術後ケア

執筆者:André V Coombs, MBBS, University of South Florida
Reviewed ByDavid A. Spain, MD, Department of Surgery, Stanford University
レビュー/改訂 修正済み 2024年 6月
v1128148_ja
意見 同じトピックページ はこちら

術後ケアは手術終了時から開始して,回復室で継続し,それ以降の入院期間と退院後の通院期間も通じて継続する。極めて重要な緊急の懸念事項は,気道確保,輸液および血圧管理,血栓塞栓症予防,疼痛コントロール,精神状態,および創傷治癒である。その他の重要な懸念事項としては,術後の悪心,嘔吐,尿閉,および便秘がある。糖尿病患者では,良好な血糖コントロールが治療成績の向上につながることから,患者が覚醒して食事を摂れるようになるまで1~4時間毎の指先採血で血糖値を綿密にモニタリングする。

気道および呼吸機能

挿管患者の大半は手術室を出る前に抜管され,すぐに気道から分泌物を除去できるようになる。患者が自ら痰を除去して気道を確保できるようになるまでは,患者を回復室から出してはならない(集中治療室[ICU]に入る場合は除く)。挿管処置後には,肺および気管が正常な患者でも抜管後24時間は軽度の咳嗽が生じ,喫煙者や気管支炎の病歴がある患者では,抜管後の長期にわたり咳嗽がみられる。挿管していた患者の大半,特に喫煙者と肺疾患がある患者には,インセンティブスパイロメトリーが有益である。

術後の呼吸困難は,胸部または腹部切開に続発した疼痛が原因で生じる場合(低酸素以外による呼吸困難)と,低酸素血症により生じる場合(低酸素による呼吸困難)がある(酸素飽和度の低下も参照)。肺機能不全に続発する低酸素血症は通常,呼吸困難,頻呼吸,またはその両方を伴うが,過鎮静が生じると,低酸素血症を来す可能性がある一方,呼吸困難,頻呼吸,またはその両方がわかりづらくなる可能性がある。そのため,鎮静した患者はパルスオキシメトリーまたはカプノメトリーでモニタリングすべきである。低酸素による呼吸困難は,無気肺から生じるか,特に心不全や慢性腎臓病の既往がある患者では体液過剰により生じる。呼吸困難が低酸素によるものかどうかは,パルスオキシメトリーのほか,ときに動脈血ガス分析を行って判断すべきであり,体液過剰と無気肺の鑑別には胸部X線が役立つ可能性がある。

低酸素による呼吸困難は酸素投与で治療する。低酸素以外による呼吸困難は抗不安薬または鎮痛薬で治療する。

体液状態および血行動態

輸液管理および血行動態モニタリングは,周術期ケアの重要な側面であり,術後の患者の転帰に影響を及ぼす。組織灌流,酸素運搬,および臓器の機能を維持するために,適切な水分バランスが必須である。最新のガイドラインでは,患者の特徴,外科的因子,および血行動態モニタリングの結果に基づく輸液療法の個別化が重視されている。目標は,正常体液量を達成し,循環血液量減少および体液過剰を回避することである。Society of Thoracic Surgeons(STS)およびEuropean Society of Anaesthesiology(ESA)のガイドラインでは,pulse contour analysis(例,動脈圧波形解析法)や経食道心エコー検査(TEE)などの血行動態モニタリングのための低侵襲手技が推奨されている(1, 2)。一回拍出量変動(SVV)や脈圧変動(PPV)などの動的パラメータの使用も推奨される。これらのパラメータは,輸液反応性の判定および輸液の指針として役立つ可能性があり,急性腎障害や呼吸器合併症などの合併症のリスクを低下させる。

