骨折の概要

執筆者:Danielle Campagne, MD, University of California, San Francisco
レビュー/改訂 2022年 12月
意見 同じトピックページ はこちら

骨折とは,骨が破損することである。大半の骨折は,正常な骨に単一の大きな力が加わることで生じる。

骨折以外の筋骨格系損傷には以下のものがある:

筋骨格系の損傷はよくみられる現象であるが,その受傷機転,重症度,および治療法は様々である。四肢,脊椎,骨盤のいずれにも発生する。

以下に示す一部の骨折については,本マニュアルの別の箇所で考察されている:

筋骨格系の損傷は単独で起こることもあれば,多発外傷の一環として起こることもある(外傷患者へのアプローチを参照)。大半の筋骨格系損傷は鈍的外傷により生じるが,穿通性外傷も筋骨格構造の損傷につながることがある。

骨折の病態生理

骨折では,以下のいずれかの病態となる:

  • 開放骨折:上を覆う皮膚が破綻し,折れた骨が皮膚の創傷を通じて外界と交通しているもの。

  • 閉鎖骨折:上を覆う皮膚に破綻がないもの。

病的骨折は,疾患(例,骨粗鬆症,がん,感染,骨嚢胞)により骨の弱くなった部分が,軽度または軽微な力により砕けたときに起こる。疾患が骨粗鬆症である場合,しばしば脆弱性骨折と呼ばれる。

疲労骨折は中程度の力が繰り返し加わることにより生じ,例えば長距離ランナーや重い荷物を持って行進する兵士に生じうる。中程度の力による微小外傷により損傷した骨は,正常であれば安静にしている間に自己修復するが,同じ場所に繰り返し力が加わるとさらなる損傷が起こりやすくなり,微小外傷が広がる。

治癒

骨は,患者の年齢および併存疾患により,治癒する速度は様々である。例えば,小児では成人よりはるかに早く治癒し,また末梢循環を障害する疾患(例,糖尿病,末梢血管疾患)によって治癒が遅くなる。

骨折は以下の3つの重なり合う段階で治癒する:

  • 炎症

  • 修復

  • リモデリング

炎症期が最初に現れる。骨折部位に血腫が形成され,遠位骨片の少量の骨が再吸収される。骨折線は,初期に明らかでない場合(例,一部の転位のない骨折),少量の骨が再吸収されるにつれて損傷から約1週間後に明らかになるのが典型的である。

修復期に仮骨が形成される。新しい血管が発生し,骨折線を越えた軟骨形成が可能になる。最初の2つの期間中は,新しい血管が成長できるように,固定(例,ギプス固定)が必要である。修復期は骨折が臨床的に癒合すれば終了する(すなわち,骨折部位の疼痛がなくなり,疼痛を伴わずに患肢を使えるようになり,診察で骨が動かないことを確認したとき)。

リモデリング期に,もとは軟骨だった仮骨が骨化し,骨が破壊されて再構築される(リモデル)。この時期に,荷重負荷をかけることを含め,受傷部位の通常の動作を徐々に再開するよう,患者に指示すべきである。

合併症

骨折の重篤な合併症はまれであるが,生命や患肢の温存を脅かす,または患肢の永続的な機能障害を引き起こす可能性がある。開放骨折(感染の素因となる)と血管,組織灌流,および/または神経を破綻させる骨折では,合併症のリスクが高い。血管または神経を侵さない閉鎖骨折(特に速やかに整復するもの)は,重篤な合併症を引き起こす可能性が最も低い。

急性合併症(合併損傷)としては以下のものがある:

  • 出血:全ての骨折(および軟部組織損傷)には出血が伴う。まれに,内出血または外出血が出血性ショックを引き起こすほど重度となる(例,骨盤骨折,大腿骨骨折,一部の開放骨折)。

  • 血管損傷:一部の開放骨折は血管を破綻させる。一部の閉鎖骨折,特に後方転位のある上腕骨顆上骨折では,血流が途絶し,四肢の末梢側の虚血が生じるが,この血流の途絶は損傷後数時間にわたり臨床的に顕在化しない場合がある。

  • 神経損傷:神経は,骨折後に転位した骨片により伸張した場合,鈍的な強打により挫傷した場合,圧挫による重度の損傷で挫滅した場合,または鋭い骨片により断裂した場合に,損なわれることがある。神経に打撲が起きた場合(一過性神経伝導障害[neurapraxia]と呼ぶ),神経伝導が遮断されるが,神経は断裂していない。一過性神経伝導障害は一過性の運動および/または感覚障害を引き起こす;神経機能は約6~8時間で完全に回復する。神経が押しつぶされた(crushed)場合(軸索断裂と呼ぶ),軸索が損傷するが,髄鞘は損傷しない。この損傷は一過性神経伝導障害より重度である。損傷の程度に応じて,神経は数週間から数年かかって再生できる。通常,開放骨折では神経が断裂(torn)する(神経断裂[neurotmesis]と呼ぶ)。断裂した神経は自然に治癒せず,外科的に修復する必要がある場合がある。

  • 肺塞栓症股関節または骨盤骨折の患者では,肺塞栓症のリスクが高い。肺塞栓症は,重篤な股関節または骨盤骨折における最も頻度の高い致死的合併症である。

  • 脂肪塞栓症長管骨(大腿骨骨折が最も多い)の骨折により,脂肪(およびその他の骨髄内容物)が放出され,肺で塞栓し,呼吸器系の合併症を伴う肺塞栓症を起こすことがある。

  • コンパートメント症候群閉鎖した筋膜の区域内で組織にかかる圧力が上昇して血液供給を途絶し,組織灌流が減少する。挫滅損傷または著しい粉砕骨折が一般的な原因であり,浮腫が発生して組織にかかる圧力が上昇する。橈骨および尺骨に生じる前腕骨折,脛骨高原(プラトー)骨折(関節腔にまで及ぶ脛骨近位端骨折),または脛骨骨幹部骨折(1)においてリスクが高い。無治療のコンパートメント症候群は,横紋筋融解症,高カリウム血症,および感染症につながる可能性がある。長期的に,拘縮,感覚障害,および麻痺を引き起こすことがある。コンパートメント症候群は患肢の温存(おそらく切断が必要)および生命を脅かす。

  • 感染:あらゆる骨折が感染を来す可能性があるが,開放性損傷の場合または外科的に治療した場合にそのリスクが最も高い。急性感染は骨髄炎につながる可能性があり,その場合治癒が困難なことがある。

骨折の長期合併症としては以下のものがある:

  • 不安定性:様々な骨折が関節不安定性につながりうる。不安定性は生活に支障を来すものとなる可能性があり,変形性関節症のリスクを高める。

  • 硬直および可動域障害:関節に及ぶ骨折は通常,関節軟骨を破綻させる;位置のずれた関節軟骨は瘢痕を形成する傾向があり,変形性関節症を起こし関節運動を障害する。関節に長期間の固定が必要な場合に,硬直が起こる可能性が高くなる。膝関節,肘関節,および肩関節は外傷後の硬直を特に起こしやすく,高齢者では特にその可能性が高い。

  • 癒合不全または遷延癒合:ときに,骨折が治癒しなかったり(癒合不全[nonunion]と呼ばれる),癒合が遅れたりすることがある。主な寄与因子には,不完全な固定,部分的な血流の途絶,治癒を妨げる患者因子(例,コルチコステロイドまたは甲状腺ホルモンの使用)などがある。

  • 変形癒合:変形癒合(malunion)とは,変形を残して治癒することである。骨折の整復と安定化が十分でない場合に可能性が高くなる。

  • 骨壊死:骨片の一部が壊死する可能性があり,主に血管供給が損なわれた場合に起こる。骨壊死を起こしやすい閉鎖骨折には,舟状骨骨折,転位のある大腿骨頸部骨折,転位のある距骨頸部骨折などがある。

  • 変形性関節症:関節の荷重面を破綻させる骨折や関節のアライメント不良および不安定性を引き起こす骨折は,関節軟骨の変性や変形性関節症の素因となる。

  • 肢長差:小児の骨折が成長板に及ぶ場合,成長に影響が生じ,一方の肢が他方より短くなることがある。成人では,骨折(特に大腿骨骨折)の外科的修復によって脚長差が生じることがあり(2),歩行困難を生じて,短い方の脚の靴の補高が必要になる可能性がある。

合併症に関する参考文献

  1. 1.McQueen MM, Gaston P, Court-Brown CM: Acute compartment syndrome.Who is at risk?J Bone Joint Surg Br 82 (2):200–203, 2000.PMID: 10755426

  2. 2.Vaidya R, Anderson B, Elbanna A, et al: CT scanogram for limb length discrepancy in comminuted femoral shaft fractures following IM nailing.Injury 43 (7):1176–1181, 2012.doi: 10.1016/j.injury.2012.03.022

骨折の評価

  • 重篤な損傷の評価

  • 病歴聴取と身体診察

  • 骨折を同定するためのX線

  • ときにMRIまたはCT

救急部門において,受傷機転から重度の損傷または多発損傷の可能性が示唆される場合(例,高速での自動車衝突事故や高所からの転落)は,まずは頭から足先まで全身を評価して全ての器官系に重篤な損傷がないか確認するとともに,必要であれば蘇生を行う(外傷患者へのアプローチを参照)。不顕性の失血による出血性ショックが起きていないか患者を評価する(特に骨盤または大腿骨骨折の場合)。四肢に損傷がある場合は,直ちに開放創,ならびに神経血管損傷(しびれ,麻痺,灌流不良)およびコンパートメント症候群(例,損傷の程度に釣り合わない疼痛,蒼白,錯感覚,冷感,脈拍消失)の症候がないか評価する。

症状および身体診察の結果に基づき骨折が疑われることがあるが,診断の確定には画像検査(通常はX線)が必要である。

患者に骨折だけでなく靱帯,腱,および筋肉の損傷がないか確認すべきである。骨折がある場合は,その部位の損傷の評価が制限されることがある(例,初期は疼痛が極端に強いために負荷試験が実施できない)。

合併損傷や関連痛がよくみられるため,受傷部位の上下の関節も診察すべきである。

病歴

受傷機転(例,力の方向および大きさ)から損傷の種類が示唆されることがある。しかしながら,多くの患者は正確な受傷機転を覚えていないか,または説明できない。

損傷時に気づいたパキッまたはポンという音やそうした感覚は,骨折(または靱帯もしくは腱損傷)のシグナルである場合がある。骨折および重篤な靱帯損傷は通常直ちに疼痛を引き起こし,受傷後数時間から数日後に始まる疼痛は軽微な損傷を示唆する。損傷の見た目の重症度に釣り合わない疼痛や,受傷直後から数時間から数日間増悪し続ける疼痛は,コンパートメント症候群または虚血を示唆する。

身体診察

検査項目としては以下のものがある:

  • 受傷部位より遠位の血管評価および神経学的評価

  • 開放創,変形,腫脹,斑状出血,および可動域の減少または異常を検索するための視診

  • 圧痛,捻髪音,および骨や腱の肉眼的異常を把握するための触診

  • 受傷部位の上下の関節の診察(例,肩関節の場合は頸椎と肘関節)

  • 骨折および脱臼が除外された(臨床的にまたは画像検査による)後に,受傷関節の疼痛および不安定性に関する負荷試験

筋攣縮および筋肉の疼痛により身体診察(特に負荷試験)が制限される場合,鎮痛薬の全身投与または局所麻酔薬の投与を行うと,ときに診察が容易になる。または,筋攣縮が軽快するまで(通常数日間)骨折部を固定し,その後再び診察してもよい。

特定の所見により骨折または他の筋骨格系損傷が示唆されることがある。

変形は,骨折を示唆することがあるが,脱臼または亜脱臼(関節における骨の部分的な分離)を示唆することもある。

腫脹は一般的に骨折または筋骨格系のその他の重大な損傷を示すが,発生に数時間を要する場合がある。この時間内に腫脹が起こらなければ,骨折の可能性は低い。一部の骨折(例,膨隆骨折[buckle fracture],転位のない小さい骨折)で,腫脹が軽微なことがあるが,ないことはまれである。

圧痛は,ほぼ全ての筋骨格系損傷に伴ってみられ,多くの患者にとって受傷部位周囲の触診は不快感をもたらす。しかしながら,1つの限局した部位における明らかな圧痛の増強(point tenderness)は,骨折を示唆する。

一部の骨折では欠損が患部の骨で触知できることがある。

クレピタス(捻髪音)(関節が動いたときに生じる特徴的で触知可能および/または聴取可能な摩擦音)が骨折の徴候の場合がある。

創傷が骨折の近くにある場合,開放骨折を想定する。開放骨折は,Gustilo-Anderson分類を用いて分類できる:

  • Grade I:創傷が1cm未満で,汚染,粉砕,および軟部組織損傷はごくわずか

  • Grade II:創傷が1cmを超え,軟部組織損傷は中等度,骨膜剥離はごくわずか

  • Grade IIIA:重度の軟部組織損傷およびかなりの汚染があるが軟部の組織被覆は十分

  • Grade IIIB:重度の軟部組織損傷およびかなりの汚染があり,軟部の組織被覆は不十分

  • Grade IIIC:修復を必要とする動脈損傷を伴う開放骨折

Gradeが高いほど感染症とその後の骨髄炎のリスクが高いことを示すが,この分類を用いる観察者間信頼性は高くなく(多くは約60%),状況によっては,手術中に最もよく評価することができる。

診察の際,確認すべき部位に注意を向けると,見逃されることが多い損傷の発見に役立つことがある(見逃されることが多い骨折の診察を参照)。

表&コラム
表&コラム

患者が痛みを訴える関節が身体診察で正常であった場合,関連痛が原因である可能性がある。例えば,大腿骨頭すべり症(または頻度は低いが股関節骨折)の患者は膝に疼痛を感じることがある。

画像検査

骨折が疑われる全てのケースで画像検査が必要になるわけではない。一部の骨折は軽微であり,軟部組織損傷と同様に治療する。例えば,第2から第5までの足趾の大半の損傷および指先の損傷は,骨折の有無にかかわらず対症的に治療するためX線は不要である。多くの足関節捻挫の患者では,治療方針を変更しなければならない骨折が発見される確率は相当に低いため,X線は不要である。足関節捻挫については,X線撮影の施行に関する一般に受け入れられている基準(オタワ足関節ルール[Ottawa ankle rule])が,特異的治療が必要な骨折である可能性が高い患者のみX線撮影を行うのに役立つ。

画像検査が必要な場合は,単純X線を最初に行う。

単純X線は,主に骨(および出血または不顕性骨折に続発する関節液貯留)を描出するため,骨折の診断に有用である。異なる面で撮影した画像を少なくとも2つ含めるべきである(通常は前後像と側面像)。

以下の場合は,追加の画像(例,斜位)を撮ることがある:

  • 評価で骨折が示唆され,2つの画像が陰性である場合。

  • 特定の関節に対してルーチンに行う場合(例,足関節の評価のための果間関節窩撮影,足の評価のための斜位像)。

  • 特定の異常が疑われる場合。

指の側面像では,対象の指を他の指から離すべきである。

以下の場合は,MRIまたはCTを使用できる:

  • 骨折が単純X線で描出されないが臨床的に強く疑われる場合(舟状骨骨折および嵌入した大腿骨頸部[骨頭下]股関節骨折で多い)。

  • 治療の指針にするためさらなる詳細な情報が必要な場合(例,肩甲骨骨折,骨盤骨折,関節内骨折)。

例えば,転倒後の所見が股関節骨折を示唆しているがX線が正常の場合,MRIを施行して不顕性の股関節骨折を確認すべきである。

関連する損傷の有無を確認するためにその他の検査を行うことがある:

  • 動脈損傷の疑いを確認するための動脈造影またはCT血管造影(膝関節脱臼時に膝窩動脈を評価するために行われることが多い)

  • 筋電図検査および/または神経伝導検査(直ちに行うことはまれであり,一般的には受傷後数週間から数カ月間神経症状が持続する場合に行う)

骨折の記載

X線上の骨折の様相は,以下の用語を用いることで比較的正確に記載できる:

骨折の位置の用語としては以下のものがある:

  • 背側または掌側

  • 骨端(ときに関節面を含む),これは骨の近位端(骨頭)または遠位端を意味する

  • 骨幹端(骨頸部―長管骨の骨端と骨幹の間の部分)

  • 骨幹(骨幹部であり,近位部,中間部,遠位部3分の1に分けられる)

骨折線の一般的な種類

骨折は骨の長軸に対して垂直である。

骨折は斜めに起こる。

らせん骨折は,回転を伴う受傷機転により生じるが,X線上では少なくとも1つの像で長軸に対して平行な成分があることによって斜骨折と鑑別される。

粉砕骨折では,2つを超える骨片がみられる。粉砕骨折は分節骨折を含む(1つの骨に2つの別々の切断がある)。

剥離骨折は,腱が骨片を引き剥がすことによって生じる。

嵌入骨折では,骨片が互いに入り込んで骨が短くなる;この骨折は骨梁における局所的な密度異常,または骨皮質における不規則性として描出されることがある。

膨隆骨折(torus fracture)(骨皮質のたわみ[buckle])および若木骨折(皮質の一側のみの亀裂)は,小児期の骨折である。

様々な種類の骨折
脛骨骨幹部の横骨折
脛骨骨幹部の横骨折

この横骨折は脛骨の骨幹部に生じている。

Image courtesy of Danielle Campagne, MD.

手指の膨隆骨折
手指の膨隆骨折

膨隆骨折(torus fracture)は,骨皮質の微妙な不整像としてしか観察できないことがある。

PHOTOSTOCK-ISRAEL/SCIENCE PHOTO LIBRARY

手関節の膨隆骨折
手関節の膨隆骨折

この橈骨遠位部の膨隆骨折は,骨皮質の軽微な不整像としてしか観察できない。

LIVING ART ENTERPRISES, LLC/SCIENCE PHOTO LIBRARY

足関節両果骨折
足関節両果骨折

この足関節骨折は,(脛骨)内果および(腓骨)外果に及んでいる。

SCIENCE PHOTO LIBRARY

橈骨遠位部の若木骨折
橈骨遠位部の若木骨折

このX線写真には,橈骨遠位部の若木骨折が写っており,骨皮質の橈側面に不連続性(段差)として認められる(矢印)。

ZEPHYR/SCIENCE PHOTO LIBRARY

大腿骨骨幹部骨折(1)
大腿骨骨幹部骨折(1)

この画像には,屈曲し,短縮した大腿骨骨幹部の粉砕骨折が写っている。

Image courtesy of Danielle Campagne, MD.

大腿骨骨幹部骨折(2)
大腿骨骨幹部骨折(2)

この大腿骨のX線側面像には,軟部組織内の空気と金属異物の残存を伴った大腿骨骨幹部骨折が写っている。

Image courtesy of Danielle Campagne, MD.

骨片間の位置関係

伸延,転位,屈曲,または短縮(騎乗)が起こることがある。

伸延は,縦軸方向の分離である。

転位は,骨折の端部と端部のずれの度合いであり,ミリメートルまたは骨の幅に対する百分率で表す。

屈曲は,近位骨片から測定した遠位骨片がなす角度である。

転位および屈曲は,腹側背側面,外側内側面,またはその両方で起こる場合がある。

骨折の治療

  • 合併損傷の治療

  • 適応に応じた整復,副子固定,および鎮痛薬

  • 適応に応じたRICE(安静[rest],氷冷[ice],圧迫[compression],挙上[elevation])またはPRICE(副子またはギプスによる保護[protection]を含む)

  • 通常は固定

  • ときに手術

初期治療

重篤な問題を合併している場合は,それを先に治療する。出血性ショックは直ちに治療する。細い動脈のみの損傷で側副血行が良好な場合を除いて,動脈の損傷を外科的に修復する。コンパートメント症候群を治療する。

切断された神経を外科的に修復する;一過性神経伝導障害および軸索断裂に対する初期治療は,通常,観察,支持療法,およびときに理学療法による。

開放骨折が疑われる場合,無菌の創傷ドレッシング,破傷風の予防,広域抗菌薬(例,第2世代セファロスポリン系 + アミノグリコシド系),ならびに洗浄とデブリドマンのための手術(およびそれによる感染予防)が必要となる。開放骨折における感染リスクを最小限に抑えるために,早期(例えば,救急部門受診から1時間以内)に抗菌薬を静脈内投与すべきである(1)。

中等度および重度の骨折の大半は,特に肉眼的に不安定な場合,疼痛を軽減し不安定型骨折によるさらなる軟部組織損傷を予防するために,直ちに副子固定する(堅くないまたは全周を覆わないデバイスによる固定)。長管骨骨折の患者では,副子固定によって脂肪塞栓が予防されることがある。

疼痛はできるだけ早く治療するが,方法としてはオピオイドまたは局所神経ブロックが典型的である。孤立した四肢骨折があり,コンパートメント症候群の疑いがない場合は,区域麻酔を用いてもよく,このアプローチは,オピオイドの使用量を最小限に抑えるのに役立つ可能性があり,また,オピオイド単独より大きな疼痛緩和が得られる(2)。

初期治療後,骨折の整復,固定,および適応となる対症療法を行う。

整復

骨折による,回転性のアライメント不良または著しい屈曲もしくは転位は,典型的には整復により治療するが(徒手整復による骨または骨片のリアライメント),これには通常鎮痛および/または鎮静が必要である。例外としては,大きな変形がリモデリングにより時間とともに矯正される,小児の一部の骨折がある。

可能であれば非観血的整復(徒手整復により,皮膚切開を伴わない)を行う。非観血的整復が不可能な場合は観血的整復(皮膚の切開を伴う)を行うが,その場合は麻酔が必要となる。

骨折の非観血的整復は通常,ギプス固定により維持するが,副子または三角巾のみでよい場合もある。

骨折の観血的整復は通常,外部および/または内部の様々な外科的器具により維持する。観血的整復内固定術(ORIF)では,ピン,スクリュー,およびプレートを組み合わせて使用して骨片を並べて固定する。通常,以下の場合にORIFが適応となる:

  • 関節内骨折に転位がある(関節面を正確に並べるため)。

  • 特定の種類の骨折では,非外科的治療よりORIFの方が良好な結果が得られる。

  • 非観血的整復が無効であった。

  • がんにより脆弱化した骨に病的骨折が起こった;このような骨は正常に治癒せず,ORIFによって他の治療法よりも早く疼痛が軽減し,早期の歩行が可能となる。

  • 長期間の不動(骨折の治癒に必要)が望ましくない(例,股関節または大腿骨骨幹部骨折);ORIFでは早期の構造的安定性を得られ,疼痛を最小限にし,運動を容易にする。

PRICE

PRICE(保護,安静,氷冷,圧迫,挙上)が有益となる可能性がある。

保護はさらなる損傷の予防に役立つ。これには,受傷部位の使用制限,副子もしくはギプスの装着,または松葉杖の使用が含まれる。

安静はさらなる損傷を予防し治癒を加速する可能性がある。

氷冷および圧迫は腫脹および疼痛を最小限に抑える可能性がある。ビニール袋またはタオルで氷を包み,最初の24~48時間断続的に(15~20分間,できるだけ頻回に)患部に当てる。損傷は,副子,弾性包帯,または重度の腫脹を引き起こす可能性のある特定の損傷に対してはJones圧迫包帯によって圧迫できる。Jones包帯は4層から成り,1層目(最も内側)と3層目は綿の詰め物,2層目と4層目は弾性包帯である。

患肢を最初の2日間,浮腫が下降する経路が保たれるように心臓より高い位置に挙上することで,重力により浮腫液の排出が促され,腫脹を最小限にとどめることができる。

48時間後,15~20分間定期的に温熱(例,温熱パッド)を当てると,疼痛が緩和され,治癒が加速することがある。

固定

固定は,さらなる損傷を予防して骨折の端を並べることにより,疼痛を軽減し,治癒を促進する。損傷の近位および遠位の関節を固定すべきである。

大半の骨折はギプス(硬性の,周囲を取り囲む装具)で数週間固定する。急速に治癒する少数の安定型骨折(例,小児における手関節の膨隆骨折)にはギプス固定を行わない;早期運動が最良の結果をもたらす。

