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全身性エリテマトーデス(SLE)

(播種性紅斑性狼瘡)

執筆者:

Alana M. Nevares

, MD, The University of Vermont Medical Center

レビュー/改訂 2022年 10月
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やさしくわかる病気事典
本ページのリソース
  • 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。

  • 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。

  • 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こし続けている全身性エリテマトーデス(活動性の全身性エリテマトーデス)の患者には、コルチコステロイドなどの免疫抑制薬も必要です。

全身性エリテマトーデスの患者の約70~90%は、妊娠可能な年齢の女性ですが、小児(ほとんどが女児)や高齢の男女、さらには新生児さえも発症することがあります。この病気は世界各地でみられますが、白人よりも黒人とアジア系の人で多くみられます。

通常、全身性エリテマトーデスの原因は、不明です。ときに、特定の薬の使用(例えば、ヒドララジンやプロカインアミドなど心臓の病気の治療薬や、イソニアジドなど結核の治療薬)が原因で発症することもあります。薬剤性の全身性エリテマトーデスは、その薬の使用を中止することで普通は消失します。

全身性エリテマトーデスで出現する可能性がある抗体の数と種類は、他のどんな病気をも上回っています。その抗体により、どの症状が発生するかが決まることがあります。ただし、体内の抗体の量と症状の重症度は必ずしも比例しません。

慢性皮膚エリテマトーデスと呼ばれることもある円板状エリテマトーデス(DLE)は、全身性エリテマトーデスの一種で、皮膚にのみ病変がみられます。隆起した円形の赤い発疹ができ、ときに進行して患部の皮膚が失われ、その部位が瘢痕(はんこん)化して脱毛します。発疹は、顔面や頭皮、耳など、光の当たる部分の皮膚に集中して起こります。ときとして粘膜(特に口の粘膜)に、発疹やびらんが発生することがあります。10%程度の患者では、全身性エリテマトーデスの症状(例えば関節、腎臓、脳などの異常)もみられます。

亜急性皮膚エリテマトーデス(SCLE)は、主に皮膚を侵す全身性エリテマトーデスの一種で、様々な発疹を引き起こします。この発疹は、広範囲に広がり、現れたり消えたりし、日光が当たると悪化することがあります。腕、顔、体幹に、赤色のリング状または乾癬に似た斑点ができることがあります。SCLEは、瘢痕化を引き起こすことがめったにないという点でDLEと異なります。疲労と関節痛がよくみられますが、SLEで起こることがある内臓の深刻な障害は、通常はみられません。

全身性エリテマトーデスの症状

全身性エリテマトーデスの症状は、人によって大きく異なります。発熱とともに急に発症し、急性感染症に類似している場合もあります。あるいは、数カ月ないし数年にわたって、症状が徐々に現れることもあります。この場合は、発熱、だるさ、または後述する症状のいずれかが、症状がない期間と軽微な期間で交互に現れます(再燃[フレアアップ]と呼ばれます)。ほとんどの患者の症状は軽く、たいていは皮膚と関節にみられます。

関節

関節の症状は、間欠的な関節痛から突然複数の関節に起こる炎症(急性多関節炎)まで幅があり、全身性エリテマトーデス患者の約90%にみられ、他の症状が出現するまで数年間続くこともあります。病気が長期化すると、まれに著しい関節のゆるみや変形(ジャクー関節症または関節炎)が起こることがあります。ただし、関節の炎症は一般に間欠的で、通常は関節に損傷が起こることはありません。

皮膚と粘膜

発疹としては、鼻を越えて両側の頬にまたがる蝶のような形をした赤み(頬部発疹または蝶形紅斑と呼ばれます);皮膚の隆起や斑状の薄い皮膚;顔面、頸部、胸の上部、肘などの日光にさらされる部位に生じる扁平または隆起した赤い領域などがみられます。水疱や皮膚の潰瘍(びらん)はまれですが、粘膜(特に口の中の天井部分、頬の内側、歯ぐき、鼻の内部)には潰瘍がよくできます。

また、手のひらの両面と手の指の背側に生じるまだら状の赤い領域、爪の周囲の発赤と腫れ、指の間に生じる赤紫色の平らな斑点もみられることがあります。血液中の血小板が少ないことで起こる皮膚の内部の出血によって、紫がかった色の斑点(紫斑)ができることもあります。