血栓塞栓症の予防

術後の深部静脈血栓症のリスクは小さいが,結果は重症となることがあり,また一般集団に比べるとリスクは高いため,しばしば予防が必要となる。手術自体が凝固を亢進させ,しばしば長期の不動状態を要することが,深部静脈血栓症のもう1つの危険因子である(肺塞栓症および深部静脈血栓症を参照)。深部静脈血栓症の予防は通常,手術室にて,またはそれより早くから開始する(手術患者における深部静脈血栓症および肺塞栓症のリスクの表を参照)。あるいは,出血リスクが減少している場合,術後すぐにヘパリンが使われることがある(3)。歩行または理学療法は,安全に行えるようになれば直ちに開始し,運動を促すべきである。

疼痛管理

疼痛コントロールは患者の意識回復後すぐに必要になる可能性がある。オピオイド鎮痛薬や非オピオイド鎮痛薬など,集学的な疼痛管理が一般的に用いられる。オピオイドは最低用量かつ最短期間で使用すべきであり,典型的には中等度の疼痛に対して経口投与される。重度の疼痛に対しては,必要に応じて患者自身が管理できる静注がときに用いられる(用量および調節を参照)。患者に腎疾患も消化管出血の病歴もなければ,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を定期的に投与することで,突出痛を軽減し,オピオイド投与量を減少できる。

オピオイド使用症の有病率の増加に対処するために,米国の医療機関および国際的な医学委員会により,術後のオピオイド使用に関するコンセンサスガイドラインが作成されている。

精神状態

全ての患者は麻酔から覚めたとき,一時的に混乱を来す。抗コリン薬や高用量のH2受容体拮抗薬と同様に,オピオイドの術後投与もせん妄の一因となる。

高齢者は,認知症がある場合は特に,術後せん妄のリスクがあり,退院遅延および死亡リスク増大の可能性がある。抗コリン薬は,ときに術前または術中に上気道分泌物を減らすために用いられるが,可能であれば避けた方がよい。高齢者の精神状態を,術後期間は頻繁に評価すべきである。せん妄が出現した場合,酸素化の評価を行い,必須のもの以外の全ての薬剤を中止すべきである。

患者は歩行ができるようになれば歩行を開始すべきであり,いずれの電解質または体液平衡異常も是正すべきである。

尿閉および便秘

尿閉および便秘が術後によくみられる。原因としては以下のものがある:

  • 抗コリン薬

  • オピオイド

  • 不動状態

  • 経口摂取の減少

尿量をモニタリングしなければならない。患者が膀胱拡張を起こし苦痛を感じている場合,また術後6~8時間排尿がない場合には,典型的には直接カテーテル法が必要となる。術後,多くの患者では歩行できるようになるまで膀胱カテーテルが留置される。しかしながら,感染のリスクを減らすため,留置カテーテルはできるだけ早く抜去すべきである。

長期の尿閉に対しては,原因薬剤の回避およびできる限り頻繁に患者を起こして座らせることが最適な処置である。

便秘はよくみられ,一般的には麻酔薬,腸管の手術,術後の安静,およびオピオイドによるものである。便秘の治療は,オピオイドなどの便秘の原因薬剤の使用を最低限にすること,早期離床すること,また消化管手術でなければ,刺激性下剤(例,ビサコジル,センナ,カスカラ)を投与することによる。

創傷ケア

外科医は個々の手術創に対して個別化したケアを施さなければならないが,手術室で適用された無菌のドレッシング材は,感染の徴候(例,疼痛の増悪,発赤,排液)がみられない限り,一般に24~48時間そのままにしておく。ドレッシング材の除去後は,感染の徴候がないか調べるために創部を1日2回チェックすべきである。感染が起こったら,創部の検索と膿瘍の排膿,抗菌薬の全身投与,またはこれら両方が必要になる。抗菌薬の外用は通常,助けにならない。

縫合糸,皮膚ステープル,その他の閉鎖具は部位および患者の状態に応じて,通常は7日間以上にわたり留置する。顔面および頸部の傷は表面的には3日で治癒する;下肢の傷は同程度の治癒に数週間を要する。

排膿チューブがある場合は,集められた排液の量と質をモニタリングしなければならない。ただし,排膿チューブは感染源となる可能性があり,出血や吻合部からの漏出といった合併症の徴候がみられない場合もあるため,できるだけ早く抜去すべきである。

