呼吸,意識,筋緊張,および/または皮膚色がいくつか組み合わさって養育者に危急を告げるほど―保育者の中には心肺蘇生(CPR)を開始するほど,変化する一過性の事象が乳児に起こることがある。不安を抱かせる症候であることから,このような事象は「乳幼児突発性危急事態(ALTE)」と称されている。しかし,このような乳児のごく少数には重大な基礎疾患があることが判明するものの,大多数は再発することも合併症がみられることもなくそのまま正常に発達する。ゆえに,米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)による最近の診療ガイドラインでは,親を不必要に脅さず,多くの症例で必要のない広範な検査をしなくてはならないと医師が思わないよう,「生命を脅かす(life-threatening)」という用語を排除することを推奨している。新しい用語は「brief, resolved, unexplained event(BRUE)」である。
BRUEとは,1歳未満の乳児において以下の徴候の1つ以上を伴い持続は1分未満の事象を指す:
呼吸休止,低呼吸,または不規則呼吸
チアノーゼまたは蒼白
反応レベルの変化
筋緊張の著明な変化(過緊張または低緊張)
また,乳児は他の点では健康にみえ,診察時には元の健康状態に戻っていることが必要である。よって,発熱,咳嗽,または何らかの苦痛の徴候もしくは他の異常がある乳児は,BRUE疑い例とは考えられない。
BRUEという用語は,基礎的原因が何もない(つまり「説明できない」)事象にのみ適用されるもので,徹底的な病歴聴取と身体診察およびときに検査後に初めてそう言えることに留意する必要がある。また,原因が特定されていた乳児が同様の症候を呈した場合にもBRUEは適用されないため,このような乳児にはALTEという用語が有用であると考える医師もいる。
病因
定義により,事象を説明しうる状況が何もない場合のみBRUEと診断されるものの,いくつかの疾患が呼吸,反応性,筋緊張,および/または皮膚色の同様の異常で顕在化する。したがって原因の検索が重要である。
最も頻度の高い原因としては以下のものがある:
消化管:喉頭痙攣または誤嚥とともに生じる 胃食道逆流症 胃食道逆流症(GERD) 下部食道括約筋の機能不全によって胃内容が食道に逆流し,灼熱痛が起こる。逆流が持続することで,食道炎,狭窄,まれに化生またはがんがもたらされる可能性がある。診断は臨床的に行い,ときに内視鏡検査を併用し,場合によっては胃酸検査を併用する。治療は,生活習慣の改善とプロトンポンプ阻害薬による胃酸分泌抑制のほか,ときに外科的修復による。... さらに読む または 嚥下困難 嚥下困難 嚥下困難とは,嚥下が困難になった状態である。この病態は,咽頭から胃への液体,固形物,またはその両方の輸送阻害に起因する。嚥下困難を球感覚と混同してはならず, 球感覚は咽喉に塊があるような異常感覚であり,嚥下障害ではなく,輸送障害も生じない。 ( 食道疾患および嚥下障害の概要も参照のこと。)... さらに読む
神経:神経疾患(例, 痙攣 痙攣性疾患 脳起源の発作(seizure)は,大脳皮質の灰白質で発生する無秩序な異常放電のために正常な脳機能が一過性に妨げられる現象である。典型的な発作では,意識変容,異常感覚,局所的な不随意運動,または痙攣(広範囲の随意筋に生じる激しい不随意収縮)が引き起こされる。診断は臨床的に下すこともあるが,新規発症の発作では神経画像検査,臨床検査,および脳波... さらに読む , 脳腫瘍 小児の脳腫瘍の概要 脳腫瘍は15歳未満の小児で最も多くみられる悪性固形腫瘍であり,がんによる小児期死亡の2番目の原因である。診断は典型的には,画像検査(通常MRI)と生検による。治療には外科的切除,化学療法,放射線療法が含まれる。 小児の中枢神経系腫瘍の原因はほとんどの場合不明であるが,2つの確立された危険因子として電離放射線(例,高線量全脳照射)と特定の遺... さらに読む , 息こらえ 息止め発作 息止め発作とは,恐怖や動揺を引き起こす出来事の直後または痛みを伴う経験の後に,小児が不随意的に呼吸を停止し,短時間意識を喪失するエピソードである。 ( 小児における行動上の問題の概要も参照のこと。) 