免疫機能が低下していると、健康な人にはほとんど病気を引き起こすことのない微生物が原因で肺炎が発生することがあります。
その症状は多様ですが、息切れ、せき、発熱などがあります。
しばしば胸部X線検査と、たんや血液のサンプルを調べる検査とを組み合わせて、診断が下されます。
この肺炎の治療には、抗菌薬または抗真菌薬もしくは抗ウイルス薬が用いられ、免疫系に異常があればそれも治療します。
易感染状態にある人とは、免疫系の機能が弱いまたは障害されている人です。人体は 免疫システム(免疫系) 免疫反応 人体は自然障壁と免疫システム( 免疫系)によって 感染症の原因となる微生物から守られています。( 様々な防御線も参照。) 自然障壁には、皮膚、粘膜、涙、耳あか(耳垢)、粘液、胃酸などがあります。また、尿も正常に流れることによって、尿路に侵入した微生物を洗い流します。 免疫系は 白血球と 抗体を使って、身体の自然障壁をかいくぐって侵入してきた微生物を見つけて排除します。 ( 感染症の概要も参照のこと。)... さらに読む によって感染症の原因となる微生物から守られています。
免疫機能が低下している患者では、通常は肺炎の原因とはならないものを含め、多くの微生物によって肺炎が引き起こされることがあります。免疫系を弱める条件は、以下のものを含め、数多くあります。
がんやがんの治療に用いられる化学療法の薬剤
白血球の欠陥
一部の薬剤(コルチコステロイド、化学療法の薬剤、自己免疫疾患または結合組織疾患の治療に用いられる薬剤など)
(肺炎の概要 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む も参照のこと。)
原因
免疫機能が低下している患者では、肺炎が 市中肺炎を引き起こす微生物 原因 市中肺炎は、病院外の人に発生する肺の感染症です。 多くの細菌、ウイルス、真菌が原因となります。 肺炎で最もよくみられる症状は、たんがからんだせきですが、胸痛、悪寒、発熱、息切れもよくみられます。 医師は、聴診器で肺の音を聞き、胸部のX線やCT画像を見て、市中肺炎を診断します。 肺炎の原因と考えられる微生物に応じて、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬が使用されます。 さらに読む と同じ微生物によって発生することもありますが、他のまれな微生物が原因となることもあります。
ニューモシスチス・イロベチイ Pneumocystis jirovecii は、健康な人の肺の中では害を及ぼすことなく生存しているありふれた真菌です。この真菌が肺炎を起こすのは、通常はエイズ、臓器移植、がん、免疫系を弱める薬剤の使用などによって、 体の防御機能が低下 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む した場合に限られます。多くの場合、ニューモシスチス(P. jirovecii)肺炎は、 ヒト免疫不全ウイルス ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む
(HIV)に感染した患者がエイズを発症したことを示す最初の徴候です。
免疫機能が低下している人は、 アスペルギルス アスペルギルス症 アスペルギルス症は、アスペルギルス属 Aspergillusの真菌によって引き起こされる通常は肺の感染症です。 肺や副鼻腔内に、菌糸、血液のかたまり、白血球が絡まった球状のかたまりが形成されます。 症状が出ない人もいますが、せきに血が混じったり、発熱、胸痛、呼吸困難が生じる人もいます。 真菌が肝臓や腎臓に広がると、それらの臓器の機能が低下することがあります。 診断のためには通常はX線検査かCT(コンピュータ断層撮影)検査を... さらに読む や カンジダ カンジダ症 カンジダ症は、カンジダ・アルビカンス Candida albicansをはじめとする数種類のカンジダ属 Candidaの真菌によって引き起こされる感染症です。 最もよくみられる病型は、口、腟、皮膚の表面に感染が起きるもので、白や赤の斑点が生じ、かゆみや刺激感、またはその両方を引き起こします。 免疫機能が低下している人では、食道やほかの内臓に重篤な感染症が起こることがあります。... さらに読む
などの真菌、 黄色ブドウ球菌 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症 黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusは多くの一般的なブドウ球菌の中で最も危険とされています。この グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 主な細菌の形」を参照)は、しばしば皮膚感染症を引き起こしますが、肺炎、心臓弁の感染症、骨の感染症を引き起こすこともあります。 これらの細菌は、感染者と直接接触したり、汚染された物を使用したり、くしゃみやせきによって飛び散った飛沫を吸引することで感染します。... さらに読む
、 肺炎球菌 レンサ球菌感染症 レンサ球菌感染症は、レンサ球菌属 Streptococcusの細菌によって引き起こされる感染症です。これらの グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 主な細菌の形」を参照)は、レンサ球菌咽頭炎、肺炎のほか、創傷、皮膚、心臓弁、血流の感染症など、多くの病態を引き起こします。 種類の異なる菌株が異なった経路で拡大し、例えば、せきやくしゃみ、感染が生じた傷や褥瘡(床ずれ)、経腟分娩(母親から新生児へ)を介して感染します。... さらに読む 、 インフルエンザ菌 インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)感染症 グラム陰性細菌の一種であるインフルエンザ菌 Haemophilus influenzaeは、気道の感染症を引き起こし、それが他の臓器に広がることもあります。 この感染症はくしゃみ、せき、接触によって広がります。 この細菌は中耳の感染症や副鼻腔炎のほかにも、髄膜炎や喉頭蓋炎、さらには呼吸器感染症など、より重篤な感染症を引き起こします。 血液や感染組織のサンプル中でこの細菌が特定されれば、診断が確定します。... さらに読む などの細菌、 サイトメガロウイルス サイトメガロウイルス(CMV)感染症 サイトメガロウイルス感染症はよくみられるヘルペスウイルス感染症で、症状が出ないものから、発熱と疲労感が出るもの(伝染性単核球症に似たもの)、また、眼や脳、その他の内臓を侵す重い症状が生じるものまで、症状は多岐にわたります。 この ウイルスは、体の分泌物と接触(性的接触とそれ以外の接触の両方)することで感染します。 ほとんどの人では何の症状もみられませんが、気分が悪くなって熱が出る場合もあり、免疫機能が低下している人が感染すると、失明など... さらに読む や 単純ヘルペスウイルス 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症では、皮膚、口、唇(口唇ヘルペス)、眼、性器に、液体で満たされた、痛みのある小さな水疱が繰り返し発生します。 非常に感染力の強い ウイルス感染症であり、潰瘍に直接触れたり、ときには潰瘍がない場合でも患部に触れることで感染します。 ヘルペスウイルスは口の中や 性器に水疱や潰瘍を引き起こし、最初の感染時にはしばしば発熱と全身のけん怠感を伴います。... さらに読む
などのウイルスにより、肺炎になることがあります。
症状
免疫機能が低下している人の肺炎の症状は、 市中肺炎 症状 市中肺炎は、病院外の人に発生する肺の感染症です。 多くの細菌、ウイルス、真菌が原因となります。 肺炎で最もよくみられる症状は、たんがからんだせきですが、胸痛、悪寒、発熱、息切れもよくみられます。 医師は、聴診器で肺の音を聞き、胸部のX線やCT画像を見て、市中肺炎を診断します。 肺炎の原因と考えられる微生物に応じて、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬が使用されます。 さらに読む の症状と同じで、具体的には以下のものがあります。
全身のだるさ(けん怠感)
たん(粘り気が強いまたは変色した粘液)がからんだせき
息切れ
発熱
悪寒
胸痛
症状は急速に現れることもあれば徐々に現れることもあります。
ニューモシスチス(P. jirovecii)肺炎の患者のほとんどに、発熱、息切れ、乾いたせきがみられ、多くの場合これらの症状が徐々に発生します。肺が血液に十分な酸素を供給できなくなって、息切れをきたすことがあり、ときには重症化します。
診断
胸部X線検査
たん(粘り気が強いまたは変色した粘液)のサンプルを顕微鏡で調べる
血液培養検査
パルスオキシメトリー
免疫機能が低下している人の肺炎の診断は、症状、胸部X線検査またはCT検査の結果、たんと血液の検査の結果に基づいて下されます。
胸部X線検査では異常が示されないこともあれば、感染症の徴候がみられることもあります。
たんのサンプルを採取するために、医師は蒸気を吸入させて深いせきをさせたり(これによりたんが出やすくなります)、 気管支鏡 気管支鏡検査 気管支鏡検査とは、気管支鏡(観察用の管状の機器)を用いて発声器(喉頭)や気道を直接観察することです。 気管支鏡の先端にはカメラが付いていて、これによって太い気道(気管支)から肺の内部を観察できます。医師は、気管支鏡に小さな器具を通し、肺や気道組織のサンプルを採取して、肺疾患の診断や一部の肺疾患の治療に役立てることもできます。気管支鏡には、柔軟なもの(軟性気管支鏡)と硬いもの(硬性気管支鏡)があります。気管支鏡によるほとんどの処置(特に診... さらに読む (カメラの付いた柔軟な細い管状の機器)を気道に挿入したりすることがあります。せきを誘発させて採取したたんのサンプルや、特に気管支鏡により採取したサンプルは、唾液を含んでいる可能性が低く、自発的に吐き出したたんのサンプルよりも肺炎の原因微生物をはるかに特定しやすくなります。
医師は通常は血液サンプルを採取し、検査室で細菌を増殖させる検査(培養検査)と病原体の特定を試みます。