発熱

術後の発熱の一般的な原因は,手術による炎症反応または代謝の活性化である。その他の原因として,肺炎,尿路感染症(UTI),創感染,静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症[DVT]や肺塞栓症[PE])などがある。また,薬剤性の発熱および植込み型装置やドレーンへの感染の可能性もある。手術当日または術後1週間にみられる発熱の一般的な原因としては,いわゆる「6つのW」がある:

  • 創感染(Wound infection)

  • 水(Water)(例,UTI)

  • 呼吸(Wind)(例,無気肺,肺炎)

  • 歩行(Walking)(例,DVT)

  • 不思議な薬(Wonder drugs)(例,薬剤性の発熱)

  • 器具(Widgets)(例,植込み型装置,ドレーン)

術後の最適なケア(例,早期離床および膀胱カテーテルの早期抜去,細心の創傷ケアおよびドレーンのケア)により,血栓塞栓症,UTI,および創感染のリスクが低下する。インセンティブスパイロメトリーと定期的に咳をすることが肺炎リスクの低減に役立つ可能性があり,咳は1時間に最大10回の頻度でするよう奨励すべきである。

普段の活動への復帰

外科的および内科的状態に照らして安全になればすぐに,患者はベッドの上で身体を起こし,椅子へ移動し,立ち,運動することが奨励される。手術内容および術前のPS(performance status)に応じて,一部の患者では理学療法またはより広範なリハビリテーションが必要になる場合がある。

長期臥床が必要な全ての患者で,筋量減少(サルコペニア)および筋力低下がみられる。完全な臥床安静により,若年成人は1日当たり総筋量の約1%を失うのに対し,高齢者ではこの量が1日当たり5%にものぼるが,これは成長ホルモンの量が年齢とともに減少するためである。サルコペニアを避けることは回復に不可欠である。栄養欠乏もサルコペニアの原因となることがある。したがって,完全な臥床安静の患者における栄養摂取を最適化すべきである。経口摂取を奨励すべきであるが,経管栄養または,まれに静脈栄養が必要となる。

退院時の注意事項

病院などの手術施設からの退院前には,患者は重度の疼痛がなく,思考が明瞭で呼吸も正常であり,かつ飲む,歩くおよび排尿ができなければならない。

外来手術で鎮静薬(例,オピオイド,ベンゾジアゼピン系薬剤)を使用した場合は,患者を同伴者なしで退院させるべきではない。たとえ麻酔薬の効果が消失したようにみえ,患者が大丈夫と感じた後でも,筋力が低下し,わずかに効果が残存している可能性が高く,車の運転は勧められない。多くの患者には疼痛に対してオピオイドが必要である。高齢者は,麻酔薬や手術ストレスの複合効果によって一時的に見当識を失うことがあり,不動状態や抗コリン薬の影響で尿閉を生じる場合がある。

参考文献

  1. 1.Society of Thoracic Surgeons Blood Conservation Guideline Task Force, Ferraris VA, Brown JR, et al.2011 update to the Society of Thoracic Surgeons and the Society of Cardiovascular Anesthesiologists blood conservation clinical practice guidelines. Ann Thorac Surg.2011;91(3):944-982.doi:10.1016/j.athoracsur.2010.11.078

  2. 2.Navarro LH, Bloomstone JA, Auler JO Jr, et al: Perioperative fluid therapy: a statement from the international Fluid Optimization Group. Perioper Med (Lond).2015;4:3.Published 2015 Apr 10.doi:10.1186/s13741-015-0014-z

  3. 3.Garcia DA, Baglin TP, Weitz JI, Samama MM: Parenteral anticoagulants: antithrombotic therapy and prevention of thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines [published correction appears in Chest 141(5):1369, 2012. Dosage error in article text] [published correction appears in Chest 144(2):721, 2013. Dosage error in article text]. Chest 141(2 Suppl):e24S-e43S, 2012.doi:10.1378/chest.11-2291

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
iOS ANDROID
iOS ANDROID
iOS ANDROID