(頸部痛および背部痛の評価も参照のこと。)
病因
坐骨神経痛は典型的には神経根圧迫によって引き起こされ,通常は椎間板ヘルニア,骨の不整(例,変形性関節症の骨棘,脊椎すべり症),脊柱管狭窄症,または,頻度ははるかに少ないが,脊椎内の腫瘍もしくは膿瘍に起因する。圧迫は,脊柱管内または椎間孔内で起こりうる。神経はまた,骨盤または殿部において脊柱外で圧迫されることもある。L5-S1,L4-L5,およびL3-L4の神経根が最もよく侵される( 髄節レベル毎の脊髄機能障害の影響)。
症状と徴候
痛みが坐骨神経の走行に沿って放散し,ほとんどの場合殿部および下肢後面を膝下まで下行する。典型的には灼熱痛,電撃痛,または突き刺すような痛みである。腰痛が伴うことも伴わないこともある。バルサルバ法または咳嗽により,椎間板ヘルニアによる痛みが悪化することがある。患者は,患側の下肢のしびれおよびときに脱力を訴えることがある。
神経根圧迫は,感覚障害,運動障害,または反射障害(最も客観的な所見)を引き起こすことがある。L5-S1の椎間板ヘルニアはアキレス腱反射に影響を及ぼすことがあり,L3-L4の椎間板ヘルニアは膝蓋腱反射に影響を及ぼすことがある。
下肢伸展挙上により,下肢をゆっくり60°以上(およびときにそれより少なく)挙上した際に,下肢を下行して放散する痛みが生じることがある。この所見は坐骨神経痛に対して感度が高い;対側の下肢を挙上(交叉下肢伸展挙上)した場合に患側の下肢を下行して放散する痛みは,坐骨神経痛に対してより特異的である。下肢伸展挙上テストは,患者に股関節を90°に屈曲させた座位をとらせて行うことができる;膝が完全に伸展するまで下腿をゆっくり持ち上げる。坐骨神経痛がある場合,下肢を伸展するにつれて脊椎の痛み(およびしばしば根性症状)が起こる。
診断
特徴的な痛みに基づいて坐骨神経痛を疑う。坐骨神経痛が疑われる場合,筋力,反射,および感覚を検査すべきである。神経脱落症状がある場合,または症状が6週間を超えて持続する場合,画像検査および電気診断検査を行うべきである。坐骨神経痛を引き起こす構造的異常(脊柱管狭窄症など)は,MRIまたはCTによって最も正確に診断される。
電気診断検査によって神経根圧迫の有無および程度を確認でき,多発神経障害のような,坐骨神経痛と類似しうる病態を除外できる。これらの検査は,病変が侵す神経レベルが単一が複数か,および臨床所見がMRI上の異常と相関するかを判定するために役立つことがある(特に手術前に有用)。しかし,発症してから最大数週間は電気診断検査で異常が明らかでないことがある。
治療
ベッドの頭側を約30°持ち上げた臥位(セミファーラー位)での24~48時間の床上安静により,急性痛が緩和することがある。非オピオイド鎮痛薬(例,NSAID,アセトアミノフェン)など,腰痛治療に用いる処置を最長で6週間試してもよい。ガバペンチンやその他の抗てんかん薬または低用量の三環系抗うつ薬(いずれの三環系抗うつ薬も他の1つより優れることはない)など,神経障害性疼痛を軽減する薬剤( 神経障害性疼痛 : 治療)で症状が緩和することがある。ガバペンチンは最初,就寝時に100~300mgの経口投与を使用するが,典型的にははるかに高用量が必要である(最大3600mg/日)。全ての鎮静薬と同様に,高齢者,転倒のリスクがある患者,不整脈がある患者,および慢性腎臓病の患者では注意すべきである。
筋攣縮は加温または冷却療法で軽減することがあり( 疼痛および炎症の治療のためのリハビリテーション),理学療法が有用となりうる。コルチコステロイドを急性の根性痛の治療に使うべきかどうかについては議論がある。コルチコステロイドを硬膜外に投与すると痛みの緩和を加速する可能性があるが,痛みが重度または持続性でない限りおそらく使うべきではない。一部の医師は経口コルチコステロイドを試みる。
手術は,馬尾症候群に対して,または以下のうち1つを伴う明白な椎間板ヘルニアに対してのみ適応となる:
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筋力低下
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進行性の神経脱落症状
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情緒が安定している患者の仕事または私生活における機能を妨げ,6週間の保存的治療で軽減しない,耐え難い難治性の痛み;ただし,このような場合は,全身性の筋筋膜痛症候群など他の診断を考慮および評価すべきである。
椎間板ヘルニアに対する限定的な椎弓切除術による古典的な椎間板切除術が標準手技である。ヘルニアが限局している場合は顕微鏡視下ヘルニア摘出術を行うことがある;それにより,皮膚切開および椎弓切除がより小さくなりうる。キモパパインの椎間板内注射による化学的髄核融解は,もはや用いられていない。
不良な手術成績の予測因子には以下のものなどがある: