高齢ドライバーに対する介入

執筆者:Peggy P. Barco, OTD, OTR/L, BSW, SCDCM, CDRS, FAOTA, Washington University Medical School;
David B. Carr, MD, Washington University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 4月
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著明な機能障害がある高齢ドライバーが運転を制限または中止すると決めた場合は,医療従事者は主として支援的な役割を果たす。是正可能と考えられる障害が医学的評価により同定され,高齢ドライバーがその障害を認めても,依然として運転の継続を希望する場合は,医療従事者はその障害または機能低下の是正に有用な治療を勧めることができる。ほとんどの医療従事者には,運転能力を低下させる病状を治療することを除き,自動車運転リハビリテーション計画を策定または施行できる体制が整っていない;そのため,専門家への紹介が役立つことが多い。安全運転が可能となるレベルに異常や障害を是正できない場合,医療従事者は運転中止に関して積極的にならなければならないことがある。

高齢ドライバーの概要も参照のこと。)

自動車運転リハビリテーションプログラム

一部の高齢ドライバーには,運転再教育コース(例,American Association of Retired Persons Driver Safety Program)が有益であるが,ほとんどの高齢ドライバーは,自動車運転リハビリテーションを専門とする作業療法士(自動車運転リハビリテーション専門家[driving rehabilitation specialist]と呼ばれる)に紹介すべきである。自動車運転リハビリテーション専門家を見つけるには,地域のリハビリテーション施設に問い合わせるか,Association for Driver Rehabilitation SpecialistsまたはAmerican Occupational Therapy Associationにアクセスする。

通常,自動車運転リハビリテーション専門家は,視覚,運動,および認知能力の臨床検査,ならびに路上評価を含む総合的な運転評価を施行する。路上評価時には,自動車運転リハビリテーション専門家は高齢ドライバーに同乗し,様々な交通条件下で実際の運転技能を評価する。この評価時に用いられる車両には,専門家が安全な制御を維持できるようにする装備(例,助手席側ブレーキ)が備わっているべきである。自動車運転リハビリテーション専門家は,総合的な運転評価の締めくくりとして,その人の運転能力についての提言を行う。自動車運転リハビリテーション専門家は以下によっても支援できる:

  • ドライバーの日常生活における運動技能,認知能力および知覚を高めるため,各ドライバーに合わせたリハビリテーション計画を勧める

  • 運転補助装置(例,片手でのハンドル操作を支援する旋回ノブ,手動運転装置などのより複雑な装置)を設置し,それを使用する訓練を行う

  • リハビリテーション計画の効果を評価し,自動車運転を継続できるだけの十分な運転能力があるかどうか,または運転制限が適応となるかどうかについて,ドライバー,関係する近親者,および医師に対しフィードバックする

  • 移動に関するカウンセリングまたは代替移動手段に関するアドバイスをする

ほとんどの州では,リハビリテーション自動車運転評価の費用は(メディケアまたは民間の)保険が適用されないため,自己負担となることがある。自動車運転リハビリテーション専門家がその地域にいない場合,または費用が極端に高額な場合は,高齢者の疾患を専門とする地域の作業療法士への紹介や,完全な再検査(視力検査,筆記試験,および路上検査)のための州の運転免許交付局への紹介などが選択肢となる。

運転中止

高齢ドライバーが自分の限界を否定するかもしくは気づいていない場合,または障害が治療に反応しない場合には,医療従事者は事前に手を打たなければならないことがある。このような状況では,医療従事者は運転の安全性,運転中止の可能性,移動手段に関する患者ニーズ,および代替移動手段に関する問題を患者およびその家族と話し合うべきである。

医療従事者は,患者,歩行者,および他のドライバーに対する安全性の便益と,社会的孤立,身体機能状態の悪化,生活の質の低下,および臨床的抑うつといった代償を比較検討すべきである。一部の患者(例,中等度または重度認知症の患者)では,運転中止の便益が明らかに代償を上回る。

代替移動手段の選択肢について話し合うべきである;選択肢は地域によって異なるが,Alzheimer’s AssociationAmerican Automobile Association Foundation for Traffic Safetyなどに記載されている全国的な情報源では,選択肢についての最新情報が得られる。家族は,高齢のドライバーとの話合いについての出版物およびオンライン情報を入手できる。例えば,the Hartford publications "Family Conversations About Alzheimer’s Disease, Dementia & Driving"および "We Need to Talk: Family Conversations with Older Drivers"を参照のこと。

安全運転ができなくなった高齢ドライバーのための選択肢として,ウェブベースのオンデマンド・タクシーサービスなどのより新しい代替移動手段がある。しかしながら,高齢ドライバーがこれらのサービスでさえ自力で利用できるかどうかを評価することが重要である。安全運転を妨げるのと同じ機能障害によって,代替移動手段を自力で予約したり利用したりする能力がしばしば妨げられる。ときに,家族および/または友人が高齢者を車で送迎する必要がある;可能であれば,何名かの友人および家族が協力する構造化されたスケジュールをもつことが役に立つ。移動手段の選択肢を提供することで,高齢者は活動的な生活を維持し,地域社会に参加することができ,孤立,活動低下,および抑うつを回避することができる。

車を運転する特権を失うことは,抑うつを誘発することがあり,自立維持の観点からみて打撃が比較的大きい。代替移動手段を手配できず,かつ,日常生活動作を維持する能力が悪影響を受けている場合,車を運転する特権の喪失は,ときに,家族との同居,または生活支援施設もしくは退職者居住地区へ移るきっかけとなる。

報告

医療従事者は,ドライバーの機能的な制限または医学的状態からみて運転中止が必要と思われる場合は,車両管理局(Department of Motor Vehicles)の報告規定に従うべきである。報告に関する法律は州によって異なる。全州が自発報告に関する法律を定めているが,一部の州は義務的報告に関する法律を規定している。(州の運転免許交付要件および報告規則は,国家高速道路交通安全局のClinician's Guide to Assessing and Counseling Older Drivers, 4th editionの第8章を参照のこと。)ほとんどの州において,法令により医療従事者の匿名性が保護されるか,または医療従事者に免責が与えられている。診療所または施設が報告方針および報告手順を策定しようとする場合には,法律相談が有益なことがある。

医療従事者は,単に報告書を提出するのではなく,報告前に,運転中止を推奨する旨を患者および家族に直接説明すべきである。医療従事者は,運転制限に協力する必要性について患者を教育するために最大限の努力を払うべきである。このような説明事項には,患者に生じている制限によって運転が患者自身や他のドライバーにとって危険になる理由,および医療従事者に報告義務が課されている理由を含めるべきである。

状況によっては,医療従事者は患者の希望に反して,機能的な制限または医学的状態を州当局へ報告しなければならない;このような行為は,医療従事者と患者の関係に悪影響を及ぼすことが多い。それにもかかわらず,患者の運転能力の低下が公衆の安全を脅かしかねない場合は,法律で定めるところにより医療情報が開示される;関係当局に通知しなかった医療従事者は,その後の損傷に対して法的責任を負う可能性がある。

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