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認知症

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Memory Impairment and Neurodegenerative Dementia (MIND) Center, University of Mississippi Medical Center

最終査読/改訂年月 2016年 2月
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認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。診断は臨床的に行い,治療可能な原因の同定には通常,臨床検査および画像検査を利用する。治療は支持療法による。コリンエステラーゼ阻害薬はときに認知機能を一時的に改善する。

認知症はいかなる年齢にも起こりうるが,主として高齢者を侵す。介護施設入居者の半数以上にみられる。

認知症には複数の分類方法がある:

  • アルツハイマー型または非アルツハイマー型

  • 皮質性または皮質下性

  • 不可逆的または潜在的に可逆的

  • 一般的またはまれなもの

認知症とせん妄は,認知機能が低下するという点で共通するが,両者を混同すべきではない。両者の鑑別には以下の点が役立つ:

  • 認知症は主に記憶に影響を及ぼし,典型的には脳の解剖学的変化によって生じ,発症がより緩徐で,一般に不可逆的である。

  • せん妄は主に注意力に影響を及ぼし,典型的には急性疾患または薬物中毒(ときに生命を脅かす)によって引き起こされ,可逆的であることが多い。

その他の特異的な特徴も,これら2つの病態の鑑別に有用である( せん妄と認知症の相違点*)。

病因

認知症は脳に原発する疾患やその他の病態により引き起こされることがある( 認知症の分類例)。

最も頻度の高い認知症の病型としては以下のものがある:

認知症はパーキンソン病,ハンチントン病,進行性核上性麻痺,クロイツフェルト-ヤコブ病,Gerstmann-Sträussler-Scheinker症候群,その他のプリオン病,および神経梅毒でも発生する。2つ以上の病型が併存する場合もある(混合型認知症)。

一部の器質的脳疾患(例,正常圧水頭症,硬膜下血腫),代謝性疾患(例,甲状腺機能低下症,ビタミンB12欠乏症),および毒性物質(例,鉛)は,認知機能を緩徐に悪化させるが,これらは治療によって解消できる。このような障害はときに可逆的な認知症と呼ばれるが,認知症という用語を不可逆的な認知機能の低下に限定する専門家もいる。

うつ病は認知症に類似することがあり(かつては仮性認知症と呼ばれた),これら2つの疾患はしばしば併存する。一方,抑うつが認知症の最初の臨床像である場合もある。

加齢に伴う記憶障害とは,加齢によって起こる認知機能の変化のことであり,こういった変化は認知症ではない。高齢者は若い頃と比較し,記憶の想起能力,特にその速度が相対的に低下する。しかしながら,この変化は日常の機能に影響を及ぼさない。

軽度認知障害では,加齢に伴う記憶障害より記憶障害の程度が強く,年齢を合わせた対照と比べて記憶力やときにその他の認知機能が低下しているが,典型的には日常機能への影響はみられない。対照的に,認知症は日常機能を障害する。軽度認知障害のある患者の最大50%が3年以内に認知症を発症する。

認知症患者では,あらゆる疾患によって認知障害が増悪する可能性がある。認知症患者は,しばしばせん妄を起こす。

薬剤,特にベンゾジアゼピン系薬剤および抗コリン薬(例,三環系抗うつ薬,抗ヒスタミン薬,抗精神病薬,ベンツトロピン)は,たとえ低用量であっても一時的に認知症の症状を引き起こしたり悪化させることがあり,アルコールもまた同様である。腎不全または肝不全が新たに生じたり進行したりする場合は,薬物クリアランスが低下するため,何年間も一定の用量で投薬されていた場合でも薬物毒性が生じることがある(例,プロプラノロール)。

