意図しない体重減少

執筆者:Michael R. Wasserman, MD, California Association of Long Term Care Medicine
レビュー/改訂 2021年 3月
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意図しない体重減少は,一般的に数週間または数カ月にわたり生じる。それは重大な身体疾患または精神障害の徴候であることがあり,死亡のリスク増加に関連している。原因となる疾患は明らかなこともあり(例,吸収不良症候群による慢性下痢),潜在的であることもある(例,未診断のがん)。本章では,既知の慢性疾患(例,転移性のがん,末期の慢性閉塞性肺疾患[COPD])のおおよその予測される結果として体重が減少した患者ではなく,体重減少を症状とする患者について焦点を当てる。

体重減少は,典型的には,6カ月間にわたり体重の5%または5kgを超える減少がある場合に臨床的に重要と考えられる。しかしながら,この従来からの定義は,異なった結果をもたらす除脂肪体重と脂肪体重の減少を区別していない。また,浮腫の蓄積(例,心不全または慢性腎臓病における)は,臨床的に重要な除脂肪体重の減少を覆い隠すことがある。

体重減少に加え,基礎疾患による食欲不振,発熱,または盗汗などの他の症状を示すことがある。原因およびその重症度にもよるが,栄養欠乏(ビタミンの概要を参照)の症状と徴候もみられることがある。

意図しない有意な体重減少の全体的な発生率は,米国で毎年約5%である。しかしながら,発生率は加齢とともに増加し,しばしば介護施設の患者では50%に達する。

病態生理

摂取される(取り込まれて吸収される)よりも多くのカロリーが消費される場合に体重減少が起こる。消費を増加させる,または吸収を低下させる疾患は,食欲を増加させる傾向にある。より一般的には,不十分なカロリー摂取が体重減少の機序であり,そのような患者では食欲が低下する傾向にある。ときに,いくつかの機序が関与している。例えば,がんは食欲を低下させる傾向にあるが,同時にサイトカインを介した機序によって基礎カロリー消費量を増加させる。

病因

重症度が高いほぼ全ての慢性疾患を含めた多くの疾患が,意図しない体重減少の原因となる。しかしながら,それらの多くは臨床的に明らかで,典型的には体重減少が起こる時期までには診断されている。他の疾患は,意図しない体重減少として現れる可能性が高い(意図しない体重減少の主症状の原因の表を参照)。

食欲亢進を伴う,最も一般的な意図しない体重減少の潜在的原因は以下のものである:

食欲減退を伴う,最も一般的な意図しない体重減少の潜在的原因は以下のものである:

表&コラム
表&コラム

意図しない体重減少を引き起こすいくつかの疾患では,他の症状がより顕著となる傾向があり,したがって体重減少は通常主訴とはならない。例として以下のものが挙げられる:

  • 一部の吸収不良疾患:消化管手術および嚢胞性線維症

  • 慢性炎症性疾患:重度の関節リウマチ

  • 消化管疾患:アカラシア,セリアック病,クローン病,慢性膵炎,食道閉塞性疾患,虚血性大腸炎,糖尿病性腸症,消化性潰瘍,全身性強皮症,潰瘍性大腸炎(晩期)

  • 重度の慢性心疾患および肺疾患:慢性閉塞性肺疾患(COPD),心不全(III期またはIV期),拘束性肺疾患

  • 精神障害(既知のおよびコントロール不良の):不安,双極性障害,うつ病,統合失調症

  • 神経疾患:筋萎縮性側索硬化症,認知症,多発性硬化症,重症筋無力症,パーキンソン病,脳卒中

  • 社会的問題:貧困,社会的孤立

慢性腎臓病および心不全がある場合,浮腫の蓄積によって除脂肪体重の減少が覆い隠されることがある。

評価

評価は,その他の点では潜在的な原因を検出することに焦点を当てる。それらは無数にあるため,評価は包括的でなければならない。

病歴

現病歴の聴取では,体重減少の量および時間経過に関する質問を含めるべきである。体重減少の報告は不正確なことがある;したがって,古い医療記録における体重測定,服のサイズの変化,または家族による確認などの裏付けとなる証拠を調べるべきである。食欲,食事摂取量,嚥下,および排便パターンを記載すべきである。繰り返しの評価では,食事摂取量の記憶はしばしば不正確であるため食事日誌をつけるべきである。疲労,倦怠感,発熱および盗汗などの潜在的原因の非特異的症状に注意する。

システムレビュー(review of systems)は完全に行う必要があり,主要な全ての器官系統について症状を検索する。

既往歴にて,体重減少を引き起こす可能性がある疾患が判明することがある。また,処方薬,OTC医薬品,レクリエーショナルドラッグ,およびハーブ製品の使用についても評価すべきである。社会歴では,なぜ食事摂取量が減少したかを説明できる生活環境の変化(例,愛する人の死,自立性や仕事の喪失,一緒に食事する習慣の喪失)が判明することがある。

身体診察

バイタルサインをチェックし,発熱,頻脈,頻呼吸,および低血圧がないか確認する。体重を測定し,BMI(body mass index)を計算する。上腕三頭筋部皮下脂肪厚および上腕周囲長を測定することにより,除脂肪体重を推計できる。BMIおよび除脂肪体重推定値は,主にフォローアップ来院での傾向を検出するのに役立つ。

全身状態の観察は,心臓,肺,腹部,頭頸部,乳房,神経系,直腸(前立腺の診察および便潜血検査を含む),生殖器,肝臓,脾臓,リンパ節,関節,皮膚,気分,および感情の診察を含めて特に包括的に行うべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

  • 発熱,盗汗,全身性リンパ節腫脹

  • 骨痛

  • 呼吸困難,咳嗽,喀血

  • 青年期の女性または若年女性における体重増加に対する過度の恐怖

  • 多飲および多尿

  • 高齢者における頭痛,顎跛行,および/または視覚障害

  • Roth斑,Janeway病変,オスラー結節,線状出血,網膜動脈塞栓

所見の解釈

いくつかの所見の解釈については,意図しない体重減少における抜粋所見の解釈の表に列挙する。異常所見は,最終的にがんと診断される患者を含む患者の約半数またはそれ以上で体重減少の原因を示唆する。

多くの慢性疾患が体重減少を引き起こすことがあるが,医師は既存の疾患が原因であると早急に推測すべきではない。病状のコントロールが不良のままか,または悪化している患者では,既存の疾患が原因の可能性が高いが,安定している患者で,疾患が悪化することなく突然体重減少がみられるようになった場合は,新たな疾患を発症していることがある(例,安定した潰瘍性大腸炎の患者が結腸癌を発症して体重減少がみられることがある)。

パール&ピットフォール

  • 慢性疾患が安定している場合,その疾患が急激な体重減少の原因であるとは考えない。

表&コラム

検査

過去に施行されていなければ,年齢に応じたがんのスクリーニング(例,大腸内視鏡検査,マンモグラフィー)が適応となる。病歴または診察の異常所見に基づいて疑われる疾患に対して他の検査を行う。そのような限局性異常所見がみられない患者に対する他の検査については,広く受け入れられているガイドラインはない。1つの提案されるアプローチは以下の検査を行うことである:

  • 胸部X線

  • 尿検査

  • 血算と白血球分画

  • 赤血球沈降速度(赤沈)またはC反応性タンパク(CRP)

  • HIV検査

  • 血清生化学検査(血清電解質,カルシウム,肝および腎機能検査)

  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)値

それらの検査の結果が異常であれば,引き続き追加検査を適応に応じて行う。全ての検査結果が正常で,臨床所見で他に異常がみられない場合,広範な追加検査(例,CT,MRI)は推奨されない。そのような検査はほとんど得るものがなく,偶然の無関係の所見が明らかになることで誤解を招き,有害となる可能性がある。そのような患者では,十分なカロリー摂取を確実にする方法を指導し,約1カ月後に体重測定を含むフォローアップ評価を行うべきである。体重減少が継続している場合,病歴聴取および身体診察全体を繰り返すべきであるが,それは患者が,以前は告げなかった重要な情報を共有することがあり,その後新しい軽微な身体的異常を検出できる可能性があるためである。体重減少が継続し,他の全ての所見が正常のままである場合,さらなる検査(例,CT,MRI)を考慮すべきである。

治療

基礎疾患を治療する。基礎疾患により低栄養が生じ,治療が困難である場合は,栄養サポートを考慮すべきである。役に立つ一般的な行動的手段には,患者に食事を勧める,食事の介助をする,食事の間および就寝前に軽食を勧める,好きなものや風味の強い食品を出す,および少量だけを勧めることなどがある。行動的手段が無効で,極度の体重減少がある場合,消化管が機能している患者には経管栄養を試すことができる。引き続いて除脂肪体重の測定を連続して行う。食欲増進薬が寿命を延ばすことは示されていない。

老年医学的重要事項

体重減少に寄与しうる正常な加齢変化としては以下のものがある:

  • 特定の食欲増進メディエーター(例,オレキシン,グレリン,神経ペプチドY)に対する感受性の減少および特定の阻害メディエーター(例,コレシストキニン,セロトニン,コルチコトロピン放出因子)に対する感受性の増加

  • 胃内容排出率の低下(遷延する満腹感)

  • 味覚や嗅覚の感度の低下

  • 筋肉量の減少(サルコペニア)

高齢者では,複数の慢性疾患がしばしば体重減少の原因となる。社会的孤立が食物摂取量を減少させる傾向にある。特に介護施設の患者では,うつ病は非常に一般的な寄与因子である。うつ病,機能喪失,薬物,嚥下困難,認知症,および社会的孤立などの因子間の相互作用のため,特定の因子の正確な関与を洗い出すのは困難である。

体重減少のある高齢患者を評価する際,Dから始まる潜在的な寄与因子の有用なチェックリストがある:

  • 歯列(Dentition)

  • 認知症(Dementia)

  • うつ病(Depression)

  • 下痢(Diarrhea)

  • 疾患(Disorder;例,腎臓,心臓,または肺の重症疾患)

  • 薬物(Drug)

  • 機能障害(Dysfunction)

  • 味覚異常(Dysgeusia)

  • 嚥下困難(Dysphagia)

体重減少のある高齢患者では,ビタミンD欠乏症およびビタミンB12欠乏症について評価すべきである。

経腸栄養は,正常な摂食への短期的なつなぎとなる可能性がある特定の患者を除き,高齢患者に有益であることはまれである。

要点

  • 特に介護施設の患者においては,複数の因子が一般的に体重減少の原因となっている。

  • 体重の5%または5kgを超える意図しない体重減少は精査を必要とする。

  • 最も診断率の高い評価法は徹底的な病歴聴取および身体診察である。

  • 先端画像検査または他の広範な検査は,臨床所見によって示唆されない限り,通常推奨されない。

  • 特に高齢者では,摂食を勧める行動的手段に重点を置き,経腸栄養の回避に努める。

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