正常圧水頭症は,歩行障害,尿失禁,認知症,脳室拡大,および正常ないし軽度上昇した髄液圧を特徴とする。
(せん妄および認知症の概要と認知症も参照のこと。)
認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。
正常圧水頭症は,くも膜顆粒による髄液の吸収に欠陥があることが原因と考えられている。この疾患は認知症の最大6%を占める。
正常圧水頭症は以下のように分類される:
認知症とせん妄は,認知機能が低下するという点で共通するが,両者を混同すべきではない。両者の鑑別には以下の点が役立つ:
認知症は主に記憶に影響を及ぼし,典型的には脳の解剖学的変化によって生じ,発症がより緩徐で,一般に不可逆的である。
せん妄は主に注意力に影響を及ぼし,典型的には急性疾患または薬物中毒(ときに生命を脅かす)によって引き起こされ,可逆的であることが多い。
その他の特異的な特徴も,認知症とせん妄の鑑別に有用である(せん妄と認知症の相違点の表を参照)。
正常圧水頭症の症状と徴候
magnetic gait(足が床に張り付いているように見える歩容)は正常圧水頭症に特徴的な歩行障害と考えられているが,一般的にみられるのは非特異的な不安定性とバランス障害である。
この疾患では認知症は後期まで起こらないことがある。最もよくみられる認知症の早期症状は,遂行機能および注意の障害であり,記憶は後から障害される傾向がある。
尿失禁がよくみられる。
正常圧水頭症の診断
臨床的評価
脳画像検査
しばしば髄液の除去
古典的症状(歩行障害,尿失禁,および認知症)は,たとえ同時にみられたとしても,正常圧水頭症に特異的なものではなく,特に高齢者ではその傾向が強くなる。例えば,一部の病型の血管性認知症では,認知症と歩行障害のほか,より頻度は低いが尿失禁が生じることがある。
一般的な認知症の診断には以下の全てを満たす必要がある:
認知症状または行動(神経心理学的)症状が仕事や日常的な活動を行う能力を妨げている。
それらの症状が以前の機能レベルからの低下を反映している。
それらの症状をせん妄または主な精神疾患によって説明することができない。
認知機能の評価には,患者および患者のことをよく知る関係者からの病歴聴取に加えて,ベッドサイドでの精神医学的診察または(ベッドサイドでの検査で結論が出なければ)正式な神経心理学的検査が必要である。
脳画像検査では皮質の萎縮に対して不相応な脳室の拡大を認めることがあり,この所見は非特異的ではあるが,正常圧水頭症の診断の裏付けとなりうる。皮質凸部高位の脳溝がしばしば圧縮されており,シルビウス裂は萎縮により不相応に拡大している。
腰椎穿刺を行う。正常圧水頭症の患者では,髄液の初圧は正常であるはずである。診断を目的として30~50mLの髄液の除去を行うことができる。除去後の歩行,失禁,および認知機能の改善は患者が脳室腹腔シャント術に適格である可能性を示唆するが,除去後数時間は改善がはっきりしない場合がある。腰椎穿刺後にさらに髄液が漏れ出ることがあり,それによりしばしば神経学的な改善が進む。
正常圧水頭症の治療
しばしば脳室腹腔シャント術
脳室腹腔シャント術は,手術リスクが許容できる患者に有用である。診断時に行われた腰椎穿刺による髄液除去でどの程度改善したかにより,シャント術に対する反応を予測できる。いくつかの症例集積研究(ランダム化試験はなし)では,シャント術後に大きな改善がみられ,典型的には歩行,失禁,および日常機能の改善が多かった;認知機能の改善はより頻度が低かった。
要点
正常圧水頭症は古典的症状(歩行障害,尿失禁,認知症)に基づいて疑うが,診断確定の参考として,診断的腰椎穿刺による過剰な髄液の除去を考慮する。
手術のリスクが許容できる場合は,脳室腹腔シャントを留置することで,歩行,失禁,および日常機能が有意に改善する可能性がある;精神機能の改善はより小さい。