全身性エリテマトーデスの患者の一部では、日光にさらされることに起因し長期間持続する発疹(光線過敏症)が起こり、特に皮膚の色が薄い人にみられます。

患者は、深呼吸をしたときに痛みを感じることがよくあります。この痛みは、肺を覆う膜(胸膜)に繰り返し発生する炎症(胸膜炎)によるもので、ここに液体(胸水― 胸水の症状 症状 胸水とは、胸腔(厳密には2つの胸膜の間)に液体が異常にたまることや、その液体自体のことをいいます。 胸腔に液体がたまる原因としては、感染症、腫瘍、外傷、心不全、腎不全、肝不全、肺血管の血栓( 肺塞栓症)、薬物など、数多くあります。 症状には、呼吸困難や胸痛などがあり、特に呼吸やせきをしたときに現れます。 診断には、胸部X線検査や胸水の検査が用いられ、CT血管造影検査もよく使用されます。... さらに読む 症状 を参照)がたまる場合と、そうでない場合があります。最終的に、呼吸困難をきたす肺の炎症(ループス肺炎)はまれですが、肺機能の軽微な異常はよくみられます。また、まれではありますが生命を脅かすような肺への出血が起こることがあります。血のかたまり(血栓症)が原因で、肺の動脈に閉塞が起こることもあります。

心臓

全身性エリテマトーデスでは、 心膜炎 急性心膜炎 急性心膜炎は、心膜(心臓を包んでいる柔軟な2層の袋状の膜)の炎症が突然発生する病態で、しばしば痛みを伴い、フィブリン、赤血球、白血球などの血液成分や体液が心膜腔に貯留します。 心膜炎は、特定の感染症や心膜に炎症が起きる病気が原因で発生します。 よくみられる症状は発熱と鋭い胸の痛みで、その胸痛は姿勢や動きによって変化し、まれに心臓発作に似ることがあります。 診断は症状に基づき、また、まれに聴診で特徴的な心音を確認することによって下されます... さらに読む 急性心膜炎 (心臓を包んでいる膜の炎症)のために胸痛がみられることがあります。まれながら、より深刻な心臓への影響として、 狭心症 狭心症 につながる可能性がある冠動脈炎(冠動脈の壁に起きる炎症)と、 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む 心不全 につながる可能性がある 心筋炎 心筋炎 心筋炎とは、心臓の筋肉組織(心筋)に炎症が起きた状態であり、組織の壊死につながります。 心筋炎は、感染症、心臓に影響を与える毒素や薬剤、サルコイドーシスといった全身性疾患など、様々な病気によって引き起こされる可能性がありますが、原因が分からないこともよくあります。 症状は様々ですが、疲労、息切れ、腫れ(浮腫)、心拍の自覚(動悸)、突然死などがみられます。 診断は、心電図検査、心筋バイオマーカーの測定、心臓の画像検査、および心筋生検の結果... さらに読む (心筋の炎症)があります。まれに心臓の弁が侵される可能性もあり、手術による修復が必要になることもあります。全身性エリテマトーデスの患者は、 冠動脈疾患 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患とは、心臓の筋肉(心筋)への血液供給が部分的または完全に遮断されることで起きる病気です。 心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする 冠動脈です。この血管が狭くなる冠動脈疾患では、血流が遮断されて、... さらに読む 冠動脈疾患の概要 のリスクが高い状態にあります。