息止め発作は,それ以外では健康な小児の約5%に発生する。通常は1歳までに始まり,2歳にピークがある。4歳までに50%が,8歳までには83%が... さらに読む または脳幹による心呼吸系制御の神経調節異常, 水頭症 水頭症 水頭症とは,過剰な量の髄液が集積した状態であり,脳室拡大および/または頭蓋内圧亢進が生じる。症状と徴候には,頭部拡大,泉門膨隆,易刺激性,嗜眠,嘔吐,痙攣などがある。診断は,閉鎖前の泉門がある新生児および幼若乳児では超音波検査により,月齢の高い乳児および小児ではCTまたはMRIによる。治療は重症度と症状の進行度に応じて,経過観察から外科的... さらに読む , 脳奇形 大脳半球の奇形 大脳半球は増大,縮小,非対称などの形態をとることがあり,脳回は欠損,増大,多小脳回などの場合がある。 肉眼的に確認できる奇形だけでなく,外観は正常な脳でも顕微鏡切片を見ると,ニューロンの正常な層構造が崩壊している場合がある。正常では白質で占められている領域に,灰白質の限局性沈着がみられることがある(異所性灰白質)。... さらに読む )
呼吸器:感染症(例, RSウイルス RSウイルス(RSV)感染症およびヒトメタニューモウイルス感染症 RSウイルス感染症とヒトメタニューモウイルス感染症は,特に乳児および幼児において,季節性の下気道疾患を引き起こす。無症候性ないし軽症で済むこともあれば,細気管支炎や肺炎を伴った重症となることもある。診断は臨床的に行うのが通常であるが,臨床検査による診断も可能である。治療は支持療法による。... さらに読む , インフルエンザ インフルエンザ インフルエンザは,発熱,鼻感冒,咳嗽,頭痛,および倦怠感を引き起こす ウイルス性呼吸器感染症である。季節的な流行の際には特に高リスク患者(例,施設入所者,低年齢児と高齢者,心肺機能不全患者,または妊娠後期の妊婦)の間で死亡も起こりうる;パンデミックの間は,健康な若年患者でさえ死に至る可能性がある。診断は通常,臨床的に,また地域の疫学的パタ... さらに読む , 百日咳 百日咳 百日咳は,グラム陰性細菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)を原因菌として主に小児および青年に発生する,感染性の強い疾患である。 まず非特異的な上気道感染症状が出現した後,通常は長い吸気性笛声(whoop)で終わる発作性ないし痙攣性の咳嗽(痙咳)がみられるようになる。診断は上咽頭培養,ポリメラーゼ連鎖反... さらに読む )
感染症: 敗血症 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む , 髄膜炎 急性細菌性髄膜炎 急性細菌性髄膜炎は,急速に進行する髄膜およびくも膜下腔の細菌感染症である。典型的な所見には,頭痛,発熱,項部硬直などがある。診断は髄液検査による。治療は抗菌薬およびコルチコステロイドにより,これらを可及的速やかに投与する。 ( 髄膜炎の概要および 新生児細菌性髄膜炎も参照のこと。)... さらに読む
比較的まれな原因としては以下のものがある:
心疾患
代謝性疾患
原因は遺伝性または後天性のこともある。乳児の養育者が1人の場合で,明らかな病因がなくエピソードが反復する場合は,小児虐待を考慮すべきである。
評価
BRUEとして定義された症状・徴候以外の症状・徴候(例, 咳嗽 小児の咳嗽 咳嗽は,気道からの分泌物除去を助け,異物誤嚥から気道を保護し,疾患の症状にもなりうる1つの反射である。咳嗽は,親が子を受診させる最も多い愁訴の1つである。 咳嗽の原因は,症状が急性(4週間未満)か慢性(4週以上)かによって異なる。( 小児における咳嗽の主な原因の表を参照のこと。)... さらに読む , 発熱 乳児および小児の発熱 正常体温は,人によってまた1日を通しても異なる。正常体温は就学前の年齢の小児で最も高い。体温は午後にピークに達する傾向があり,生後約18~24カ月で最も高く,この月齢の正常かつ健康な小児では多くの場合38.3℃であることが複数の研究で示されている。しかし発熱とは,通常,38.0℃以上の深部体温(直腸温)と定義されている。... さらに読む , 悪心および嘔吐 乳児および小児における悪心・嘔吐 悪心とは嘔吐が今にも起こりそうな感覚で,心拍数増加や唾液分泌亢進などの自律神経系の変化をしばしば伴う。典型的には悪心と嘔吐は続いて起こるが,別々に起こることもある(例,頭蓋内圧亢進により,悪心が先行せず嘔吐が起こりうる)。 嘔吐は不快であり,水分が失われかつ経口による水分補給が制限されるため,脱水を引き起こしうる。... さらに読む , 痙攣 新生児痙攣 新生児痙攣は,新生児の中枢神経系において異常な放電が生じる現象であり,通常は定型的な筋活動または自律性運動の変化として現れる。診断は脳波検査により確定され,原因を調べるための検査が適応となる。治療は原因に応じて異なる。 ( Professional.See also heading... さらに読む )を有する乳児の評価については,本マニュアルの別の箇所に記載されている。
病歴
初期評価では以下のような徹底的な病歴聴取を行う:
当該事象を目撃した養育者による観察内容(特に,呼吸,色調,筋緊張,および眼に生じた変化;生じた音;持続時間;呼吸窮迫または筋緊張低下などの先行徴候の説明)
行われた介入(例,優しい刺激,口対口呼吸,心肺蘇生[CPR])
出生前(母親)および現在の家族による薬物,タバコ,およびアルコールの使用
乳児の出生に関する情報(例,在胎期間,周産期合併症)
哺乳状態(空嘔吐,咳嗽,嘔吐または体重増加不良があるかどうか)
発育 乳児および小児の身体的成長 身体的成長には,十分な身長および適切な体重の達成,ならびに全器官の大きさの増加(リンパ組織は例外であり,大きさは減少する)が含まれる。出生から青年期までの成長には,2つの異なる段階がある: 第1段階(出生から1~2歳頃まで):これは急速な成長がみられる段階であるが,その速度はその期間を通して次第に減少する。... さらに読む および 発達 小児の発達 発達は,粗大運動や微細運動,言語,認知,社会的/情緒的成長などの,個々の分野に分割して扱われることが多い。こうした呼称は有用であるが,大きく重複する部分もある。個々のマイルストーンが達成される平均年齢および正常範囲が,複数の研究により確立されている。正常な小児における各分野の進歩の度合いは,歩行開始の遅い幼児で文形式での会話が早いなど,一... さらに読む 歴(例,身長および体重のパーセンタイル,発達マイルストーン)
最近の病気または外傷など,先行する事象
感染症への最近の曝露
病歴で小児虐待を示唆する特徴 身体的虐待 小児虐待は,小児に対する常軌を逸した行動であり,身体的または情緒的な危害を与える多大なリスクを伴う。一般的に4種の虐待が認識されている;身体的虐待,性的虐待,情緒的虐待(心理的虐待)【訳注:米国では"emotional abuse"と"psychological abuse"が同義で使用されている[参考:NATIONAL... さらに読む は慎重に評価すべきである。虐待の懸念がある反復性の事象には,親または養育者がその場にいるときのみ始まるものなどがある。
退避は,一部には家族の能力とリソースによって決まるため,住居および家族状況,養育者の心配の程度,ならびにフォローアップのため医療機関をすでに受診しているか評価することが重要である。
身体診察
身体診察を行い,異常なバイタルサイン,呼吸器症状,明らかな奇形および変形,神経異常(例,姿勢,適切ではない頭部後屈),および感染症または外傷の徴候(特に眼底検査での網膜出血など),ならびに 身体的虐待の可能性を示す所見 身体的虐待 小児虐待は,小児に対する常軌を逸した行動であり,身体的または情緒的な危害を与える多大なリスクを伴う。一般的に4種の虐待が認識されている;身体的虐待,性的虐待,情緒的虐待(心理的虐待)【訳注:米国では"emotional abuse"と"psychological abuse"が同義で使用されている[参考:NATIONAL... さらに読む がないか確認する。
リスク分類
BRUE疑診例は,病歴と身体診察に基づいて低リスクまたは高リスクに分類される。
以下の基準を満たす場合,低リスクの乳児とする:
年齢 > 60日
在胎期間 > 32週および受胎後期間 > 45週
初めての発症,BRUEの既往がない,家族性がない
訓練を受けた医療提供者による心肺蘇生を必要としない
懸念される病歴を認めない(例,小児虐待の懸念,突然死の家族歴)
