気管支肺異形成症(BPD)

執筆者:Arcangela Lattari Balest, MD, University of Pittsburgh, School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 10月
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気管支肺異形成症は典型的には長期間の人工換気によって生じる新生児慢性肺疾患であり,早産児の在胎期間および酸素投与所要量の程度によってさらに定義される。診断は酸素投与の必要性のほか,場合による換気補助の必要性が長期にわたったかどうかに基づく。治療は支持療法により行い,具体的には栄養補給,水分制限,利尿薬投与などのほか,ときに吸入気管支拡張薬や,最後の手段として吸入コルチコステロイドが用いられることもある。

周産期の呼吸器疾患の概要も参照のこと。)

出生の過程には広範な生理的変化を伴うため,ときに子宮内での生活中には問題とはならなかった状態が明らかになる場合がある。そのため,全ての出産に新生児蘇生の技能を有する人物の立ち会いが必要である。在胎期間成長パラメータは,新生児の病態のリスクを同定するのに役立つ。

酸素投与を必要とする他の病状(例,肺炎先天性心疾患)がなく,生後28日以降またはpostmenstrual age【訳注:在胎期間と出生後週齢を足したもの】36週以降も酸素投与の必要性が持続する早産児では,気管支肺異形成症(BPD)が存在するとみなされる。

病因

BPDの病因は多因子性である。

重大な危険因子としては以下のものがある:

その他の危険因子としては以下のものがある:

  • 間質性肺気腫

  • 高い最大吸気圧

  • 呼気終末容積の高値

  • 繰り返す肺胞虚脱

  • 気道抵抗上昇

  • 肺動脈圧上昇

  • 男児

  • 子宮内胎児発育不全

  • 遺伝的感受性

  • 母親の喫煙

早産児の肺は,機械的人工換気による炎症性変化を受けやすい。正常肺構造の発育が妨げられ,少数かつ大きい肺胞が発達し,間質が肥厚する。また,肺血管構造の発育にも異常がみられ,肺胞毛細血管が減少および/または異常に分布し,肺血管抵抗が上昇して肺高血圧症が起こりうる(1)。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Kalikkot Thekkeveedu R, Guaman MC, Shivanna B: Bronchopulmonary dysplasia: A review of pathogenesis and pathophysiology.Respir Med 132:170–177, 2017.doi: 10.1016/j.rmed.2017.10.014.

診断

  • National Institute of Child Health and Human Development(NICHD)の基準

  • 特徴的なX線所見

機械的人工換気を受ける乳児が酸素療法,機械的人工換気,またはその両方から離脱できない場合は,典型的にはBPDが疑われる。典型的には,低酸素血症の悪化,高炭酸ガス血症,および酸素所要量の増加が生じる。また,患児が予想期間内に離脱できない場合は,動脈管開存および新生児室内感染の肺炎などの可能性のある基礎疾患がないか調べるべきである。

BPDの診断を下すには,患者が21%以上の酸素投与を28日間以上にわたり必要としているか,またはpostmenstrual age【訳注:在胎期間と出生後週齢を足したもの】36週以上でいまだ酸素投与を必要としている状態でなければならない。NICHDにより特定の追加診断基準( see table National Institute of Child Health and Human Developmentによる気管支肺異形成症の診断基準*)が作成された;しかし依然としてBPDの標準化された診断定義の作成が求められる。

初期の胸部X線では滲出液の貯留によるびまん性の透過性低下が示され,その後,気腫,肺の瘢痕化,および無気肺が交互に混じった領域を伴う,多嚢胞性または海綿様の陰影となる。肺胞上皮が剥脱することがあり,気管吸引液の中にマクロファージ,好中球,および炎症メディエーターが発見される場合がある。

表&コラム

予後

予後は重症度によって異なる。ほとんどの乳児は,2~4カ月で機械的人工換気から持続陽圧呼吸療法,低流量酸素投与へと徐々に移行する。在胎期間にして36週の時点でまだ機械的人工換気に頼る乳児では,乳児期の死亡率が20~30%である。肺動脈性肺高血圧症を発症した乳児も,生後1年間の死亡リスクが高まる。

BPDの乳児では,発育不全および神経発達障害の頻度が3~4倍に増加する。数年にわたり,将来の喘息の発症および下気道感染症(特に肺炎または細気管支炎)のリスクが上昇し,肺感染が生じた場合,すぐに呼吸の代償不全を起こしうる。呼吸器感染または呼吸窮迫の徴候が発現した場合,入院適応の基準は低くすべきである。

治療

  • 栄養の補充

  • 水分制限

  • 利尿薬

  • 必要に応じて酸素投与

  • RSウイルス(RSV)モノクローナル抗体(パリビズマブ)

BPDの治療は支持療法により行い,具体的には栄養補給,水分制限,利尿薬投与などのほか,ときに吸入気管支拡張薬や,最後の手段として吸入コルチコステロイドが用いられることもある。呼吸器感染は早期に診断を下し,積極的に治療しなければならない。機械的人工換気および酸素投与からの離脱は,可能な限り早く達成されるべきである。

栄養補給は,タンパク質3.5~4g/kg/日を含む150kcal/kg/日の摂取量を達成すべきである;呼吸仕事量増加のため,また,肺の治癒および発育促進のために,カロリー所要量は増加している。

肺うっ血および肺水腫が生じる可能性があるため,しばしば1日の水分摂取量が約120~140mL/kgに制限される。利尿薬療法により一時的に肺力学が改善するが,長期の臨床転帰は改善しない。サイアザイド系またはループ利尿薬は,水分制限に十分に反応しないまたはそれに耐えられない患児を対象に短期的便益を目的として使用できる。クロロチアジド10~20mg/kg,経口,1日2回単独もしくはスピロノラクトン1~3mg/kg,経口,1日1回または分割して1日2回との併用がしばしば最初に試される。フロセミド(1~2mg/kg,静注もしくは筋注または1~4mg/kg,経口,新生児では12~24時間毎,より月齢の高い乳児では8時間毎)が短期間使用されることがあるが,長期間の使用は高カルシウム尿症を引き起こし,その結果,骨粗鬆症,骨折,および腎結石に至る。利尿薬の長期使用が必要な場合,有害作用が少ないためクロロチアジドが望ましい。利尿薬療法の実施中は,水分および血清電解質を綿密にモニタリングすべきである。

吸入気管支拡張薬(例,サルブタモール)は,長期の転帰を改善させると考えられておらずルーチンには使用されない。しかし,気管支収縮の急性発作には役立つ可能性がある。

BPD進行例では人工呼吸器による補助,酸素投与,またはその両方が,数週間または数カ月間,さらに必要になる場合がある。人工呼吸器の圧または換気量および吸入気酸素分画(FIO2)は耐容範囲内で可能な限り急速に低下させるべきであるが,患児を低酸素血状態にしてはならない。肺の膨張の程度(1回換気量[mL/kg])は,気道内圧の高さ(cmH2Oでの絶対値)の程度以上にBPDのリスクを高める(1)。動脈血酸素化はパルスオキシメーターで持続的にモニタリングを行い,89%以上の飽和度を維持すべきである。呼吸性アシドーシスは,人工呼吸器からの離脱および治療の間に起こることがあるが,pH > 7.25であり,患児が重度の呼吸窮迫を起こさない限りは許容される。

RSウイルス(RSV)に対するモノクローナル抗体であるパリビズマブを用いる予防的な受動免疫の付与は,RSV関連の入院および集中治療室滞在を減少させるが,高価であり,主に高リスク乳児に適応となる(適応についてはRSVの予防を参照)。適応があれば,RSVの流行季節(11月から4月)の間,RSV感染症の予防として患児に15mg/kgを30日毎に筋注する。生後6カ月以上の乳児は,インフルエンザに対する予防接種も受けるべきである。

コルチコステロイドの全身投与または吸入はBPDの臨床像を改善する可能性があるものの,BPDに対してデキサメタゾンの反復投与および/または長期投与を行うことで神経発達上の有害事象が発生する懸念があるため,米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)の基本声明(2014年版)では,BPDに対してデキサメタゾンをルーチンに使用しないよう推奨されており,この声明が再確認されている。BPDにおけるヒドロコルチゾンおよび吸入ブデソニドの使用を検討したより最近の研究では,長期的に有意な神経発達上の有害事象は認められなかった(2);ただし,コルチコステロイドの全身投与または吸入は他に選択肢がないと考えられる場合に限るという現在の推奨は,依然として有効である。

治療に関する参考文献

  1. 1.Kalikkot Thekkeveedu R, Guaman MC, Shivanna B: Bronchopulmonary dysplasia: A review of pathogenesis and pathophysiology.Respir Med 132:170–177, 2017.doi: 10.1016/j.rmed.2017.10.014.

  2. 2.Aschner JL, Bancalari EH, McEvoy CT: Can we prevent bronchopulmonary dysplasia?J Pediatr 189:26–30, 2017.doi: 10.1016/j.jpeds.2017.08.005.

予防

BPDの予防法としては以下のものがある:

  • 出生前のコルチコステロイド使用

  • 選択された高リスク乳児(例,体重1000g未満および呼吸器の補助が必要)を対象とした外因性サーファクタントの予防投与

  • 持続陽圧呼吸療法による早期治療の実施

  • 呼吸窮迫症候群(RDS)治療のためのサーファクタント早期投与

  • 特に出生体重1250g未満の場合,メチルキサンチン類(例,カフェイン5~10mg/kg,経口,1日1回)の予防投与

  • 呼吸器の圧,換気量,またはその両方を低く抑えるため,permissive hypercapniaおよびhypoxemia(許容範囲の高炭酸ガス血症および低酸素血症)方針の採用

  • 出生体重1000g未満の乳児に対し,ビタミンA(5000単位,筋肉内,週3回,計12回)の予防投与(コストが高く,入手しにくく,頻回の筋注が必要であるため,広くは使用されていない;1

  • 多量の水分摂取の回避

一酸化窒素吸入が研究されており,BPDの予防に有用な可能性がある。しかし,至適な用量,期間,および投与タイミングは不明であるため,研究プロトコル外での一酸化窒素の使用はまだ推奨されない。

予防に関する参考文献

  1. 1.Aschner JL, Bancalari EH, McEvoy CT: Can we prevent bronchopulmonary dysplasia?J Pediatr 189:26–30, 2017.doi: 10.1016/j.jpeds.2017.08.005.

要点

  • 気管支肺異形成症は早産児の慢性肺疾患である。

  • BPDは,肺の正常な発育を妨げうる長期間の機械的人工換気および/または酸素投与を必要とする新生児に発生する。

  • 診断は酸素投与およびときに換気補助が長期間(生後28日以上またはpostmenstrual age【訳注:在胎期間と出生後週齢を足したもの】36週以上)必要であるかどうかに基づく。

  • 可及的速やかに呼吸補助から離脱させ,栄養補給,水分制限,ときに利尿薬を使用する。

  • 予防のため,コルチコステロイドの出生前投与ならびにサーファクタント,カフェイン,およびビタミンAの投与を行い,出生後早期の過剰な水分補給を避け,可能な限りFIO2,1回換気量,および気道圧を低くする。

より詳細な情報

  1. American Academy of Pediatrics' reaffirmed (2014) policy statement about postnatal corticosteroids to prevent or treat bronchopulmonary dysplasia

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