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脳膿瘍

執筆者:

John E. Greenlee

, MD, University of Utah Health

レビュー/改訂 2020年 7月
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脳膿瘍は脳内に膿が蓄積した状態である。症状としては,頭痛,嗜眠,発熱,局所神経脱落症状などがある。診断は造影MRIまたはCTによる。治療は抗菌薬に加えて,通常はCTガイド下穿刺吸引術または外科的ドレナージによる。

脳膿瘍は,脳の炎症領域が壊死に陥り,その周囲を神経膠細胞と線維芽細胞が被膜で覆うことによって形成される。膿瘍周囲の浮腫は,膿瘍そのものと同様に,頭蓋内圧を亢進させることがある。

脳膿瘍の病因

脳膿瘍の原因としては以下のものが考えられる:

感染する細菌は,通常は嫌気性菌であるが,ときに混合性のこともあり,しばしばBacteroides属などの嫌気性菌や嫌気性および微好気性 レンサ球菌 レンサ球菌感染症 レンサ球菌(streptococcus)は,咽頭炎,肺炎,創傷および皮膚感染症,敗血症,心内膜炎など,多くの疾患を引き起こすグラム陽性好気性細菌である。症状は感染臓器により異なる。A群β溶血性レンサ球菌による感染症の続発症としてリウマチ熱と糸球体腎炎がある。ほとんどの菌株はペニシリンに感受性を示すが,最近になってマクロライド耐性株が出現している。 ( 肺炎球菌感染症, リウマチ熱,および... さらに読む レンサ球菌感染症 が含まれる。 ブドウ球菌 ブドウ球菌感染症 ブドウ球菌はグラム陽性好気性細菌である。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は最も病原性が強く,典型的には皮膚感染症を引き起こすほか,ときに肺炎,心内膜炎,骨髄炎を引き起こすこともある。一般的には膿瘍形成につながる。一部の菌株は,胃腸炎,熱傷様皮膚症候群,および毒素性ショック症候群を引き起こす毒素を産生する。診断はグラム染色と培養による。治療には通常,ペニシリナーゼ抵抗性β-ラクタム系薬剤を使用する... さらに読む ブドウ球菌感染症 は頭蓋外傷,脳神経外科手術,または心内膜炎の後でよくみられる。腸内細菌は慢性耳感染症で分離されることがある。

脳膿瘍の症状と徴候

症状は頭蓋内圧亢進と腫瘤効果により生じる。古典的には,頭痛,悪心,嘔吐,嗜眠,痙攣発作,人格変化,乳頭浮腫,および局所神経脱落症状が数日から数週間をかけて出現するが,臨床経過が進行するまでこれらの症候が軽微であるか全くみられない患者もいる。

発熱,悪寒,および白血球増多は,感染領域が被膜で囲まれる前から生じることがあるが,受診時に認められない場合や,時間経過とともに消退する場合,そもそも生じない場合もある。

脳膿瘍の診断

  • 造影MRIまたは(それが不可能な場合)造影CT

症状から膿瘍が示唆される場合は,造影MRIの拡散強調像を取得するか,MRIが行えない場合は造影CTを施行する。完全に形成された膿瘍は,リング状の増強を伴う浮腫性の腫瘤として描出され, 脳腫瘍 診断 頭蓋内腫瘍は,脳やその他の組織(例,脳神経,髄膜)を侵す可能性がある。この種の腫瘍は,通常は成人期の初期または中期に発生するが,どの年齢層でも発生する可能性があり,現在は高齢者での頻度が増加している。脳腫瘍はルーチンの剖検の約2%で発見される。 腫瘍は良性の場合もあるが,頭蓋内には腫瘍が増大する余地がないため,たとえ良性の腫瘍でも重篤な神... さらに読む 診断 やときに 梗塞 診断 虚血性脳卒中とは,局所的な脳虚血に起因して突然生じる神経脱落症状のうち,永続的な脳梗塞(例,MRIの拡散強調画像で陽性となるもの)を伴うものである。一般的な原因は(頻度の高い順に)太い動脈のアテローム血栓性閉塞;脳塞栓症(塞栓性脳梗塞);深部の細い脳動脈の非血栓性閉塞(ラクナ梗塞);および近位部の動脈狭窄に加えて動脈分水嶺領域の脳血流量を減少させる血圧低下を伴うもの(血行力学性の脳卒中)である。診断は臨床的に行うが,出血を除外して脳卒中... さらに読む 診断 との鑑別が難しいことがあり,CTガイド下穿刺吸引術,培養,外科的切除,またはこれらの併用が必要になることがある。

膿瘍から吸引した膿の培養により,膿瘍の起因菌に的を絞った抗菌薬療法が可能となる。ただし,培養結果が得られるまで抗菌薬の開始を待ってはならない。

腰椎穿刺はテント切痕ヘルニアを誘発する可能性があり,また髄液所見は非特異的であるため(様々な疾患における髄液異常 様々な疾患における髄液異常 様々な疾患における髄液異常 の表を参照),腰椎穿刺は施行しない。

脳膿瘍の治療

  • 抗菌薬療法(最初はセフォタキシムまたはセフトリアキソンに加えて,疑いに基づきBacteroides属にはメトロニダゾールを,黄色ブドウ球菌[Staphylococcus aureus]にはバンコマイシンを投与し,続いて培養および感受性試験の結果に応じて変更する)

  • CTガイド下穿刺吸引術または外科的ドレナージ

  • ときにコルチコステロイド,抗てんかん薬,またはその両方

全例に最低4~8週間にわたり抗菌薬を投与する。最初に経験的に投与する抗菌薬は以下のいずれかである:

  • セフォタキシム2g,静注,4時間毎

  • セフトリアキソン2g,静注,12時間毎

どちらもレンサ球菌属,腸内細菌科,および大半の嫌気性菌に効果的であるが,Bacteroides fragilisには無効である。Bacteroides属の感染が疑われる場合は,上記に加えてメトロニダゾールを初回は15mg/kg(負荷量),以降は7.5mg/kgで6時間毎に静注する必要がある。黄色ブドウ球菌(S. aureus)が疑われる場合は,ナフシリン(nafcillin)(2g,4時間毎)に対する感受性が判明するまで(セフォタキシムまたはセフトリアキソンを併用して)バンコマイシンを1g,12時間毎で使用する。抗菌薬に対する反応のモニタリングには,MRIまたはCTの反復が最も有用である。

ドレナージ(CTガイド下または開頭下)は,外科的に到達可能な孤立性膿瘍の大半(特に直径が2cmを超えるもの)に対して至適かつ必要な治療法である。膿瘍の直径が2cm未満であれば,抗菌薬療法を単独で試してもよいが,その場合はMRIまたはCTの反復により膿瘍のモニタリングを行う必要があり,抗菌薬療法後に膿瘍が増大した場合は,外科的ドレナージの適応となる。

頭蓋内圧が亢進している患者には,短期間の高用量コルチコステロイド投与(デキサメタゾン10mgの単回静注に続いて4mg,静注,6時間毎を3~4日)が有益となりうる。

ときに痙攣発作の予防に抗てんかん薬が推奨される。

回復速度は,膿瘍の排除がどの程度成功したかと,患者の免疫機能に依存する。

易感染性患者(例,コントロール不良のHIV感染患者)にToxoplasma gondiiまたは真菌による膿瘍がある場合,生涯にわたって抗菌薬を服用し続けなければならない可能性がある。

脳膿瘍の要点

  • 脳膿瘍は直接波及(例,乳様突起炎,骨髄炎,副鼻腔炎,または硬膜下膿瘍),穿通性外傷(脳神経外科手術を含む),または血行性播種によって生じうる。

  • 頭痛,悪心,嘔吐,嗜眠,痙攣発作,人格変化,乳頭浮腫,および局所神経脱落症状が数日から数週間かけて生じ,受診時には発熱がみられないこともある。

  • 造影MRIまたは(MRIが利用できない場合は)造影CTを施行する。

  • 脳膿瘍は全て抗菌薬で治療し(最初は通常,セフォタキシムまたはセフトリアキソンをベースとして,Bacteroides属が疑われる場合はメトロニダゾールを,または黄色ブドウ球菌(S. aureus)が疑われる場合はバンコマイシンを追加する),典型的には続いてCTガイド下穿刺吸引術または外科的ドレナージを施行する。

  • 膿瘍の直径が2cm未満であれば,抗菌薬のみでの治療が可能であるが,その場合はMRIまたはCTの反復により膿瘍を注意深くモニタリングする必要があり,抗菌薬療法後に膿瘍が増大した場合は,外科的ドレナージの適応となる。

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