高齢で初発するほとんどのまたは全ての神経変性疾患に,プリオンによる機序が関与していると考えられる。正常な細胞タンパクのミスフォールディングが孤発性に(または,変異が遺伝することによって)起こり,病原性のあるタンパクまたはプリオンとなる。プリオンは鋳型として働き,他のタンパクのミスフォールディングの原因となる。この過程は中枢神経系の多くの部位で数年にわたって起こる。これらのプリオンの多くは不溶性となり,アミロイドと同様,細胞によって容易に取り除けなくなる。プリオンまたは類似の機序が,パーキンソン病,ハンチントン病,前頭側頭型認知症,および筋萎縮性側索硬化症の他,アルツハイマー病においても働いているとされるエビデンスがある(特にアルツハイマー病では強いエビデンスがある)。これらのプリオンはクロイツフェルト-ヤコブ病のプリオンほどは感染性は強くないが,伝播しうる。

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認知症の分類例

分類

βアミロイドの沈着および神経原線維変化

アルツハイマー病

タウタンパクの異常

慢性外傷性脳症

大脳皮質基底核変性症

前頭側頭型認知症(ピック病を含む)

進行性核上性麻痺

α-シヌクレインの異常

レビー小体型認知症

パーキンソン病認知症(Parkinson disease dementia)

ハンチンチン遺伝子の変異

ハンチントン病

脳血管疾患

ビンスワンガー病

ラクナ梗塞

多発梗塞性認知症

戦略的部位の単一梗塞による認知症

薬物または毒性物質の摂取

アルコール性認知症

重金属への曝露による認知症

感染症

真菌:クリプトコッカス症による認知症

スピロヘータ:梅毒またはライム病による認知症

ウイルス:HIV関連認知症,脳炎後症候群

プリオン病

アルツハイマー病

筋萎縮性側索硬化症

クロイツフェルト-ヤコブ病

前頭側頭型認知症

ハンチントン病

パーキンソン病

変異型クロイツフェルト-ヤコブ病

器質的脳疾患

脳腫瘍

慢性硬膜下血腫

正常圧水頭症

他の治療可能な疾患

うつ病

甲状腺機能低下症

ビタミンB12欠乏症

症状と徴候

認知症は認知機能を全般的に障害する。発症は緩徐であるが,家族が突然障害に気づくこともある(例,機能障害がみられたとき)。しばしば短期記憶の喪失が最初の徴候である。当初は,早期の症状を加齢に伴う記憶障害や軽度認知障害による症状と鑑別できないことがある。

認知症の症状は連続的であるものの,以下のように区分できる:

  • 早期

  • 中期

  • 後期

人格変化と行動障害は早期または後期のいずれにも起こりうる。運動障害とその他の局所神経脱落症状は認知症の病型に応じて異なる段階で発生し,血管性認知症では早期からみられる一方,アルツハイマー病では後期になってから生じる。痙攣発作の発生率は全ての病期でやや高い。

精神病(幻覚,妄想,またはパラノイア)は,認知症患者の約10%に発症するが,これらの症状を一時的に経験する患者はこれよりも多い。

早期認知症の症状

近時記憶が障害され,新しい情報の学習と保持が困難になる。言語障害(特に喚語),気分変動,および人格変化を来す。患者は自立した日常生活動作が次第に困難になる(例,家計簿をつけること,1人で歩き回ること,どこに物を置いたかを思い出すこと)。抽象的思考,洞察力,または判断力が損なわれることがある。自立できなくなったことや記憶の喪失に対する反応として,易怒性,敵意,興奮がみられることがある。

以下によって機能がさらに制限されることがある:

  • 失認:感覚機能は正常であるにもかかわらず,対象を認識できない

  • 失行:運動機能は正常であるにもかかわらず,すでに習得した運動を行えない

  • 失語:言語の理解または使用ができない

早期の認知症では,社交性は損なわれないこともあるが,情緒不安定を伴う異常行動を家族が報告することがある。

中期認知症の症状

新しい情報を学習したり想起できなくなる。遠隔記憶は低下するが,完全には喪失しない。基本的な日常生活動作(例,入浴,食事,更衣,トイレ)に介助を要することがある。

人格変化が進行することがある。易刺激的,不安,自己中心的,頑固,もしくは易怒的になる場合と,より受動的になり,感情鈍麻,抑うつ,優柔不断,自発性の欠如,もしくは全般的な引きこもりを来す場合とがある。

行動障害を来すことがある:徘徊したり,不適切な状況で突然興奮したり,敵対的ないし非協力的になったり,身体的攻撃性を示したりする。

この病期までに,患者は通常の環境的および社会的手がかりをうまく利用できないために,時間と場所に関する全ての感覚を喪失する。患者はしばしば迷子になり,自分の寝室や浴室を発見できないこともある。歩行能力は保たれているが,錯乱による二次的な転倒や事故のリスクがある。

感覚または知覚の変化が極まると,幻覚を伴う精神病や被害妄想を伴うパラノイアに陥ることがある。

睡眠パターンはしばしば乱れる。

後期(重度)認知症の症状

歩行,一人で食事すること,またはその他の日常生活動作ができなくなり,また失禁もするようになる。近時記憶および遠隔記憶は完全に失われる。嚥下が不可能になることがある。低栄養,肺炎(特に誤嚥性),褥瘡のリスクがある。介護面で他者に完全に依存することになるため,しばしば長期療養施設への入所が必要になる。最終的に無言になる。

このような患者は医師に症状を述べることが一切できず,また,高齢患者は感染しても発熱や白血球の反応がないことが多いため,患者の病状が悪くみえる場合,医師は自分の経験と洞察力に頼らなければならない。

末期の認知症は,通常感染症を契機に,昏睡,そして死に至る。

診断

  • 病歴および神経学的診察(精神状態検査を含む)による,せん妄と認知症の鑑別

  • 診察ならびに臨床検査および脳画像検査による治療可能な原因の同定

  • しばしば正式な神経心理学的検査

American Academy of Neurologyから認知症の診断に関する推奨が公開されている。

認知症の病型や原因の鑑別は困難なことがあり,確定診断にはしばしば剖検による脳組織の病理学的検査を要する。よって,臨床診断では,認知症をせん妄やその他の疾患と鑑別することと,侵されている脳部位の同定および潜在的に治療可能な原因の同定に重点を置く。

認知症は以下と鑑別する必要がある:

  • せん妄認知症とせん妄の鑑別は極めて重要(せん妄は通常,迅速な治療で回復するため)であるが,困難なことがある。まず,注意の評価を行う。不注意がみられる場合は,せん妄の可能性が高くなるが,進行した認知症でも注意は重度に障害される。認知症ではなく,せん妄であることを示唆するその他の特徴(例,認知障害の期間― せん妄と認知症の相違点*)は,病歴,身体診察,および特定の原因に対する検査から判断される。

  • 加齢に伴う記憶障害:日常機能に影響を及ぼさない記憶障害である。このような人々では,新たな情報を学習する時間が十分に与えられれば,知能面のパフォーマンスは良好である。

  • 軽度認知障害:記憶および/または他の認知機能が障害されるが,日常生活を妨げるほど重度ではない。

  • うつ病に関連した認知症状:このような認知障害は,うつ病を治療することで消失する。うつ病の高齢患者は認知機能の低下を経験することがあるが,認知症患者とは異なり,記憶障害を誇張する傾向があり,重要な最近の出来事や個人的事項を忘れることはまれである。神経学的診察では,精神運動抑制の徴候以外は正常となる。検査をすると,うつ病患者は答える努力をほとんど示さないのに対し,認知症患者は懸命に答えようとして間違える場合が多い。うつ病と認知症が併存する場合には,うつ病の治療を行っても,認知機能が完全には回復しない。

臨床基準

National Institute on Aging-Alzheimer's Associationの最新の診断ガイドラインでは,一般的な認知症の診断には以下の条件を全て満たす必要があるとされている:

  • 認知症状または行動(神経心理学的)症状が仕事や日常的な活動を行う能力を妨げている。

  • それらの症状が以前の機能レベルからの低下を反映している。

  • それらの症状をせん妄または主な精神障害によって説明することができない。

認知症および行動障害の診断は,患者および患者のことをよく知る関係者からの病歴聴取に加えて,認知機能の評価(ベッドサイドでの精神医学的診察またはベッドサイドでの検査で結論が出なければ正式な神経心理学的検査)に基づいて行うべきである。さらに,以下のうち2つ以上の領域で障害がみられる必要がある:

  • 新しい情報を獲得または記憶する能力の障害(例,同じ質問を何度もする,物の置き場所を頻繁に忘れる,約束を忘れる)

  • 推論能力および複雑な課題を処理する能力の障害ならびに判断力の低下(例,銀行口座を管理できない,金銭管理がずさんになる)

  • 言語機能障害(例,一般的な言葉を思い出せない,話すときおよび/または書くときの間違い)

  • 視空間認知障害(例,人の顔や一般的な物を認識できない)

  • パーソナリティ,行動,または態度の変化

認知障害が確認されたら,認知障害を引き起こす治療可能な疾患(例,ビタミンB12欠乏症,神経梅毒,甲状腺機能低下症,うつ病— せん妄の原因)の徴候に焦点を当てて病歴聴取および身体診察を行うべきである。

認知機能の評価

Mini-Mental Status Examination精神医学的診察)は,ベッドサイドでのスクリーニング検査として頻用されている。せん妄がない場合,特に教育水準が平均以上の患者では,複数の障害の存在は認知症を示唆する。記憶に関する最良のスクリーニング検査は短期記憶検査(例,3つの物を記銘させ,5分後にそれらを想起させる)であり,認知症患者はこの検査で失敗する。別の精神状態検査では,様々なカテゴリーに属するもの(例,動物,植物,家具のリスト)を列挙する能力を評価する。認知症患者は数個挙げるのにも苦労するが,認知症でない患者は多くのものを容易に列挙する。

神経心理学的検査は,病歴聴取とベッドサイドでの精神状態検査で結論が得られない場合に行うべきである。複数の認知機能領域に加えて,気分の評価も行う。検査の完了には1~3時間を要し,神経心理学の専門家が実施または監督する。このような検査は主に以下の鑑別に役立つ:

  • 加齢に伴う記憶障害,軽度認知障害(MCI),および認知症の鑑別(特に認知障害が軽度のみの場合,患者や家族が不安で保証を求めている場合)

  • 認知症と単一領域の認知障害(例,健忘,失語,失行,視空間認知障害,遂行機能障害)の鑑別(臨床所見から明確に鑑別できない場合)

この検査は認知症による具体的な障害の特定にも役に立ち,また認知機能の低下に寄与しているうつ病やパーソナリティ障害を検出できることがある。

臨床検査

検査には甲状腺刺激ホルモンおよびビタミンB12の測定を含めるべきである。ルーチンの血算および肝機能検査はときに推奨されるが,得られる情報は非常に少ない。

臨床所見から特定の疾患が示唆される場合は,その他の検査(例,HIVまたは梅毒の検査)が必要である。腰椎穿刺が必要になることはまれであるが,慢性感染症や神経梅毒が疑われる場合には考慮すべきである。せん妄の原因を除外するため,他の検査が行われることもある。

アルツハイマー病のバイオマーカーは,研究目的では有用でありうるが,実臨床でルーチンに使用されるには至っていない。例えば,アルツハイマー病が進展するにしたがい,髄液ではタウタンパクの濃度が上昇し,βアミロイドは減少する。また,アポリポタンパクE4アレル(apo ε4)のルーチンの遺伝子検査も推奨されていない(ε4アレルを2つ有する人々は,このアレルを有さない人々と比較して,75歳までにアルツハイマー病を発症するリスクが10~30倍高い)。

脳画像検査

CTまたはMRIは認知症の初期評価として,または認知機能や精神状態に突然何らかの変化が生じた際に行うべきである。脳画像検査により,治療できる可能性のある器質的疾患(例,正常圧水頭症,脳腫瘍,硬膜下血腫)や特定の代謝性疾患(例,Hallervorden-Spatz病,ウィルソン病)を同定することができる。

ときとして脳波検査が有用である(例,一時的な注意の欠落または奇異な行動の評価のため)。

機能的MRIまたはSPECT(単一光子放出型CT)では,大脳の灌流パターンに関する情報を得ることができ,鑑別診断(例,アルツハイマー病を前頭側頭型認知症およびレビー小体型認知症と鑑別する)に役に立つ。

軽度認知障害または認知症の患者のアミロイド斑をPETで画像化するにあたり,βアミロイド斑に特異的に結合するアミロイド放射性トレーサー(例,ピッツバーグ化合物B[PiB],florbetapir,flutemetamol,florbetaben)が使用されている。この検査は,包括的評価を行っても認知障害(例,軽度認知障害または認知症)の原因がはっきりせず,アルツハイマー病が候補に挙がっている場合に使用するべきである。PETでアミロイドの状態を判定することにより,診断と疾患管理の確実性が向上すると期待されている。

予後

認知症は通常進行性である。しかしながら,進行速度は大きく異なり,原因によって変わる。認知症により期待余命は短縮するが,生存期間の推定値にはばらつきがある。

治療

  • 安全確保のための対策

  • 適切な刺激,活動,および見当識の手がかりを与える

  • 鎮静または抗コリン作用を有する薬剤の中止

  • ときにコリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチン

  • 介護者への支援

  • 終末期ケアの準備

American Academy of Neurologyから認知症の治療に関する推奨が公開されている。治療に際しては,患者の安全を確保して適切な環境を整えるための対策が必須であり,介護者への支援も同様である。いくつかの薬剤が利用できる。

患者の安全

作業療法士や理学療法士は患者宅の安全性を評価できる;この評価の目標は,事故の予防(特に転倒),行動障害の管理,および認知症の進行とともに起こる変化に対する計画立案である。

様々な状況(すなわち,台所,自動車など)で患者がどれくらい機能できるか,シミュレーションしながら評価すべきである。障害がみられる患者が同じ環境にとどまる場合は,防護対策(例,刃物を隠す,暖房器具のプラグを抜いておく,車を排除する,車の鍵を没収する)が必要になることがある。認知症患者はある点を越えると安全な運転が不可能となることから,米国の一部の州では,医師に対してDepartment of Motor Vehicles(DMV:車両管理局)への認知症患者の報告が義務づけられている。

患者が徘徊する場合は,信号でモニタリングするシステムを導入するか,患者をSafe Returnプログラムに登録することができる。Alzheimer’s Associationから情報が公開されている。

最終的には,介護(例,ハウスキーパー,訪問介護)または環境調整(階段のない住居,介護施設,高度看護施設)が必要になる場合がある。

環境調整

通常,軽度から中等度の認知症患者は慣れ親しんだ環境にいるときに機能が最も良好となる。

在宅か施設かにかかわらず,以下の対策を講じることにより,自己統制および尊厳の維持に役立つ環境を設計すべきである:

  • 見当識を頻繁に強化する

  • 患者が慣れ親しんだ明るく楽しい環境を作る

  • 新しい刺激を最小限に抑える

  • 規則的でストレスの少ない活動を行わせる

見当識は,大きなカレンダーや時計を置いたり,日々の行動に決まった手順をつくったりすることで強化できる;医療スタッフが大きな名札をつけて,繰り返し自己紹介するのもよい。周囲の環境,日課,または担当者に変更がある場合は,患者に正確かつ簡潔に説明し,重要でない手順は省略する。患者が変化に適応して慣れるまでには時間がかかる。これから起こることについて(例,入浴または食事について)患者に話すことで,抵抗や暴力的反応を回避できる可能性がある。スタッフや親しい人々が頻繁に訪問することは,患者が社会性を保つための励みとなる。

室内は適度に明るくして,感覚を刺激する物(例,ラジオ,テレビ,常夜灯)を置くことで,患者の見当識を維持し注意を集中しやすくする。静かで暗い1人部屋は避けるべきである。

活動は患者の機能改善に役立つ;認知症発症前の関心事に結びついた活動を選択するのがよい。活動内容は楽しく,何らかの刺激を与えるものとすべきであるが,あまり多くの選択肢や困難を伴うものであってはならない。

不穏を軽減し,バランス機能を改善し,心血管系の状態を維持する運動を毎日行う。運動は睡眠の改善や行動障害の管理にも役立つことがある。

作業療法音楽療法は,巧緻運動の制御の維持に役立ち,非言語的な刺激を与える。

集団療法(例,回想療法,社会療法)は会話および対人技能の維持に役立つことがある。

薬剤

中枢神経系作用を有する薬剤を中止または制限することによって,しばしば機能が改善する。鎮静薬および抗コリン薬は認知症を悪化させる傾向があるため,避けるべきである。

コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル,リバスチグミン,およびガランタミンは,アルツハイマー病またはレビー小体型認知症患者の認知機能改善にいくらか効果的であり,認知症の他の病型にも有用となりうる。これらの薬剤はアセチルコリンエステラーゼを阻害して,脳内のアセチルコリン濃度を上昇させる。

NMDA(N-メチル-d-アスパラギン酸)拮抗薬であるメマンチンは,中等度から重度の認知症患者において認知機能低下を遅らせるのに役立ち,コリンエステラーゼ阻害薬と併用した場合相乗作用が得られる可能性がある。

行動障害をコントロールする薬剤(例,抗精神病薬)も使用されている。認知症に加えてうつ病の徴候を有する患者は,抗コリン作用のない抗うつ薬,可能であればSSRIで治療すべきである。

介護者への支援

近親者は認知症患者の介護において非常に責任の重い立場にある( 家族による高齢者の介護)。看護師およびソーシャルワーカーは,近親者や他の介護者に,患者の要求を満たす最善の方法を指導できる(例,日々のケアの方法および金銭問題の扱い方);指導は継続的に行うべきである。他にも利用できる手段(例,支援団体,教材,インターネットのウェブサイト)がある。

介護者は多大なストレスを経験しうる。ストレスの原因としては,患者の保護に関する心配,誰かの世話に献身しなければならない状況からくる苛立ち,消耗,怒り,および憤りなどが考えられる。医療従事者は介護者のストレスおよび燃え尽きの早期症状に注意し,必要であれば支援サービス(例,ソーシャルワーカー,栄養士,看護師,訪問介護)を提案すべきである。

通常みられない外傷を認知症患者に認めた場合は,高齢者虐待の可能性を調査すべきである。

終末期の問題

認知症患者は洞察力と判断力が低下しているため,金銭管理を行う家族,後見人,または弁護士の決定が必要になる場合がある。認知症の早期,患者が判断能力を喪失する前に,介護についての患者の希望を明確にしておき,金銭上および法律上の取り決め(例,永続的委任状,医療判断代理委任状)を行うべきである。これらの文書に患者が署名する際は,患者の能力を評価し,評価結果を記録すべきである( 能力(資格)および無能力)。人工栄養および急性疾患の治療についての決断は,必要性が生じる前に決断しておくのが最善である。

認知症が進行すると,高度に積極的な介入や入院治療よりも,緩和的手段の方が適切な可能性がある。

要点

  • 加齢に伴う記憶障害および軽度認知障害と異なり,認知症は日常機能を妨げる認知障害を引き起こす。

  • 患者の家族は,緩徐に発生した症状であっても,気付いたのが突然であれば突然出現したと報告する場合があることに留意すべきである。

  • 器質的脳疾患(例,正常圧水頭症,硬膜下血腫),代謝性疾患(例,甲状腺機能低下症,ビタミンB12欠乏症),薬剤,うつ病,毒性物質(例,鉛)など,認知機能低下の可逆的な原因を考慮する。

  • ベッドサイドで精神状態検査を施行し,必要であれば正式な神経心理学的検査を行い,認知機能が2つ以上の領域で障害されていることを確認する。

  • 患者の安全を最大限確保するため,患者に親しみやすい快適な環境を提供するため,ならびに介護者を支援するために,種々の対策が講じられるように推奨または支援する。

  • 補助的な薬物療法を考慮し,また終末期の準備をすることを推奨する。

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