性的暴行被害者の医学的診察

(レイプ被害者の医学的診察)

執筆者:Erin G. Clifton, PhD, University of Michigan;
Eve D Losman, MD, MHSA, University of Michigan School of Medicine
Reviewed ByOluwatosin Goje, MD, MSCR, Cleveland Clinic, Lerner College of Medicine of Case Western Reserve University
レビュー/改訂 修正済み 2024年 3月
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性的暴行とは,本人が同意しないあらゆる種類の性行為または性的接触である。性的暴行(レイプを含む)によって,身体的な損傷もしくは疾患,または心理的外傷が引き起こされることがある。被害者に対しては,外傷,性感染症,妊娠,および急性または心的外傷後ストレス症について評価を行うべきであり,証拠収集のための診察を許可するよう求める。治療としては感染予防や精神医療などがある。

性的暴行にはレイプおよび性的な強制が含まれ,身体的な力の行使や力を行使するという脅し,または攻撃者が被害者に薬物やアルコールを摂取させるという行為も関連する。

法的および医学的な定義は様々であるが,一般的にレイプとは,被害者の同意を得ることなく,身体の一部もしくは物体が腟または肛門に(わずかであっても)挿入された場合,または他者の性器が被害者の口に挿入された場合と定義される(1)。同意年齢に達していない人は,成人との性行為に同意することはできない。

典型的には,性的暴行は攻撃性,怒り,または力への欲求が表出された行為であり,心理的には,性的要素より暴力的要素の方が強い。性器または性器以外の外傷が女性に対するレイプの約40%で生じる(2)。

レイプや他の形態の性的暴行(小児期における性的暴行などを含む)はよくみられる;米国におけるレイプの推定生涯被害率は女性で19.3%,男性で1.7%である(3)。しかしながら,レイプおよび性的暴行は過少報告される傾向にあるため,実際の被害率はより高い可能性がある。

女性はレイプおよび性的暴行を受ける頻度が最も高い;しかしながら被害者には全てのジェンダーの人が含まれる。

総論の参考文献

  1. 1.US Department of Health and Human Services/Office on Women's Health: Rape.Accessed March 2024.

  2. 2.Basile, K.C., Smith, S.G., Kresnow, M., et al: The National Intimate Partner and Sexual Violence Survey: 2016/2017 Report on Sexual Violence.Atlanta, GA: National Center for Injury Prevention and Control, Centers for Disease Control and Prevention.June 2022.

  3. 3.Breiding MJ, Smith SG, Basile KC, et al: Prevalence and characteristics of sexual violence, stalking, and intimate partner violence victimization--National Intimate Partner and Sexual Violence Survey, United States, 2011. MMWR Surveill Summ 63(8):1-18, 2014.

性的暴行の症状と徴候

性的暴行は以下の被害につながることがある:

身体的外傷は比較的軽微の場合があるが,腟の上部の裂傷は重度のことがある。性的暴行の際に受ける身体的暴力によって,さらなる外傷を負う場合もある。エビデンスからは,レイプの生涯経験は長期にわたる身体的な健康上の問題にも関連することが示唆されている;例えば,レイプの被害歴がある人はレイプの被害歴がない人よりも,喘息,過敏性腸症候群,頻繁な頭痛,性交痛骨盤痛,または慢性疼痛の発生リスクが高い(1)。

性的暴行による精神症状が最も顕著な問題となる可能性がある。短期間には,大半の患者が恐怖,悪夢,睡眠障害,怒り,困惑,羞恥心,罪悪感などを経験する。その出来事について重要な部分を思い出せない(急性ストレス症または心的外傷後ストレス症[PTSD]の症状である,解離性健忘)ことがある。

暴行直後にみられる患者の行動は,多弁,緊張,号泣,震えといったものから,平静さや冷静さを伴うショックと不信まで,多岐にわたる可能性がある。後者の反応が関心の欠如を意味していることはまれであり,むしろそのような反応は,回避反応,身体的消耗,または感情のコントロールを必要とする対処機制(coping mechanism)を反映している。怒りは病院スタッフまたは家族に転嫁されることがある。

急性ストレス症の診断には,暴行の後3日間~1カ月間にわたり症状が存在している必要がある。

友人,家族,および警察等の職員は,優しく接することもあれば,批判的または否定的な態度で対応してしまうこともある。否定的な対応は暴行後の回復を妨げうる。

性的暴行の長期的な影響としてPTSDが発生する場合がある(特に女性の場合)。PTSDは心的外傷に関連する疾患である;PTSDの症状としては,以下のものがある:

  • 心的外傷の再体験(例,フラッシュバック,侵入的に生じ動揺をもたらす思考やイメージ)

  • 回避(例,心的外傷が関連する状況,思考,および感情の回避)

  • 認知および気分への悪影響(例,自己または他者への持続的で歪んだ非難,陽性感情を経験できない)

  • 覚醒度および反応性の変化(例,睡眠障害,易刺激性,集中力の欠如)

PTSDの診断のためには,症状が1カ月以上続き,物質または身体疾患の生理学的作用に起因するものではなく,社会的および職業的機能を著しく損なうものである必要がある。PTSDの患者にはしばしば抑うつおよび/または他の精神疾患(例,物質使用症)もみられる。

症状と徴候に関する参考文献

  1. 1.Basile KC, Smith SG, Chen J, Zwald M: Chronic diseases, health conditions, and other impacts associated with rape victimization of U.S. women.J Interpers Violence 36; 23–24; 2021.doi: 10.1177/0886260519900335

性的暴行被害者の評価

レイプ被害者を含む性的暴行被害者の医学的評価には,トラウマインフォームドケアの原則を用いてアプローチすべきである(1)。性的暴行後の医学的評価の目標は以下の通りである:

  • 損傷の医学的評価および治療,ならびに妊娠および性感染症の評価,治療,および予防

  • 法医学的証拠の収集

  • 心理学的評価

  • 心理的な治療およびサポートの推奨

患者が医学的評価前に助言を求める場合には,衣服の破棄や着替え,洗浄,シャワー,腟洗浄,歯磨き,手指の爪切り,洗口液の使用を行わないよう患者に伝える;そうした行為により証拠が消滅する恐れがある。

可能な限り,全てのレイプ被害者を地域のレイプセンター(病院の救急部門であることが多い)に紹介する;このようなセンターには,特別な訓練を受けた専門職(例,性暴力被害者支援看護職 [SANE])が配置されている。米国の一部の地域では,医療,法医学,地域のレイプ被害者支援センター,法執行機関,および検察当局のメンバーから成る性暴力被害対応チーム(SART)がある。性的暴行に関する評価の有益性を説明するが,評価を承諾するか辞退するかは患者の自由である。患者が承諾すれば警察に通報する。大半の患者が心的外傷の影響を受けており,ケアには気配り,共感,および思いやりを必要とする。患者は,自身と同じ性別の医師の方が安心する場合がある;診察前に,全ての患者に希望を尋ねるべきである。男性が女性を診察する場合は必ず女性のスタッフが付き添うべきである。可能な限り患者にはプライバシーと静穏を提供する。

専用の文書(ときに性的暴行の証拠を収集するためのキットに組み込まれている)を用いて法的な証拠と医学的所見を記録するが(フォームの一般的な項目については,の表を参照),文書は現地の要件に適合させるべきである。医療記録は法廷で使用されることがあるため,結果は判読しやすく,陪審員が理解できる非専門用語で記載すべきである。

表&コラム
表&コラム

病歴と診察

開始する前に,診察者は患者に許可を求める。出来事を詳しく説明させると,患者が怯えたり,当惑したりする場合が多いため,診察者は安心感を与えて共感的かつ非判断的な態度をとるようにすべきであり,患者を急がせてはならない。プライバシーを確保すべきである。診察者は以下を含む具体的な詳細事項を引き出す:

  • 受けた外傷(特に口腔,乳房,腟,および直腸)の種類

  • 患者または暴行者に出血または擦過傷があるか否か(HIVおよび肝炎の感染リスクに関する評価に役立てるため)

  • 攻撃の詳細(例,挿入された開口部,射精が起こったか否かやコンドームが使用されたか)

  • 暴行者の攻撃性,脅迫,凶器の使用,および暴力的行動

  • 暴行者の人相

これら項目は,その大半または全てが性的暴行報告用書類の多くに記載されている(の表を参照)。患者に,質問を行っている理由を伝えるべきである(例,避妊法の利用についての情報は,性的暴行後の妊娠リスクの判断に有用;以前の性交についての情報は,精液検査の妥当性の判断に有用)。

各検査の前には,その検査について説明すべきであり,患者はどの検査であっても拒否できる。患者とともに結果を検討すべきである。可能ならば外傷と思われる部位の写真を撮る。口腔,乳房,性器,および直腸は入念に診察する。女性では外傷がよくみられる部位として,小陰唇と腟後壁がある。ウッド灯を用いた検査により,皮膚上の精液または異物が明らかになることがある。コルポスコピーは微妙な性器外傷に対する感度が特に高い。一部のコルポスコープにはカメラが搭載されており,外傷の検出と写真撮影を同時に行うことができる。証拠として外傷部位を強調するためにトルイジンブルーを使用することが許されるかどうかは,司法管轄区域によって異なる。

検査と証拠収集

ルーチンの検査として,妊娠検査と梅毒,B型肝炎,HIVに対する血清学的検査があり,これらの検査を被害後数時間以内に行えば,性的暴行後に発生したものではなく,性的暴行の前からあった妊娠や感染症についての情報が得られる。腟分泌物や尿を検査してトリコモナス腟炎および細菌性腟症を調べ,挿入のあった開口部(腟,口腔,または直腸)全てから検体を採取し,淋菌感染症およびクラミジアの検査を行う(2)。患者は性感染症の検査を拒否することがあるが,これはおそらく経験的治療が全ての患者に通常は行われるためである。

妊娠および性感染症がないかを調べるために以下のフォローアップ検査を行う:

患者に性的暴行前後の出来事に関する記憶障害がみられる場合には,フルニトラゼパム(デートレイプドラッグ)およびγ-ヒドロキシ酪酸の薬物スクリーニングを考慮すべきである。中毒の所見は法廷で患者の信用を貶める目的で使用される可能性があるため,薬物乱用およびアルコールに関する検査については議論がある。

腟の上部に重度の裂傷を認める患者,特に小児の場合,外傷の深さを判断するために腹腔鏡検査を必要とすることがある。

性的暴行を立証できる証拠を収集する(の表を参照);典型的なものとしては,以下のものがある:

  • 衣服

  • 頬,腟,および直腸粘膜の塗抹検体

  • クシで採取した頭髪および陰毛の検体と対照検体(患者から引き抜いたもの)

  • 切り取った指爪の欠片とそこに付着している擦過物

  • 血液および唾液の検体

  • 採取できる場合は精液

多くの種類の証拠収集キットが市販されており,特定のキットを推奨している州もある。シャワー,着替え,または腟洗浄などの挿入部位に関する行為の後では,証拠がしばしば消失するか,不確実なものとなる。時間の経過につれて(特に36時間を過ぎると),証拠は弱まるか消失するが,司法管轄区域によっては性的暴行後7日目まで証拠の収集が行われる場合がある。

譲渡記録の管理(常に証拠を保有している人物が特定できる状態にある)を維持しなければならない。このため,検体は個別の包みに入れてラベルを付け,日付を記入してから封をし,別の人物(典型的には法執行機関の職員または検査室の担当者)に配送するまで保管しておき,その人物は受領したら署名する。一部の司法管轄区域では,暴行者を同定するためにDNA検査用検体を収集している。

医師は患者に対して,心的外傷の影響を管理し,機能を果たす能力を回復するための支援(危機介入)および,心理的サポートを求めるよう奨励すべきである。

評価に関する参考文献

  1. 1.Raja S, Hasnain M, Hoersch M, Gove-Yin S, Rajagopalan C: Trauma informed care in medicine: current knowledge and future research directions. Fam Community Health 38(3):216-226, 2015.doi:10.1097/FCH.0000000000000071

  2. 2.Centers for Disease Control and Prevention: Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021: Sexual assault and abuse and STIs – adolescents and adults.Accessed January 2024.

性的暴行被害者の治療

  • 心理学的治療

  • 適応があれば,B型肝炎およびヒトパピローマウイルス(HPV)に対する曝露後ワクチン接種

  • 場合によりHIV曝露後予防

  • 場合により緊急避妊

評価後,患者には必要に応じ,洗浄,着替え,洗口液の使用,および排尿や排便を行うための設備を提供する。地域の性的暴行被害者支援チームは,医学的,心理的,法的支援サービスへの紹介を提供できる。

身体的外傷は治療する。

必要に応じて性感染症の予防的治療を処方する。腟裂傷には婦人科へのコンサルテーションおよび外科的修復が必要になることがある。

心理的サポート

ときに診察者は,常識的な方法(例,励まし,一般的な支援,非判断的な態度)を用いることで,強い罪悪感や不安感を軽減できる。起こりうる性的暴行の心理的,社会的影響について説明し,性的暴行被害者への危機介入について訓練を受けた専門家に患者を紹介する。心理的影響の全てを最初の診察時に常に確認できるとは限らないため,フォローアップの診察を2週間間隔で予定する。重度の心理的影響(例,繰り返すフラッシュバック,顕著な睡眠障害,恐怖から著しい回避を引き起こす)や,フォローアップの診察時に依然として認められる心理的影響には,精神科または心理科への紹介が必要である。

家族や友人は極めて重要な支援を提供できるが(例,優しく励ます,性的暴行は自分自身の過失ではないことを思い出させる),自らの否定的な反応に対処するために,性的暴行被害の専門家の助けを必要とすることがある。

PTSDは,精神療法と薬物療法によって効果的に治療できる。

感染症の予防または治療

成人および青年における性感染症に対するルーチンの経験的予防法は以下で構成される(1):

  • セフトリアキソン500mg,筋注,単回投与,または体重が150 kg以上の患者にはセフトリアキソン1 g(淋菌感染症およびクラミジア感染症が対象),かつ

  • ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間の投与(クラミジア感染症が対象)

  • 女性には,メトロニダゾール500mg,経口,1日2回,7日間の投与(トリコモナス症と細菌性腟症が対象)

B型肝炎についてCenters for Disease Control and Prevention(米国疾病予防管理センター:CDC)は,患者が過去にワクチン接種を受けており免疫獲得の記録がある場合を除き,B型肝炎ワクチン接種を推奨している。初回接種から1カ月後および6カ月後に,ワクチンを再接種する。B型肝炎免疫グロブリン(HBIG)は投与しない。

9~26歳の女性および男性に対してはHPVワクチン接種を行う(接種を受けていないか接種を完了していない場合)。初回接種から1カ月目および6カ月目に,ワクチンを再接種する。ワクチン未接種の患者で,HPVワクチン接種開始時の年齢が15歳未満の場合には,2回接種(0カ月時および6~12カ月時)が推奨される。

HIV感染症に対する経験的な曝露後の予防についてのカウンセリングが推奨される。多くの専門家が予防を行うよう推奨している;しかしながら,危険因子を考慮すべきであり,見知らぬ暴行者からの性的暴行によるHIV感染症のリスクは平均的には低いことを患者に伝えるべきである(2)。リスクは以下の場合に上昇することがある:

  • 肛門への挿入

  • 出血(暴行者または被害者)

  • 男性間の性的暴行

  • 複数の暴行者による性的暴行(例,刑務所内での男性被害者)

  • HIV感染症の有病率が高い地域での性的暴行

HIV感染症の予防は挿入後4時間未満に開始するのが最善であり,72時間を超えてから投与すべきではない。

妊娠の予防

妊娠検査で陰性と判定された女性にも全例で緊急避妊を勧めるべきである(3, 4)。通常は経口薬を使用する;性的暴行を受けてから72時間経過後に使用する場合,効果が得られる可能性が大幅に低くなる。悪心がみられる場合は,制吐薬が役立つことがある。子宮内避妊器具は性的暴行後5日までに使用すれば効果的となりうる。

性的暴行によって妊娠した場合は,産科医療および人工中絶の選択肢について患者にカウンセリングを行うべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Centers for Disease Control and Prevention: Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021: Sexual assault and abuse and STIs – adolescents and adults.Accessed January 2024.

  2. 2.Welch J, Mason F: Rape and sexual assault.BMJ 334 (7604): 1154–1158, 2017.doi: 10.1136/bmj.39211.403970.BE

  3. 3.Cowdery C, Halloran D, Henderson R, et al: Sexual Assault Nurse Examiner and Emergency Contraception Access in Emergency Departments in the United States: A National Survey.Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3947818 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3947818.Accessed January 2024.

  4. 4.Wang MJ, Khodadadi AB, Turan JM, White K: Scoping Review of Access to Emergency Contraception for Sexual Assault Victims in Emergency Departments in the United States. Trauma Violence Abuse 22(2):413-421, 2021.doi:10.1177/1524838019882023

要点

  • 性的暴行とは,本人が同意しないあらゆる種類の性行為または性的接触である。

  • 性器または性器以外の外傷,性感染症,妊娠が起こりうる。

  • 短期的には,大半の患者が恐怖,悪夢,睡眠障害,怒り,困惑,およびその他の精神症状を経験する;大半の患者は最終的には回復するが,一部の患者では,心的外傷後ストレス症(PTSD)を発症する。

  • 性的暴行に関する評価の有益性を説明するが,患者は評価を承諾することも辞退することもできる;患者には評価の各ステップを開始する前に許可を求め,各ステップの内容および行う理由を説明する。

  • 外傷がないか確認し,妊娠および性感染症の検査を行い,性的暴行を立証できる証拠(例,頬,腟,および直腸粘膜の塗抹検体)を収集し,譲渡記録の管理を維持する。

  • 患者および患者の家族に心理的サポートを提供し,性感染症の予防を行い,緊急避妊を提供する。

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