水痘は主に小児がかかる感染症で、ヘルペスウイルスの一種(ヘルペスウイルス3型)である水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされます。
1995年にワクチン接種が始まるまでは(訳注:日本では2014年に定期接種が開始されました)、90%の小児が15歳になるまでに水痘を発症していました。ワクチン接種により、現在では年間の患者数が70%以上減少しました。しかしいくつかの国では、このワクチンが利用できないか、定期接種すべき小児ワクチンとして指定されていません。
水痘患者の感染力が最も強いのは発疹出現の2日前から出現直後までですが、最後の水疱がかさぶたになるまでは、ほかの人に感染する可能性があります。
免疫機能が正常な小児では、水痘が重症化することはほとんどなく、たいていは皮膚と口の中がただれるだけです。しかし、ときにはウイルスが肺、脳、心臓、または肝臓に感染することもあります。そうした重篤な感染症は、新生児や成人、または免疫機能が低下している人(HIV感染症を患っている人や、免疫機能を抑制する薬または高用量のコルチコステロイドを使用している人など)によくみられます。
水痘にかかったことのある人は免疫ができ、再度かかることはありません。しかし、水痘に最初に感染した後も水痘帯状疱疹ウイルスは不活性の(潜伏)状態で体内に残っており、活動を再開して帯状疱疹を起こすことがあります。高齢者には帯状疱疹ワクチンが利用できます。このワクチンは、それ以降に帯状疱疹が発生するリスクを低下させます。
水痘(水ぼうそう)の感染経路
症状
水痘の症状は感染後10~21日で現れます。具体的には以下のものがあります。
年少の小児ではこれらの症状が現れないことが多いのですが、成人ではしばしば重い症状が出ます。
最初の症状が現れてから約24~36時間後に、平坦で赤い小さな斑点状の発疹が出現します。通常、体幹と顔に始まり、その後腕と脚に現れます。発疹が数個しか出ない小児もいますが、頭皮や口の中を含め、全身の至るところにできる小児もいます。
6~8時間以内にそれぞれの発疹が盛り上がります。そして赤みを帯びた皮膚を背景に、かゆみを伴い中に液体が入った丸い水疱ができ、最後にはかさぶたになります。数日間にわたって発疹ができ続け、次々にかさぶたに変わっていきます。ごくまれに、発疹に細菌が感染し、重度の皮膚感染症(蜂窩織炎または壊死性筋膜炎)を引き起こすことがあります。
新しい発疹は通常5日目までにはできなくなり、ほとんどが6日目までにかさぶたになって、大半は20日以内に消えていきます。
ときおり、ワクチン接種を受けた小児が水痘になることもあります。こうした小児では、通常は発疹が軽く、発熱もあまりみられず、より短い期間で治ります。しかし、潰瘍に触れると感染が広がる場合があります。
口の中にできた発疹は、すぐに破れてただれ(潰瘍)になり、ものを飲み込むときに痛むことがよくあります。この、痛みのあるただれは、まぶた、上気道、直腸、腟にもできます。一番状態の悪い時期は通常、4~7日間続きます。
合併症
水痘による合併症のリスクは、新生児、成人、免疫機能が低下している人、特定の病気をもつ人で高くなります。
成人約400人に1人の割合で肺に感染し(肺炎)、せきと呼吸困難が起こります。免疫機能が正常な幼児に肺炎が発生することはまれです。
脳への感染(脳炎)はあまりみられませんが、脳炎が起きると歩行時のふらつき、頭痛、めまい、錯乱、けいれん発作といった症状が現れます。成人では、脳炎によって生命が脅かされることがあります。米国では水痘患者1000人中、1人か2人に脳炎が起きています。
肝臓の炎症や出血の問題が起こることもあります。
ライ症候群は、まれですが非常に重い合併症で、ほぼ常に18歳未満の小児で発生します。発疹が出始めてから3~8日後に発生します。水痘の小児にアスピリンを投与すると、ライ症候群のリスクが高まります。
妊婦が水痘を患った場合は、肺炎などの重篤な合併症のリスクが高く、死亡することもあります。水痘は胎児に伝染する可能性があり、妊娠の第1または第2トリメスター前半(訳注:第1トリメスターは日本の妊娠初期に、第2トリメスターは妊娠中期にほぼ相当)に水痘を発症した場合、特にそのリスクが高まります。そうした感染が起こると、皮膚の瘢痕(はんこん)や先天異常、低出生体重につながる場合があります。
診断
予後(経過の見通し)
予防
ワクチン接種
水痘ワクチンには、生きた水痘ウイルスを弱めて使用します。
米国では、小児に対して水痘帯状疱疹ワクチンが定期接種されています。小児は2回の接種を受けます。1回目は12~15カ月時、2回目は4~6歳時に接種されます({blank} 乳児と小児のための定期予防接種)。
より年長の小児や成人(特に妊娠可能年齢の女性と慢性疾患を抱えている成人)であっても、水痘にかかったことがなく、ワクチンを接種されたことがない場合には接種することがあります。その場合、4~8週間の間を空けて2回ワクチンを接種します。
以下に当てはまる人はワクチン接種を受けてはいけません。
水痘(水ぼうそう)の感染予防
水痘ウイルスにさらされた後の対応
治療
軽症の水痘では、症状を改善する治療(対症療法)だけで十分です。皮膚に湿布をあてると、強いこともあるかゆみを和らげたり、かくことを予防したりするために役立ちます。患部をかいてしまうと、感染が広がったりあとが残ったりする可能性があります。細菌感染症のリスクを小さくするために、皮膚を石けんと水で頻繁に洗う、手を清潔に保つ、引っかき傷をつくらないように爪を切る、衣類は清潔で乾いた状態に保つといった行動を心がけます。かゆみがひどい場合は、抗ヒスタミン薬などのかゆみを和らげる薬を内服することがあります。また、コロイド状のオートミール浴が役立つこともあります。
細菌感染症が起きた場合は、抗菌薬が必要になることがあります。
医師は通常、すべての青年および成人患者に対して、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなどの抗ウイルス薬を処方します。水痘以外は健康な小児には、抗ウイルス薬は通常使用しません。ただし、重症化のリスクがある13歳未満の小児には、抗ウイルス薬が必要になります。例えば、以下がみられる小児がこれに該当します。
抗ウイルス薬はわずかながら症状の重症度を抑え、期間を短縮できますが、発症から24時間以内に投与しなくては効果がありません。
妊婦は水痘による重篤な合併症が発生するリスクが高いため、水痘の妊婦にはアシクロビルまたはバラシクロビルを投与することを推奨する専門家もいます。