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妊娠中の貧血

執筆者:

Lara A. Friel

, MD, PhD, University of Texas Health Medical School at Houston, McGovern Medical School

最終査読/改訂年月 2020年 4月
本ページのリソース

正常では,妊娠中には骨髄の赤芽球過形成が起こり,赤血球量は増加する。しかしながら,血漿量の不均衡な増加により血液希釈(妊娠水血症)が生じる:ヘマトクリット(Hct)は妊娠していない健康な女性の場合38~45%であるが,単胎妊娠後期では約34%,多胎妊娠後期では30%に減少する。したがって,妊娠中の貧血はヘモグロビン(Hb)値が10g/dL未満(Hctは30%未満)になった場合と定義される。妊娠開始時のHbが11.5g/dL未満であれば妊婦は予防的に治療を受けるが,これは,続いて起こる血液希釈によって,Hbが通常10g/dL未満まで減少するためである。血液希釈にもかかわらず,酸素運搬能は妊娠期間を通して正常のままである。Hctは正常では分娩後速やかに上昇する。

第3トリメスターの間に女性の3分の1に貧血が生じる。最も一般的な原因は以下のものである:

患者がエホバの証人の信者(輸血を拒否する可能性が高い)である場合,産科医は,周産期専門医へのコンサルテーションを行った上,妊娠中の貧血をできるだけ早く評価すべきである。

症状と徴候

貧血の初期症状は通常存在しないか,非特異的である(例,疲労,脱力,ふらつき,労作時の軽度の呼吸困難)。他の症状と徴候として蒼白があり,貧血が重度の場合は頻脈または低血圧を伴う。

貧血は以下のリスクを上昇させる:

  • 分娩後の母体感染

診断

  • 血算と平均赤血球容積(MCV)の値に応じたその後の検査

貧血の診断は血算から始める;通常は女性に貧血がみられる場合,その後の検査はMCVが低値(< 79fL)または高値(> 100fL)であるかに基づいて行う:

  • 小球性貧血:評価には鉄欠乏症(血清フェリチン測定)および異常ヘモグロビン症(ヘモグロビン電気泳動を使用)に関する検査を含める。これらの検査で診断がつかず,経験的治療への反応がみられなければ,血液専門医へのコンサルテーションが通常必要となる。

  • 大球性貧血:評価項目には葉酸およびビタミンB12の血清中濃度を含める。

  • 複数の原因による貧血:両方の病型について評価が必要である。

治療

  • 貧血を改善するための治療

  • 重度の症状には必要に応じて輸血

妊娠中の貧血の治療は貧血の改善を目的として行われる(以下参照)。

重度の全身症状(例,ふらつき,脱力,疲労)または心肺系の症状や徴候(例,呼吸困難,頻脈,頻呼吸)を認める全ての貧血症例で,通常は輸血の適応となる;その決定はHct値に基づくものではない。

パール&ピットフォール

  • 輸血の判断はHct値ではなく,症状の重症度に基づく。

要点

  • 妊娠中には血液希釈が起こるが,酸素運搬能は妊娠期間を通して正常のままである。

  • 妊娠中の貧血の最も一般的な原因は鉄欠乏症および葉酸欠乏症である。

  • 貧血は早産および分娩後の母体感染のリスクを上昇させる。

  • 妊娠開始時のHbが11.5g/dL未満であれば,予防的治療を考慮する。

  • 可能であれば貧血の原因を治療するが,患者の症状が重度であれば通常輸血の適応となる。

妊娠中の鉄欠乏性貧血

妊娠中の貧血症例の約95%は鉄欠乏性貧血である。その原因は通常,以下のものである:

  • 不十分な食事摂取(特に青年期女子において)

  • 以前の妊娠

  • 妊娠するまでに繰り返された経血への正常な鉄喪失(毎月正常に取り込まれる量とほぼ等しいため,貯蔵鉄の蓄積が妨げられる)

診断

  • 血清鉄,フェリチン,およびトランスフェリンの測定

典型的に,Hctは30%以下,MCVは79fL未満となる。血清鉄ならびに血清フェリチンの減少,および血清トランスフェリン値の上昇によって鉄欠乏性貧血の診断が確定される。

治療

  • 通常,硫酸鉄325mg,経口,1日1回

硫酸鉄325mgを1錠,午前中半ばに服用すると通常効果的である。それより高用量または頻回の投薬は胃腸の有害作用(特に便秘)を増加させ,また1回の投薬が次の投薬の吸収を阻止するため取り込み率が減少する。

約20%の妊婦において経口鉄剤が十分に吸収されない;そうした者のうち少数で非経口(parenteral)投与が必要となり,通常デキストラン鉄100mgを隔日,3週間で合計投与量が1000mg以上となるように筋注する。HctまたはHbを週1回測定して反応を確認する。鉄剤投与の効果がみられなければ,随伴する葉酸欠乏を疑うべきである。

鉄欠乏性貧血の母親から生まれた新生児は通常正常なHctを示すが,総貯蔵鉄は減少しており食事による鉄補充が早期から必要となる。

予防

実地診療では議論があるが,鉄剤(通常,硫酸鉄325mg,経口,1日1回)は,体内の鉄貯蔵量の枯渇を予防し,異常出血またはその後の妊娠により起こりうる貧血を予防するために,通常ルーチンに妊婦に投与される。

妊娠中の葉酸欠乏性貧血

葉酸欠乏症は,胎児における神経管閉鎖不全のリスクを増大させるほか,胎児性アルコール症候群のリスクを高める可能性もある。欠乏は妊婦の0.5~1.5%に生じ,欠乏が中等度または重度の場合には,大球性の巨赤芽球性貧血がみられる。

まれに重度の貧血および舌炎が生じる。

診断

  • 血清葉酸の測定

血算で大球性の指数または赤血球分布幅(RDW)の大きい貧血を示す場合は,葉酸欠乏が疑われる。血清葉酸値が低いことで診断が確定される。

治療

  • 葉酸1mg,経口1日2回

治療として,葉酸を1mg,1日2回経口投与する。

重度の巨赤芽球性貧血では,入院しての骨髄検査およびさらなる治療が必要となる場合がある。

予防

予防として,全ての妊婦および妊娠を試みている女性に葉酸を0.4~0.8mg,1日1回経口投与する。二分脊椎の胎児をもった経験のある妊婦は,妊娠前から葉酸を4mg,1日1回服用すべきである。

妊娠中の異常ヘモグロビン症

妊娠中の異常ヘモグロビン症,特に鎌状赤血球症ヘモグロビンSC症,βおよびαサラセミアは,母体および周産期における児の転帰を悪化させうる。これらの疾患のうちのいくつかについて,遺伝子スクリーニングが利用可能である。

既存の鎌状赤血球症は,特に重度の場合,以下のリスクを増大させる:

貧血はほとんどの場合,妊娠が進行するに従ってより重度となる。鎌状赤血球形質は尿路感染症のリスクを増大させるが,妊娠に伴う重度の合併症との関連はない。

妊娠中の鎌状赤血球症の治療は複雑である。疼痛発作は積極的に治療すべきである。Hb Aを60%以上に維持するための予防的交換輸血は,溶血クリーゼおよび肺合併症のリスクを軽減するが,輸血反応,肝炎,HIV感染,および血液型同種免疫のリスクを増大させるためルーチンには推奨されない。予防的輸血は周産期リスクを低下させないようである。治療的輸血は以下の場合に適応となる:

  • 症候性貧血

  • 心不全

  • 重症細菌感染

  • 陣痛および分娩の重度の合併症(例,出血,敗血症)

ヘモグロビンSC症は妊娠中に初めて症状を引き起こすことがある。この疾患は,ときに骨の塞栓形成を引き起こして肺梗塞のリスクを増大させる。胎児への影響はまれであるが,生じた場合,胎児発育不全をしばしば伴う。

鎌状赤血球βサラセミアはヘモグロビンSC症と似ているが,比較的まれで,より良性である。

αサラセミアは母体の疾患を引き起こさないが,胎児がホモ接合体の場合,第2トリメスターまたは第3トリメスター早期に胎児水腫および胎児死亡が起こる。

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