小児虐待の概要

(子ども虐待)

執筆者:Alicia R. Pekarsky, MD, State University of New York Upstate Medical University, Upstate Golisano Children's Hospital
レビュー/改訂 2020年 12月
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小児虐待は,小児に対する常軌を逸した行動であり,身体的または情緒的な危害を与える多大なリスクを伴う。一般的に4種の虐待が認識されている;身体的虐待,性的虐待,情緒的虐待(心理的虐待)【訳注:米国では"emotional abuse"と"psychological abuse"が同義で使用されている[参考:NATIONAL CHILD ABUSE AND NEGLECT DATA SYSTEM (NCANDS) GLOSSARY]】,ネグレクトである。小児虐待の原因は様々であり,完全には解明されていない。虐待およびネグレクトは,しばしば身体的損傷,発育および発達の遅れ,精神的問題に関連する。診断は,病歴,身体診察,ときに臨床検査および診断的画像検査に基づく。マネジメントには,あらゆる傷害や緊急の身体的および精神的病態の治療と記録,適切な州当局への報告義務の遂行,ならびに場合によっては被害児の安全を守るための入院措置および/または里親養育(foster care)の利用が含まれる。

2018年には,米国のChild Protective Services(CPS)に780万人の小児に対する430万件の小児虐待の疑い例が報告された。これらの報告のうち約240万件が精査され,約678,000例の小児虐待が同定された。全体としては男女差はみられなかったが,身体的虐待の頻度は男児の方が高かった。年少の小児ほど被害者となる割合が高かった。

Child Protective Servicesへの全報告のうち約5分の3が,虐待の報告を義務づけられた専門職(例,教師,法執行機関職員,ソーシャルサービス職員,法律専門家,保育士,医療保健士,精神衛生士,里親養育提供者)からのものであった。

2018年に米国で確認された事例のうち,ネグレクトのみは60.8%(医療ネグレクトを含む),身体的虐待のみは10.7%,性的虐待のみは7%であった。多くの被害児(15.5%)が複数の種類の虐待を受けていた。

2018年には米国で約1770人の小児が虐待により死亡し,そのうち約半数が1歳未満であった。そのような小児の約80%がネグレクトの犠牲者で,46%が身体的虐待のみか,他の虐待を伴う身体的虐待の被害を受けていた。加害者の約80%が親で,単独で行っている場合と他者が関与している場合があった(1).

米国では加害者疑いとされる定義が州によって若干異なるが,一般に虐待とみなされるには,その小児の福祉について責任を負っている人物が虐待行為を行っている必要がある。そのため,親やその他の親族,その小児の家に住んでいてときに責任を負う者,教師,バスの運転手,カウンセラーなどが加害者となる可能性がある。無関係の人物が,関係も責任もない小児に対して暴力を振るった場合(例,学校での銃撃事件など),暴行や殺人などの罪にはなるが,小児虐待を犯したことにはならない。

総論の参考文献

  1. 1.US Department of Health & Human Services, Administration for Children and Families, Administration on Children, Youth and Families, Children's Bureau: Child maltreatment 2018 (2020).Available at the Children's Bureau web site.

分類

様々な形態の虐待がしばしば同時に存在し,かなりの重複がみられる。主な形態として以下の4つがある:

  • 身体的虐待

  • 性的虐待

  • 情緒的虐待

  • ネグレクト

子どもの身体症状を意図的に捏造したり,偽ったり,誇張したりした結果,有害となりうる医学的介入を受けさせる行為は,虐待の一形態(医療現場における虐待)とみなされる。

身体的虐待

身体的虐待とは,養育者が身体的危害を加えること,または危害を生むリスクの高い行為を行うことである。養育者でない者や小児に対して責任のある立場にない者(例,学校での銃乱射事件の銃撃犯)による暴行は,特に小児虐待ではない。具体的な形態として,揺する,落とす,打つ,噛む,熱傷を負わせる(例,熱湯をかける,タバコを押しつける)などがある。虐待は乳児における重篤な頭部損傷の最も頻度の高い原因である。幼児では腹部損傷もよくみられる。

乳幼児が経る発達段階(例,仙痛,一貫性のない睡眠パターン,かんしゃく発作,トイレトレーニング)によって養育者はストレスを感じることがあるため,乳幼児が最も被害者となりやすい。またこの年齢群は虐待を報告できないためリスクが高くなる。リスクは学齢期早期に低下する。

