失神

執筆者:Andrea D. Thompson, MD, PhD, University of Michigan;
Michael J. Shea, MD, Michigan Medicine at the University of Michigan
レビュー/改訂 2020年 9月
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失神とは,突然生じる短時間の意識喪失のうち,姿勢緊張の喪失を伴い,自然に回復するものである。患者は動かず,ぐったりとし,通常は四肢が冷たく,脈は弱く,呼吸は浅くなる。ときに,痙攣発作に似た不随意性の筋痙攣が短時間生じることもある。

失神前状態では,ふらつきと卒倒感が生じるが,意識喪失は伴わない。失神と原因が同じであることから,通常は失神に分類され,同様に論じられる。

痙攣発作は突然の意識喪失を伴うことがあるが,失神とはみなされない。しかしながら,失神と思われる患者が受診した場合には,病歴が不明または聴取不能のこともあり,また一部の痙攣発作では強直間代痙攣がみられないことから,痙攣発作も考慮する必要がある。さらに,短時間(5秒未満)の痙攣発作はときに真の失神を伴って発生する。

診断は入念な病歴聴取,目撃者の証言,偶然発生中に行えた診察での所見に依存する。

失神の病態生理

ほとんどの失神は,脳血流量が不十分となることによって発生する。症例によっては,血流量は十分であるが,脳内の基質(酸素,グルコース,またはその両方)が不足している。

脳血流量の不足

脳血流量の低下の大半は,心拍出量の低下が原因である。

心拍出量の低下は以下の原因によって発生しうる:

  • 流出路閉塞を引き起こす心疾患

  • 収縮機能障害を引き起こす心疾患

  • 拡張機能障害を引き起こす心疾患

  • 不整脈(速すぎる,または遅すぎる)

  • 静脈還流量を減少させる状態

流出路閉塞は,運動,血管拡張,および循環血液量減少によって増悪する可能性があり(特に大動脈弁狭窄症および肥大型心筋症の場合),失神の誘発因子となりうる。

不整脈による失神は,心拍数が高すぎて十分な心室充満が得られない場合(例,150~180/分を超える),または心拍数が低すぎて十分な拍出量が得られない場合(例,30~35/分未満)に発生する。

静脈還流量は出血,胸腔内圧上昇,迷走神経緊張亢進(これにより心拍数も低下しうる),および交感神経緊張の低下(例,薬物,頸動脈洞の圧迫,自律神経機能障害によるもの)により減少しうる。これらの機序(出血は除く)が関与する失神は,しばしば血管迷走神経性または神経心原性と呼ばれ,頻度は高いが良性の失神である。

起立性低血圧は,失神の原因としてよくみられる病態であり,起立により生じる一時的な静脈還流量の減少を代償する正常な機序(例,洞頻拍,血管収縮,またはその両方)が機能しないことにより発生する。

脳血管疾患(例,脳卒中一過性脳虚血発作)による失神はまれであるが,その理由は,意識喪失が生じる上で影響を受ける必要のある中心脳構造が,これらの疾患では障害されないためである。しかしながら,一過性脳虚血発作または片頭痛による脳底動脈虚血では,失神が生じることがある。まれに,重度の頸椎関節炎または頸椎症の患者が頭部を特定の姿勢に動かした際に,椎骨脳底動脈の循環不全が生じて失神が引き起こされることがある。

脳内の基質の不足

中枢神経系が機能するためには酸素とグルコースが必要である。脳血流量が正常でも,これらのいずれかが顕著に不足すれば意識喪失が引き起こされる。低酸素症が(飛行中または潜水中の発生以外で)突然の意識喪失を引き起こすことはまれであるため,日常診療では低血糖が最も頻度の高い原因である。低血糖に起因する意識喪失は,警告症状がみられる(β遮断薬を服用している患者は除く)ことから,失神や痙攣発作のように突然発症することはまれであるが,目撃者がいない限り,診察する医師には発症は不明確となる。

失神の病因

原因は通常,機序によって分類される(失神の主な原因の表を参照)。

最も一般的な原因は以下のものである:

  • 血管迷走神経性(神経心原性)

