しばしば虫垂の内部に閉塞が生じることで虫垂が炎症を起こし、感染症が生じます。
腹痛、吐き気、発熱がよくみられます。
試験開腹または画像検査(CT検査や超音波検査など)が行われます。
治療としては、虫垂を切除する手術と感染症に対する抗菌薬の投与が行われます。
(急性腹痛 消化管救急疾患の概要 消化管の病気の中には生命を脅かすものがあり、緊急の治療を要することがあります。多くの場合、緊急治療では手術が行われます。 腹痛は通常は消化管の緊急事態に伴って発生し、しばしばひどい痛みがあります。腹痛がある場合、医師は原因を突き止めて治療を行うための手術が直ちに必要か、それとも診断のための検査結果が出るまで手術を待ってもよいかを判断する必... さらに読む も参照のこと。)
虫垂は小腸との接合部近くの大腸から突き出た、指の形をした小さな管状の部分です。虫垂には若干の免疫機能がありますが、生存に欠かせない臓器ではありません。
消化器系
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虫垂炎は米国における突然の重度の腹痛および腹部手術の最も一般的な原因です。5%以上の人が生涯のある時点で虫垂炎を発症します。虫垂炎は、青年期と20代で起こることが最も多いのですが、どの年齢でも発生します。
虫垂炎の原因は十分に解明されているわけではありません。しかし、ほとんどの場合、虫垂の内部がふさがることで病気のプロセスが始まると考えられます。閉塞は、硬い便の小片(糞石[ふんせき])、異物、まれに寄生虫により生じることもあります。閉塞の結果、虫垂に炎症が起こり、感染症が生じます。治療しないまま炎症が続くと、虫垂が破裂することがあります。虫垂が破裂すると 膿瘍 腹腔内膿瘍 膿瘍(のうよう)は、膿がたまった空洞で、通常は細菌感染が原因で生じます。 大半の人で絶え間ない腹痛と発熱が生じます。 CT検査などの画像検査を行うことで、膿瘍と他の問題を区別することができます。 治療としては、膿瘍から膿が排出され、抗菌薬が投与されます。 ( 急性腹痛も参照のこと。) さらに読む (感染により膿がたまった空洞)が形成されることがあります。その結果、 腹膜炎 腹膜炎 腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要であることを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。高齢者やHIV感染者、免疫抑制薬(コルチコステロイドなど)を使用している人では、同じ病気の若い成人や健康な成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛がよりゆっくり発症することがあります。幼い子... さらに読む (腹腔の炎症で通常は感染症が起こり、生命を脅かす感染症が生じることもある)が発生する可能性があります。女性では、卵巣や卵管が感染して、その結果できた瘢痕(はんこん)が卵管を詰まらせ、不妊症の原因になることがあります。また、虫垂が破裂すると、細菌が血流に感染して 敗血症 敗血症と敗血症性ショック 敗血症は、 菌血症やほかの感染症に対する重篤な全身性の反応に加えて、体の重要な臓器に機能不全が起きている状態です。敗血症性ショックは、敗血症のために生命を脅かすほどの血圧の低下( ショック)と臓器不全が起きている病態です。 通常、敗血症は特定の細菌に感染することで起こり、病院内での感染が多くみられます。 免疫系の機能低下、特定の慢性疾患、人工関節や人工心臓弁の使用、特定の心臓弁の異常といった特定の条件に当てはまると、リスクが高くなります... さらに読む という生命を脅かす状態に至ることがあります。
虫垂炎の症状
従来から虫垂炎の症状について、痛みが上腹部またはへそ周囲から始まり、その後吐き気と嘔吐が生じ、さらに数時間後に吐き気が消えて、痛みが腹部の右下部に移動するといわれていますが、そのような症状が出るのは、虫垂炎の患者の50%未満です。医師が右下腹部を押すと圧痛があり、その後加えた力を離したときに痛みが鋭く強まることがあります(反跳[はんちょう]痛)。38℃くらいの発熱がよくみられます。動いたり、せきをしたりすることで痛みが増します。
多くの患者(特に乳児や小児)で、痛みは右下腹部にとどまるというよりも腹部全体に広がります。高齢者や妊婦では、痛みがそれほどひどくない場合があり、圧痛も弱くなります。
虫垂が破裂すると、数時間にわたり痛みが軽減することがあります。その後、腹膜炎が起こり、痛みと発熱がひどくなる可能性があります。感染症が悪化すると、 ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む が起こります。
虫垂炎の診断
医師の診察
画像検査
腹腔鏡検査
血液検査
医師は症状と腹部の診察から虫垂炎を疑うことがあります。虫垂炎が強く疑われる場合はすぐに手術が行われるのが一般的です。
虫垂炎の診断がはっきりしない場合は、 CT検査 消化管のCT検査とMRI検査 CT検査( CT検査)とMRI検査( MRI検査)は、腹部臓器の大きさや位置を調べるのに適しています。さらに、これらの検査では悪性腫瘍(がん)や良性腫瘍(がんではない腫瘍)もしばしば検出されます。血管の変化も検出できます。通常、虫垂や憩室などの炎症( 虫垂炎や 憩室炎など)も検出できます。ときに、X線照射や手術のガイド役としてこれらの検査を用いることもあります。 消化管のCT検査とMRI検査では、造影剤(画像検査に写る物質)を投与して、... さらに読む や 超音波検査 腹部の超音波検査 超音波検査では、超音波を用いて内臓の画像を描き出します( 超音波検査)。超音波検査により、肝臓や膵臓(すいぞう)など多くの内臓の形や大きさが確認でき、嚢胞(のうほう)や腫瘍などの内臓の中の異常部位も発見できます。また、腹腔内の液体( 腹水)も確認できます。腹壁にプローブを当てる超音波検査は、消化管の粘膜や壁を調べる方法としては不適切です。しかし、超音波内視鏡検査の場合は、内視鏡の先端にプローブがあるため、消化管壁や一部の腹部臓器がより明... さらに読む などの画像検査が通常は行われます。将来にがんになるリスクを抑えるため、放射線曝露(ばくろ)を制限することが重要な小児では、超音波検査が特に有用です。
また、腹腔を調べる 腹腔鏡検査 腹腔鏡検査 腹腔鏡検査とは、腹壁から光ファイバー製の機器を挿入して行う腹腔内の検査のことです。これは手術室で行われる外科的処置です。 処置の前には、意識を失わせる薬を静脈から投与します( 全身麻酔)。 適切な部分の皮膚を消毒薬で洗浄した後、小さく切開します(通常はへそ)。続いて腹腔鏡を腹腔の中に挿入し、ガスで腹腔を膨らませて観察しやすくします。腹腔鏡検査では、腹腔内のほぼすべての臓器を観察でき、腫瘍やその他の異常を調べたり、組織のサンプルを採取した... さらに読む を行って、診断の確定に役立てることもあります。
血液検査では感染のために中等度の白血球数増加がしばしば認められますが、虫垂炎を確実に診断できる血液検査はありません。
虫垂炎の予後(経過の見通し)
早期に手術をすれば、虫垂炎のために死亡する可能性は非常に低くなります。通常は1~3日で退院でき、普通は回復も早く、完治します。しかし、高齢者では回復までの時間がしばしば長くなります。
虫垂炎で手術や抗菌薬の投与を行わない場合(現代的な医療が利用できない遠隔地の患者で可能性がある)、50%以上の患者が死亡します。
虫垂が破裂した場合、予後はさらに悪くなります。数十年前は、虫垂が破裂すると死に至ることがよくありました。手術と抗菌薬によって、虫垂炎による死亡率はほとんどゼロに近づいていますが、手術を繰り返す必要があったり、回復期間が長くなったりすることもあります。
虫垂炎の治療
手術による虫垂の切除
抗菌薬の静脈内投与と輸液
手術が虫垂炎の主な治療法です。腹痛の原因が確定するまで手術を遅らせると死に至る可能性があります。感染を起こした虫垂は、症状が出現してから36時間以内に破裂することがあります。
虫垂炎が明らかになった場合は、輸液と抗菌薬が静脈内に投与され、虫垂が切除されます(虫垂切除術)。手術を行って虫垂炎が認められなかった場合でも、通常は将来の虫垂炎のリスクを防ぐために虫垂が切除されます。
最近では、手術を延期ないし回避できるように、抗菌薬のみで虫垂炎を治療する方針に関心が集まっています。こうした治療法は一部の人では成功する可能性がありますが、いまだ研究段階にあるため、虫垂炎に対しては依然として、手術による虫垂の切除が最も効果的で、それゆえ通常推奨すべき治療法と考えられています。