リンパ節と脾臓

神経系

脳が侵されると(神経精神ループス)、 頭痛 頭痛の概要 頭痛とは、頭部のいずれかの部分(頭皮、首の上部、顔面、頭部の中を含む)に生じる痛みのことです。頭痛は医療機関の受診理由として最も多いものの1つです。 頭痛は仕事や日常生活に支障をきたすこともあります。頭痛が頻繁に起こる人もいれば、めったに起こらない人もいます。 頭痛は重症化して苦痛になることもありますが、重篤な病気が原因であることは多くあ... さらに読む 、軽度の思考障害、人格の変化、 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む けいれん発作 けいれん性疾患 けいれん性疾患では、脳の電気的活動に周期的な異常が生じることで、一時的に脳の機能障害が引き起こされます。 多くの人では、けいれん発作が始まる直前に感覚の異常がみられます。 コントロールできないふるえや意識消失が起こる場合もありますが、単に動きが止まったり、何が起こっているか分からなくなったりするだけにとどまる場合もあります。... さらに読む 、重度の精神障害(精神病)が起こることや、脳にいくつかの物理的変化が起こりうる病気が発生し、 認知症 認知症 認知症とは、記憶、思考、判断、学習能力などの精神機能が、ゆっくりと進行性に低下していく病気です。 典型的な症状は、記憶障害、言語や動作の障害、人格の変化、見当識障害、破壊的または不適切な行動などです。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。 診断は症状と身体診察および精神状態検査の結果に基づいて下されます。 原因を特定するために血液検査と画像検査が行われます。 さらに読む などに至ることがあります。脳以外の神経や脊髄にも、損傷が起こる場合があります。

腎臓

血液

赤血球、白血球、血小板の数が減少することがあります。血小板には、血液の凝固を助ける働きがあるため、血小板の数が大きく減少すると、出血が起こることがあります。また、別の理由から血液が非常に凝固しやすくなっている場合があり、これは他の臓器に生じることがある多くの問題(脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む 肺の血栓 肺塞栓症 肺塞栓症は、血液のかたまり(血栓)や、まれに他の固形物が血液の流れに乗って肺の動脈(肺動脈)に運ばれ、そこをふさいでしまう(塞栓)病気です。 肺塞栓症は、一般に血栓によって発生しますが、別の物質が塞栓を形成して動脈をふさぐこともあります。 肺塞栓症の症状は様々ですが、一般に息切れなどがみられます。... さらに読む 流産 流産 流産とは、妊娠20週未満で胎児が失われることです。 胎児側の問題(遺伝性疾患や先天異常など)によっても母体側の問題(生殖器の構造的異常、感染症、コカインの使用、飲酒、喫煙、けがなど)によっても流産が起こりますが、多くの場合、原因は不明です。 出血や筋けいれんが起こることがありますが、特に妊娠して週数が経過している場合にはよく起こります。 医師は子宮頸部を診察し、通常は超音波検査も行います。... さらに読む を繰り返すなど)の原因となります。

消化管

妊娠

妊娠している女性の患者では、正常よりも 流産 流産 流産とは、妊娠20週未満で胎児が失われることです。 胎児側の問題(遺伝性疾患や先天異常など)によっても母体側の問題(生殖器の構造的異常、感染症、コカインの使用、飲酒、喫煙、けがなど)によっても流産が起こりますが、多くの場合、原因は不明です。 出血や筋けいれんが起こることがありますが、特に妊娠して週数が経過している場合にはよく起こります。 医師は子宮頸部を診察し、通常は超音波検査も行います。... さらに読む 死産 死産 死産とは妊娠20週以降に胎児が死亡することです。 死産は母体、胎盤、または胎児の問題から生じることがあります。 医師は血液検査を行って死産の原因の特定を試みます。 死亡した胎児が排出されない場合は、子宮から内容物の排出を促す薬剤を母体に投与するか、頸管拡張・内容除去という方法により子宮内容物を外科的に除去します。 妊娠合併症は、妊娠中だけに発生する問題です。母体に影響を及ぼすもの、胎児に影響を及ぼすもの、または母子ともに影響を及ぼすもの... さらに読む のリスクが高くなります。妊娠中に再燃がよくみられ、特に分娩直後によくみられます(妊娠中の全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス バセドウ病を含む 自己免疫疾患は女性に多い病気ですが、特に妊婦に多くみられます。自己免疫疾患で作られる異常な抗体は、胎盤を通過できるため、胎児に問題を引き起こす可能性があります。妊娠による影響は自己免疫疾患の種類によって異なります。 血栓が形成されやすい、または過剰に形成される病気である抗リン脂質抗体症候群は、妊娠中、以下の原因となる可能性があります。 流産または 死産 高血圧または... さらに読む も参照)。

過去6カ月の間に全身性エリテマトーデスが制御されていない場合、医師は女性に妊娠しないよう助言します。

全身性エリテマトーデスの診断

  • 医師の診察

  • 臨床検査

全身性エリテマトーデスは、主に徹底的な身体診察でみられた患者の症状から疑われます(特に若い女性の場合)。

診断の確定を助けるために、医師はいくつかの臨床検査を行います。単独で全身性エリテマトーデスの診断が確定する臨床検査はありませんが、これらの検査を行い、他の結合組織疾患の可能性を否定します。その後、症状、身体診察の結果、すべての検査結果など、医師が集めたすべての情報に基づいて全身性エリテマトーデスの診断が下されます。医師は、この情報を利用して、全身性エリテマトーデスの確定に用いられる確立された明確な基準を患者が満たしているかどうかを判断します。それでも症状が多岐にわたるため、類似した別の病気との判別や診断を下すことが難しい場合もあります。

臨床検査

血液検査の結果は全身性エリテマトーデスの診断を下すのに役立ちますが、そこで検出される異常がときとして健康な人や別の病気の人でみられることがあるため、それだけでは全身性エリテマトーデスの診断を確定することはできません。

血液検査では抗核抗体(ANA)を検出できます。全身性エリテマトーデスでは、ほぼすべての患者に、この抗体が存在します。ただし、抗核抗体は、別の病気でも現れます。したがって、抗核抗体が検出された場合には、二本鎖DNAに対する抗体の検査とともに、その他の自己免疫抗体(自己抗体)の検査を行います。DNAに対する抗体の値が高ければ、全身性エリテマトーデスの診断が強く裏付けられますが、すべての全身性エリテマトーデス患者で、これらの抗体が認められるわけではありません。

一部の患者では、補体タンパク質(細菌を死滅させるなど様々な免疫機能をもつタンパク質)の濃度の測定など、他の血液検査も行われます。これらの検査は、この病気の活動性や経過の予測に役立つ可能性があります。

流産を繰り返しているか、血栓による問題がみられる全身性エリテマトーデスの女性は、抗リン脂質抗体の検査を受けるべきです。これは、避妊方法や妊娠について計画するときに重要な検査です。この血液検査でリン脂質に対する抗体が検出されれば、繰り返し血栓ができるリスクが高いことも分かります。リン脂質に対する抗体が陽性の女性は、エストロゲンを含有する経口避妊薬を服用してはならず、他の避妊方法を選択する必要があります。

血液検査では、赤血球数の減少(貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む )、白血球数の減少、血小板数の減少などが判明することもあります。貧血がみられる場合は、直接クームス試験を行います。この検査は、赤血球の表面に付着し赤血球を破壊して貧血を引き起こす可能性がある、特定の抗体が増加していることを検出する目的で行われます。

また、追加の臨床検査を行い、尿中のタンパク質や赤血球の有無(尿検査 尿検査と尿培養検査 尿検査は、検尿とも呼ばれ、 腎疾患や尿路疾患の評価で必要になる場合があり、糖尿病や肝障害などの全身疾患を評価するのにも役立ちます。通常、尿のサンプルは中間尿採取法など、雑菌が混入しない方法(無菌法)で採取されます。例えば、汚染のないきれいな尿サンプルを採取する方法として、カテーテルを尿道から膀胱まで挿入する方法もあります。 尿培養は、採取した尿のサンプルに含まれる細菌を検査室で増殖させる検査で、... さらに読む 尿検査と尿培養検査 )、血液中のクレアチニン濃度の上昇を検出します。これらの所見は、腎臓での血液のろ過を担っている組織(糸球体)の腎臓の炎症(糸球体腎炎 糸球体腎炎 糸球体腎炎は、糸球体(小さな穴が多数あいた微細な血管でできた球状の腎組織で、それらの穴を通して血液がろ過されます)が侵される病気です。糸球体腎炎は、むくみ(浮腫)、高血圧および尿中での赤血球の検出を特徴とします。 糸球体腎炎は、感染症、遺伝性疾患、自己免疫疾患など、様々な病気が原因で発生します。 診断は、血液検査と尿検査の結果に基づいて下され、場合によっては画像検査や腎臓の生検も行われます。... さらに読む )があることを意味します。ときには、治療計画のために腎生検(観察と検査のために組織を採取すること)が行われる場合もあります。全身性エリテマトーデスの患者は、たとえ症状がみられなくても、頻繁に腎障害の検査を受けるべきです(腎機能検査 腎機能検査 腎臓の機能は、血液サンプルと尿サンプルを用いた検査によって評価することができます。 腎機能が大幅に低下すると、老廃物の一種であるクレアチニンの濃度が血液中で上昇します。 単に血液中のクレアチニン濃度を測定するよりも正確な検査項目であるクレアチニンクリアランスは、血液検体から測定したクレアチニン濃度を年齢、体重、性別で補正して概算することができます。クレアチニンクリアランスの値を正確に求めるためには、厳密に時間を計って蓄尿を行うと同時に、... さらに読む を参照)。

全身性エリテマトーデスの予後(経過の見通し)

全身性エリテマトーデスは、慢性で再発する傾向があり、症状のない期間(寛解と呼ばれ数年間続くこともあります)がしばしばみられます。再燃は、日光にさらされること、感染症、手術、または妊娠が引き金となって起こることがあります。閉経後、女性では再燃が少なくなります。

多くの患者が、以前と比べて早期かつ軽度のうちに診断されており、以前よりもよい治療法が利用できるようになっています。その結果、ほとんどの先進国では、95%以上の患者が診断後少なくとも10年は生存します。とはいえ、全身性エリテマトーデスの経過は予測困難なため、予後は実に様々です。通常、初期の炎症がコントロールできれば、長期的な予後は良好です。腎障害を早期に発見して治療すれば、重度の腎疾患の発生率が低下します。しかし、全身性エリテマトーデスの患者は心疾患のリスクが高くなっています。

全身性エリテマトーデスの治療

  • すべての患者に対してヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)

  • 軽度の関節症状に対して非ステロイド系抗炎症薬、軽度の皮膚症状に対してコルチコステロイドのクリーム

  • 重症の場合、コルチコステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬

全身性エリテマトーデスの治療法は、侵されている臓器の種類と炎症の活動性によって異なります。全身性エリテマトーデスでみられる臓器の損傷の重症度は、炎症の活動性と必ずしも一致するわけではありません。例えば、過去に起きた全身性エリテマトーデスの炎症のために臓器が永続的な損傷を受け、瘢痕ができている場合もあります。そのような損傷は、たとえ全身性エリテマトーデスが活動性でなくても(すなわち、その時点では炎症を起こしておらず、臓器にそれ以上の損傷を与えていなくても)「重症」とされることがあります。治療の目標は、全身性エリテマトーデスの活動性を抑えること、すなわち炎症を抑えることであり、それによって新たな損傷やさらなる損傷が防げるはずです。

抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンは、急性増悪を軽減し死亡のリスクを低下させるため、軽症か重症かに関係なく全身性エリテマトーデスの全患者に経口投与されます。ただし、ヒドロキシクロロキンは赤血球を急速に破壊するため、 G6PD欠損症 グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠乏症 グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症は、急性の病気や特定の薬を使用した後に赤血球が破壊されること(溶血)がある遺伝性の病気です。 G6PD欠損症は、赤血球の代謝に関与する酵素の遺伝子異常が原因で起こります。 G6PD欠損症では、急性の病気や薬に反応して赤血球が破壊されます。 赤血球の破壊により、皮膚や白眼の部分が黄色くなったり、暗色の尿が出たり、ときに背部や腹部が痛んだりするなどの症状が引き起こされることがあります。... さらに読む (G6PDは赤血球を特定の有毒化学物質から守る酵素)がある人には投与されません。ヒドロキシクロロキンを何年も服用すると眼の奥が損傷するリスクがわずかに高くなるため、この薬を服用している人は、定期的な眼の診察を受けるべきです。

軽度から中等度の全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデスの活動性がそれほど高くなく、関節または皮膚の軽度の症状を引き起こしている場合は、集中的な治療は必要でないこともあります。 非ステロイド系抗炎症薬 非ステロイド系抗炎症薬 痛み止め(鎮痛薬)は、痛みの治療に使用される主な薬剤です。医師が痛み止めを選択する際には、痛みの種類および持続期間と、それぞれの痛み止めで予想されるベネフィットとリスクを考慮します。ほとんどの痛み止めは侵害受容性疼痛(損傷による痛み)に対しては効果がありますが、 神経障害性疼痛(神経、脊髄、脳の損傷や機能障害による痛み)に対してはあまり効果がありません。多くのタイプの痛み(特に... さらに読む (NSAID)は、しばしば関節痛を軽減できますが、通常、中断せずに長期間使用してはいけません。ヒドロキシクロロキン、クロロキン、キナクリンなどの抗マラリア薬が、皮膚と関節の症状を軽減し、再燃の頻度を下げるのに役立ちます。

コルチコステロイドのクリームや軟膏とヒドロキシクロロキンで皮膚の症状が軽減しない場合は、ヒドロキシクロロキンとキナクリンの組合せ、またはヒドロキシクロロキンとメトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、もしくはアザチオプリンの組合せを使用します。頻繁に再燃がみられる場合は、全身性エリテマトーデス患者の自己免疫反応に関与する特定の白血球の活性を低下させる薬であるベリムマブを投与することもあります。

重度の全身性エリテマトーデス

重度かつ活動性の全身性エリテマトーデスで腎臓または脳が侵されているか、肺出血が起きている場合は、直ちに治療を開始し、通常はコルチコステロイドのメチルプレドニゾロンを静脈内投与します(を参照)。その後、コルチコステロイドのプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)を経口投与します。用量と投与期間は、侵された臓器によって異なります。体内の自己免疫による攻撃を抑制するため、免疫抑制薬のシクロホスファミドも使用されます。ミコフェノール酸モフェチルは、シクロホスファミドと同程度に有効で毒性は低いため、腎臓を侵す重度の全身性エリテマトーデスに対する代替薬としてよく使用されます。一部の患者では、ベリムマブ、ボクロスポリン、アニフロルマブなどの他の免疫抑制薬も、全身性エリテマトーデスの症状を軽減するのに役立ちます。

末期の腎疾患がある場合は、透析の代わりに腎移植を受けることがあります。

血液に特定の問題がある場合は、アザチオプリンやミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制薬とともに、中等量または高用量のコルチコステロイドが経口投与されます。また、免疫グロブリン製剤(様々な抗体を大量に含む物質)が静脈内に投与されることもあります。これらの治療で効果がみられない場合は、免疫抑制薬であるリツキシマブを使用することがあります。

神経系に異常がある場合は、シクロホスファミドまたはリツキシマブが静脈内に投与されることがあります。

血栓が発生した場合は、ヘパリンやワルファリンなどの抗凝固薬(血液をサラサラにする薬と呼ばれることがある薬)を使用します。

重度の全身性エリテマトーデスの患者は、4~12週間の治療の後に症状が軽くなったと感じることがよくあります。

薬による維持療法

初期の炎症がコントロールできたら、医師は、炎症を長期間にわたって最も効果的に抑制するために必要となる、コルチコステロイドやその他の炎症を抑える薬(抗マラリア薬や免疫抑制薬など)の最低用量を決定します。通常、症状が抑えられて臨床検査の結果で改善が認められれば、プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)の用量は徐々に減量されます。しかし、その過程で再発や再燃が起こる可能性もあります。全身性エリテマトーデスの患者の大半では、最終的にはプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)の用量を減らすか使用を中止できる場合があります。高用量のコルチコステロイドを長期間使用すると多くの副作用が生じるため、高用量のコルチコステロイドを長期間使用する必要がある患者には、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチルなどの代替薬を使用します。

コルチコステロイドの長期的な使用は、 骨粗しょう症 骨粗しょう症 骨粗しょう症とは、骨密度の低下によって骨がもろくなり、骨折しやすくなる病態です。 加齢、エストロゲンの不足、ビタミンDやカルシウムの摂取不足、およびある種の病気によって、骨密度や骨の強度を維持する成分の量が減少することがあります。 骨粗しょう症による症状は、骨折が起こるまで現れないことがあります。... さらに読む 骨粗しょう症 の原因となることがあるため、コルチコステロイドを使用する患者は、定期的に骨粗しょう症の検査を受け、必要であれば治療を受けます。長期間にわたって高用量のコルチコステロイドを使用する患者には、骨粗しょう症の予防に役立てるために、骨密度が正常な場合でも、 カルシウムとビタミンDのサプリメント カルシウムとビタミンD 骨粗しょう症とは、骨密度の低下によって骨がもろくなり、骨折しやすくなる病態です。 加齢、エストロゲンの不足、ビタミンDやカルシウムの摂取不足、およびある種の病気によって、骨密度や骨の強度を維持する成分の量が減少することがあります。 骨粗しょう症による症状は、骨折が起こるまで現れないことがあります。... さらに読む カルシウムとビタミンD 、および ビスホスホネート系薬剤 薬剤 骨粗しょう症とは、骨密度の低下によって骨がもろくなり、骨折しやすくなる病態です。 加齢、エストロゲンの不足、ビタミンDやカルシウムの摂取不足、およびある種の病気によって、骨密度や骨の強度を維持する成分の量が減少することがあります。 骨粗しょう症による症状は、骨折が起こるまで現れないことがあります。... さらに読む 薬剤 が投与されることがあります。

免疫抑制薬の投与を受けている患者には、真菌のニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)などによる感染症を予防するための薬(易感染状態にある人の肺炎の予防 予防 肺炎は肺の感染症です。免疫機能が低下している人または免疫系に異常がある人(例えば、後天性免疫不全症候群[エイズ]、がん、臓器移植、特定の薬剤の使用による)では、しばしば、健康な人とは異なる原因微生物によって肺炎が引き起こされます。 免疫機能が低下していると、健康な人にはほとんど病気を引き起こすことのない微生物が原因で肺炎が発生することがあります。 その症状は多様ですが、息切れ、せき、発熱などがあります。... さらに読む を参照)のほか、 肺炎 肺炎球菌ワクチン 肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae(肺炎双球菌)によって引き起こされる細菌感染症の予防に役立ちます。 肺炎球菌感染症としては、 耳の感染症、 副鼻腔炎、 肺炎、 血流感染症、 髄膜炎などがあります。 詳細については、CDCによる肺炎球菌結合型(PCV13)ワクチン説明書(Pneumococcal Conjugate (PCV13)... さらに読む インフルエンザ インフルエンザワクチン インフルエンザウイルスワクチンは インフルエンザの予防に役立ちます。米国では、A型とB型の2種類のインフルエンザウイルスが定期的にインフルエンザの季節的流行を引き起こしています。どちらの種類にも、多くのウイルス株が存在します。インフルエンザの大流行を引き起こすウイルス株は毎年変わります。このため、毎年新しいワクチンが必要になります。それぞれの年のワクチンは、研究者が翌年に流行すると予測した3~4種のウイルス株を標的とします。... さらに読む COVID-19 COVID-19ワクチン 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンは、COVID-19に対する予防効果をもたらします。 COVID-19は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染によって引き起こされる病気です。現在、COVID-19に対する複数のワクチンが世界中で使用されています(COVID-19ワクチンの最新動向[COVID-19 Vaccine Tracker]を参照)。このトピックについては、米国で現在使用されているワクチンの... さらに読む などの一般的な感染症に対するワクチンも投与します。

他の病気と妊娠

全身性エリテマトーデスの患者にとっては、手術と妊娠は、より複雑な問題であり、医師による綿密な監督が必要です。妊娠している場合は、妊娠中ずっとヒドロキシクロロキンを使用するべきで、さらに低用量のアスピリンが投与されることもあります。血栓のリスクがある妊婦には、ヘパリンが投与されることがあります。流産や妊娠中の再燃がよくみられます。

再燃中は妊娠を避けるべきです。ミコフェノール酸モフェチルは先天異常の原因となるため、病気が6カ月以上にわたって良好にコントロールされるまで、妊娠を待つべきです(妊娠中の全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス バセドウ病を含む 自己免疫疾患は女性に多い病気ですが、特に妊婦に多くみられます。自己免疫疾患で作られる異常な抗体は、胎盤を通過できるため、胎児に問題を引き起こす可能性があります。妊娠による影響は自己免疫疾患の種類によって異なります。 血栓が形成されやすい、または過剰に形成される病気である抗リン脂質抗体症候群は、妊娠中、以下の原因となる可能性があります。 流産または 死産 高血圧または... さらに読む を参照)。寛解状態で、妊娠を考えているが、薬による維持療法を続ける必要がある女性では、通常、妊娠の6カ月以上前にミコフェノール酸モフェチルからアザチオプリンに切り替えます。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  • 米国ループス財団(Lupus Foundation of America):全身性エリテマトーデスとともに生きることに関する情報と現在進められている全身性エリテマトーデスの研究に関する情報を提供しています。

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