  • 特発性

失神の症例の多くは確定診断に至らないが,明らかな危害はもたらされない。重篤な疾患(通常は心疾患)を有する症例は比較的少数である。

表&コラム
表&コラム

失神の評価

症状発生後できるだけ早く評価を行うべきである。失神の発生から時間が経過するほど,診断はより困難となっていく。目撃者からの情報はかなり参考になり,できるだけ早く収集するのが最善である。

病歴

現病歴の聴取では,失神につながった事象を確認すべきであり,具体的には患者の活動(例,運動,口論,感情的と予想される状況),体位(例,臥位または立位),立位の場合はその時間などを考慮する。失神発生の直前または直後にみられる重要な併発症状としては,意識喪失に至りそうな感覚,悪心,発汗,霧視または視野狭窄(tunnel vision),口唇または指先のピリピリ感,胸痛,動悸などがある。回復までの時間も確認すべきである。目撃者がいる場合は,探して発生時の状況を説明してもらい,特に痙攣の有無とその持続時間を尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,疼痛または外傷のある領域,起床時のめまいまたは失神前状態のエピソード,労作時の動悸または胸痛のエピソードについて尋ねるべきである。血便またはタール便,重い月経(貧血),嘔吐,下痢,過度の排尿(脱水または電解質異常)など,何らかの原因を示唆する症状と,肺塞栓症の危険因子(最近の手術または不動状態,既知の悪性腫瘍,過去の血栓症または凝固亢進状態)について尋ねるべきである。

既往歴の聴取では,過去の失神,既知の心血管疾患,および既知の痙攣性疾患について尋ねるべきである。使用薬剤を同定すべきである(特に降圧薬,利尿薬,血管拡張薬,抗不整脈薬―失神を引き起こす薬物の表を参照)。家族歴の聴取では,家系内で心疾患または突然死を若年で発症した者の有無に注意すべきである。

身体診察

バイタルサインは必須である。仰臥位時と3分間の立位後に心拍数と血圧を測定する。脈拍を触診して,不整脈がないか確認する。

全身状態の観察では,発作後朦朧状態を示唆する錯乱や躊躇などの精神状態と,外傷を示唆する徴候(例,皮下出血,腫脹,圧痛,舌咬傷)に注意する。

心臓を聴診して,雑音がないか確認するとともに,雑音を認めた場合は,バルサルバ法,起立,または蹲踞による心雑音の変化に注意する。

心電図検査を施行できない場合は,頸部の触診または心臓の聴診と同時に頸静脈波( see figure 正常な頸静脈波)を慎重に評価することで,不整脈の診断が可能になる場合がある。

仰臥位で心電図モニタリングを行いつつ,片側の頸動脈洞を慎重に圧迫することにより,頸動脈洞過敏症を示唆する徐脈または心ブロックの検出を試みる医師もいる。頸動脈洞の圧迫は,頸動脈雑音を認める場合には行ってはならない。

腹部を触診して圧痛がないか確認するとともに,直腸診を行って,肉眼的出血または潜血がないか確認する。

フルセットの神経学的診察を行い,中枢神経系の原因を示唆する局所の異常を同定する(例,痙攣性疾患)。

警戒すべき事項(Red Flag)

特定の所見はより重篤な病因を示唆する:

  • 労作時の失神

  • 短時間で複数回の再発

  • 心雑音をはじめとする構造的心疾患を示唆する所見(例,胸痛)

  • 高齢

  • 失神中の顕著な外傷

  • 予期しない突然死,労作時の失神,原因不明の再発性失神または痙攣発作の家族歴

所見の解釈

原因は良性であることが多いが,突然死のリスクがあるため,ときにみられる生命を脅かす原因(例,頻拍性不整脈,心ブロック)を同定することが重要である。40~50%の症例では臨床所見(失神の主な原因の表を参照)が原因の推定に有用となる。いくつかの一般化が有用である。

良性の原因がしばしば失神につながる。

  • 不快な身体的または感情的刺激(例,疼痛,恐怖)により誘発される失神のうち,通常は立位で起こり,しばしば迷走神経反射による警告症状(例,悪心,筋力低下,あくび,不安感,霧視,発汗)が先行するものは,血管迷走神経性失神を示唆する。

