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手術

執筆者:

Paul K. Mohabir

, MD, Stanford University School of Medicine

最終査読/改訂年月 2018年 3月
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手術とは、従来、病気、けが、または変形を治療するために組織を手作業で切開または縫合する処置(外科的処置)を指すのに用いられてきた言葉です。しかし外科技術の進歩により、この定義はより複雑になっています。組織を切るのにメスではなくレーザー、放射線、またはその他の技術が用いられることもあれば、縫合せずに傷口を閉じることもあります。

現代医療において、外科的処置と内科的処置(通常は組織の切開や縫合を伴わない処置とみなされています)とを区別することは必ずしも容易ではありません。しかし、重要なのは処置に当たる医師が十分な訓練および経験を積んでいることであって、厳密な区別はそれほど問題になりません。

手術には様々な種類があり、多様な技術が使われます。膿瘍や腫瘍などの組織を切除する手術もあれば、閉塞している部位を開通させる手術もあります。さらに、動脈や静脈を新たな位置でつなぎかえ、血液が十分に届かなかった部位への血流を回復させる手術もあります。

移植と呼ばれる外科的処置では、皮膚、腎臓、または肝臓などの臓器をある人の体から取り除き、同じ人の体(皮膚の場合など)に戻したり、別の人の体に移しかえたりします。

血管や結合組織の代用として移植片(人工素材でできているものもあります)を移植することもあれば、骨折部位を固定または置換するために金属棒を骨の内部に挿入する手術もあります。

場合によっては、手術を行うことで診断を確定することもあります。生検とは、小さな組織片を採取して顕微鏡で調べることですが、これは最もよく行われる診断手術です。緊急の場合には診断のための検査を行う時間がないため、診断と治療の両方の目的で手術が行われることがあります。例えば、銃創または自動車事故で出血しているケースでは、早急に出血している臓器を突き止めると同時に治療するために手術をする必要があります。

手術の緊急度は、しばしば次の3つに分類されます。

  • 緊急

  • 準緊急

  • 待機

緊急手術は、急激な内出血を止める場合などで、数分の差が生死を分けかねないため、一刻も早く行います。

準緊急手術は、炎症を起こした虫垂を切除する場合などで、数時間以内に行うことが望まれます。

待機手術は、膝関節の置換手術などで、手術中や手術後の患者の状態が最良となるような条件が整うまで待つことのできる手術です。

美容整形手術

美容整形手術は、外見の改良に重点を置いた待機手術の1つです。

美容整形手術には、以下のように様々な種類があります。

  • しわ取り手術:顔や首からしわを取り除きます。

  • 腹壁形成術:腹部の脂肪や皮膚のたるみを取り除きます。

  • 乳房形成術:乳房を大きくしたり小さくしたりします。

  • 植毛術:頭髪を増やします。

  • 下顎骨形成術:顎の外観を変えます。

  • 眼瞼形成術:眼の外観を変えます。

  • 鼻形成術:鼻の外観を変えます。

  • 脂肪吸引:体の脂肪を取り除きます。

  • 硬化療法:静脈瘤をなくします。

執刀医を選ぶときは、専門医の資格(学会の認定)をもち、その手術に関して豊富な経験をもつ医師を選ぶべきです。

最良の結果を得るには手術後の指示に忠実に従う必要があるため、美容整形手術は強い動機のある人だけに勧められます。

美容整形手術は人気があり、心惹かれるものかもしれませんが、手術は高額でリスクを伴い、健康に深刻な影響を及ぼすおそれがあるだけでなく、手術前の容姿の方がよかったと後悔する可能性もあります。

麻酔

手術は一般的に痛みを伴うため、ほとんどの場合、手術をする前に何らかの麻酔薬、鎮痛薬、またはその両方が投与されます。麻酔薬は感覚の消失(しびれ)または意識低下をもたらすことにより、痛みの認識を妨げる薬であり、他方の鎮痛薬は、痛みを軽減するために投与する薬です。麻酔薬の投与は通常、麻酔を施す専門的な訓練を受けた資格をもった医療従事者が行います。この医療従事者は、医師(麻酔医)の場合もあれば、ナースプラクティショナー(麻酔看護師)の場合もあります。麻酔看護師は麻酔医の指示のもとに麻酔を施行します。

麻酔には以下の3種類があります。

  • 局所麻酔

  • 区域麻酔

  • 全身麻酔

局所麻酔と区域麻酔

これらの種類の麻酔では、リドカインやブピバカインなどの薬剤を注射して、体の特定部位の感覚のみを麻痺させます。

局所麻酔では、切開する部位の皮膚の下に薬剤を注射することで、その部位の感覚だけを麻痺させます。

区域麻酔は、より広い範囲の感覚を麻痺させる麻酔で、1本または複数の神経の周囲に薬剤を注入して、それらの神経が支配する領域の感覚を麻痺させます。例えば、特定の神経の周囲に薬剤を注入すると、指、つま先、または四肢の特定の部分や四肢全体の感覚を麻痺させることができます。ある種の区域麻酔では静脈に薬剤を注入します(静脈内区域麻酔)。この場合、弾性包帯や血圧計のカフなどを用いて腕や脚の付け根を締めつけることで、その肢の静脈内に薬剤をとどめておきます。静脈内区域麻酔では、一肢全体の感覚を麻痺させることができます。

局所麻酔や区域麻酔では、患者には意識があります。しかし、患者をリラックスさせるために、軽い鎮静作用のある抗不安薬を静脈内に投与することもあります。まれに、手術を終えた後の数日から数週間にわたって、麻酔をかけた部位にしびれやチクチクする感覚、痛みなどが残ることがあります。

脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔は、腰部の脊髄の周辺に薬剤を注射する区域麻酔の一種です。麻酔薬を注射する場所や体の姿勢によって、広範囲(例えば、ウエストからつま先まで)にわたって感覚を麻痺させることができます。脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔は、ヘルニアの修復や、前立腺、直腸、膀胱、脚の手術、一部の婦人科の手術など、下半身の手術に有用です。これらの麻酔は出産にも有用です。脊髄くも膜下麻酔後の数日間は頭痛が起こることがありますが、この頭痛は通常、効果的に治療することができます。

全身麻酔

全身麻酔では、血流に乗って全身を循環する麻酔薬が投与されるため、患者の意識はなくなります。全身麻酔の麻酔薬は静脈内注射または吸入により投与されます。全身麻酔は呼吸を遅くするため、麻酔医は気管内に呼吸用のチューブを挿入します。しかし、短時間の手術では、そのような呼吸用のチューブは不要で、その代わり、麻酔医が呼吸用マスクを手で支えながら患者の呼吸を補助します。長時間にわたる手術では人工呼吸器により患者の呼吸を保ちます( 人工呼吸器)。全身麻酔は重要臓器に影響を及ぼすため、麻酔医は麻酔薬の効果がなくなるまで、心拍数と心拍リズム、呼吸、体温、血圧を注意深くモニタリングします。深刻な副作用が起こることは非常にまれです。

知っていますか?

  • 全身麻酔によって深刻な副作用が起こることは非常にまれです。

大手術と小手術

手術は大手術と小手術に区別されることがありますが、両方の特徴を兼ね備えている外科手術も多くあります。

大手術

大手術では、しばしば主要な体腔(腹部、胸部、頭蓋骨)の1つに至る穴をあけます。腹部に穴をあけることを開腹手術、胸部に穴をあけることを開胸手術、頭蓋骨に穴をあけることを開頭手術といいます。大手術では、重要臓器にストレスがかかります。普通は、医師がチームを組んで、病院の手術室で患者に全身麻酔をかけて行います。大手術の後は通常、最低でも一晩の入院が必要です。

小手術

小手術では、主要な体腔に至る穴をあけることはありません。小手術は、局所麻酔、区域麻酔、または全身麻酔下で行われ、救急外来や外科外来、診療所などでも行われます。通常は、重要臓器にストレスがかかることはなく、手術は医師1人でも行えます。この医師は外科医とは限りません。通常、患者は手術を受けたその日に帰宅することができます。

手術のリスク

手術のリスク(すなわち、手術による死亡や深刻な問題の起こる可能性)は、手術の種類や患者の特徴によって変わってきます。

最もリスクの高い手術には次のようなものがあります。

  • 心臓または肺の手術

  • 肝臓の手術

  • 腹部の手術のうち、長時間かかるものまたは大出血のリスクが高いもの

  • 前立腺の摘出

  • 骨や関節の大手術(例えば、人工股関節置換術)

一般に、患者の全般的な健康状態が不良であるほど、手術のリスクは高くなります。手術のリスクを高める健康上の問題には次のようなものがあります。

多くの場合、リスクは高齢になるほど高くなります(加齢に関連する注意点:手術のリスクと年齢を参照)。しかし、年齢以上に手術のリスクに影響を与えるのは、患者の健康状態です。手術のリスクを高める慢性疾患、脱水症、感染症、体液と電解質の不均衡などの治療可能な病気、そして特に心不全や狭心症がある場合、手術前に治療して、できるだけ良い状態に調整しておくべきです。

セカンドオピニオン

手術を受けるという選択が最善であるということは、必ずしも明らかではありません。治療には手術以外の選択肢がある場合があり、手術を受けると決めても、いくつかの手術法がある場合があります。したがって、患者は2人以上の医師の意見を求めることがあります( セカンドオピニオンの取得)。米国の医療保険プランの中には、待機手術を行う場合にはセカンドオピニオンを必要とするものがあります。しかし、どの医師からセカンドオピニオンを得るべきかについては、専門家の意見が一致しない場合もあります。

  • 選択肢として手術以外の治療法がある場合には、手術への偏重をなくすために、外科医ではない医師にセカンドオピニオンを求めるように助言する専門家もいます。

  • 他方で、外科医の方が他科の医師よりも、手術の長所も短所もよく知っているという理由から、セカンドオピニオンは別の外科医に求めるように助言する専門家もいます。

  • また、利害の対立をなくすために、セカンドオピニオンを与えた医師は手術を行えないという取り決めを事前に規定することを提言する専門家もいます。

内視鏡手術

技術の進歩により、従来の手術に比べて切開部が小さく組織の損傷も少ない手術を行うことが可能になりました。この手術では、鍵穴サイズの切開部から非常に小さな光源、カメラ、手術器具などを体内に挿入します。そして、モニター画面に映し出される体内の画像を見ながら、手術器具を操作します。ロボット手術では、カメラで得られた三次元の画像を見ながら、コンピュータで手術器具をコントロールします。

内視鏡手術は、手術をする部位によって様々な名前で呼ばれており、腹部では腹腔鏡下手術、関節では関節鏡下手術、胸部では胸腔鏡下手術と呼ばれています。

従来の手術に比べて組織の損傷が少ない内視鏡手術の利点には、次のようなものがあります。

  • ほとんどのケースで、入院期間が短くなる

  • 多くの場合、手術後の痛みがより少ない

  • 仕事への復帰が早まる

  • 傷あとが小さい傾向がある

しかしながら、この内視鏡手術の難しさについては、手術を受ける患者や、ときには執刀医も過小評価をしてしまいがちです。執刀医はモニター画面を見ながら手術を行うため、患部を平面的な画像でしか見ることができません。また、その手術器具には長いハンドルがついており、その長いハンドルを患者の体の外から操作するため、執刀医にとっては従来の手術器具を使用するときよりも自然な感覚が得にくくなります。こうした理由から、内視鏡手術の欠点があるとすれば、次のようなものが挙げられます。

  • 内視鏡手術は従来の手術より時間がかかる場合が多い

  • さらに重要なこととして、内視鏡手術は操作が複雑になるため、特に新しい手技の場合は従来の手術よりもミスが起こりやすくなる

また、内視鏡手術は従来の手術より痛みが少ないかもしれませんが、痛みがないわけではなく、しばしば予想以上に痛むこともあるということを理解しておくべきです。

内視鏡手術は技術的に難しいため、次のことを実行すべきです。

  • 経験豊富な外科医を選ぶ

  • 手術が本当に必要であることを確認する

  • 痛みが出たときの治療方法を執刀医に聞いておく

手術前の準備

手術の前には、数日間から数週間にわたって様々な準備が行われます。健康状態が良好であると手術で受けたストレスからの回復が早まるため、体調や栄養状態をできる限り改善しておくことがしばしば勧められます。貴重品は自宅に置いておきます。一般に、手術前の夜12時以降は絶飲食するよう指示されます。

飲酒と薬剤の使用

全身麻酔による手術をする前は、飲酒をやめるか最低限度にとどめておくことにより、安全性を高めることができます。過度の飲酒は肝臓にダメージを与えるため、手術中に大出血を起こしたり、全身麻酔に使用する薬剤の効果が予想外に強くまたは弱く出たりすることがあります。

アルコールまたは薬剤に依存のある人が、手術前にこれらの物質を突然やめたり減量したりすると、離脱症状(アルコールの離脱症状および薬剤の離脱症状を参照)を起こすことがあります。そのため、アルコール依存症患者には、手術当日に鎮静薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)を投与することがあります。オピオイド中毒の人には、離脱症状を予防するため、オピオイド鎮痛薬(強力な痛み止め)を投与することがあります。まれに、オピオイド中毒の人にメサドンを投与することもあります。これは強い痛みを緩和する薬で、同じく離脱症状を予防するために用いられます。

喫煙

喫煙者が胸部または腹部の処置を受ける前は、できるだけ早くからの禁煙が勧められます。手術の間近までタバコを吸っていると、全身麻酔中に不整脈が起こる可能性が高まったり、肺の機能が損なわれたりします。呼吸器系の防御機構を回復させるためには、手術の数週間前から禁煙する必要があります。

医師による評価

外科医は身体診察を行い、以下の項目を含めた病歴を聴取します。

  • 最近の症状

  • 過去の病歴

  • 過去に起こった麻酔への反応(あれば)

  • 喫煙歴および飲酒歴

  • 感染症

  • 血栓の危険因子

  • 心臓や肺に関連する問題(せきまたは胸痛など)

  • アレルギー

また、使用中のすべての薬剤についても尋ねられます。処方薬だけでなく市販薬であっても深刻な健康上の問題を招くおそれがあるため、使用しているすべての薬剤について医師に伝える必要があります。例えば、アスピリンを服用していることは報告するほど重要なことではないと判断しがちですが、アスピリンを服用していることが原因で手術中の出血がひどくなることがあります。さらに、サプリメントや薬用ハーブ(例えば、イチョウ、セントジョーンズワート[セイヨウオトギリソウ])は術中や術後に影響を及ぼすおそれがあるため、これらの使用についても伝えておくべきです。

手術の5~7日前からは、ワルファリンや アスピリンなど、一部の薬剤の使用を中止するように指示されることがあります。血圧を下げる薬など、慢性疾患をコントロールする薬剤については使用を続けるように言われることもあります。ほとんどの経口薬は、手術当日に少量の水とともに服用することができますが、なかには静脈から投与したり、術後まで使用を見送ったりしなければならないものもあります。

麻酔医は手術前に患者と面会し、検査結果を見直し、麻酔薬の選択に影響を及ぼしそうな病状がないかを確認します。患者にとってどの麻酔薬が最も安全で効果的であるかについても話し合います。呼吸用のチューブを挿入しなければならない手術では、患者に鼻中隔のずれなどの気道の異常がないかについても評価が行われます。

検査

患者の全般的な健康状態や行われる手術の種類に応じて、手術の前に、血液検査、尿検査、心電図検査、X線検査、肺気量の検査(肺機能検査)などの検査を行います(術前検査)。これらの検査は、重要臓器の状態を判定するのに役立ちます。これらの臓器が十分に機能していなければ、手術や麻酔のストレスで合併症を起こす可能性があります。また、術前検査の際に、症状の出ていない一時的な病気(感染症など)が新たに見つかることもあり、場合によっては手術の延期が必要になります。

輸血用血液の保存

手術中に輸血が必要になった場合に備え、患者自身の血液を前もって保存しておくことを、患者が希望する場合があります。保存血を使うこと(自己血輸血)によって、感染症のリスクや輸血反応のリスクの大半を取り除くことができます。患者からは一度に約500ミリリットルの血液を採取して、手術まで保存しておくことができます。採血は1週間に1回までとし、少なくとも手術の2週間前までに最後の採血を済ませておくべきです。体から失われた分の血液は体内でつくられ、採血後の数週間で回復します。

意思決定

手術前のある時点で、執刀医が手術を行う承諾を患者に求めますが、この手続きをインフォームド・コンセントといいます。執刀医は手術のリスクと便益、別の治療の選択肢について説明し、質問に答えます。患者は承諾書を読んで署名をします。患者のインフォームド・コンセントが得られない緊急手術の場合、医師は家族に連絡を取るよう努めますが、まれに、家族に連絡がつく前に、緊急手術を開始しなければならないことがあります。

手術後に意思の伝達ができなくなったり判断能力が失われたりする場合に備えて、医療判断代理委任状リビングウィル(生前遺言)を手術前に準備しておくべきです。

消化管の準備

手術中に投与される薬剤の中には嘔吐を引き起こすものがあるため、手術前の少なくとも8時間は、飲食を禁止するのが一般的です。外来手術の場合は、手術前の夜12時以降は、飲食はしないようにします。患者には、手術の種類に応じた具体的な説明書が渡されます。患者は定期的に処方される薬剤のうち、手術前にどの薬剤を服用すべきか医師に確認しておく必要があります。腸管の手術を受ける患者には手術の1~2日前に緩下薬の投与または浣腸が行われます。

血液中の酸素レベルをモニタリングする装置を指に装着するため、マニキュアや付け爪は入院前に取り除いておきます。こうすることにより、より正確な測定値が出ます。

手術の当日

たいていの場合、患者は手術前にすべての衣服を脱ぎ、アクセサリー、補聴器、入れ歯、コンタクトレンズ、眼鏡などを外し、患者用のガウンを着ます。患者は待機室または手術室へ運ばれ、手術前の最終的な準備が行われます。手術で切開する部位の皮膚には消毒薬を塗布し、細菌の数を最小限に減らすことで感染症を防ぎます。手術部位の毛をバリカンまたは脱毛クリームなどで除去されることもあります。

ときに、手術中に尿を回収するため、合成樹脂製のチューブ(カテーテル)を膀胱に挿入されることがあります。手または腕の静脈にもカテーテルが挿入されます。そのカテーテルを通して輸液や薬剤が投与されます。静脈を介して鎮静薬が投与されることもあります。

口、腸管、肺、気道、または泌尿生殖器の手術の場合、感染症を予防するため、手術部位に切開を加えるまでの1時間の内に1種類以上の抗菌薬が投与されます(予防投与)。抗菌薬は経口または静脈内に投与され、手術によって投与方法が異なります。ほかにも、感染症が特に問題とされる手術(例えば、関節や心臓弁置換術)を受ける患者には同様にこの処置が行われます。

糖尿病

糖尿病治療のため インスリンを使用している人には、手術当日、毎朝のインスリン用量の3分の1を投与します。糖尿病の経口薬を使用している人は、手術当日、普段の用量の半分を服用します。手術はできれば朝早くに行うのがよいでしょう。麻酔医は、手術中に血糖値(血中グルコースの値)をモニタリングし、必要に応じて追加でインスリンまたはブドウ糖を投与します。普段の食生活を再開するまでは、普段家庭で行っていたインスリン投与も再開しないようにします。

入れ歯

気管に呼吸用のチューブを挿入する前に、入れ歯を外しておきます。理想的には、待機室から手術室に移動する前に、入れ歯を家族に渡しておくのがよいでしょう。

コルチコステロイド

手術の前1年以内に、3週間以上プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)またはその他のコルチコステロイドを使用していた人は、手術中にコルチコステロイドが必要になることがあります。コルチコステロイドは小手術では投与されません。

手術室の中

最終準備が待機室で行われた場合は、そこから患者は手術室へ運ばれます。この時点で、患者はまだ目が覚めている場合もありますし、意識がもうろうとしているかすでに眠っている場合もあります。患者は手術台に移され、手術用の照明を当てられます。手術部位を直接触る医師やその近くにいる医療従事者は、殺菌効果のある石けんで両手を十分に洗浄し、手術室内の細菌やウイルスの数を最小限に減らします。手術に際し、これらのスタッフは手術着、帽子、マスク、靴カバー、滅菌ガウン、滅菌手袋を着用します。そして手術を始める前に、チームで次のことを確認する時間を取ります。

  • 患者が本人であること(本人確認)

  • 正しい手順と(手術部位に左右の区別があれば)手術を行う側

  • 必要な備品や設備が利用できる状態になっていること

  • 感染症または血栓を予防するための予防投与の仕上げ(必要な場合)

局所麻酔区域麻酔、または全身麻酔が行われます。

手術室の中

手術室には、手術チームが外科手術を行うのに適した無菌環境が整えられています。手術チームは次のようなスタッフで構成されます。

  • 執刀医:手術を指揮します

  • 助手の外科医少なくとも1人:執刀医を補佐します

  • 麻酔医:麻酔薬の投与量をコントロールし、患者の状態を注意深くモニタリングします

  • 手術室看護師:執刀医に器具を手渡します

  • 外回り看護師:手術チームのために予備の器具を用意します

手術室には通常、バイタルサインを表示するモニター装置、手術器具を置く器具台、手術用照明灯(無影灯)が設置されています。麻酔ガスは管を介して麻酔装置に送られます。執刀医に組織がはっきりと見えるように、手術中にたまった血液や体液は、吸引装置に接続したカテーテルで吸引します。手術室に入る前に開始した点滴は、手術中もそのまま続行します。

手術室の中

手術の後

手術が終了すると、患者は回復室へ移され、麻酔の効果が抜けるまで1~2時間ほど厳重な監視下に置かれます。術後のケアチームが、患者が呼吸をしているか、窒息のリスクがないか、痛みを抑える薬を渡されているかを確認します。患者に明晰な思考ができるかどうかも評価します。ほとんどの患者は、目覚めたとき(特に大手術の後)には意識がもうろうとしています。少しの間吐き気を催したり、寒く感じたりする患者もいます。

手術の性質や麻酔の種類によって、回復室から直接帰宅できる場合と、入院病棟やときには集中治療室(ICU)へ移される場合があります。

直接帰宅

退院する患者は、次の条件を満たす必要があります。

  • 明晰に思考できる

  • 呼吸が正常である

  • 飲みものを飲むことができる

  • 排尿できる

  • 歩行できる

  • 激しい痛みがない

麻酔を受けた患者または鎮静薬を投与された患者は、退院時に誰かに家まで付き添ってもらう必要があります。患者自身が車を運転することはできません。手術部位に出血や予想外の腫れがない状態でなければなりません。

入院

手術後、入院病棟に移された患者は、目覚めてみると、たくさんのチューブや装置につながれているかもしれません。例えば、のどの中には呼吸用のチューブが挿入され、胸には心拍数をモニタリングするための粘着パッドが貼られ、膀胱にはチューブが入れられ、指先には血液中の酸素レベルを測定する器具が装着され、手術部位はドレッシング材で覆われ、鼻や口の中にもチューブが入れられ、静脈内にも1本かそれ以上のチューブが挿入されているといった具合です。

たいていの手術では、術後の痛みが予想されますが、ほとんどの場合、その痛みは和らげることができます。痛みを和らげる薬(鎮痛薬)を投与するには、静脈内投与、経口投与、筋肉内注射、パッチ剤を皮膚に貼るなどの方法があります。硬膜外麻酔が使用された場合は、麻酔薬を投与するための合成樹脂製のチューブが背中に留置されていることがあります。モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬はチューブを通して注入します。激しい痛みのある入院患者には、オピオイド鎮痛薬を持続的に静脈内に注入し、患者がボタンを押すと少量の鎮痛薬を追加投与できる装置が使用されることもあります(自己調節鎮痛法)。痛みが持続する場合は、追加の治療が必要になることもあります。オピオイド鎮痛薬を繰り返し使用すると便秘になることがよくあるため、便秘を予防するために、刺激性の下剤または便を軟らかくする薬を投与する場合があります。

十分な栄養を摂取することは、治癒を早めて感染症にかかる危険性を最小限に抑える上で大変重要です。大手術の後は必要となる栄養量が増加します。手術後に1週間以上食事ができない場合は、食事に代わる方法で栄養を摂取しなければならないことがあります。消化管は機能していても食べることができない患者には、胃の中にチューブを通して栄養を与える場合があります。このチューブは鼻や口、または腹壁の切開口から挿入します。まれに、消化管の手術を受けたために、長期にわたって口から食べることのできない患者には、太い静脈に挿入したカテーテルを通して栄養を与えることがあります(静脈栄養— 静脈栄養)。

手術後の合併症

発熱、血栓(血液のかたまり)、傷口の問題、錯乱、排尿困難または排便困難、筋肉減少、衰弱(デコンディショニング)などの合併症が、手術後の数日間に起こることがあります。

手術後数日から数週間の間にみられる発熱には、以下のように一般的な原因がいくつかあります。

ときに、薬剤が発熱の原因となることもあります。別の可能性のある原因として、手術による傷に反応して起こる炎症が挙げられます。手術部位の感染症、深部静脈血栓症、尿路感染症のリスクは、手術後に細心の看護を施すことによって下げることができます。小型の装置を使って強制的に息を吸ったり吐いたりする呼吸訓練(インセンティブスパイロメトリー)を定期的に行い、必要に応じてせきをすることで、肺炎や無気肺になるリスクを低減できる可能性があります。

術後、脚または骨盤部の静脈内に血栓(深部静脈血栓症)ができることがあり、特に患者が術中や術後に横たわってじっとしていた場合や、脚、骨盤、またはその両方の手術を受けた場合によくみられます。静脈にできた血栓が剥がれると、血栓が血流に乗って肺へ運ばれ、そこで血液の循環を妨げることがありますが、この病態を肺塞栓症といいます。その結果、全身への酸素の供給が低下し、場合によっては血圧が低下することもあります。

血栓が特にできやすい手術を受ける患者や、術後あまり動かずベッドで安静にしなければならない患者には、医師は低分子ヘパリンなどの血液をかたまりにくくする薬(抗凝固薬)を投与したり、脚の血行を良くする弾性ストッキングを着用させたりします。しかし抗凝固薬を投与することで出血量が著しく増えることが予想される手術を行う場合、抗凝固薬は勧められません。術後、四肢を動かしたり、歩いたりしてもよいと言われれば、すぐにこうした運動を開始すべきです。

傷口の合併症には、感染症や縫合部が開くこと(離開)などがあります。感染症のリスクを低下させるために、術後は切開部をドレッシング材で覆います。手術室で使われたドレッシング材は、感染症の徴候(痛みが激しくなる、腫れる、液体が漏れるなど)が現れない限り、通常は24~48時間そのままにしておきます。

このドレッシング材には滅菌包帯などが使われており、通常は抗菌薬の軟膏が塗ってあります。この包帯は細菌を切開部から遠ざけると同時に、切開部からにじみ出る体液を吸収します。これらの体液は、細菌の繁殖を促し、切開部への感染を起こしやすくするため、ドレッシング材は頻繁に、通常は1日2回交換します。ドレッシング材を交換するたびに(場合によってはさらに頻繁に)傷口を診察し、ドレナージチューブ、縫合の具合、またはスキンステープラーの様子を確認します。ときには、傷口のケアに最善を尽くしても感染症が発生することがあります。手術部位に感染が起こると、手術の翌日頃からその部位の痛みが次第に強くなり、赤くなって熱をもち、膿などの液体が漏れるようになります。発熱することもあります。このような症状が現れた場合は、できるだけ早く医師の診察を受ける必要があります。

せん妄(錯乱や興奮)がみられることもあり、特に高齢者によく発生します(加齢に関連する注意点:手術のリスクと年齢を参照)。これには、抗コリン作用(錯乱、かすみ目、尿失禁— 抗コリン作用:どんな作用か?)のある薬剤、オピオイド、鎮静薬、またはヒスタミンH2受容体拮抗薬や、血液中の酸素の大幅な不足が関与している可能性があります。可能であれば、高齢者には、錯乱を引き起こす可能性のある薬剤の投与は避けるべきです。

排尿困難や排便困難(便秘)が手術後に起こることはよくあります。要因として、抗コリン作用のある薬剤またはオピオイドの使用、腸管の手術、運動不足、飲食をしないことなどが挙げられます。尿の流れが完全に遮断される場合があり、それによって膀胱が拡張します。尿の流れの遮断が、尿路感染症につながることもあります。排尿時に下腹部を圧迫することで流れが回復することもありますが、多くの場合、膀胱にカテーテルを挿入する必要があります。カテーテルはそのまま留置するか、膀胱が空になり次第抜き取ります。頻繁に起き上がることは、尿の流れの遮断を予防する上で役立ちます。膀胱での流れの遮断がない患者には、経口でベタネコールを投与し、膀胱の収縮を促すことがあります。便秘になった患者は、オピオイド(鎮痛薬)や便秘の原因となるその他の薬剤の用量を減らし、できるだけ早く歩き始めるようにします。腸管の手術を行った場合を除き、便秘の患者には、ビサコジル、センナ、またはカスカラなど、腸管を刺激する緩下薬を投与することもあります。ジオクチルソジウムスルホサクシネートなどの便軟化剤は役に立ちません。

筋肉の減少(サルコペニア)や筋力の低下は、長期間の床上安静を必要とする人すべてに起こります。寝たきりになると、若年の成人では1日当たり約1%の筋量が減少しますが、高齢者では、筋組織の維持を担う成長ホルモンの血中濃度が低いため、筋量が1日当たり最大5%減少します。十分な量の筋肉があることは回復に重要な要素です。したがって、自分にとって安全な範囲でよいので、できるだけ早期に、またできるだけ頻繁にベッドの上で上半身を起こし、動き、立ち上がり、運動しましょう。適切な栄養を摂取できていない人は、サルコペニアになるリスクが高まります。そのため、十分な飲食が勧められます。自分で食べたり飲んだりできない人は、経管栄養または、まれに静脈栄養が必要になります( 入院)。

退院時( 退院 も参照)

病院を退出する前に、次のことを行わなければなりません。

  • 次回のフォローアップの診察日を予約しておく

  • 服用すべき薬剤を把握しておく

  • 避けるべき行動または制限すべき行動を把握しておく

一時的に避けなくてはならない行為には、階段の昇り降り、車の運転、重い物を持ち上げる動作、性交などがあります。どのような症状が起きた場合、予約した診察日を待たずに医師に連絡を取る必要があるかも把握しておく必要があります。

手術後の回復期から、徐々に日常活動を再開するべきです。筋力や柔軟性を向上させるために、特別な運動や活動を取り入れたリハビリテーションが必要になる場合もあります。例えば、人工股関節置換術後のリハビリテーションでは歩き方、ストレッチや運動の方法を学びます。

加齢に関連する注意点:手術のリスクと年齢

1900年代半ば、50歳以上の患者には単純な手術でさえ行うことをためらう外科医が珍しくありませんでした。しかし、時代は変わりました。今や、米国における手術の3分の1以上が、65歳以上の人に対して行われています。

しかし、高齢であることは手術中や手術後の合併症のリスクを高めます。例えば、高齢者は若い人と比べて術後にせん妄を発症する可能性がはるかに高くなります。また、高齢者は術後の床上安静が原因で、重篤な合併症を起こす可能性も高くなります。こういった合併症には以下のものがあります。

  • 血栓

  • 筋肉の減少

  • 肺炎

  • 尿路感染症

手術中または手術後の死亡リスクも、年齢とともに高くなります。手術直後に死亡する患者の4分の3以上は高齢者です。さらに、緊急手術の場合または胸部もしくは腹部の手術の場合、死亡リスクはすべての年齢層で増加しますが、高齢者層ではその傾向が特に顕著です。

年齢そのものが危険因子ですが、年齢以上に手術のリスクを著しく高めるのが、健康状態や特定の病気の存在です。手術前の6カ月以内に心臓発作を起こした場合や、コントロール不良の心不全がある場合は、外科的処置によるリスクが大幅に高まります。例えば、心不全低栄養(施設に暮らす高齢者に多くみられます)、特に強いまたは悪化する胸痛(不安定狭心症)は、高齢者の手術のリスクを高めます。慢性閉塞性肺疾患などの肺の病態は、手術のリスクを判定する際に懸念されることがあり、喫煙者の場合特にその傾向が強まります。腎機能障害、1型糖尿病脳卒中または一過性脳虚血発作の既往、認知症などの精神機能の異常もリスクを高めることがあります。

また、ある種の外科手術は、他の手術よりもリスクが高くなります。例えば、腹部または胸部の手術、前立腺の摘出、関節の大手術(人工股関節置換術など)はリスクの高い外科手術のランキングの上位に入ります。白内障手術や小さな関節の手術など、高齢者がよく受ける手術の多くは、比較的低リスクです。高齢者の全身状態が良好であれば、比較的リスクが高いと考えられている手術も含めて、ほとんどの手術が安全に行えます。

手術のリスクが高い場合でも、手術で得られるであろう便益の方が大きい場合があります。例えば、大きな大動脈瘤は修復しなければ死亡リスクを高めてしまうため、手術をすることであと8~10年長く生きられることが期待できるならば、こうした死亡リスクのある手術も検討すべきでしょう。しかし、もし他の病気で余命がわずか1~2年に限られているなら、このような手術はおそらく避けた方がよいでしょう。

手術のリスクが低い場合は、リスクが低いことよりも、手術による便益が得られないことの方に重点が置かれる可能性があります。例えば褥瘡(床ずれ)の皮膚移植など、もっと小さな手術のリスクは通常は非常に低いのですが、それでもそのわずかなリスクでさえ、進行した認知症患者に手術を受けさせるには大きすぎると考える人もいます。

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