免疫機能が低下している人は、血中の酸素濃度が低いことがあります。医師は、指や耳たぶにセンサーを取り付けることで、血液サンプルを採取せずに血液中の酸素レベルを測定できます。この検査で使用する機器は パルスオキシメーター パルスオキシメトリー 動脈血ガス検査では、動脈血中の酸素と二酸化炭素レベルを測定し、動脈血の酸性度(pH)を判定します。針で動脈から血液を採取する際は、数分の間不快感を伴うかもしれません。通常は、手首の動脈(橈骨動脈)から血液を採取します。肺がどの程度酸素を血液中に取り込めているか、どの程度二酸化炭素を血液中から排出できているかを知るには、酸素レベル、二酸化炭素レベル、酸性度が重要な指標となります。... さらに読む と呼ばれます。
予後(経過の見通し)
治療を行った場合でも、全般的に元気な 市中肺炎 市中肺炎 市中肺炎は、病院外の人に発生する肺の感染症です。 多くの細菌、ウイルス、真菌が原因となります。 肺炎で最もよくみられる症状は、たんがからんだせきですが、胸痛、悪寒、発熱、息切れもよくみられます。 医師は、聴診器で肺の音を聞き、胸部のX線やCT画像を見て、市中肺炎を診断します。 肺炎の原因と考えられる微生物に応じて、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬が使用されます。 さらに読む 患者に比べると全体の死亡率は高く、その理由として、免疫系に異常がある患者では感染症の治療が難しいことや、このような人たちは肺炎を発症する前から健康状態が悪いことなどが挙げられます。
ニューモシスチス(P. jirovecii)肺炎患者の死亡率は高いです。
予防
医師はしばしば、免疫系を強化する治療や、肺炎を予防する治療を行います。例えば、がんの治療により免疫機能が低下している患者には、顆粒球コロニー刺激因子と呼ばれる薬剤を投与して、白血球(感染に対する防御を担う細胞)の産生を促すことがあります。
細菌に引き起こされる肺炎にかかるリスクがある患者には、 肺炎球菌 肺炎球菌ワクチン 肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae(肺炎双球菌)によって引き起こされる細菌感染症の予防に役立ちます。 肺炎球菌感染症としては、 耳の感染症、 副鼻腔炎、 肺炎、 血流感染症、 髄膜炎などがあります。 詳細については、CDCによる肺炎球菌結合型(PCV13)ワクチン説明書(Pneumococcal Conjugate (PCV13)... さらに読む や インフルエンザ菌 インフルエンザ菌 Haemophilus influenzae b型ワクチン インフルエンザ菌 Haemophilus influenzae b型(Hib)ワクチンは、 肺炎や 髄膜炎など、 Hibによる細菌感染症の予防に役立ちます。このような感染症は小児では重篤化することがあります。ワクチンの接種により、小児での重篤なHib感染症の発生率は99%低下しました。このような感染症は、免疫系と脾臓(ひぞう)の機能が正常な成人ではまれです。 数種類のワクチン製剤が利用できます。... さらに読む に対するワクチンを接種します。
ニューモシスチス(P. jirovecii)肺炎のリスクが高い人には、トリメトプリム/スルファメトキサゾール配合剤(ST合剤)という2種類の抗菌薬を配合した薬剤を予防に使うことができます。この薬剤の副作用には、発疹、感染防御を担う白血球数の減少、発熱などがあり、特にエイズ患者によくみられます。他の予防薬としてジアフェニルスルホンまたはペンタミジンがあります。
治療
抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬
免疫系に異常があれば治療する
肺炎の治療法は以下の要素に応じて異なります。
具体的な免疫系の異常
病気の重症度
原因の可能性がある微生物
医師は通常、多くの細菌に効果がある抗菌薬(広域抗菌薬)を投与します。それでも患者の状態が改善しない場合は、ウイルスまたは真菌に対して効果のある薬剤を追加することがあります。
免疫系に異常がある人では、肺炎を治療する上で、 免疫系を改善する 治療 免疫不全疾患では、免疫系が正常に働かないことにより、通常に比べて感染症を頻繁に発症したり、繰り返したり、感染症が重症化したり、長引いたりします。 免疫不全疾患は通常、薬の使用や、がんなどの長期間に及ぶ重篤な病気が原因で発症しますが、遺伝性の場合もあります。 この病気になると感染症を繰り返すだけでなく、普通の人がかからないような感染症が起き... さらに読む 治療も重要です。免疫系を抑制する薬(化学療法の薬剤や、自己免疫疾患の治療薬など)は、感染症が治癒するまで、一時的に中止する必要があります。
ニューモシスチス(P. jirovecii)肺炎の患者には、トリメトプリム/スルファメトキサゾールという抗菌薬の配合剤が投与されます。代替薬はジアフェニルスルホン、アトバコン、クリンダマイシン、ペンタミジンです。また、プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などのコルチコステロイドを投与することもあります。