顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。
通常は1回の血液検査で診断が確定されます。
甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。
甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは、心拍数、カロリーの燃焼速度、皮膚の修復、成長、熱産生、妊よう性、消化など多くの生命活動に影響します。甲状腺ホルモンには以下の2つがあります。
T4:サイロキシン(テトラヨードサイロニンとも呼ばれる)
T3:トリヨードサイロニン
下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)がつくられ、これが甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンがつくられます。下垂体は血流内の甲状腺ホルモンの量が多いか少ないかによって、TSHの分泌を加速するか減速するかを調節します。(甲状腺の概要 甲状腺の概要 甲状腺は幅約5センチメートルの小さな腺で、首ののどぼとけの下方の皮膚のすぐ下にあります。甲状腺は2つの部分(葉)に分かれ、中央で結合し(峡部と呼ばれます)、蝶ネクタイのような形をしています。正常な甲状腺は外見では分からず、かろうじて触れることができる程度ですが、甲状腺が腫れて大きくなると、医師が触診すれば容易に分かるようになり、のどぼとけ... さらに読む も参照のこと。)
甲状腺機能低下症はよくみられる病気で、特に高齢者に多く、なかでも女性によくみられ、高齢女性の約10%に発生します。ただし、いずれの年代でも発生します。
粘液水腫は、非常に重度の甲状腺機能低下症につけられた名称です。
原因
甲状腺機能低下症には以下の2つがあります。
原発性
続発性
原発性甲状腺機能低下症は、甲状腺自体の病気によって起こります。最も一般的な原因は以下のものです。
その他の原発性甲状腺機能低下症の原因としては以下のものがあります。
甲状腺の炎症(甲状腺炎)
甲状腺機能亢進症 治療 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む
や 甲状腺がん 甲状腺がん 甲状腺がんの原因は不明ですが、甲状腺は放射線に対する感受性が非常に高く、これによって悪性の変化が起こっている可能性があります。甲状腺がんは頭部、頸部、胸部に放射線療法を受けた人で多くみられ、なかでも小児期に良性の(がんではない)病気に対して放射線療法を受けた人で最もよくみられます(現在では良性の病気に対する放射線療法は行われていません)。 ( 甲状腺の概要も参照のこと。) がんは甲状腺全体を腫大させるというよりも、むしろ甲状腺内に小さな... さらに読む の治療
ヨウ素不足
頭頸部への放射線照射
甲状腺が十分なホルモンをつくれなくなるか分泌できなくなるような遺伝性の病気
甲状腺の炎症により一時的に甲状腺機能低下症になることがあります。 亜急性甲状腺炎 亜急性甲状腺炎 亜急性甲状腺炎は、甲状腺に起こる急性の炎症で、原因はおそらくウイルスと考えられます。 ( 甲状腺の概要も参照のこと。) 亜急性甲状腺炎は突然発生します。この病気では、炎症によって甲状腺が過剰な甲状腺ホルモンを分泌して 甲状腺機能亢進症が起こり、ほとんどの場合、続いて一時的な 甲状腺機能低下症が発生しますが、最終的に甲状腺機能は正常に回復します。 亜急性甲状腺炎はウイルス性の病気に続いて発生し、多くの人が初めに「のどの痛み」を感じますが、... さらに読む はウイルス感染により発生すると考えられています。分娩後にみられる自己免疫性炎症(無痛性リンパ球性甲状腺炎 無痛性リンパ球性甲状腺炎 無痛性リンパ球性甲状腺炎は痛みを伴わない甲状腺の自己免疫性炎症で、一般に出産後に発生し、通常は自然に消失します。 ( 甲状腺の概要も参照のこと。) 無痛性リンパ球性甲状腺炎は、女性、特に出産後3~4カ月後に発生することが多く、甲状腺は圧痛を伴わずに腫大します。この病気はその後の妊娠のたびに再発します。 数週間から数カ月間のうちに、甲状腺の活動が過剰になり( 甲状腺機能亢進症)、それに続いて甲状腺の活動が不十分になり(... さらに読む )が原因となることもあります。この場合の甲状腺機能低下症は、甲状腺が破壊されていないため通常は一時的なものです。
甲状腺がん 甲状腺がん 甲状腺がんの原因は不明ですが、甲状腺は放射線に対する感受性が非常に高く、これによって悪性の変化が起こっている可能性があります。甲状腺がんは頭部、頸部、胸部に放射線療法を受けた人で多くみられ、なかでも小児期に良性の(がんではない)病気に対して放射線療法を受けた人で最もよくみられます(現在では良性の病気に対する放射線療法は行われていません)。 ( 甲状腺の概要も参照のこと。) がんは甲状腺全体を腫大させるというよりも、むしろ甲状腺内に小さな... さらに読む や 甲状腺機能亢進症の治療 薬物療法 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む は、治療に用いられる放射性ヨードや薬が甲状腺ホルモンをつくる体の機能を妨げるため、甲状腺機能低下症の原因となります。甲状腺を外科的に除去すると甲状腺ホルモンの産生が不足します。
多くの発展途上国では、慢性的なヨウ素不足の食事が甲状腺機能低下症の最も一般的な原因です。ただし、米国では ヨウ素欠乏症 ヨウ素欠乏症 ヨウ素欠乏症は世界的によくみられ、甲状腺の腫大につながることがあります。 体内のヨウ素のほとんどは 甲状腺にあります。甲状腺のヨウ素は、 甲状腺ホルモンの形成に必要です。( ミネラルの概要も参照のこと。) ヨウ素は海水中に存在しています。海水から少量のヨウ素が大気に入り、雨を介して海の近くの地下水や土壌に入ります。 米国を含む多くの地域で、十分な量をとるためにヨウ素(結合したヨウ化物として)が食卓塩に添加されています。... さらに読む による甲状腺機能低下症は少数です。それは、食卓塩にヨウ素が添加されているほか、乳牛の乳房殺菌にヨウ素が使用されており乳製品にもヨウ素が含まれているためです。
頭頸部への放射線の照射は通常、がんの治療に対する放射線療法として行われますが、これもまた、甲状腺機能低下症の原因となる可能性があります。
甲状腺機能低下症の比較的まれな原因としては、甲状腺細胞中の異常酵素が甲状腺の十分な甲状腺ホルモンの生産と分泌を妨げる遺伝性の病気があります(乳児と小児の甲状腺機能低下症 乳児と小児の甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの分泌量が低下した状態です。 小児の甲状腺機能低下症は、通常、甲状腺の構造に問題があるか、甲状腺が炎症を起こしていることが原因です。 症状は小児の年齢によりますが、成長と発達の遅延などがあります。 診断は、新生児スクリーニング検査、血液検査、画像検査に基づきます。 治療としては、甲状腺ホルモンの補充療法があります。 さらに読む も参照)。
続発性甲状腺機能低下症は、甲状腺を刺激するのに必要な甲状腺刺激ホルモン(TSH)が下垂体から十分に分泌されない場合に発生します。続発性甲状腺機能低下症は、原発性のものよりはるかにまれです。
症状
甲状腺ホルモンが不足すると、身体機能の速度が低下します。症状はかすかで徐々に現れます。うつ病の症状と間違われるものもあり、この傾向は特に高齢者でよくみられます。
顔の表情が乏しくなる。
声がれがみられ、話し方がゆっくりになる。
まぶたが垂れる。
眼と顔が腫れぼったくなる。
毛髪は薄く、粗くなり、乾燥してくる。
皮膚はきめが粗く、乾燥し、うろこ状に厚くなる。
甲状腺機能低下症では多くの場合、疲労や体重の増加、便秘、筋肉のけいれんがみられるほか、寒さに耐えられなくなります。手がチクチクと痛む 手根管症候群 手根管症候群 手根管症候群は、正中神経が手首の手根管を通る所で圧迫され(締めつけられ)痛みが引き起こされる病気です。 手根管症候群の大半は原因不明です。 手の親指に近い指と手のひらが、痛くなったりチクチクしたりしびれたりします。 診断は、診察と、必要な場合は神経機能検査の結果に基づいて下されます。 通常、症状は、痛み止め、副子、またはときにコルチコステロイドの注射や手術で軽減できます。 さらに読む が現れる人もいます。脈拍は遅くなり、手のひらと足の裏がわずかに黄色みを帯びて(カロテン血症)、まゆの両端が次第に抜けます。一部の人(特に高齢者)では、錯乱、もの忘れ、あるいは認知症など、 アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む や他の認知症と間違えられやすい徴候が生じることがあります。女性では、甲状腺機能低下症によって月経周期に変化が生じる場合もあります。
甲状腺機能低下症では多くの場合、血液中の コレステロール値が高く 脂質異常症 脂質異常症とは、 脂質(コレステロール、中性脂肪[トリグリセリド]、または両方)の濃度が高いか、高比重リポタンパク質(HDL)コレステロールの濃度が低い状態をいいます。 生活習慣、遺伝、病気(甲状腺ホルモン低値や腎疾患など)、薬、またはそれらの組合せが影響します。 動脈硬化をもたらし、狭心症、心臓発作、脳卒中、末梢動脈疾患の原因になります。 中性脂肪と各種コレステロールの血中濃度が測定されます。... さらに読む なります。
粘液水腫性昏睡
治療しないでいると、甲状腺機能低下症はやがて 貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む 、低体温、 心不全 心不全(HF) 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む を引き起こします。この状況が進行して、錯乱、昏迷、昏睡(粘液水腫昏睡)に至ることがあります。粘液水腫性昏睡は生命を脅かす合併症です、呼吸が遅くなり、けいれん発作が起こり、脳への血流が減少します。粘液水腫性昏睡は、甲状腺機能低下症の人において、寒さにさらされるなどの身体的ストレス、感染症、外傷、手術、脳の機能を抑える鎮静薬などの薬がきっかけとなって起こります。
診断
血液中の甲状腺刺激ホルモンの測定
通常は症状と身体診察での所見(脈が遅いなど)から、甲状腺機能低下症が疑われます。
通常、甲状腺機能低下症は、1種類のシンプルな血液検査(TSHの測定)だけで診断することができます。甲状腺の機能が低下すると、TSH値が高くなります。
まれにTSHが十分に分泌されないことが原因で甲状腺機能低下症が発生しますが、この場合は、さらに他の血液検査が必要になります。この血液検査では、甲状腺ホルモンT4(サイロキシン、別名テトラヨードサイロニン)の量が測定されます。この値が低ければ、甲状腺機能低下症の診断が確定します。
治療
甲状腺ホルモンの補充
治療法としては、数種類の経口薬のいずれかを用いて甲状腺ホルモンを補充する方法があります。ホルモン補充に望ましいのは合成甲状腺ホルモンT4(レボチロキシン)です。ほかに、動物の甲状腺を脱水(乾燥)させた製剤がありますが、用いられる頻度はあまり多くありません。一般的に乾燥甲状腺製剤は、錠剤中の甲状腺ホルモンの含有量が変動するため、合成T4ほど十分な効果が得られません。粘液水腫性昏睡のような緊急の場合、合成T4かT3(トリヨードサイロニン)、あるいは両方が静脈内注射されます。
治療では、甲状腺ホルモンの1回の用量が多すぎると重篤な副作用を引き起こすことがあるため、少量の投与から始めますが、最終的に高用量が必要になる可能性があります。高齢者では副作用のリスクが高いため、治療開始時の量と増量の割合は特に少なくします。用量は血液中のTSHの濃度が正常値に戻るまで徐々に増やします。妊娠中は用量を増やす必要があります。