敗血症にかかった新生児は、一般に元気がない、つまりぼんやりしていて哺乳が不良であり、多くの場合皮膚が灰色になるほか、発熱または低体温がみられることもあります。
診断は症状と血液、尿、または髄液中の 細菌 細菌の概要 細菌は、顕微鏡で見ることができる大きさの単細胞生物です。地球の最も初期の段階から存在している生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境で生存しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌は、人間や動物の皮膚、気道、口、消化管、尿路、生殖器の表面や内部で、何の... さらに読む 、 ウイルス ウイルス感染症の概要 ウイルスは、核酸( DNAかRNAのどちらか一方)と、それを覆うタンパク質の膜で構成されています。ウイルスが増殖するには、生きた細胞を必要とします。ウイルス感染症は、無症状(明らかな症状はない)から重症の病気まで、幅広い病態を引き起こします。 ウイルスへの感染は、ウイルスを飲み込んだり、吸い込んだり、虫に刺されたりするか、性的な接触を通じ... さらに読む 、または 真菌 真菌感染症の概要 真菌は植物でも動物でもなく、その大きさは顕微鏡でようやく見えるものから肉眼で容易に見えるものまで様々です。かつては植物と考えられていましたが、現在では独自の区分(界)に分類されています。一部の真菌は人に感染症を引き起こします。 真菌の胞子は空気中や土壌中に存在することが多いため、真菌感染症は通常は肺や皮膚から始まります。... さらに読む の存在に基づいて下されます。
治療では抗菌薬が投与されるほか、支持療法として、輸液、赤血球や血漿の輸血、呼吸補助(人工呼吸器を使用する場合があります)、血圧を維持する薬の投与などが行われます。
血流の感染症は、脳を覆う組織と脳自体に広がる場合があります(髄膜炎)。
(新生児の感染症の概要 新生児の感染症の概要 感染症はどの年齢の人にも発生しますが、新生児、特に 早産児は免疫系が未発達で感染症になりやすいため、特に大きな懸念事項となります。特定の防御 抗体が胎盤(胎児に栄養を供給する器官)を介して母親から胎児に移行するとはいえ、胎児の血液中の抗体のレベルは感染症を阻止できるほど高くないためです。... さらに読む と 敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック 敗血症と敗血症性ショック 敗血症は、 菌血症やほかの感染症に対する重篤な全身性の反応に加えて、体の重要な臓器に機能不全が起きている状態です。敗血症性ショックは、敗血症のために生命を脅かすほどの血圧の低下( ショック)と臓器不全が起きている病態です。 通常、敗血症は特定の細菌に感染することで起こり、病院内での感染が多くみられます。 免疫系の機能低下、特定の慢性疾患、人工関節や人工心臓弁の使用、特定の心臓弁の異常といった特定の条件に当てはまると、リスクが高くなります... さらに読む も参照のこと。)
敗血症は、以下のような乳児によく起こります。
出生時の体重が低い乳児
男児
敗血症のその他の危険因子と原因は、敗血症の発生時期によって異なります。発生時期(発症)は以下のように分けられます。
早発型敗血症:生後3日未満
遅発型敗血症:生後3日以降
広範囲に広がった 単純ヘルペス 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症では、皮膚、口、唇(口唇ヘルペス)、眼、または性器に、液体で満たされた、痛みのある小さな水疱が繰り返し発生します。 この病気は非常に感染性の高い ウイルス感染症であり、潰瘍に直接触れることで感染するほか、ときには潰瘍のない患部に触れることでも感染します。 ヘルペスウイルスは口の中や 性器に水疱や潰瘍を引き起こし、最初の感染時にはしばしば発熱と全身のけん怠感を伴います。... さらに読む 、 エンテロウイルス エンテロウイルス感染症の概要 エンテロウイルス感染症は、体の多くの部分を侵す感染症で、いくつかある株のエンテロウイルスのいずれもが原因になる可能性があります。 エンテロウイルス感染症は、多くの種類のウイルスによって引き起こされます。 エンテロウイルス感染症の症状は、発熱、頭痛、呼吸器症状、のどの痛みなどのほか、ときに口の痛みや発疹がみられることもあります。... さらに読む 、アデノウイルス、 RSウイルス RSウイルス感染症とヒトメタニューモウイルス感染症 RSウイルスおよびヒトメタニューモウイルスの感染は、上気道感染症と、ときに下気道感染症を引き起こします。 RSウイルスは、乳幼児における呼吸器感染症の非常に一般的な原因です。 ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと似ていますが、別のウイルスです。 典型的な症状としては、鼻水、発熱、せき、喘鳴などがあり、重症になると呼吸窮迫もみられます。 診断は、症状と、これらのウイルス感染症が発生しやすい時期であるかどうかに基づいて下されます。 さらに読む などの特定のウイルス感染症は、早発型または遅発型の敗血症を引き起こすことがあります。
早産児 早産児 早産児とは、在胎37週未満で生まれた新生児のことです。生まれた時期によっては、早産児の臓器は発達が不十分で、子宮外で機能する準備がまだできていないことがあります。 早産の既往、多胎妊娠、妊娠中の栄養不良、出生前ケアの遅れ、感染症、生殖補助医療(体外受精など)、高血圧などがある場合、早産のリスクが高くなります。 多くの臓器の発達が不十分であるため、早産児では呼吸したり哺乳したりすることが難しく、脳内出血、感染症や他の異常が起こりやすくなり... さらに読む は免疫系が未熟なため、正期産の新生児と比べて、早発型と遅発型ともに敗血症になるリスクが非常に高くなっています。早産児は、母親から特定の細菌に対する防御抗体を受け取る前に生まれてしまうため、このような抗体をもっていません。
早発型敗血症
新生児は、出生時に特定の種類の細菌にさらされると、早発型敗血症にかかることがあります。
早発型敗血症の危険因子としては以下のものがあります。
破水してから18時間以上経っても出産に至らない場合や、母親に感染症(特に尿路感染症や子宮内膜感染症)がある場合に、敗血症のリスクが高くなります。
生後まもない新生児に敗血症を起こす原因菌として最も多くみられるのは、大腸菌(Escherichia coli)とB群レンサ球菌で、通常は新生児が産道を通る際に感染します。すべての妊婦に対し、妊婦検診で必ずB群レンサ球菌のスクリーニング検査が行われるようになったのは約10年前ですが、それまではB群レンサ球菌が早発型敗血症の最大の原因でした。スクリーニング検査でB群レンサ球菌が明らかになった場合や、母親が以前にB群レンサ球菌に感染した新生児を出産したことのある場合は、陣痛が始まったときに母親に抗菌薬が投与されます。新生児には、病院でのモニタリングと、場合によっては感染を確認するための血液検査が必要になることがありますが、抗菌薬は新生児に感染の症状または徴候がある場合にのみ投与されます。
遅発型敗血症
新生児は、病院で特定の種類の細菌にさらされると、遅発型敗血症にかかることがあります。
遅発型敗血症の重要な危険因子としては以下のものがあります。
長期の動脈内、静脈内、膀胱内カテーテル留置
新生児における抗菌薬の使用
呼吸を補助するため、鼻または口から呼吸用のチューブ(気管内チューブ)が挿入されているか、 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む (肺に出入りする空気の流れを補助する機械)が使用されている
長期の入院
遅発型敗血症は、産道で接触した微生物よりも、新生児の周囲の環境(カテーテル[新生児の静脈などの血流中に輸液や薬剤投与を行うためのチューブや、新生児の膀胱から尿を排出させるのに使用するチューブのこと]やその他の医療機器など)から感染した微生物が原因であることの方が一般的です。特定の抗菌薬を使用すると、カンジダ属(Candida)の真菌をはじめとする特定の微生物が新生児に感染を引き起こすことがあります。
新生児の敗血症の症状
敗血症にかかった新生児は一般にぼんやりしていて哺乳が不良であり、しばしば体温が不安定です。1時間以上続く発熱はあまりありませんが、これがある場合は一般に新生児が感染していることを示します。
その他の症状としては、呼吸困難(呼吸窮迫)、呼吸の一時的な停止(無呼吸)、顔面蒼白、皮膚の循環不良と四肢の冷感、腹部の腫れ、嘔吐、下痢、けいれん発作、神経過敏、 黄疸 新生児黄疸 黄疸とは、血流中のビリルビンの増加が原因で、皮膚や眼が黄色くなることです。ビリルビンは、古くなった赤血球や損傷した赤血球を再利用する正常なプロセスの中で、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球の一部)が分解されるときに生成される、黄色い物質です。ビリルビンは血流によって肝臓に運ばれ、胆汁(肝臓で作られる消化液)の一部として肝臓から排泄されるように処理されます。肝臓でのビリルビンの処理において、ビリルビンは抱合と呼ばれる過程で別の化学物質に結合し... さらに読む などがあります。B群レンサ球菌は 肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に起きる感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気がほかにある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約400~500万人が肺炎を発症し(... さらに読む を引き起こすことがあります。ほかにも、感染を引き起こしている微生物によって様々な症状がみられます。
敗血症の合併症
敗血症の合併症の中で最も重いものは、脳を覆っている膜の感染症(髄膜炎)です。 髄膜炎の新生児 新生児の細菌性髄膜炎 細菌性髄膜炎とは、 細菌によって引き起こされる髄膜(脳と脊髄を覆っている膜)の炎症です。 細菌性髄膜炎の新生児は通常、ぐずったり、嘔吐したりするほか、けいれん発作を起こすこともあります。 診断は腰椎穿刺と血液検査の結果に基づいて下されます。 この感染症は、治療しなければすべての新生児が死亡します。 特定の種類の細菌(B群レンサ球菌)に感染している妊婦には、細菌が新生児に感染するのを予防するため、分娩中に抗菌薬が投与されます。 さらに読む には、活動性の著しい低下(嗜眠)、昏睡、 けいれん発作 小児のけいれん発作 けいれん発作とは、脳の電気的活動が周期的に乱れることで、一時的にいくらかの脳機能障害が起きる現象です。 年長の乳児や幼児にけいれん発作が起きた場合には、全身または体の一部がふるえるなどの典型的な症状が多くの場合みられますが、新生児の場合は、舌を鳴らす、口をもぐもぐさせる、周期的に体がだらんとなるなどの変化しかみられない場合があります。 この病気の診断には脳波検査が用いられ、さらに原因を特定するために血液検査、尿検査、脳の画像検査のほか、... さらに読む 、泉門(頭蓋骨の間にある柔らかい部分)の隆起などの症状が現れ、迅速な治療が行われなければ、多くの場合死に至ります。
新生児の敗血症の診断
血液の培養検査、ときに尿の培養検査
腰椎穿刺と髄液の培養検査
医師は、新生児の症状と検査結果に基づいて敗血症の診断を下します。医師は、血液検査などのいくつかの検査を行って、感染を引き起こしている細菌、ウイルス、または真菌の種類を特定します。
血液の培養検査のほか、ときに尿の培養検査、 腰椎穿刺 腰椎穿刺 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む も行われます。培養検査では、医師が血液、髄液、尿のサンプルを採取し、検査室でサンプル中の細菌を増殖(培養)させて特定します。
呼吸に問題のある新生児には胸部X線検査が行われます。
新生児の敗血症の予後(経過の見通し)
敗血症は生後1週以降の早産児における主な死因です。低出生体重児は死亡のリスクが高くなります。細菌またはカンジダ属(Candida)の真菌による敗血症が起きている超低出生体重児では、死亡のリスクが非常に高くなります。
敗血症から回復した新生児では、一般に長期的な問題は生じません。しかし、髄膜炎を起こして生き延びた新生児には、発達の遅れ、 脳性麻痺 脳性麻痺 脳性麻痺とは、運動困難と筋肉のこわばり(けい縮)を特徴とする症候群です。原因は、出生前の脳の発育過程で生じた脳の奇形か、出生前、分娩中、または出生直後に起きた脳損傷です。 脳性麻痺の原因としては、酸素欠乏や感染によって生じる脳の損傷や、脳の奇形などがあります。 症状の程度は様々で、ぎこちなさがかろうじて分かる程度のこともあれば、脚や腕の動... さらに読む 、 けいれん発作 小児のけいれん発作 けいれん発作とは、脳の電気的活動が周期的に乱れることで、一時的にいくらかの脳機能障害が起きる現象です。 年長の乳児や幼児にけいれん発作が起きた場合には、全身または体の一部がふるえるなどの典型的な症状が多くの場合みられますが、新生児の場合は、舌を鳴らす、口をもぐもぐさせる、周期的に体がだらんとなるなどの変化しかみられない場合があります。 この病気の診断には脳波検査が用いられ、さらに原因を特定するために血液検査、尿検査、脳の画像検査のほか、... さらに読む 、 難聴 小児の聴覚障害 聴覚障害とは、軽度から重度までの様々な程度の難聴を指し、内耳、中耳、外耳、または聴覚に必要な神経など、耳の一部に問題がある場合に起こる可能性があります。 新生児の聴覚障害は、サイトメガロウイルス感染症または遺伝子異常が原因であることが最も多く、年長児の場合は耳の感染症や耳あかが原因です。 小児が音に反応しなかったり、言葉をうまく話せなかったり、話し始めるのが遅かったりする場合は、聴覚障害が原因である可能性があります。... さらに読む などがみられることがあります。
新生児の敗血症の治療
抗菌薬の静脈内投与
ときに、人工呼吸器またはその他の治療
敗血症の疑いがある新生児には、血液培養検査の結果が出る前に、強力な抗菌薬が静脈内投与されます。微生物の種類が特定されると、医師は抗菌薬の種類を調整することがあります。
抗菌薬による治療に加え、 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む (呼吸を補助する機械)、輸液、赤血球や血漿の輸血、血圧と血液循環を補助する薬などによる治療が必要になることもあります。