菌薬を使用しても感染が持続する場合は、抗菌薬に耐性をもつ細菌による感染である可能性が高く、これによって敗血症が引き起こされることがあります。
敗血症および敗血症性ショックの症状
ほとんどの場合、発熱がみられますが、体温の低下がみられる場合もあります。ふるえを伴う悪寒と脱力を感じることもあります。初期感染の種類や部位によっては、その他の症状がみられることもあります(肺炎の人では、せき、胸部不快感、呼吸困難などがみられることがあります)。呼吸、心拍、もしくはその両方が速くなることがあります。
敗血症が悪化すると、錯乱を来し、覚醒レベルが低下します。皮膚は熱を持ち、潮紅します。脈拍が速くなり、動悸が起こって、呼吸が速くなります。尿の回数と量が少なくなり、血圧が低下します。その後、多くの場合、体温が正常値以下に低下し、呼吸が非常に困難になります。血流減少のため、皮膚が冷たくなり、斑点ができたり青くなったりします。血流減少によって生命維持にかかわる臓器(腸など)を含む組織が壊死し、その結果壊疽(えそ)が起こります。
敗血症性ショックが起これば、治療にもかかわらず血圧が低下します。敗血症性ショックは死に至る可能性のある状態です。
敗血症および敗血症性ショックの診断
血液サンプルの培養検査
感染巣を特定する検査(通常は、胸部X線検査とその他の画像検査、体液または組織サンプルの培養)
感染症にかかっている患者に、突然高熱がでたり体温が低下したりする、心拍や呼吸が速くなる、血圧が低下するなどの症状がみられる場合には、通常敗血症が疑われます。
診断を確定するために、血流に細菌が存在するかどうか(菌血症)、敗血症を引き起こしている可能性のある別の感染症の徴候があるかどうか、血液サンプル中の白血球数に異常がみられるかどうかを調べます。
血液のサンプルを採取し、検査室で細菌の培養を試みますが、培養には1~3日かかります。しかし、最初の感染時に抗菌薬が使用されていた場合には、細菌が存在しても培養で増殖しない可能性があります。カテーテルを使用している場合には、体内から取り出して先端部を切り取り、それを培養に用いることもあります。血液に触れていたカテーテルに細菌が確認された場合には、血流にも細菌が存在していると考えられます。
敗血症を引き起こしている可能性のある別の感染症の徴候を調べる場合には、尿、脳脊髄液、傷の組織、たん(肺から排出)などの体液や組織のサンプルを採取します。これらのサンプルを培養し、細菌の有無を調べます。
感染巣を調べるため、胸部X線検査とその他の画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査など)を行うこともあります。
臓器の機能不全の徴候や、敗血症の合併症が他にないかを調べるための検査も行われます。これらの検査には以下のようなものがあります。
血液検査を実施し、乳酸や他の老廃物の量、血小板(血液凝固を助ける細胞)の数を調べます。乳酸などの老廃物は増加し、血小板数は減少している可能性があります。
血液検査または指にセンサーを付けて(パルスオキシメーター)酸素濃度を測定し、肺と血管がどれぐらい機能しているかを調べます。
心電図検査(ECG)を実施し、心拍に異常がみられないかを調べ、心臓に血液が十分に供給されているかどうかを確認します。
ショックが敗血症によるものであるか、それとも別の問題が原因なのかを確認するために、他の検査も実施されます。
敗血症および敗血症性ショックの治療
抗菌薬
輸液
酸素
感染巣の除去
ときに、血圧を上昇させる薬剤
敗血症と敗血症性ショックは、直ちに抗菌薬で治療します。この治療は、診断を確認するために検査結果を待つことなく開始します。それは抗菌薬による治療が遅れると生存の可能性が大幅に低下するからです。治療は病院内で行います。
敗血症性ショックを発症した、または重症患者は直ちに集中治療室での治療を開始します。
抗菌薬
輸液
敗血症性ショックの患者には、血液中の水分量を増やして血圧を上げるために、大量の輸液が静脈から投与されます。水分の量が少なすぎると効果が得られず、多すぎると重度の肺うっ血(肺内の液体の貯留)を引き起こすことがあります。
酸素
酸素はマスク、鼻カニューレ、または挿入されている場合は呼吸(気管内)チューブを通して供給されます。必要であれば、人工呼吸器(空気が肺に出入りするのを助ける機械)を使用して呼吸を補助します。
感染巣の除去
膿瘍がある場合、排膿します。感染を引き起こした可能性のあるカテーテル、チューブ、またはその他の医療機器は除去するか、交換します。感染した組織や壊死した組織を取り除く手術を行うこともあります。
その他の治療
静脈輸液で血圧が上昇しない場合は、血管を狭くする薬(ノルエピネフリンなど)を投与することがあります。これらの薬は血圧を上昇させ、脳、心臓、その他の臓器への血流を増加させます。しかし、これらの薬は臓器内の血管を狭めるため、臓器を通る血流量を減らすことがあります。
敗血症性ショックでは、血糖値(グルコース値)が高くなることがあります。血糖価が高くなると、感染に対する免疫系の反応が低下するため、医師はインスリンを静脈投与して血中のグルコース量を低下させます。
血圧を上昇させるための適切な輸液と薬剤の投与と感染巣を取り除く処置を受けても低血圧が改善しない患者には、コルチコステロイド(ヒドロコルチゾンなど)が静脈投与されることがあります。
敗血症および敗血症性ショックの予後(経過の見通し)
敗血症性ショックは、治療を施さないとほとんどの患者が死亡します。たとえ治療を行っても、死亡のリスクが大いにあります。平均して、約30~40%の患者が死亡します。しかし、死亡のリスクはどれほど早く治療を受けられたか、原因となった細菌の種類(特に病原菌が抗菌薬に対する耐性を持つかどうか)、患者に基礎疾患があるかどうかといった様々な要因によって大きく異なります。



