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爆発物および爆傷

執筆者:

James M. Madsen

, MD, MPH, University of Florida

レビュー/改訂 2021年 2月
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本ページのリソース

固体または液体が急速に気体に転換される高エネルギーの事象は3つの速度で起こりうる:

  • 爆燃:急速に燃焼するが爆風はごくわずか

  • 爆発:亜音速の燃焼と爆風(低グレードの爆発物)

  • 爆轟:超音速の燃焼と爆風波(高グレードの爆発物)

爆燃の1例としては,山状にした黒色火薬に点火したときに起こる急速な閃光(爆発音なし)である。同じ黒色火薬が容器にきつく詰め込まれた場合は低グレードの爆発を引き起こす。高グレードの爆発物では,燃焼波が物質を超音速で伝わり,超音速の爆発(爆轟)波を引き起こす;一般的な例としては,ニトログリセリンおよびトリニトロトルエン(TNT― 低グレードおよび高グレードの爆発物の例 低グレードおよび高グレードの爆発物の例 低グレードおよび高グレードの爆発物の例 )がある。

爆発が関与する集団災害では,3つの同心円状の地帯が設定される:

  • 爆心地(blast epicenter)

  • 二次周囲(secondary perimeter)

  • 爆発周辺(blast periphery)

爆心地(殺傷圏)では,生存者は全員がおそらく致命傷を受けており,専門的な救助能力および救出が必要である可能性が高く,全ての生存者に対して二次救命処置および高い被害者対医療提供者比を要する。二次周囲(重症被害者圏)では,生存者は複数の損傷を負い,標準的な救助能力および中程度の被害者対医療提供者比を要する。爆発周辺(被害者歩行圏)では,命を脅かさない外傷や心的外傷にとどまる被害者が大半であり,救助は不要で,基本的な支援と自助が必要である。

病態生理

爆傷には物理的外傷と心的外傷の両方が含まれる。物理的外傷には,骨折,呼吸障害,軟部組織および内臓の損傷,ショックを伴う内部および外部の失血,熱傷,感覚障害(特に聴覚および視覚)などがある。爆傷の5つの機序が記載されている(爆傷の機序 爆傷の機序 爆傷の機序 の表を参照)。

一次爆傷における超音速の爆風がガスの充満した腔を圧迫し,腔がその後急速に膨張して剪断力および引裂力を発生させ,それにより組織が損傷して臓器が穿孔することがある。血液が血管構造から気腔および周囲の組織に押し出される。肺病変(爆傷肺)が,肺挫傷,全身性の空気塞栓(特に脳および脊髄),フリーラジカルに関連する損傷(血栓症,lipo-oxygenation,および 播種性血管内凝固症候群 播種性血管内凝固症候群(DIC) 播種性血管内凝固症候群(DIC)は,循環血中のトロンビンおよびフィブリンの異常な過剰生成に関係する。その過程で血小板凝集および凝固因子消費が亢進する。緩徐に(数週間または数カ月かけて)進行するDICでは,主に静脈の血栓性および塞栓性の症状がみられる;急速に(数時間または数日で)進行するDICでは,主に出血が生じる。重度で急速進行性のDICは,血小板減少症,部分トロンボプラスチン時間およびプロトロンビン時間の延長,血漿Dダイマー(または血... さらに読む )を引き起こす;これは遅発性の死亡の一般的な原因である。一次爆傷には,腸管の圧外傷(特に水中爆発の場合),聴覚の圧外傷(鼓膜破裂,破裂を伴わない鼓室内出血,中耳の耳小骨の骨折または脱臼),および 外傷性脳損傷 外傷性脳損傷(TBI) 外傷性脳損傷(TBI)は,脳機能を一時的または恒久的に障害する脳組織の物理的損傷である。診断は臨床的に疑い,画像検査(主にCT)により確定する。初期治療は確実な気道確保,十分な換気,酸素化,および血圧の維持で構成される。損傷が重度の患者では,しばしば外科手術が必要となり,頭蓋内圧亢進の追跡および治療のためにモニターを設置し,頭蓋内圧亢進に... さらに読む 外傷性脳損傷(TBI) も含まれる。

症状と徴候

ほとんどの損傷(例,骨折,裂傷,脳損傷)は,他の種類の外傷と同じように現れる。爆傷肺が,呼吸困難,喀血,咳嗽,胸痛,頻呼吸,喘鳴,呼吸音減弱,無呼吸,低酸素症,チアノーゼ,および血行動態不安定を引き起こす可能性がある。空気塞栓が,脳卒中,心筋梗塞,急性腹症,失明,難聴,脊髄損傷,または跛行として現れることがある。鼓膜および内耳の損傷が聴力を障害する可能性があり,常にこれを評価すべきである。腹部の爆傷のある患者では,腹痛,悪心,嘔吐,吐血,直腸痛,しぶり腹,精巣痛,および原因不明の循環血液量減少がみられることがある。 外傷性脳損傷 外傷性脳損傷(TBI) 外傷性脳損傷(TBI)は,脳機能を一時的または恒久的に障害する脳組織の物理的損傷である。診断は臨床的に疑い,画像検査(主にCT)により確定する。初期治療は確実な気道確保,十分な換気,酸素化,および血圧の維持で構成される。損傷が重度の患者では,しばしば外科手術が必要となり,頭蓋内圧亢進の追跡および治療のためにモニターを設置し,頭蓋内圧亢進に... さらに読む 外傷性脳損傷(TBI) を呈することがあり,消失する場合もあれば様々な程度の神経認知障害が残る場合もある。レベルの低い爆発への複数回の曝露は,神経認知に対する累積的な有害作用をもたらし, 慢性外傷性脳症 慢性外傷性脳症(CTE) 慢性外傷性脳症(CTE)は,繰り返す頭部外傷または爆発損傷に続発する進行性の脳変性疾患である。 ( せん妄および認知症の概要と 認知症も参照のこと。) ボクサー認知症は1920年代に同定され,より新しい用語である慢性外傷性脳症はこれと同じ疾患であると考えられている。慢性外傷性脳症については広く研究が行われてきた。この疾患は,頭部外傷を繰り返したアスリート(大学のアメリカンフットボール選手など)の引退後や,爆発による閉鎖性頭部外傷のために... さらに読む につながるという懸念もある。

診断

  • 臨床的評価

  • 所見による適応に応じた画像検査

患者の評価は,爆傷(特に爆傷肺とその結果としての空気塞栓),耳の外傷,潜在性の穿通性損傷,および挫滅損傷の同定に特に留意するという点を除き,大半の多発外傷の受傷者の場合と同様に行う(外傷患者へのアプローチ:評価と治療 評価と治療 外傷は1~44歳の年齢層における死亡原因の第1位である。米国では2017年には外傷による死亡が243,039件あり,およそ70%が事故によるものであった。故意の外傷による死亡のうち,70%以上は自傷行為によるものであった。死亡以外でも,外傷により年間約4320万人が救急外来を受診し,280万人が入院している。... さらに読む を参照)。無呼吸,徐脈,および低血圧が,古典的に爆傷肺に伴う臨床的な三徴である。鼓膜破裂は爆傷肺を予測すると考えられてきたが,咽頭の点状出血の方がより優れた予測因子である可能性がある。胸部X線撮影を施行し,これによって特徴的な蝶形陰影が示されることがある。全患者に対して心臓モニタリングを行う。挫滅損傷の可能性のある患者は,ミオグロビン尿,高カリウム血症,および心電図変化を調べる。

トリアージ

爆傷では,損傷が重篤でない患者がしばしば病院搬送前のトリアージを受けずに直接病院を受診し,後に到着するより重篤な損傷の患者に先立って医療資源を圧倒する可能性がある。現場でのトリアージは主に,爆傷を最初に認識するのがより困難な可能性があるため,最初のトリアージをより明らかな損傷に加えて爆傷肺,腹部爆傷,および急性の挫滅症候群の確認に向けて行うべきであるという点で標準的な外傷のトリアージとは異なる。

治療

患者の気道,呼吸,循環,身体障害(神経学的状態),および曝露(脱衣)に注意を払うべきである(外傷患者へのアプローチ:評価と治療 評価と治療 外傷は1~44歳の年齢層における死亡原因の第1位である。米国では2017年には外傷による死亡が243,039件あり,およそ70%が事故によるものであった。故意の外傷による死亡のうち,70%以上は自傷行為によるものであった。死亡以外でも,外傷により年間約4320万人が救急外来を受診し,280万人が入院している。... さらに読む を参照)。高流量酸素(high-flow oxygen)および輸液を優先し,早期に胸腔ドレーンの留置を考慮すべきである。ほとんどの損傷(例, 裂傷 裂創 裂創は軟部組織に生じた裂け目のことである。 裂創の治療 迅速な治癒を可能にする 感染リスクを最小にする 美容面で最適な結果を得る さらに読む 骨折 骨折の概要 骨折とは,骨が破損することである。ほとんどの骨折は,正常な骨に単一の大きな力が加わることで生じる。 骨折以外の筋骨格系損傷には以下のものがある: 関節脱臼および亜脱臼(部分的な関節脱臼) 靱帯捻挫,筋挫傷,および腱損傷 筋骨格系の損傷はよくみられる現象であるが,その受傷機転,重症度,および治療法は様々である。四肢,脊椎,骨盤のいずれにも発... さらに読む 骨折の概要 熱傷 熱傷 熱傷とは,熱,放射線,化学物質,または電気の接触によって生じる,皮膚またはその他の組織の損傷である。熱傷は,深度(浅達性[superficial]および深達性[deep]部分層熱傷[partial-thickness]と全層熱傷[full-thickness])および総体表面積に占める割合に基づいて分類される。合併症および関連する問題には... さらに読む 熱傷 ,身体内部の損傷, 頭部損傷 外傷性脳損傷(TBI) 外傷性脳損傷(TBI)は,脳機能を一時的または恒久的に障害する脳組織の物理的損傷である。診断は臨床的に疑い,画像検査(主にCT)により確定する。初期治療は確実な気道確保,十分な換気,酸素化,および血圧の維持で構成される。損傷が重度の患者では,しばしば外科手術が必要となり,頭蓋内圧亢進の追跡および治療のためにモニターを設置し,頭蓋内圧亢進に... さらに読む 外傷性脳損傷(TBI) )は,本マニュアルの別の箇所で論じているように管理する。

陽圧換気の開始後に空気塞栓が悪化することがあるため,絶対必要でない限り陽圧換気は避けるべきである。使用する場合は,低速,低吸気圧の設定を選択すべきである。空気またはガス塞栓の疑いのある患者は,左側臥位と腹臥位の中間の昏睡(または回復)体位にし,頭部を心臓の高さまたはそれより低くする。高圧酸素(HBO)療法が有用な場合がある(再圧治療 再圧治療 再圧治療では,1気圧を超える気圧に加圧され密閉されたチャンバー内で,数時間100%酸素を投与し,その後チャンバーを徐々に大気圧まで減圧する。ダイバーでは,この治療法は主に 減圧症および 動脈ガス塞栓症に用いられる。治療開始までの時間が短いことが良好な転帰と関連しているが,治療は浮上から数日以内であればいつでも開始すべきである。治療にかかわらず,重度の損傷は予後不良を示唆する。未治療の気胸では,再圧治療の実施前または開始時に胸腔ドレーンを... さらに読む を参照)。

急性の挫滅症候群と診断されたまたは疑われた場合, 尿道カテーテルを留置 膀胱カテーテル挿入 膀胱カテーテル挿入は以下を目的として行われる: 尿検体の採取 残尿量の測定 尿閉または 尿失禁に対する対応 放射線不透過性造影剤または薬剤の膀胱内への直接送達 さらに読む して,尿量を継続的にモニタリングできるようにする。尿量を8L/日,尿pHを5以上に維持するための,アルカリ性マンニトール溶液を用いる強制利尿が役立つことがある。動脈血ガス,電解質,および筋酵素をモニタリングすべきである。高カリウム血症をカルシウム,インスリン,およびブドウ糖でコントロールする(高カリウム血症:治療 治療 高カリウム血症とは,血清カリウム濃度が5.5mEq/L(5.5mmol/L)を上回ることであり,通常は腎臓からのカリウム排泄の低下またはカリウムの細胞外への異常な移動によって発生する。通常,カリウム摂取の増加,腎臓からのカリウム排泄を障害する薬剤,および急性腎障害または慢性腎臓病など,いくつかの寄与因子が同時に存在する。高カリウム血症は,糖尿病性ケトアシドーシスや,代謝性アシドーシスでも生じる可能性がある。臨床症状は一般に神経筋症状であ... さらに読む を参照)。深部組織の感染のある患者では,高気圧酸素治療が特に有用となることがある。臨床的に,およびコンパートメント内圧の測定によって, コンパートメント症候群 コンパートメント症候群 コンパートメント症候群とは,閉鎖した筋膜の区域内における組織にかかる圧力の上昇であり,結果として組織虚血を来す。最も初期の症状は,損傷の重症度に釣り合わない疼痛である。診断は臨床的に行い,通常はコンパートメント内圧の測定により確定する。治療は筋膜切開による。 コンパートメント症候群では,永続的に障害が連鎖する。正常では受傷後に発生する組織浮腫(例,軟部組織腫脹または血腫による)で始まる。浮腫が閉じた筋膜の区域内(典型的には下肢の前区画ま... さらに読む がないかモニタリングを行う。拡張期血圧とコンパートメント内圧の差が30mmHg未満の場合,筋膜切開が必要になる可能性がある。最初に循環血液量減少および低血圧が明らかでない場合があるが,組織の開放および再灌流後に突然生じることがあるため,再灌流の前後に大量輸液(例,乳酸リンゲル液または生理食塩水1~2L)を行う。尿量を300~500mL/時に保つのに十分な速度で輸液を持続する。

本稿で述べられている見解は著者の見解であり,米国陸軍省(Department of Army),米国国防総省(Department of Defense),米国政府の公式の方針を反映したものではない。

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