抗菌薬の概要

執筆者:Brian J. Werth, PharmD, University of Washington School of Pharmacy
レビュー/改訂 2020年 5月
意見 同じトピックページ はこちら

抗菌薬には,細菌または真菌に由来するものと,人工的に合成されるものがある。厳密には,「抗生物質(antibiotics)」は細菌または真菌に由来する抗微生物薬のみを指す用語であるが,しばしば(本マニュアルも含めて)「抗菌薬(antibacterial drug)」の同義語として使用される。

新生児における抗菌薬も参照のこと。)

抗菌薬には以下をはじめとする数多くの作用機序がある:

  • 細胞壁合成の阻害

  • 細胞膜の透過性亢進

  • タンパク質合成,核酸代謝,その他の代謝過程(例,葉酸合成)の阻害

抗菌薬はときに他の薬物と相互作用を起こし,代謝の亢進または阻害やその他の様々な機序により,相手の薬物の血清中濃度を上昇または低下させる(他の薬物に抗菌薬が及ぼす主な一般的影響の表を参照)。相互作用が臨床的に最も重要となるのは,治療可能比の低い(すなわち毒性濃度が治療濃度に近い)薬物が関与する場合である。同様に,他の薬物が抗菌薬の濃度を上昇または低下させることもある。

多くの抗菌薬には化学的な近縁関係があり,それに基づいていくつかのクラス分類される。各クラスに属する薬物同士は,構造および機能が類似するが,薬理学的性質や抗菌スペクトルに差がみられる場合も多い。

表&コラム

抗菌薬の選択および使用

抗菌薬の使用は,臨床所見または臨床検査値から細菌感染が示唆される場合のみに限定すべきである。ウイルス性疾患または鑑別前の発熱に対する使用は,ほとんどの症例で不適切であり,何の利益もなく,患者を薬剤による合併症リスクに曝し,さらに耐性菌出現の一因にもなる。

特定の細菌感染症(例,膿瘍,異物を伴う感染)には外科的介入が必要であり,抗菌薬単独での治療には反応しない。

一般に,臨床医は活性のスペクトルが最も狭い抗菌薬の使用を最短期間で試みるべきである。

抗菌スペクトル

重篤な感染症に対する薬剤の選択には,培養と薬物感受性試験が不可欠である。しかしながら,培養結果を待たずに治療を開始せざるを得ず,最も可能性の高い病原体に基づいた抗菌薬の選択(経験的投与)を余儀なくされる場合も多い。

培養結果に基づく選択であるか否かにかかわらず,対象の感染症を制御できる範囲内で抗菌スペクトルが最も狭くなるような選択で薬剤を使用すべきである。いくつかの病原体のいずれかが関与していると考えられる重篤な感染症(例,好中球減少がみられる患者の発熱),または複数の病原体に起因していると考えられる重篤な感染症(例,複数菌による嫌気性感染症)の経験的治療では,広域スペクトルでの治療が望ましい。可能性の高い病原体とそれらの抗菌薬に対する感受性は,地域や場所によって(1つの都市内あるいは1つの病院内でさえ)異なり,また月単位で変化する可能性もある。感受性データをアンチバイオグラムにまとめ,可能な限りそれを経験的治療の指針として用いるべきである。アンチバイオグラムは,一般的に使用される抗菌薬に対する主な病原体の地域施設毎(または場所毎)の感受性パターンを要約したものである。

重篤な感染症に対しては,複数種の細菌が関与している可能性や抗菌薬の併用が単一種の細菌に対して相乗作用を示す可能性があるため,しばしば多剤併用が必要となる。相乗作用とは通常,複数の抗菌薬を併用することで得られる,いずれか単独の場合より迅速かつ完全な殺菌作用と定義される。よくみられる例は,細胞壁に作用する抗菌薬(例,β-ラクタム系バンコマイシン)とアミノグリコシド系薬剤の併用である。

有効性

抗菌薬のin vivoでの有効性は,以下のような多くの因子に影響を受ける:

殺菌性の薬剤は細菌を死滅させる。静菌性の薬剤はin vitroで細菌の増殖を遅延または阻止する。これらの定義は絶対的なものではなく,静菌性の薬剤が一部の感受性菌種を死滅させる場合もあれば,殺菌性の薬剤が一部の感受性菌種の増殖を阻止するにとどまる場合もある。より精密な定量的分析法を用いることにより,特定の抗菌薬がin vitroで微生物の発育を阻止できる最低濃度(最小発育阻止濃度[MIC]),または死滅させる最低濃度(最小殺菌濃度[MBC])を特定できる。宿主の防御機構が感染部位の局所で(例,髄膜炎や心内膜炎の場合)または全身的(例,好中球減少または他の形態の易感染状態にある患者)に阻害されている場合は,殺菌作用をもつ抗菌薬が殺菌を促すことがある。しかしながら,その分類のみに基づいて静菌性の薬剤よりも殺菌性の薬剤を選択すべきであることを示した臨床データは限られている。至適な効果を得るための薬剤の選択は,その薬剤が殺菌活性と静菌活性のどちらをもつかではなく,薬物濃度がMICと比較してどのような経時変化を示すかに基づいて判断すべきである。

抗菌薬は,抗菌活性(薬力学)を最適化する薬物動態に基づき,以下の3つのカテゴリー(1)に大別できる:

  • 濃度依存性:最高濃度がMICを超える度合い(典型的には最高血中濃度/MIC比として表される)が抗菌活性と最もよく相関する

  • 時間依存性:投与間隔中に抗菌薬の濃度がMICを超える時間(典型的にはMICを超える時間の割合として表される)が抗菌活性と最もよく相関する

  • 曝露量依存性:MICに対する薬物量(薬物量は24時間の濃度-時間曲線下面積[AUC24]とする)の比(AUC24/MIC比)が抗菌活性と最もよく相関する

アミノグリコシド系フルオロキノロン系,およびダプトマイシンは,濃度依存的な殺菌作用を示す。これらの薬物は,MICをわずかに超える水準からMICをはるかに超える水準へ濃度を上昇させると,その殺菌作用の速度および程度が高まる。さらに,アミノグリコシド系およびフルオロキノロン系薬剤は,たとえ短時間でも濃度がMICを超えれば,残存細菌に対してpost-antibiotic effect(PAE)を示し,そのPAEの持続時間も濃度に依存する。PAEが長く続けば,効力を失うことなく薬物濃度がMICを下回る時間を延長することができ,投与頻度を減らすことが可能となる。したがって,アミノグリコシド系およびフルオロキノロン系薬剤は通常,遊離体の血清中ピーク濃度が対象の細菌に対するMICの10倍以上となるように間欠的な急速投与を行った場合に最も効果的となり,通常,トラフ濃度は重要ではない。

β-ラクタム系薬剤,クラリスロマイシン,およびエリスロマイシンは時間依存性の殺菌活性を示す。これらの薬物の濃度をMIC以上に高めても殺菌活性は向上せず,in vivoでの殺菌効果の発現は一般に時間がかかる。さらに,β-ラクタム系薬剤については,MIC未満まで濃度が低下した後に残存する細菌発育阻害効果が全くないか非常に短時間である(すなわち,post-antibiotic effectが最小限である)ことから,遊離体(血清タンパク質と結合していない薬物)の血清中濃度がMICを超える時間が50%以上になった場合に最も効果的となる。セフトリアキソンは血清中半減期が長い(約8時間)ため,その遊離体の血清中濃度は,非常に感受性の高い病原体に対するMICを24時間の投与間隔全体にわたって上回る。しかし,血清中半減期が2時間以下のβ-ラクタム系薬剤については,MICを超える時間を最適化するために頻回の投与または持続点滴が必要である。

ほとんどの抗菌薬は,AUC/MIC比で最もよく説明できる曝露量に依存する抗菌活性を示す。バンコマイシン,テトラサイクリン系,およびクリンダマイシンがその例である。

理論上の抗菌薬を単回投与としたときの時間と濃度の関係

抗菌薬の効力に関連する薬物動態/薬力学パラメータとして以下の3つがある:

  • 最高血清中濃度のMICに対する比

  • MICを超える時間の割合

  • MICに対する24時間AUCの比

有効性に関する参考文献

  1. 1.A PK/PD Approach to Antibiotic Therapy.RxKinetics.Accessed 3/26/20.

投与経路

多くの抗菌薬は,経口投与により静脈内投与時とほぼ同じ速さで血中濃度が治療域に達する。ただし,経口製剤のある薬剤であっても以下の状況では静脈内投与が望ましい:

  • 抗菌薬の経口投与に患者が耐えられない(例,嘔吐のため)。

  • 経口投与では抗菌薬があまり吸収されない(例,腸管手術後の吸収不良や[例えばオピオイド使用による]腸管運動障害のため)。

  • 状態が非常に悪く,消化管への血流が低下している可能性があるか,経口投与によるわずかな遅延でさえ悪化につながる可能性がある。

特別な集団

以下の患者には,抗菌薬の用量および投与スケジュールの調整が必要になる場合がある:

  • 乳児

  • 高齢者

  • 腎不全を有する患者(よく処方される抗菌薬の常用量の表を参照)

  • 肝機能不全のある患者(ほとんどの場合,セフォペラゾン,クロラムフェニコール,メトロニダゾール,リファブチン,およびリファンピシン)

  • 肥満患者

  • 嚢胞性線維症の患者

妊娠および授乳は抗菌薬の選択に影響を及ぼす。妊娠中に最も安全な抗菌薬としては,ペニシリン系,セファロスポリン系,およびエリスロマイシンがあり,テトラサイクリン系薬剤は禁忌である。ほとんどの抗菌薬は,母乳中濃度が授乳中の乳児に影響を及ぼしうる水準に達するため,授乳中の女性への使用はときに禁忌となる。

表&コラム

投与期間

抗菌薬の投与は,全身性感染症の客観的徴候(例,発熱,症状,臨床検査の異常所見)が消失してから数日経過するまで継続すべきである。一部の感染症(例,心内膜炎結核骨髄炎ハンセン病)については,再発予防のため,数週間ないし数カ月にわたり抗菌薬の使用を継続する。

合併症

抗菌薬療法の合併症には,非感受性の細菌または真菌による重複感染や皮膚,腎臓,血液,神経系,および消化管に対する有害作用などがある。

有害作用が生じると,原因薬剤の中止と病原体が感受性を示す別の抗菌薬への切換えがしばしば必要となり,ときに代替薬がない場合もある。

抗菌薬耐性

抗菌薬に対する耐性は,特定の菌種に本来備わっている性質である場合もあれば,突然変異あるいは,他の微生物からの抗菌薬耐性遺伝子の獲得による場合もある。それらの遺伝子には様々な耐性機序がコードされている(抗菌薬耐性の一般的な機序の表を参照)。耐性遺伝子は,以下の機序によって2つの細菌細胞間で伝達される:

  • 形質転換(transformation)(他の微生物からの裸のDNAの取込み)

  • 形質導入(transduction)(バクテリオファージの感染)

  • 接合(conjugation)(独自に複製される染色体外DNA断片であるプラスミドと可動性の染色体DNA断片であるトランスポゾンのいずれかの形をとる遺伝物質の交換)

プラスミドおよびトランスポゾンは耐性遺伝子を迅速に播種させる可能性がある。

抗菌薬の使用により非耐性菌が選択的に排除される結果,耐性菌の比率が高くなる。抗菌薬の使用は,病原性細菌だけでなく常在菌叢にもこのような影響を及ぼし,耐性のある常在菌叢は病原菌に拡散されうる耐性遺伝子の保有体となる可能性がある。

表&コラム
quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS