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母乳哺育

執筆者:

Deborah M. Consolini

, MD, Thomas Jefferson University Hospital

レビュー/改訂 2019年 9月
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母乳は最良の栄養である。米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)は,最低でも生後6カ月までは母乳栄養のみとし,生後6カ月から1歳にかけて適切な固形食を導入していくことを推奨している。1歳過ぎでは,乳児と母親が望む限り母乳哺育を続けるが,1歳以降の母乳栄養は, 固形食 乳児における固形食 世界保健機関(World Health Organization:WHO)と米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)は,およそ生後6カ月までは 母乳栄養のみとし,それから固形食を導入するよう推奨している。一方で,親は母乳や 人工乳での授乳を続けながら,生後4カ月から6カ月までの期間に固形食を導入してもよいと提案している組織もある。栄養的には生後4カ月より前から固形食を摂取する必要はなく,口の中に入れ... さらに読む や液体による食事を補完するものとすべきである。母乳哺育を奨励するため,医療従事者は出生前から話合いを通じて,多くの利点について言及しておくべきである:

  • 小児に対する利点:栄養面および認知機能面での利点,ならびに感染,アレルギー,肥満,クローン病,および糖尿病の予防効果

  • 母親に対する利点:授乳中の妊孕性低下,分娩前の正常な状態への迅速な回復(例,子宮復古,体重減少),ならびに骨粗鬆症,肥満,卵巣がん,および閉経前乳癌の予防効果

初産婦では乳汁の産生が完全に確立されるまでに72~96時間を要し,経産婦ではより短時間で確立される。最初に産生される乳汁である初乳は,高カロリー,高タンパク質の薄黄色の液体で,抗体やリンパ球,マクロファージが豊富に含まれているため,免疫防御の働きがある;初乳はまた,胎便の排泄も刺激する。その後の母乳には以下の特徴がある:

  • ラクトース含有量が高く,新生児の酵素活性に見合った利用しやすいエネルギー源となる

  • 重要な抗酸化物質であり,赤血球の寿命を延ばすことで貧血予防に役立つビタミンEを大量に含有する

  • カルシウムとリンの比が2:1であり,カルシウム不足によるテタニーを予防する

  • 便のpHおよび腸内細菌叢を好ましい状態に変化させ,細菌性の下痢を予防する

  • 母親から乳児へと防御抗体が移行する

  • 母親の食事内容にかかわらず,脳の発育に重要な役割を果たすコレステロールおよびタウリンを含有する

  • ω-3およびω-6脂肪酸の天然の供給源である

母乳栄養児の視覚的および認知的転帰が 人工乳栄養児 人工乳による授乳 生後1年間に 母乳栄養に代わるものとして容認できるのは人工乳のみである;水は低ナトリウム血症を引き起こす可能性があり,牛乳(成分無調整)は栄養的に不完全である。人工乳を与える利点としては,栄養の摂取量を定量化できること,家族が授乳に参加できることなどが挙げられる。しかし,それ以外の因子が等しい状況では,こうした利点よりも,母乳栄養の,議論の余地のない,健康上の便益の方が上回る。... さらに読む と比較して改善されることには,これらの脂肪酸とその極長鎖多価不飽和脂肪酸誘導体(LC-PUFA),アラキドン酸(ARA),ならびにドコサヘキサエン酸(DHA)が寄与していると考えられている。現在のところほとんどの市販人工乳には,より母乳に近づけ,またこのような発達における差異の可能性を縮小させるために,ARAおよびDHAが補充されている。

母親が十分に多様な食事を摂っている場合は,母親やその正期産の母乳栄養児に栄養補助食品やビタミン補給剤を使用する必要はない。ただし, ビタミンD欠乏性くる病 ビタミンD欠乏症および依存症 日光への曝露が不十分であると,ビタミンD欠乏症が起こりやすくなる。欠乏症により,骨石灰化が障害され,小児ではくる病,成人では骨軟化症が引き起こされ,また骨粗鬆症の一因となる可能性がある。診断では,血清25(OH)D(D2およびD3)の測定を行う。治療としては通常,ビタミンDを経口投与し,必要に応じてカルシウムおよびリンを補給する。しばしば予防が可能である。まれに,遺伝性疾患によりビタミンDの代謝障害(依存症)が起こる。... さらに読む を予防するため,母乳栄養のみの全乳児に,生後2カ月までにビタミンD 400単位の1日1回投与を開始する。皮膚の色が濃い早産児や日光の曝露量が少ない乳児(北方地域に居住)では,ビタミンD欠乏症のリスクが特に高い。生後6カ月以降,十分なフッ素(添加または天然)を含んでいない水を使用する家庭の母乳栄養児には,フッ素滴下剤(fluoride drops)を与えるべきである。医師は,地域の歯科医または保健局からフッ素含有量の情報を得ることができる。

母乳哺育の方法

母親は最もうまくいくと思われる,快適でリラックスした姿勢を取るべきで,乳房を手で支えて確実に乳児の口の中央に位置させ,なるべく痛くないようにする。乳児の下唇中央を乳頭で刺激すると,探索反射が起こり,乳児は口を大きく開ける。乳児には乳房と乳輪をできるだけ広範にくわえさせるようにすべきであり,乳頭基部から2.5~4cmの範囲に唇を当てさせる。すると乳児の舌が乳頭を硬口蓋に押し当てる。最初は,催乳反射が起こるまで少なくとも2分間かかる。

母乳の量は乳児が成長し,吸啜の刺激が増加するにつれて増える。授乳時間は通常,乳児によって決定される。

母親によっては,母乳の産生を増加または維持するために搾乳器が必要になる場合があるが,大抵は6~8回に分けて1日に合計90分間搾乳を行えば,間接的に母乳を与える乳児には十分な母乳が得られる。

乳房が柔らかくなり,吸啜が遅くなるか止まるまで,一方の乳房で授乳すべきである。その後,乳児を乳房から離して対側の乳房を吸わせる際には,母親は指を使って乳児の吸い付きを中断してよい。生後数日間は,一方の乳房からのみ授乳してもよいが,それ以降は毎回交互に授乳するべきである。十分に授乳しないうちに乳児が眠ってしまう傾向がある場合,吸啜の速度が落ちたときに乳児を乳房から離し,げっぷをさせてもう一方の乳房に移らせる。この切替えにより授乳の間,乳児を覚醒させておくこと,および両方の乳房の母乳産生を刺激することができる。

母親は乳児の要求に応じて,または約1時間半~3時間毎(8~12回/日)の授乳が奨励されるべきであり,その回数は時を経るとともに徐々に減少する;体重2500g未満の新生児の中には低血糖を防ぐために,より頻回の授乳を必要とする場合がある。生後数日間は,新生児を起こして刺激を与える必要があることもあり,不当軽量児と 後期早産児 早産児 在胎37週未満で出生した児は早産児とみなされる。 未熟性は出生時点での 在胎期間により定義される。かつては,体重2.5kg未満の新生児であればいずれも未熟児と呼ばれていた。早産児は小さい傾向にあるが,多くの体重2.5kg未満の乳児は成熟している場合や 過期産児および過熟児である場合,および 在胎不当過小である場合もあるため,この体重に基づいた定義は不適切である;このような新生児は外観も異なれば,抱える問題も異なる。... さらに読む は夜間に長時間眠らせるべきではない。正当な体重のある正産児で哺乳が良好(排便パターンから証明される)の場合は,長く眠らせてもよい。最終的には,乳児が夜間になるべく長く眠れるような授乳スケジュールが,通常は乳児および家族の両者にとって最良である。

自宅外勤務の母親は,乳児と離れている間,搾乳により母乳の産生を維持できる。搾乳回数は様々であるが,乳児の授乳スケジュールに近づけるべきである。搾乳した母乳は,48時間以内に使う場合は直ちに冷蔵し,48時間以降に使う場合は直ちに冷凍する。冷蔵した母乳で96時間以内に使用されなかったものは,細菌汚染のリスクが高いため,廃棄すべきである。冷凍した母乳は湯煎にかけるべきであり,電子レンジによる解凍は推奨されない。

授乳に関連した乳児の合併症

授乳が十分であるかは,1日のおむつ数によっておおよそ評価できる。生後5日までに,正常な新生児の場合,少なくとも1日に6枚のおむつを濡らし,少なくとも4枚を便で汚す;それより数が少ない場合は水分不足および低栄養が示唆される。また,便は,出生時の濃い胎便から明褐色,続いて黄色へと変化するはずである。体重もまた追跡に妥当なパラメータであり( Professional.see page 授乳困難 授乳困難 ),成長の指標に達しない場合は低栄養を示唆する。生後6週間(空腹や口渇とは無関係に 仙痛 仙痛(コリック) 仙痛とは,健康な乳児でみられる,原因の特定できない,頻回かつ長時間の啼泣である。 コリック(colic)という用語は腸管由来を示唆するが,疼痛の由来身体部位は不明である。 仙痛は,典型例では生後1カ月以内の時期にみられるようになり,生後6週頃にその頻度がピークとなるが,生後3~4カ月頃までにはほぼ確実に自然に消失する。発作的... さらに読む がみられる)より前の持続的なむずかりは,哺乳不足を意味している可能性がある。

授乳に関連した母親の合併症

母親の一般的な合併症には,乳房緊満,乳頭の痛み,乳管のつまり,乳腺炎,不安などがある。

乳房緊満 乳房緊満 産褥期(分娩後6週間)に発現する臨床症状は一般に,妊娠中に生じた生理的変化が元に戻ることを示している( 分娩後の正常な変化の表を参照)。こうした変化は緩やかで一過性のものであり,病的な状態と取り違えてはならない。 産後の合併症はまれである。最も頻度が高いのは以下のものである: 分娩後出血... さらに読む は授乳早期に起こり,24~48時間続くことがあるが,早期に頻回に授乳を行うことで最小限に抑えられる。快適な授乳用ブラジャーの終日着用が助けになる可能性があり,授乳後の冷罨法と弱い鎮痛薬(例,イブプロフェン)の服用も同様である。授乳の直前には,腫脹した乳輪を児が吸えるようにするために,母親がマッサージや温罨法を行い,搾乳を行わなければならない場合もある。授乳後に冷罨法を行えば,腫脹が軽減され,不快感を減らすことができる。授乳と授乳の間に過度の搾乳を行うと緊満しやすくなるため,搾乳は不快感を緩和する程度にとどめるべきである。

乳頭が痛む場合は,乳児の姿勢を確認すべきである;ときに乳児が自分の唇の片方を引っ込めてそれを吸っている場合があり,それにより乳頭が刺激される。この場合,母親は引っ込んだ唇を親指で緩めて外に出してやればよい。授乳後に少量を搾乳すれば,母乳が乳頭に付着することがなくなる。授乳後に冷罨法を行えば,腫脹が軽減され,不快感を減らすことができる。

乳管のつまりは,授乳中の女性の乳房に軽い圧痛のあるしこりとして現れ,他に全身性の疾患の徴候は伴わない。継続して授乳することで,つまりは十分に解消される。授乳前に,患部に温罨法とマッサージを施せば,つまりのさらなる解消につながる可能性がある。また,乳房に対する乳児の位置によって母乳の出がよい領域が変わってくるため,母親は姿勢を変えてもよい。ワイヤーの芯や締め付けるようなストラップがある通常のブラジャーは,圧迫された部分で母乳の停滞を招く一因となりうるため,優れた授乳用ブラジャーが役に立つ。

乳腺炎 乳腺炎 乳腺炎は疼痛のある乳房の炎症であり,通常は感染を伴う。 産褥後期での発熱は乳腺炎によることが多い。ブドウ球菌属細菌が最も一般的な原因である。 乳房膿瘍は非常にまれであり,ときにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)により起こる。 乳腺炎の症状には高熱があり,乳房症状としては,紅斑,硬結,圧痛,疼痛,腫脹,触れた際の熱感などがある。乳腺炎は授乳開始時に頻繁に起こる乳頭の痛みやひび割れとは異... さらに読む はよくみられるもので,乳房の圧痛,熱感,腫脹を伴う楔状の部位として発現する。乳腺炎は,乳房の一部位の緊満,遮断,または閉塞が原因で生じる;二次的に感染が起こる場合があり,ペニシリン耐性の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による感染が最も多く,レンサ球菌(Streptococcus)属,または大腸菌(Escherichia coli)による感染は比較的まれである。感染すると,38.5℃以上の発熱,悪寒,およびインフルエンザ様の痛みが発現することがある。乳腺炎の診断は病歴と診察による。乳腺炎が感染性であるか非感染性であるかは,細胞数測定(白血球数>106/mL),および母乳の培養(細菌数>103/mL)により鑑別できる。症状が軽度で24時間以内で消退する場合,保存的管理(授乳または搾乳による母乳の除去,湿布,鎮痛薬,補助的ブラジャー,ストレスの軽減)で十分対処できる。症状が12~24時間以内に軽減しない場合,または急性症状を示している場合は,授乳中の乳児に安全かつ黄色ブドウ球菌(S. aureus)に効果的な抗菌薬(例,ジクロキサシリン,クロキサシリン,またはセファレキシン500mg,経口,1日4回)の投与を開始すべきであり,7~14日間治療する。このような治療に速やかに反応しない場合,または膿瘍を呈する場合は,市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)を考慮すべきである。治療が遅れた場合の合併症は,再発および膿瘍の形成である。治療中も授乳は続けてよい。

母親の不安,欲求不満,および不適格感は,母乳哺育の経験不足,乳児を胸に抱き母乳を吸わせることの物理的な難しさ,疲労,栄養が十分か判断することの難しさ,ならびに分娩後の生理的変化などによって生じる。これらの因子や感情が,母親が母乳哺育を止める最もよくみられる理由である。早期の母乳哺育の中止を防ぐには,早期の小児科医によるフォローアップ,または母乳育児の専門家への相談が助けになり効果的である。

薬剤と授乳

母乳哺育中の母親は,可能であれば薬剤の服用を避けるべきである。薬物療法が必要な場合は,母親は授乳禁忌薬と乳汁分泌を抑制する薬剤(例,ブロモクリプチン,レボドパ,トラゾドン)の使用を避けるべきである。US National Library of Medicineは,薬剤と授乳に関する大規模なデータベースを保持しており,具体的な薬剤または薬物クラスの使用または曝露については,そのデータベースを参照すべきである。授乳中の母親に禁忌となる一部の一般的な薬物については, Professional.see table 授乳中の母親に禁忌となる主な薬剤 授乳中の母親に禁忌となる主な薬剤 授乳中の母親に禁忌となる主な薬剤 を参照のこと。

薬物治療が必要な場合は,最も安全な既知の代替薬を使用すべきであり,可能な場合は授乳直後または乳児が最も長い睡眠に入る前に服用すべきである;ただし,この方法は授乳頻度が高く母乳栄養のみの新生児にはあまり役立たない。大抵の薬剤の有害作用に関する情報は,症例報告や小規模な試験から得られたものである。広範囲の研究によりその安全性が確認されている薬剤もあるが(例,アセトアミノフェン,イブプロフェン,セファロスポリン系,インスリン),有害作用の症例報告がないことのみを理由に安全であると考えられている薬剤もある。長期にわたり使用されてきた薬剤の方が,ほとんどデータの存在しない新しい薬剤より概して安全である。

離乳

離乳は母親および乳児が互いに望めばいつでも可能であるが,できれば,少なくとも生後12カ月を過ぎてからがよい。固形食を導入しつつ数週間または数カ月かけて徐々に離乳させるのが最も一般的であるが,母親と乳児が問題なく突然止める場合もあれば,毎日1~2回の授乳を生後18~24カ月以上続ける場合もある。正しいスケジュールも,より容易なスケジュールも存在しない。

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