石綿肺では、息切れや運動能力の低下がみられます。
通常は、胸部X線検査とCT検査によって診断が下されます。
石綿肺は、アスベストへの曝露を最小限にすることで予防できます。
治療法には、酸素吸入や、呼吸を楽にするその他の方法があります。
(環境性肺疾患の概要 環境性肺疾患の概要 環境性肺疾患は、有害な粒子、霧、蒸気、ガスなどを吸い込むことによって発生する病気で、通常は作業中に起こります。肺疾患が粒子を吸い込んだことに起因する場合は、塵肺(じんぱい)症という病名がよく用いられます。 吸い込んだ物質が気道や肺の中に達する範囲と引き起こす肺疾患のタイプは、吸い込んだ粒子の大きさや種類によって異なります。粒子が大きければ... さらに読む も参照のこと。)
アスベストは自然由来の化合物の一種で、その耐熱性と構造上の特性により、建設資材や造船資材、自動車のブレーキ、一部の繊維製品などで便利に使われていました。アスベストは、空気、水、土壌中に低濃度でみられますが、このレベルでの環境曝露は、人間の病気に大きく寄与するものではありません。アスベストは様々な化学的組成をもつ繊維状のケイ酸塩鉱物からできています。吸い込まれたアスベスト繊維は、肺の奥深くまで入り込み、瘢痕化を引き起こします。アスベストを吸引すると、肺を覆っている2層の膜(胸膜)が肥厚することもあります。このような肥厚を、胸膜プラークと呼びます。この胸膜プラークはがん化することはありません。
アスベストは 肺がん 肺がん 男女ともに、がんによる死亡の中で最も多い原因が肺がんです。症例の約85%は喫煙に関連しています。 よくみられる症状は、持続性のせき、または、性状が変化する慢性的なせきです。 肺がんの大部分は胸部X線検査で発見できますが、診断を確定するためには他の画像検査や生検をさらに行う必要があります。 肺がんの治療には、手術、化学療法、分子標的療法、免疫療法、放射線療法のいずれも用いられます。... さらに読む の原因となることもあります。アスベストによる肺がんは、吸い込んだアスベスト線維の量に、ある程度関係があります。石綿肺の患者のうち、喫煙者(特に1日の喫煙量がタバコ1箱を超える人)では肺がんが非常に多くみられます。
アスベストの危険性については広く注意喚起がなされましたが、アスベストを扱う仕事をしていなければ、アスベストに関連する肺の病気になるリスクは極めてわずかです。アスベストは、非常に細かく砕かれないかぎり、肺の内部まで吸い込まれることはありません。アスベストを含む断熱材が使用されている建物を解体する労働者は、リスクが高くなります。日常的にアスベストを扱っている労働者は、肺疾患を発症するリスクが極めて高くなります。アスベスト繊維にさらされる機会が多ければ多いほど、アスベストに関連する病気を発症するリスクが高まります。
症状
肺が広範囲にわたって瘢痕化して初めて、石綿肺の症状が徐々に現れてきます。肺は瘢痕化によって硬くなります。初期症状は、軽い息切れと運動能力の低下です。石綿肺に加えて慢性気管支炎(長く続く太い気道の炎症)がある喫煙者では、せきや喘鳴がみられることがあります。次第に呼吸が困難になり、石綿肺の患者の約15%に、重度の息切れや 呼吸不全 呼吸不全 呼吸不全は、血液中の酸素レベルが危険なほど低くなったり、血液中の二酸化炭素濃度が危険なほど高くなる病気です。 呼吸不全の原因としては、気道をふさぐ病気、肺組織を損傷する病気、呼吸を制御する筋肉を衰えさせる病気、呼吸を促す仕組みが抑制される病気などがあります。 激しい息切れ、皮膚の青みがかった変色、錯乱または眠気などの症状がみられることがあ... さらに読む が起こります。
ばち状指 ばち状指 ばち状指は、手や足の指先が肥大して、爪が生えてくる部分の角度に変化が生じることです。 ばち状指は、爪床のすぐ下にある軟部組織が増殖した場合にみられます。このような増殖が起こる原因は不明ですが、血管の成長を刺激するタンパク質の量に関係している可能性があります。ばち状指は、 肺がん、 肺膿瘍、 肺線維症、 気管支拡張症などの一部の肺疾患に伴って発生しますが、肺炎や喘息などの他の肺疾患では発生しません。一部の先天性心疾患や肝疾患に伴ってばち状... さらに読む は、手や足の指先が肥大して、爪が生えてくる部分の角度に変化が生じることをいいます。肺の損傷が激しい場合は、心臓に負担がかかり、 肺性心 肺性心 肺性心は、肺の基礎疾患によって生じた 肺高血圧症(肺の中の血圧が高くなった状態)のために、右心室に拡大と肥厚が起きた状態です。右心室に拡大と肥厚が起きた結果として、 心不全に陥ります。 肺高血圧症とは、心臓から肺につながる動脈(肺動脈)の血圧が異常に高くなる病気です。肺疾患によって肺高血圧症が引き起こされる原因はいくつかあります。 血液中の酸素レベルが低い状態が長く続くと、肺動脈が収縮して肺動脈の壁が肥厚します。この収縮と肥厚により、肺... さらに読む と呼ばれる一種の心不全を起こすこともあります。
診断
アスベスト(石綿)への曝露歴
胸部の画像検査
石綿肺の患者では、一般に肺機能が異常となり、医師が聴診器で肺の音を聞くと、通常は断続性ラ音と呼ばれる異常な音が聞こえます。アスベストへの曝露歴がある人では、胸部X線検査や胸部の高分解能CT(コンピュータ断層撮影)検査で特徴的な変化が認められれば、石綿肺と診断できることがあります。診断を下すために、まれに肺生検が必要になります。
予防
アスベストの吸入によって発生する病気は、作業現場でアスベストの粉塵と繊維の量をできる限り減らすことで予防できます。アスベストを使用する産業での粉塵対策が改善されたため、現在では石綿肺になる人は少なくなっています。家庭内にあるアスベストを含む資材が懸念されるのは、一般的にそれを除去する場合と家を改築する場合だけですが、その際は、安全に除去する方法について特別な訓練を受けた業者に依頼すべきです。
アスベストに接する機会のあった喫煙者は、禁煙することで肺がんのリスクを低下させることができますが、年に1回は胸部X線検査を受ける必要があります。
アスベストを取り扱ってきた労働者には、比較的かかりやすい感染症があり、そのような感染症から体を守るために、 肺炎球菌ワクチン 肺炎球菌ワクチン 肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae(肺炎双球菌)によって引き起こされる細菌感染症の予防に役立ちます。 肺炎球菌感染症としては、 耳の感染症、 副鼻腔炎、 肺炎、 血流感染症、 髄膜炎などがあります。 詳細については、CDCによる肺炎球菌結合型(PCV13)ワクチン説明書(Pneumococcal Conjugate (PCV13)... さらに読む の接種を1回、そして インフルエンザワクチン インフルエンザワクチン インフルエンザウイルスワクチンは インフルエンザの予防に役立ちます。米国では、A型とB型の2種類のインフルエンザウイルスが定期的にインフルエンザの季節的流行を引き起こしています。どちらの種類にも、多くのウイルス株が存在します。インフルエンザの大流行を引き起こすウイルス株は毎年変わります。このため、毎年新しいワクチンが必要になります。それぞれの年のワクチンは、研究者が翌年に流行すると予測した3~4種のウイルス株を標的とします。... さらに読む の接種を毎年受けることが勧められます。
治療
症状を緩和する治療
石綿肺に対する治療は、ほとんどが症状の緩和です。酸素療法は、息切れを緩和します。薬剤やその他の方法(塩分の摂取を制限したり、必要であれば減量すること)は、心不全の緩和に役立ちます。