ギプスは通常,数週間の固定が必要な骨折に対して使用する。まれに,ギプス下の腫脹はコンパートメント症候群の一因になるほど重度となる。医師がギプス下の重度の腫脹を疑った場合,ギプス(および全てのパッド)の端から端までを内側と外側で切断する(2分割する)。

ギプスを装着する患者には,以下の内容などを記載した書面による指示を与える:

  • ギプスを乾燥した状態に保つ。

  • ギプスの中に物を入れない。

  • ギプスの端と周辺の皮膚を毎日調べて,発赤や痛みのある部分があれば報告する。

  • 柔らかい粘着テープ,布,または他の柔らかい材料を当てて,ギプスの端による皮膚損傷を予防する。

  • 安静時は,おそらく小さい枕またはパッドを用いてギプスを置く位置に注意を配り,ギプスの端が皮膚を挟むまたは皮膚に食い込むのを防ぐ。

  • 可能であればいつでも,腫脹をコントロールするためにギプスを挙上する。

  • 疼痛が持続する場合またはギプスが過度にきついと感じる場合は,直ちに受診する。

  • ギプス内から匂いが生じる場合または発熱(感染を示す可能性がある)が生じた場合は,直ちに受診する。

  • 進行性に悪化する疼痛,またはしびれもしくは筋力低下(コンパートメント症候群を示唆することがある)が新たに認められた場合は,直ちに受診する。

良好な衛生状態が重要である。

疑われるが証明されない一部の骨折,急速に治癒し数日間以下の固定を要する骨折など,安定型の損傷に対しては,固定に副子急性期治療としての関節固定:一般的に用いられる方法の図を参照)を使用できる。副子は周囲を取り囲まないため,氷冷が可能であり,ギプスより動かしやすい。また,腫脹がいくらかは許容されるため,コンパートメント症候群の一因となることがない。最終的にギプスを必要とする一部の損傷は,腫脹の大半が消失するまで最初は副子で固定する。

固定具の装着
足関節後部の副子の装着
足関節後部の副子の装着
長上肢副子の装着
長上肢副子の装着
足関節へのシュガートング副子の装着
足関節へのシュガートング副子の装着
母指副子(thumb spica splint)の装着
母指副子(thumb spica splint)の装着
Ulnar gutter splintの装着
Ulnar gutter splintの装着
短下肢ギプスの装着
短下肢ギプスの装着
肩関節への三角巾と固定帯または肩関節固定具の装着
肩関節への三角巾と固定帯または肩関節固定具の装着
短上肢ギプスの装着
短上肢ギプスの装着
上肢への掌側副子の装着
上肢への掌側副子の装着

急性期治療としての関節固定:一般的に用いられる方法

三角巾では,ある程度のサポートと快適さが得られ,可動性が制限される;特定の骨折(例,ごくわずかな転位のある鎖骨骨折,特定の上腕骨近位端骨折),特に完全固定が望ましくないもの(例,完全に固定すると,急速に癒着性関節包炎[凍結肩]に至る可能性がある肩関節の損傷)に対して有用となることがある。

固定帯(布または紐)を三角巾とともに使用して,腕が外側に振れないようにすることがある(特に夜間)。固定帯は背部および受傷部位上に巻く。1-partの上腕骨近位端骨折の固定では固定帯は,ときに三角巾とともに使用する。

床上安静は,ときに骨折(例,一部の脊椎または骨盤骨折)に対し必要となるが,問題(例,深部静脈血栓症,尿路感染症,筋肉のデコンディショニング)を引き起こす可能性がある。

関節の長期間の固定(若年成人では3~4週間を超えるもの)は,硬直,拘縮,および筋萎縮を引き起こす可能性があり,通常は推奨されない。これらの合併症は急速に発生することがあり,永続的となる場合もある(特に高齢者の場合)。急速に治癒する損傷の一部では,最初の数日または数週間以内に自動運動を再開することによる治療が最善となる;このような早期運動療法は拘縮および筋萎縮を最小限にとどめる可能性があり,それにより機能回復を加速する。副子およびギプスを用いて,機能が完全に回復する可能性を最大限に高める位置で関節を固定すべきである(例,中手指節[MCP]関節の固定では,手の腱の伸長を維持するためにMCP関節を屈曲位にするべきである)。

理学療法士は,可能な限り機能を維持するために固定中に患者ができることについて助言できる。固定後,理学療法士は,可動域と筋力を改善する運動を患者に提供し,受傷関節を強化・安定化することで,再発および長期障害の予防を助けることができる。

その他の手技

通常は骨折により大腿骨上端または上腕骨上端が重度の損傷を受けた場合に,人工関節置換術(関節形成術)が必要になることがある。

骨片間の間隙が大きすぎる場合,直ちに骨移植を行うことがある。治癒が遅れた場合(遷延癒合)または治癒しなかった場合(癒合不全)には,後で行うこともある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Lack WD, Karunakar MA, Angerame MR, et al: Type III open tibia fractures: immediate antibiotic prophylaxis minimizes infection.J Orthop Trauma 29(1):1–6, 2015.doi: 10.1097/BOT.0000000000000262.Erratum in: J Orthop Trauma 29(6):e213, 2015.PMID: 25526095

  2. 2.Beaudoin FL, Haran JP, Liebmann O: A comparison of ultrasound-guided three-in-one femoral nerve block versus parenteral opioids alone for analgesia in emergency department patients with hip fractures: A randomized controlled trial.Acad Emerg Med 20(6):584–591, 2013.doi: 10.1111/acem.12154

老年医学的重要事項:骨折

高齢者は以下の理由から骨折を起こしやすい:

  • 頻回に転倒する傾向(例,加齢による固有感覚喪失,固有感覚や姿勢反射に対する薬剤の有害作用,起立性低血圧による)

  • 転倒時の防御反射の障害

  • 骨粗鬆症(加齢とともに頻度が高まる)

加齢に関連した骨折として,橈骨遠位部,上腕骨近位部,骨盤,大腿骨近位部,椎骨などの骨折がある。

高齢患者における治療の目標は,四肢のアライメントや長さを完璧に回復することではなく,日常生活動作を迅速に取り戻すことである。

高齢患者では不動状態(関節固定または床上安静)は害を及ぼすことが多いことから,骨折の治療に観血的整復内固定術(ORIF)が用いられることが増えている。

早期運動(ORIFにより可能になる)および理学療法が機能の回復に必須である。

併存疾患(例,関節炎)が回復を妨げる場合がある。

要点

  • 動脈血流を途絶させる骨折およびコンパートメント症候群は患肢の温存を脅かし,最終的に生命を脅かす可能性がある。

  • 骨折だけでなく靱帯,腱,および筋肉の損傷がないか確認し,骨折がある場合,この評価は制限または延期されることがある。

  • 受傷部位の上下の関節を診察する。

  • 特に患者が痛いと特定した関節で身体所見が正常であった場合には,関連痛を考慮すべきである(例,股関節骨折患者における膝関節痛)。

  • 多くの四肢遠位部の損傷(例,第2から第5までの足趾の一部の損傷,一部の足関節捻挫)では,骨折が存在しても治療方針に変更はないため,骨折の有無を確認するためのX線は不要である。

  • X線所見は正常であるが,臨床的に骨折が強く疑われる場合(例,転倒後に股関節痛があり歩けない高齢者で初期のX線が正常な場合),MRI(ときにCT)を考慮する。

  • 重篤な合併損傷を直ちに治療するとともに,不安定型の骨折には副子固定を行い,できるだけ早く,疼痛の治療を行うとともに,屈曲または転位を来した特定の骨折は整復する。

  • 直ちに不安定型の骨折を固定する;整復の必要な骨折は全て,整復し次第ギプスまたは副子を用いて固定する。

  • PRICE(保護,安静,氷冷,圧迫,挙上)による治療を骨折にも行う。

  • ギプスのケアに関して,患者に書面で明確な指示を与える。

  • 高齢患者を治療する際は,最も早く移動が可能になる方法を選択するのが通常である。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS