慢性外傷性脳症とは、複数回の頭部外傷に起因して進行性の脳細胞の変性が起きる病気で、典型的には運動選手にみられますが、爆発にさらされたことのある兵士に発生することもあります。
パンチドランカーとは、1920年代に発見されたボクサーの病気ですが、より最近使い始められた用語である慢性外傷性脳症と同じものを指すと考えられています。慢性外傷性脳症は、頭部に繰り返しけが(脳しんとうなど)を負ったアメリカンフットボールなどの運動選手が引退した後に発生することがあります。また、戦闘中に爆発による頭部外傷(爆傷)を負った兵士にも発生することがあります。
頭部外傷を何度も受けた人の中でもなぜ特定の人だけが慢性外傷性脳症を発症するのか、どの程度の回数や強さによる打撃を受けると発症するのかはまだよく分かっていません。
慢性外傷性脳症の症状
慢性外傷性脳症の患者には最初、以下のうち1つ以上の変化がみられます。
気分の変化: 抑うつ、いらだち、絶望感を覚え、自殺念慮を抱くこともあります。
行動の変化: 衝動的または攻撃的に振る舞い、かんしゃくを起こしやすくなります。
精神機能の変化: 忘れっぽくなり、計画や準備が苦手になり、錯乱しやすくなります。認知症を発症することもあります。
筋肉の異常: 動きが遅くなり、動きが協調せず、声を出すことが物理的に難しくなります(構音障害)。
症状は年をとってからでないと現れないこともあり、ときに60代になって初めて現れることもあります。あるいは、気分や行動面の変化は若年成人期(例えば30代)に現れ、精神機能障害は後から現れるといったこともあります。
慢性外傷性脳症の診断
医師による評価
医師は、以下のような患者がいれば慢性外傷性脳症を疑います。
頭部外傷を数回経験している
典型的な症状がある
ほかに症状をうまく説明できる病気がない
典型的には脳の画像検査(通常はMRI検査)を行い、類似の症状の原因となりうる他の病気がないか確認します。しかしながら、画像検査を含め、慢性外傷性脳症の診断を確定できる検査はありません。
慢性外傷性脳症の診断は、死後解剖で採取された脳組織のサンプルを顕微鏡で観察しないと確定できません。
慢性外傷性脳症の治療
安全対策と患者の支援
カウンセリング
症状を軽減する薬剤
慢性外傷性脳症の特別な治療法はありません。他の認知症と同様、安全対策と患者の支援が役立つ可能性があります。
安全対策と患者の支援
認知症が発生した場合、安全かつ支持的な環境を整えることが非常に役立ちます。
一般に、明るく楽しげで、落ち着いた安全な環境が望ましく、また見当識を保つ工夫をするとよいでしょう。ラジオやテレビなどの適度な刺激も有用ですが、過度の刺激は避けるべきです。
物の配置や日課を定めることは、認知症患者が見当識を保つのに役立ち、安心感や安定感を与えます。周囲の環境や日課が変わる場合や、介護者が交代する場合は、明確かつ簡潔に説明します。
入浴、食事、睡眠など日常生活のスケジュールを一定に保つことは、認知症患者の記憶の助けになります。就寝前の手順を一定に保つと、睡眠の質を改善できる可能性があります。
その他の活動を定期的なスケジュールで組み込むと、楽しい活動や生産的な行為に注意が向き、自立して他者から必要とされているという感覚をもつのに役立ちます。こういった活動には身体的活動と精神的活動を両方含めるべきです。認知症が悪化してきた場合には、活動を細かく分けたり単純化したりする必要があります。
その他の治療
慢性外傷性脳症の患者は、気分の変化に対処するために、心理カウンセリングを受けることが有益です。抗うつ薬や気分安定薬が役立つこともあり、自殺念慮のコントロールには特に有用です。
慢性外傷性脳症のリスクを減らすため、脳しんとうを起こした人には、安静にし、一定期間は運動その他の特定の活動に従事しないように忠告します。スポーツ活動への復帰は、医療従事者による監督下で段階的に進めるべきです。
介護する人へのケア
認知症患者の介護は多くのストレスがかかる重労働であり、介護者は自分自身の精神的・肉体的健康に無頓着になりがちで、抑うつ状態になったり疲弊困憊したりすることがあります。以下のような対策が介護者の助けになります(表「」を参照)。
認知症患者のニーズを効果的に満たす方法を学び、認知症患者に何が期待できるかを知る: 介護者は、このような情報を、看護師、ソーシャルワーカー、関係団体、雑誌やインターネットから得ることができます。
必要な場合は支援を求める: 介護者は、ソーシャルワーカー(地域病院にいる人を含みます)に相談し、デイケアプログラム、訪問看護、パートまたはフルタイムのホームヘルパー、住み込みでの介護サービスなどの適切な支援について検討することもできます。カウンセリングや、支援グループに相談することも有用です。
介護者自身に対するケア: 介護者は自分自身にも気を配る必要があります。友人との交流、趣味、種々の活動を諦めてはいけません。
終末期の問題
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こうした情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いかねることをご了承ください。
ボストン大学CTEセンター(Boston University Chronic Traumatic Encephalopathy Research Center):CTEおよびその他の反復性脳外傷の長期的影響に関する研究を実施し、診断および治療に関する一般的な質問に答え、認知症患者とその介護者のためのリソースを提供