  • 立位時に最もよくみられる失神(特に長期臥床後の高齢患者,または特定クラスの薬物を投与されている患者にみられる)は,起立性失神を示唆する。

  • 長時間動かずに立位を維持した後に起こる失神は,通常は静脈系への血液貯留によるものである。

  • 突然発生した意識喪失で,数秒以上持続する筋肉の攣縮ないし痙攣,失禁,流涎,または咬舌を伴い,かつ発作後に錯乱または傾眠がみられるものは,てんかんを示唆する。

危険な原因はレッドフラグサインによって示唆される。

  • 労作に伴う失神は,流出路閉塞または運動による不整脈を示唆する。このような患者では,ときに胸痛動悸,またはその両方が認められる。心臓所見は原因を同定する上で有用となりうる。頸動脈に放散するピークの遅い心基部の粗い雑音は大動脈弁狭窄症を示唆し,バルサルバ法で増大して蹲踞で消失する収縮期雑音は肥大型心筋症を示唆する。

  • 突然かつ自然に発生して終息する失神は,典型的には心原性の失神であり,最も頻度の高い原因は不整脈である。

  • 臥位では血管迷走神経反射や起立性変化による失神は起きないため,臥位で発生した失神も不整脈を示唆する。

  • 発生時に外傷が生じた失神は,心原性または痙攣発作の可能性が高いことから,そのような失神はより重大な懸念となる。良性の血管迷走神経性失神で,警告徴候がみられ,意識喪失が緩徐な場合には,外傷の生じる可能性がいくらか低くなる。

検査

一般的に施行される検査:

  • 心電図検査

  • パルスオキシメトリー

  • ときに心エコー検査

  • ときにティルト試験

  • 臨床的に適応がある場合のみ血液検査

  • 中枢神経系の画像検査が適応となることはまれである

一般に,失神が外傷につながった場合や再発する場合(特に短期間)には,より徹底的な評価が必要である。臨床所見(心原性と疑われる,または神経脱落症状がある)に基づく適応がない限り,心臓および脳の画像検査は行わない。

不整脈,心筋炎,または虚血が疑われる患者は,入院患者として評価すべきである。それ以外は外来患者として評価してよい。

全例で心電図検査を施行する。心電図検査では不整脈,伝導異常,心室肥大,早期興奮,QT延長,ペースメーカー機能不全,心筋虚血,または心筋梗塞が明らかになることがある。臨床的な手がかりがない場合は,高齢患者では心筋梗塞を除外するため,心筋マーカーの測定と連続心電図に加え,少なくとも24時間の心電図モニタリングを行うことが賢明である。不整脈が検出されたとしても,それを原因と判断するには意識変容を伴っている必要があるが,モニタリング中に失神を起こす患者はほとんどいない。一方,不整脈がない状態で症状がみられることは,心原性の原因を除外する上で有用な情報である。失神の前に警告症状がみられる場合は,イベントレコーダーが有用となりうる。虚血性心疾患の患者や心筋梗塞後の患者では,加算平均心電図で心室性不整脈の素因が同定されることがある。失神がまれにしか発生しない場合(例,月1回未満)は,植込み型ループレコーダーを使用することで,より長期の記録を取ることが可能である。

低酸素血症(肺塞栓症を示唆している可能性)を同定するため,エピソードの間または直後にパルスオキシメトリーを行うべきである。低酸素血症がみられる場合は,肺塞栓症を除外するためにCTまたは肺シンチグラフィーの適応となる。

臨床検査は臨床的な疑いに基づいて施行すべきであり,よく考えずに行った臨床検査が役立つことはほとんどない。ただし,妊娠可能年齢の女性には全例で妊娠検査を行うべきである。貧血が疑われる場合は,ヘマトクリットを測定する。電解質は,臨床的に異常が(例,症状または薬物使用により)疑われる場合に限り測定する。急性心筋梗塞が疑われる場合は血清トロポニン値を測定する。

臨床的に説明できない失神,運動により誘発される失神,心雑音,または心臓内腫瘍の疑いがある患者(例,起立性失神がある患者)では,心エコー検査の適応となる。

病歴と身体診察から血管拡張薬または他の反射による失神が示唆される場合は,ティルト試験を施行してもよい。また,労作時の失神で心エコー検査または運動負荷試験が陰性となった場合にも,この検査が評価に用いられる。

間欠的な心筋虚血が疑われる場合は,負荷試験(運動または薬物負荷)を施行する。運動によって症状が誘発される患者で行われることが多い。

以下のうちいずれかのある患者において非侵襲的検査では不整脈を同定できない場合には,侵襲的な心臓電気生理検査を考慮する:

  • 原因不明の繰り返す失神

  • 原因不明のレッドフラグサイン

  • 虚血性心筋症および原因不明の失神

この検査で陰性と判定されれば,失神の寛解率が高い低リスク群に分類される。その他の患者に対する心臓電気生理検査の施行については議論がある。運動負荷試験では,身体運動が失神の誘発因子である場合を除き,あまり有用とならない。

痙攣性疾患が疑われる場合は,脳波検査が必要である。

頭部および脳のCTおよびMRIは,徴候と症状から中枢神経系の限局性疾患が示唆される場合にのみ適応となる。

失神の治療

失神を目撃できた場合は,直ちに脈を確認する。脈を認めない場合は,心肺蘇生を開始する。脈を認められる場合は,重度の徐脈であれば,アトロピンまたは経胸壁ペーシングにより治療する。一時的なペースメーカーを取り付ける間に十分な心拍数を維持するため,イソプロテレノールを使用することができる。

頻拍性不整脈を治療する場合,不安定な患者には,カルディオバージョンがより迅速かつ安全な治療法となる。静脈還流量の低下は,患者を仰臥位にして下肢を挙上し,生理食塩水の輸液により治療する。タンポナーデは心嚢穿刺により軽減させる。緊張性気胸では胸腔穿刺と胸腔ドレナージが必要となる。アナフィラキシーはアドレナリンの注射により治療する。

生命を脅かす疾患を除外できた場合は,典型的には水平臥位をとらせて下肢を挙上することで,失神の症状は消失する。あまり急に座位をとらせると,失神が再発することがあり,また座位で何かにもたれさせたり,起こしたまま搬送したりすると,脳灌流の低下を長期化させ,回復を妨げることがある。

具体的な治療法は原因とその病態生理に依存する。原因を特定して治療するまでは,運転および機械の使用を禁止すべきである。

老年医学的重要事項

高齢者における失神の最も一般的な原因は,複数の因子が複合して生じる体位性低血圧である。具体的な因子としては,動脈の硬化とコンプライアンス低下,運動不足に起因する骨格筋ポンプによる静脈還流の減少,構造的心疾患の進行による洞房結節および伝導系の変性などがある。

高齢者では,失神は複数の原因によることが多い。例えば,単一の因子では失神は生じなくとも,心臓や血圧に作用する薬剤をいくつか服用していると,高温の教会で行われる長時間または感情的な礼拝での立位が組み合わさることで,失神が引き起こされる可能性がある。

失神の要点

  • 失神は中枢神経系全体の機能障害により生じ,通常は脳血流量の不足に起因する。

  • ほとんどの失神は良性の原因によって引き起こされる。

  • 比較的まれな原因には,不整脈または流出路閉塞が関与しており,それらは重篤であり,致死的となる可能性もある。

  • 血管迷走神経性失神では,明らかな誘発因子と警告症状を認め,回復後には数分ないしそれ以上持続する症状がみられる。

  • 不整脈に起因する失神は,典型的には突然発生して速やかに回復する。

  • 痙攣発作は回復までの時間が長い(例,数時間)。

  • 良性の病因が明らかでない場合は,原因が同定されて治療が完了するまで,自動車の運転や機械操作を禁止するべきであり,認識されていない心原性の病態が次回発生する際には致死的となる可能性がある。

失神についてのより詳細な情報

Shen WK, Sheldon RS, Benditt DG, et al: 2017 ACC/AHA/HRS guideline for the evaluation and management of patients with syncope.Circulation 70(5):e60–e122, 2017.doi: 10.1161/CIR.0000000000000499

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