肝疾患の中には、妊娠中だけに生じるものがあります。あるいは、 胆石 胆石 胆石は胆嚢内で固形物(主にコレステロールの結晶)が集積したものです。 肝臓はコレステロールを過剰に分泌することがあり、このコレステロールは胆汁とともに胆嚢に運ばれ、そこで過剰なコレステロールが固体粒子を形成して蓄積します。 胆石は、ときに数時間続く上腹部痛を起こすことがあります。 超音波検査では極めて正確に胆石を検出できます。 胆石によって痛みなどの問題が繰り返し起こる場合は、胆嚢を摘出します。 さらに読む 、 肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む 、 肝炎 肝炎の概要 肝炎とは肝臓の炎症です。 ( 急性ウイルス性肝炎の概要と 慢性肝炎の概要も参照のこと。) 肝炎は世界中でみられる病気です。 肝炎には以下の種類があります。 急性(経過が短い) さらに読む などのように妊娠前から存在するか、偶然妊娠中に起こるものもあります。
妊娠中のホルモンの変化により、肝臓や胆嚢に問題が起こることがあります。こうした問題には軽微で一過性の症状しか生じないものもあります。
妊娠中に 黄疸 成人の黄疸 黄疸では、皮膚や白眼が黄色くなります。黄疸は、血中にビリルビン(黄色の色素)が多すぎる場合に起こります。この病態を高ビリルビン血症と呼びます。 ( 肝疾患の概要と 新生児黄疸も参照のこと。) 写真では、黄色に変色した眼と皮膚(黄疸)がみられます。 ビリルビンは、古くなった赤血球や損傷した赤血球を再利用する正常なプロセスの中で、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球の一部)が分解されるときに生成されます。ビリルビンは血流によって肝臓に運ばれ、胆汁... さらに読む (皮膚や白眼が黄色くなる)がみられることがありますが、妊娠に関連する疾患が原因になる場合とそうでない場合があります。原因としては次のようなものがあります。
薬剤
妊娠中の胆汁うっ滞
妊娠中の脂肪肝
流産の前、その最中、またはその後に起こる子宮の感染(敗血症性流産)
妊娠中の胆汁うっ滞
妊娠によるホルモンの正常な働きにより、胆管を通る胆汁の流れが遅くなることがあります。このように胆汁の流れが遅くなることを 胆汁うっ滞 胆汁うっ滞 胆汁うっ滞とは、胆汁の流れが減少または停止した状態です。胆汁は、肝臓で作られる消化液です。 胆汁うっ滞の原因として、肝臓、胆管、膵臓の病気が考えられます。 皮膚や白眼が黄色くなり、皮膚にかゆみが生じ、尿の色が濃くなり、便は色が薄くなって悪臭がするようになります。 原因を特定するには、臨床検査と多くの場合は画像検査が必要です。 治療法は原因によって異なりますが、かゆみの軽減には薬剤が有用です。 さらに読む といいます。
妊娠中の胆汁うっ滞は、以下のリスクを上昇させます。
妊娠中の胆汁うっ滞の最も明らかな症状は全身の強いかゆみです(通常は第2または第3トリメスターに生じます[第2トリメスターは日本でいう妊娠中期に、第3トリメスターは妊娠後期にほぼ相当])。発疹はありません。尿が暗色になったり、 黄疸 成人の黄疸 黄疸では、皮膚や白眼が黄色くなります。黄疸は、血中にビリルビン(黄色の色素)が多すぎる場合に起こります。この病態を高ビリルビン血症と呼びます。 ( 肝疾患の概要と 新生児黄疸も参照のこと。) 写真では、黄色に変色した眼と皮膚(黄疸)がみられます。 ビリルビンは、古くなった赤血球や損傷した赤血球を再利用する正常なプロセスの中で、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球の一部)が分解されるときに生成されます。ビリルビンは血流によって肝臓に運ばれ、胆汁... さらに読む が生じることがあります。
強いかゆみには、ウルソデオキシコール酸と呼ばれる内服薬が処方されることがあります。
妊娠中の胆汁うっ滞はたいてい分娩後に解消されますが、次回以降の妊娠や経口避妊薬の使用で再発する傾向があります。
肝硬変
肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む (肝臓の瘢痕化)がある場合、 流産 流産 流産とは、妊娠20週未満で胎児が失われることです。 胎児側の問題(遺伝性疾患や先天異常など)によっても母体側の問題(生殖器の構造的異常、感染症、コカインの使用、飲酒、喫煙、けがなど)によっても流産が起こりますが、多くの場合、原因は不明です。 出血や筋けいれんが起こることがありますが、特に妊娠して週数が経過している場合にはよく起こります。 医師は子宮頸部を診察し、通常は超音波検査も行います。... さらに読む や 早産 切迫早産 妊娠37週以前に起こる陣痛は切迫早産とみなされます。 早産児として生まれた新生児には、深刻な健康上の問題が生じる可能性があります。 切迫早産の診断は通常明らかです。 安静にしたり、ときには薬剤を用いて、分娩を遅らせます。 抗菌薬やコルチコステロイドも必要な場合があります。 さらに読む のリスクが上昇します。
肝硬変があると食道の付近に静脈瘤(静脈が広がって蛇行した状態)ができやすくなります(食道静脈瘤)。妊娠中、特に妊娠の最後の3カ月間には、こうした静脈からの大出血が起きるリスクがわずかに高まります。
妊娠中の脂肪肝
脂肪肝はまれですが、妊娠の終わりにかけて発症することがあります。原因は不明です。
妊娠中の脂肪肝では、吐き気、嘔吐、腹部の不快感、黄疸などの症状がみられます。急速に悪化して肝不全が起こることもあります。脂肪肝によって 妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に新たに発症する高血圧または既存の高血圧の悪化で、過剰な尿タンパク質を伴うものです。子癇(しかん)は妊娠高血圧腎症の女性に起こるけいれん発作で、ほかに原因がないものをいいます。 妊娠高血圧腎症によって胎盤剥離や早産が起こりやすくなり、出生直後の新生児に問題が生じるリスクが高まります。 妊婦の手、手指、首、足がむくむことがあり、重度の妊娠高血圧腎症を治療しないと、けいれん発作(子癇)や臓器損傷が起こることが... さらに読む (妊娠中に発症する高血圧の一種)が発生することもあります。
妊娠中の脂肪肝の診断は医師の診察の結果、肝臓の検査やその他の血液検査の結果に基づき、肝生検で診断を確定することもあります。医師から直ちに妊娠の継続を断念するよう勧められることがあります。
重度の場合は母体と胎児の死亡リスクが高くなります。そのため、このような場合は、医師は早急に出産させるか、妊娠中絶を勧めることがあります。生き延びることができた女性は、完全に回復します。通常、以降の妊娠で再び脂肪肝が起きることはありません。
胆石
胆石 胆石 胆石は胆嚢内で固形物(主にコレステロールの結晶)が集積したものです。 肝臓はコレステロールを過剰に分泌することがあり、このコレステロールは胆汁とともに胆嚢に運ばれ、そこで過剰なコレステロールが固体粒子を形成して蓄積します。 胆石は、ときに数時間続く上腹部痛を起こすことがあります。 超音波検査では極めて正確に胆石を検出できます。 胆石によって痛みなどの問題が繰り返し起こる場合は、胆嚢を摘出します。 さらに読む は妊娠中に発生しやすいようです。妊婦に胆石がある場合は、注意深くモニタリングします。
胆石が胆嚢を閉塞させたり感染を起こした場合は、手術が必要になることがあります。この手術は通常、母体にも胎児にも安全です。
肝炎
急性ウイルス性肝炎 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は、肝臓の炎症で、一般的には5種類の肝炎ウイルスのいずれかの感染によって起こる炎症を意味します。多くの場合、炎症は突然始まり数週間続きます。 症状は、何もみられない場合から重症の場合まであります。 感染すると、食欲不振、吐き気、嘔吐、発熱、右上腹部の痛み、黄疸などの症状がみられます。 医師は、肝炎の診断を下しその原因を特定するための血液検査を行います。 ワクチンはA型、B型、E型の肝炎を予防できます(E型肝炎ワクチンは... さらに読む により早産のリスクが高まります。これはまた、妊娠中にみられる黄疸の最も一般的な原因でもあります。大半の病型(A型、B型、C型、D型)の肝炎は妊娠により悪化することはありませんが、E型肝炎は妊娠中に重症化することがあります。
B型肝炎は分娩直後に子どもに感染することや、それよりまれですが、妊娠中に胎児に感染することもあります。感染しても多くの新生児に症状はみられず、軽度の肝機能障害があるのみです。しかし、こういった新生児がこの感染症のキャリアとなって他の人々に感染を拡大させる可能性があります。すべての妊婦が肝炎の検査を受け、感染している場合は胎児への感染を防ぐ対策がとられます。
慢性肝炎 慢性肝炎の概要 慢性肝炎は、肝臓の炎症が最低6カ月以上持続する病気です。 一般的な原因としては、B型およびC型肝炎ウイルス、特定の薬などがあります。 ほとんどの場合は無症状ですが、全身のけん怠感、食欲不振、疲労などの漠然とした症状がみられることもあります。 慢性肝炎は、肝硬変のほか、最終的には肝臓がんや肝不全に進行することがあります。 診断を確定するために生検が行われることもありますが、慢性肝炎は通常、血液検査の結果に基づいて診断が下されます。 さらに読む の女性は、特に肝硬変がある場合、妊娠するのが難しいことがあります。妊娠した場合も、流産や早産が起こる可能性が高くなります。こういった女性が妊娠前からコルチコステロイドを使用している場合、妊娠中も継続することが可能です。ときに感染が重度の場合、慢性肝炎の女性に対して第3トリメスター【訳注:日本でいう妊娠後期にほぼ相当】に抗ウイルス薬を投与することがあります。この薬剤は、肝炎ウイルスを胎児に感染させるリスクを抑えます。