性的虐待

成人または年長の小児が自身の性的満足を得るために小児に対して行う全ての行為は性的虐待とみなされる( see page 小児性愛障害)。性的虐待の形態には,性交(口腔,肛門,または腟への挿入);性的いたずら(性交を伴わない性器接触);加害者の性器を露出する,小児に性的に露骨なものを見せる,他児との性行為や性的な物の作製に強制的に参加させるなどの加害者による身体的接触を伴わないものなどがある。

性的虐待には性的な遊び(年齢の近い小児が暴力や強制なく互いの陰部を見せ合ったり触れ合ったりする)は含まれない。性的な遊びと性的虐待を区別するガイドラインは州により異なるが,一般に4歳(暦年齢,または精神もしくは身体の発達年齢)を超える年齢差がある個人間の性的接触は適切でないと判断される。

情緒的虐待

情緒的虐待は言葉や行動を用いて情緒的に損傷を与えることである。特異的な形態として,怒鳴ったり叫んだりして激しく叱りつける,能力や成績をけなし拒絶する,脅して威圧・威嚇する,逸脱または犯罪行動を促して小児を利用するまたは堕落させるなどがある。情緒的虐待は,言葉や行動を省いたり控えたりしても起こりうるものであり,本質的に情緒的ネグレクトとなる(例,無視または拒絶,他の子どもや大人との交流からの隔離)。

医療現場における虐待

医療現場における小児虐待(以前は代理ミュンヒハウゼン症候群と呼ばれ,現在は精神疾患の診断・統計マニュアル DSM-5[Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition]において他者に負わせる作為症と呼ばれている)は,養育者が意図的に小児に実際の身体症状や精神症状またはその徴候を作り出したりそのように見せかけたりする場合に生じる。養育者が子どもを薬物やその他の物質で傷つけたり,尿検体に血液や細菌汚染物を加えるなどにより病気を装う。この種の小児虐待の被害児は,不必要かつ有害または有害となりうる評価,検査,および/または治療を受けることになる。

ネグレクト

ネグレクトとは,小児の基本的な身体的,情緒的,教育的,および医学的な要求を満たさないことである。ネグレクトは,危害を加える意図なく起こるのが通例であるという点で虐待とは異なる。

ネグレクトの種類は以下のように定義される:

  • 身体的ネグレクトには,十分な食事,衣類,居住環境,監督,および潜在的危害からの保護などを与えないことが含まれる。

  • 情緒的ネグレクトとは,愛情またはその他の情緒的支援を与えないことである。

  • 教育的ネグレクトとは,小児を学校に入学させないこと,出席できる環境を確保してやらないこと,または自宅での教育を行わないことである。

  • 医療ネグレクトとは,外傷や身体的または精神的疾患に対して適切なケアや必要な治療を受けさせないことである。

ただし,予防的ケア(例,予防接種,定期的な歯科検診)を受けさせないことは必ずしもネグレクトとはみなされない。

文化的因子

重い体罰(例,むちで打つ,火や熱湯で熱傷を負わせる)は明らかに身体的虐待であるが,比較的程度の軽い身体的および情緒的折檻の場合,社会的に許容される行動と虐待との境界は文化により様々である。同様に,特定の文化的慣習(例,女性性器切除)はあまりに極端であるために米国では虐待の要件を満たす。 しかしながら,特定の民間療法(例,コインマッサージ,カッピング,刺激性の湿布)では,許容可能な文化的慣習と虐待の線引きが曖昧となりうる病変(例,皮下出血,点状出血,軽微な熱傷)がしばしば生じる。

特定の宗教的および文化的集団のメンバーは救命治療(例,糖尿病性ケトアシドーシスまたは髄膜炎に対する治療)を受けないことがあり,その結果,小児が死亡する場合がある。そのような行動は親または養育者の信条にかかわらず,典型的にはネグレクトとみなされる。さらに米国では,特定の人々および文化的集団が安全性に関する懸念を理由として,子どものワクチン接種を拒否することが増えている( see page ワクチン忌避)。このワクチン接種拒否が真の医療ネグレクトかどうかは不明である。しかし,科学的かつ医学的に許容されている治療を疾病の際に拒否することについては,さらなる調査およびときに法的介入がしばしば必要となる。

病因

虐待

概して,虐待は親または養育者の衝動抑制の破綻に原因を帰することができる。いくつかの因子が寄与する。

親の特質およびパーソナリティが一因となりうる。親自身の小児期に,愛情や温もりが欠け自尊心や情緒的成熟の発達が十分に促されなかった可能性があり,多くの症例で他の形態の虐待もみられている。虐待を行う親たちは,無制限かつ無条件の愛情の源として我が子をみなし,自分が一度も得たことがない支えとしての役割を我が子に期待することがある。その結果として,親は子が自分に与えることができるものに対し非現実的な期待を抱き,苛立ちやすくなって衝動の抑制が不十分となり,自身が一度も経験していないものを子に与えることができない可能性がある。薬物またはアルコールの使用によって,子に対する衝動的で抑制不能の行動が引き起こされることがある。親の精神障害も虐待リスクを高める。

児が短気である,手がかかる,または多動である場合に,典型的な発達過程にある小児よりも親への依存度が高くなることが多い重度障害児や身体障害児の場合と同様,親のかんしゃくが引き起こされることがある。ときに情緒的な強い絆が親子の間に形成されないことがある。このような絆の欠如は,乳児期早期に親から分離された早産児や病児,または生物学的血縁関係のない児(例,継子)でより高頻度に生じ,虐待リスクが高くなる。

状況的ストレスにより虐待が誘発されることがあり,特に親族,友人,隣人,仲間からの情緒面の支援が得られない場合にその傾向が強くなる。

身体的虐待,情緒的虐待,およびネグレクトは,貧困や社会経済的地位の低さに関連する。しかしながら,性的虐待を含めた全ての種類の虐待が社会経済集団のあらゆる層で発生する。性的虐待のリスクは,数名の養育者がいるか,または1人の養育者に複数のセックスパートナーがいる小児で高くなる。

ネグレクト

ネグレクトは通常,不十分な育児技能,ストレス対処能力の不足,支援が得られない家庭環境,ストレスの多い生活環境など,複数の因子が組み合わさって生じる。ネグレクトは経済的かつ環境ストレスのある貧困家庭で発生することが多く,特に親に未治療の精神障害(典型的にはうつ病,双極性障害,または統合失調症)や薬物またはアルコール乱用,知的障害などがみられる場合にその傾向が強い。片親家庭の小児では,収入が低く利用可能な資源が少ないことによるネグレクトのリスクが生じる。

症状と徴候

症状と徴候は,虐待またはネグレクトの性質と期間に依存する。

身体的虐待

皮膚病変がよくみられる;具体例を以下に挙げる:

  • 叩くまたはつかんで揺することによる手掌もしくは指先の跡

  • ベルトでの鞭打ちによる帯状の長い斑状出血

  • 延長コードでの鞭打ちによる細い弓状の皮下出血

  • タバコによる複数の小さな円形熱傷

  • 故意の浸漬による上肢または下肢,殿部の対称性熱傷

  • 咬み跡

  • 猿ぐつわによる口角部の瘢痕または皮膚の肥厚

  • 抜毛行為によるまだらな脱毛(毛髪の長さも不均一)

しかし,皮膚所見は軽微なことの方が多い(例,顔面および/または頸部の小さい皮下出血,点状出血)(1)。

身体的虐待を強く示唆する骨折としては,古典的な骨幹端病変,肋骨骨折,棘突起骨折などがある。身体的虐待に合併する頻度が最も高い骨折としては,頭蓋骨骨折,長管骨骨折,肋骨骨折などがある。1歳未満の小児に生じる骨折の約75%は他者が負わせたものである。

錯乱および局所的な神経学的異常が中枢神経系の損傷に伴って起こりうる。視認できる頭部病変の欠如は,乱暴に揺さぶられた乳児では特に,外傷性脳損傷を除外するものではない。そのような乳児は,明らかな損傷の徴候がない(よくある例外は網膜出血である)にもかかわらず,脳損傷により昏睡または昏迷状態に陥るか,もしくはむずかり,嘔吐などの非特異的徴候を呈する。胸部または腹部/骨盤内臓器の外傷性損傷も,視認可能な徴候なしに起こりうる。

頻繁に虐待を受けている小児は,しばしばおびえて過敏となり,眠りが浅くなる。また抑うつ心的外傷後ストレス反応または不安などの症状を示す可能性がある。ときに虐待の被害者が注意欠如・多動症(ADHD)に似た症状を呈することがあり,注意欠如・多動症と誤って診断されることがある。暴力行動または自殺行動が起こりうる。

パール&ピットフォール

  • 視認できる頭部病変の欠如は外傷性脳損傷を除外するものではない。

性的虐待

ほとんどの例において,被害児は性的虐待を自ら告白せず,性的虐待の行動徴候または身体徴候を示すことはまれである。虐待が発覚したとしても,一般にその時期は遅く,ときに何日も何年も経過した後になる。症例によっては,突然のまたは極端な行動変化がみられる場合もある。恐怖症や睡眠障害と同様に,攻撃性または引きこもりを生じることがある。性的虐待を受けた小児の中には,性的に年齢不相応な行動を取る小児がいる。

性交を伴う性的虐待の身体徴候として,以下のものが挙げられる:

  • 歩行または着座の困難

  • 性器,肛門,または口周辺の挫傷または裂傷

  • 帯下,性器出血,または腟のそう痒

その他の臨床像として,性感染症や妊娠などがある。虐待の数日以内では,性器,肛門,および口の診察所見は正常である可能性が高いが,治癒した病変や軽微な変化の所見がみられる場合もある。

情緒的虐待

乳児期早期においては,情緒的虐待により感情表現が鈍くなり,周囲環境への興味が低下することがある。情緒的虐待があると一般的に発育不良を来し,しばしば知的障害や身体疾患と誤診される。親からの刺激や親との相互交渉が不十分なことが原因で,しばしば社会生活上のスキルと言語技能の発達遅滞が生じる。情緒的虐待を受けている小児は臆病になり,不安や不信感を抱き,対人関係は表面的になり,受動的であり,気に入った大人には過度に関わることがある。拒絶された小児は自尊心が非常に低いことがある。威嚇を受けたり脅されたりしている小児は,おびえて内向的にみえることがある。被害児の情緒面への影響は通常学齢期に明らかとなり,教師や友人との関係形成に困難が生じる。しばしば,情緒面の影響は被害児が別の環境に置かれるか,異常行動がおさまってより許容可能な行動に変化した後で初めて認識される。不当な扱いを受けた小児は,犯罪を犯したりアルコールおよび/または薬物を乱用したりすることがある。

ネグレクト

低栄養,疲労,不良な衛生状態,適切な衣類の不足,および発育不良は,衣食住の供与不十分による一般的徴候である。発育不良や飢餓または極端な気温や気候への曝露による死亡が起こりうる。監督不行き届きが伴うネグレクトによって,予防可能な疾病や傷害を来しうる。

症状と徴候に関する参考文献

  1. 1.Pierce MC, Kaczor K, Aldridge S, et al: Bruising characteristics discriminating physical child abuse from accidental trauma.Pediatrics 125(1):67–74, 2010.doi: 10.1542/peds.2008-3632

診断

  • 虐待に対する強い疑い(例,身体所見と合わない病歴または非典型的な損傷パターンに対して)

  • 自由回答式の問診(児には優しく接する)

  • ときに画像検査および臨床検査

  • さらなる調査のための当局への報告

傷害および栄養欠乏の評価については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。原因として虐待を認識するのは困難な場合があり,強い疑いをもち続ける必要がある。社会的バイアスのため,虐待は中所得層以上の家庭で,両親がそろっている小児では比較的少ないと考えられている。しかしながら,小児虐待は家族構成や社会経済的地位を問わず生じうる。

ときに直接質問することによって答えが得られることがある。虐待されてきた小児が出来事や加害者について話すことがあるが,中には(特に性的虐待を受けてきた小児では)口止めされていたり,脅迫されていたり,深い心的外傷を負っていたりして虐待について話したがらない(具体的に質問された場合には虐待を否定したりさえする)小児もいる。問題の出来事の経緯を含む病歴は,リラックスした環境で小児と養育者から聴取すべきである。「はい」か「いいえ」で答える質問法(「お父さんがそうしたの?」「彼がここをさわったの?」)は,幼児では事実と異なる虐待歴が容易に作り上げられる可能性があるため,このような場合には自由回答式の質問(例,「何があったか話してくれる?」)を用いることが特に重要である。

小児と養育者との相互関係の観察を可能な限り評価に含める。病歴および身体診察の記録をできる限り広範囲かつ正確に行い,聴取内容の正確な引用と負傷部の写真を含めるべきである。

最初の評価後,虐待があったかどうかがしばしば不明である。そのような場合は,虐待疑いの報告の義務づけにより,当局および適切な社会福祉機関が調査を行うことが可能であり,その調査で虐待が確認されれば,適切な法的かつ社会的介入が行われる。

身体的虐待

病歴聴取と身体診察から虐待を示唆する手がかりが得られる。

病歴聴取において虐待を示唆する特徴を以下に示す:

  • 親が重大な負傷の経緯を話したがらない,または話せない

  • 傷害と矛盾する病歴(例,前方への転倒を原因とする下肢背部の挫傷)または外観上の回復段階と矛盾する病歴(例,古い外傷を最近のものと説明する)

  • 情報源によってまたは時間経過によって話が異なる

  • 負傷時の過程が小児の発達段階と矛盾する(例,負傷の原因を,寝返りできない乳児がベッドから転落した,またはハイハイもできない乳児が階段から転落したとする)

  • 負傷の重症度に対する親の不適切な反応(過度の心配または無関心のいずれか)

  • 負傷に対する受診の遅れ

診察において虐待を示す主な所見を以下に示す:

  • 非典型的な負傷

  • 病歴の話と矛盾する負傷

転倒の結果起こる小児期の外傷は典型的には孤立性であり,額部,顎,口,または四肢伸側(特に肘関節,膝関節,前腕,脛部)に起こる。殿部および下肢後部の皮下出血は,転倒では極めてまれである。鎖骨骨折,脛骨(幼児)骨折および橈骨遠位端骨折(Colles骨折)は別として,遊んでいる間や階段での典型的な転倒では,骨折はあまり一般的ではない。虐待に特有の骨折はないが,古典的な骨幹端病変,肋骨骨折(特に後部肋骨および第1肋骨),および頭蓋骨の陥没または多発性骨折(軽微な外傷によるとされる),肩甲骨骨折,胸骨骨折,ならびに棘突起骨折を認めた場合は,虐待に対する疑念をもつべきである。

歩行開始または伝い歩き(周囲の物につかまって歩く)前の乳児に重篤な外傷がある場合には,身体的虐待を考慮すべきである。幼若乳児の顔面部に軽度と思われる損傷がある場合もさらに評価すべきである。幼若乳児ほど,重大な脳損傷にもかかわらず正常にみえることがあり,嗜眠状態にある全ての乳児において急性頭部外傷を鑑別診断に入れるべきである。その他の手がかりは,回復段階または受傷段階の異なる複数の損傷,特定の負傷原因を示唆する皮膚病変( see page 身体的虐待),繰り返される外傷(虐待や監督不行き届きが疑われる)である。

虐待が疑われる1歳未満の小児には,全例で散瞳下での眼科診察と神経画像検査が推奨される。網膜出血は虐待による頭部外傷例の85~90%に起こるが,偶発的な頭部外傷例では10%未満である。しかしながら,網膜出血は虐待に特徴的ではない(1)。網膜出血は分娩が原因で起こることもあり,最長で4週間持続する。網膜出血が偶発的外傷により生じた場合,その機序は通常明白で生命を脅かすもの(例,大きな自動車事故)であり,出血数は典型的には少なく後極に限局している。

身体的虐待の可能性がある36カ月未満(以前の推奨は24カ月未満)の小児には,それまでの骨損傷の証拠(様々な治癒過程にある複数の骨折または長管骨の骨膜下隆起)がないか調べるため,全身骨X線検査を行うべきである。3歳以上の小児にこの検査が行われることはまれである。標準的な検索としては以下の画像などが挙げられる:

  • 四肢骨:上腕,前腕,手,大腿,下腿,足

  • 体幹骨:胸郭(斜位を含む),骨盤,腰仙椎,頸椎,頭蓋

多発性骨折の原因となる身体疾患には骨形成不全症先天梅毒などがある。

性的虐待

(性的虐待を受けている可能性のある小児の医学的評価とケアに関する最新ガイドラインも参照のこと。)

12歳未満の小児で性感染症(2)がみられる場合は,医療従事者は性的虐待の可能性を強く疑うべきである。小児が性的虐待を受けている場合,当初は行動の変化(例,易刺激性,恐怖,不眠)が唯一の手がかりとなりうる。性的虐待が疑われるならば,負傷の証拠がないか,口周囲,直腸部,および外性器の診察を行う必要がある。性的虐待が最近(96時間以内)に起きたと疑われる場合は,適切なキットにより法医学的証拠を収集し,必要な法的基準に従って証拠を取り扱うべきである( see page 検査と証拠収集)。例えば,特別にコルポスコープを備えたものなど,カメラ付きの拡大光源を使用する検査が,法的な目的のための記録のほか診察者にも役立つ場合がある。

情緒的虐待およびネグレクト

評価では児の全般的な外観および行動に注目し,児が正常に発育できていないかどうか判定する。しばしば教師やソーシャルワーカーがネグレクトの第一発見者となる。医師は,予約やワクチン接種の期日を守らず次の予約も取らないというパターンに気づくことがある。喘息や糖尿病などの生命を脅かす慢性疾患の医療ネグレクトは,その後の診察室や救急部門への受診回数の増加,および推奨治療レジメンに対するアドヒアランス不良につながる可能性がある。

診断に関する参考文献

  1. 1.Maguire SA, Watts PO, Shaw AD, et al: Retinal haemorrhages and related findings in abusive and non-abusive head trauma: A systematic review.Eye (Lond) 27(1):28–36, 2013.doi: 10.1038/eye.2012.213

  2. 2.Jenny C, Crawford-Jakubiak JE; Committee on Child Abuse and Neglect; American Academy of Pediatrics: The evaluation of children in the primary care setting when sexual abuse is suspected.Pediatrics 132(2):e558–e567, 2013.doi: 10.1542/peds.2013-1741

治療

  • 負傷の治療

  • 適切な機関への報告

  • 安全対策の立案

  • 家族カウンセリングと支援

  • ときに家庭からの退避

治療ではまず,急を要する医学的対処(性感染症の可能性など)と被害児の当面の安全確保に取り組む。小児虐待専門の小児科医への紹介を考慮すべきである。虐待およびネグレクトのどちらの状況においても,家族には懲罰的方法ではなく支援的態度で接するべきである。

当面の安全性

小児に接触する医師およびその他の専門家(例,看護師,教師,デイケアワーカー,警察官)は全ての州において,虐待またはネグレクトを疑う事件を報告するよう法律により義務づけられている(Mandatory Reporters of Child Abuse and Neglectを参照)。各州に独自の法律がある。一般市民は虐待の疑いを報告するよう奨励されているが,義務づけられてはいない。正当な理由に基づき誠意ある虐待報告を行う者は誰でも,刑事・民事責任を免れる。報告義務のある者が報告を行わない場合は,刑事・民事罰の対象となりうる。報告はChild Protective Servicesまたは他の適切な児童保護機関に対して行われる。ほとんどの場合,専門家が養育者に,法律に従い報告が行われること,養育者に連絡が行き面接が行われること,および場合によっては自宅訪問もありうることを伝えるのが適切である。症例によっては,警察またはその他機関の援助を得る前に親や養育者に通告すると,児および/または専門家自身に対する傷害のリスクが高くなると専門家が判断する場合がある。このような状況下では,医療従事者は親や養育者への通告を遅らせることを選択してもよい。

児童保護機関の代理人やソーシャルワーカーは,事案や被害児の状況について評価を実施するとともに,医師がその後の危害の可能性を判断し,ひいては被害児に対する当面の最適な処遇を決定する手助けをすることができる。選択肢としては以下のものがある:

  • 保護入院

  • 親族宅や仮の住宅への転居(ときに虐待を行うパートナーの家から家族全員が移動することもある)

  • 里親による一時的な養育

  • 迅速なソーシャルサービスおよび医学的フォローアップが受けられる状態での帰宅

医師は地域機関と連携する際に,被害児にとって最も適切かつ安全な居場所を提唱するという,重要な役割を担う。米国の医療専門家は,虐待被害者と疑われる小児に関する影響評価(一般的にChild Protective Servicesのワーカー宛ての書簡であり,ワーカーから司法機関に提出できる)の作成をしばしば依頼される。その書簡には,病歴および身体所見の明確な記述(平易な言葉を用いる)と小児が虐待されている可能性に関する意見が含まれているべきである。

フォローアップ

一次医療の提供元が肝要である。しかしながら,虐待やネグレクトを受けた小児の家族は頻繁に転居するため,治療の継続が困難となる。来院の予約が守られないことがよくあり,ソーシャルワーカーや保健師によるアウトリーチや家庭訪問が役立つことがある。地域の小児擁護センターは,地域機関,医療従事者,および法的機関が分野横断的なチームとして,小児の立場に立ってより協調のとれた効果的な形態で連携するのを支援できる。

家庭環境の綿密な再評価,地域社会の様々な福祉事業機関との事前の接触,および養育者の要求が非常に重要である。ソーシャルワーカーはこのような再評価を実施し,面接や家族カウンセリングの支援を行うことができる。ソーシャルワーカーはまた,養育者が公的援助や保育サービス,休息サービス(養育者のストレスを低減しうる)を受けられるよう支援することにより,実際的な援助を養育者に与えることができる。また,養育者のための精神保健サービスの調整を助けることもできる。通常,社会福祉事業との定期的または継続的なコンタクトが必要である。

親援助プログラムは,訓練を受けた非専門家が虐待やネグレクトを行った親を支援し適切な養育の模範を示すもので,一部の地域社会において利用できる。その他の親向けの支援団体も成果を上げている。

性的虐待は,特に児童や青年において,発達および性的適応に永続的な影響を及ぼすことがある。被害児および関与した成人に対するカウンセリングや精神療法が,これらの影響を軽減しうる。身体的虐待,特に重大な頭部外傷も,発達に長期的影響を及ぼす可能性がある。医師または養育者が幼児に機能障害または発達遅滞があると懸念する場合は,各州の早期介入制度(Early Intervention Servicesを参照)による評価を依頼することができ,これは機能障害や発達遅滞が疑われる小児を評価して治療するためのプログラムである。

家庭からの退避

評価が完了し安全が確保されるまでの間,家庭からの緊急一時退避がときに行われるが,Child Protective Servicesの最終的な目標は,被害児が家族とともに安全かつ健やかに生活できる環境を維持することである。しばしば家族には,退避していた小児が再び戻れるよう養育者を再教育するサービスが勧められる。前述の介入によって安全が確保されない場合,長期退避および場合によっては親権停止を考慮する必要がある。この重要な措置を講じるには裁判所への申し立てが必要であり,申し立ては適切な福祉部門の弁護士によって提出される。その具体的手順は州により異なるが,通常は家庭裁判所における医師の証言が必要である。裁判所が被害児の家庭からの退避を支持する決定を下した場合,一般には里親養育利用などの一時的退避措置が取られる。被害児が一時退避している間,担当医師や里親養育下の小児を専門とする医療チームは可能であれば親と連絡を取り続け,親支援のための努力が十分になされていることを保証すべきである。ときに,被害児が里親の下で再び虐待されることがある。医師はこの可能性について警戒すべきである。家庭内の人間関係や行動様式などが改善すれば,被害児を元の養育者の保護下に戻せる場合もある。しかしながら,虐待の再発はよくみられる。

予防

虐待の予防を小児健診の一部として行うべきであり,親,養育者および小児への教育と危険因子の同定を行う。リスクのある家族には適切な地域サービスを紹介すべきである。

虐待やネグレクトの被害者だった親は,自身の児を虐待するリスクが高い。このような親はときに自身の虐待経歴に関する不安を口にし,援助に快く応じる。初めて子どもをもつ親や10代の親ではリスクが高く,5歳未満の子どもが複数いる親でも同様である。虐待につながる母親側の危険因子(例,母親の喫煙,薬物乱用,ドメスティックバイオレンスの既往)が出生前に同定される場合も多い。妊娠中,分娩時,乳児期早期に母親および/または乳児の健康に影響を及ぼしうる医学的問題は,親と子の絆を弱めてしまう可能性がある( see also page 病気の新生児に対するケア)。このような時期には,自身や子の幸福に関する親の感情を引き出すことが重要である。どうすれば健康上などの要求が多い乳児をうまく許容できるか。両親は互いに精神的・身体的に支え合っているか。必要なときに援助してくれる親族や友人がいるか。虐待の兆しに気づき支援を提供できる医療従事者は,家族に大きな影響を与え,小児虐待を防ぐ可能性がある。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Updated guidelines for the medical assessment and care of children who may have been sexually abused

  2. Mandatory Reporters of Child Abuse and Neglect: Information about who is required to report abuse by state in the US

  3. Early Intervention Services: Services by US state for infants and toddlers

  4. Child Welfare Information Gateway: Child welfare information gateway from the US government containing guidance on many aspects of child abuse as well as listings of state and federal resources

  5. Child Welfare Information Gateway: Child Abuse and Neglect: Specific information on child abuse, including definitions, identification, risk factors, mandatory reporting, and much else

  6. Prevent Child Abuse America: Children's charity focusing on child abuse with much useful information for parents and health care practitioners and information about public policy

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