正常な身体所見(例,発熱なし,正常血圧)
低リスク例には重篤な基礎疾患がある可能性が非常に低く,新しいガイドラインは養育者の教育以外の介入をほとんどまたは全く推奨していない。
低リスクの基準を満たさない乳児全例が高リスクの乳児に含まれる。新しいガイドラインには,高リスク例の評価および管理についての推奨が記載されていない。
検査
低リスクの乳児に対し,新しいガイドラインは最小限の検査を推奨している。救急診療部または医院で乳児を短期間観察し(パルスオキシメトリーによるモニタリングなど),12誘導心電図検査を行い,百日咳の確認のため鼻咽頭拭い液の検査(培養またはPCR)を行うことは妥当である。画像検査および血液検査など,他の検査は必要ではない。ルーチンの入院も必要ではないが,養育者の不安が強いか保育者が24時間中に乳児をフォローアップに連れて来られない場合,呼吸循環モニタリングのため乳児を入院させることもある。
高リスクの乳児には,臨床検査および画像検査を行い可能性のある原因を検索する。ルーチンに行われる検査もあれば,乳児にまだ症状がみられるか,または医学的介入が必要であるかなど,臨床上の疑い( Professional.see table 高リスク例の診断検査 高リスク例の診断検査 )に基づいて行うべき検査もある。乳児はしばしば呼吸循環モニタリングのため入院するが,蘇生を必要とした場合または評価により何らかの異常が検出された場合は特に入院することが多い。
予後
BRUEは無害であり,健康上のより重篤な問題または死亡の徴候ではないことが最も多い。BRUEが乳児突然死症候群(SIDS 乳児突然死症候群(SIDS) 乳児突然死症候群は,生後2週間から1歳までの乳児および幼児の突然の予期せぬ死亡であり,死亡状況の調査,詳細な剖検,および病歴でも原因が明らかにならない。 乳児突然死症候群(SIDS)は,生後2週間から1歳までの乳児の間で最も頻度の高い死因であり,この年齢集団の全死亡の35~55%を占める。米国におけるSIDSの発生率は出生1000人当たり... さらに読む )の危険因子である可能性は低い。SIDSの犠牲者の大半ではそれ以前に何の種類の事象もみられない。
高リスクの事象の予後は原因に依存する。例えば,原因が重篤な神経疾患の場合,死亡リスクは高くなる。原因が同定されない場合,そのような事象とSIDSとの関係は不明である。SIDSにより死亡した乳児の約4~10%にはそのような事象の病歴があり,2回以上みられた乳児のSIDSリスクは高くなる。また,事象を経験した乳児は,SIDSで死亡した乳児と同じ特徴を多く共有する。しかし,ALTEの発生率はSIDSの発生率とは異なり,Safe to Sleep® campaignに応じた低下はみられていない。
ALTE自体による発達への長期的影響はないようであるが,原因疾患(例,心臓または神経疾患)は影響を及ぼす可能性がある。
治療
原因の治療
ときに在宅モニタリング装置
綿密なフォローアップ
低リスクの乳児
親および養育者には,BRUEについて教育を受けさせ,乳児CPRおよび安全な保育についての訓練を勧めるべきである。在宅呼吸循環モニタリングは必要ではない。乳児は24時間以内に再評価を受けるべきである。
高リスクの乳児
原因が同定された場合は治療する。
親および養育者が無呼吸モニタリング装置に関心があり使用する能力があると思われる場合,その処方を受け,ある一定の期間家庭で使用することもある。モニターはイベントレコーダーが付属したものであることが望ましい。親にはモニターの使用法を教え,警報が誤って鳴ることが多いこと,在宅モニタリングは死亡率を低下させるとは示されていないことを忠告すべきである。またタバコ煙への曝露を排除する必要がある。
入院しなかった乳児は,24時間以内にかかりつけのプライマリケア医によるフォローアップを受けるべきである。
要点
乳児には,呼吸,意識,筋緊張,および/または皮膚色の変化を伴う,一過性の危急的事象が起こることがある。
事象は,病歴と身体診察に基づいて低リスクまたは高リスクに分類される。
低リスクの基準を満たす事象は危険な原因がある可能性は低く,最小限の評価しか必要としない。
徹底的な病歴聴取および診察後,事象の原因が不明な場合のみ,BRUEとする。
高リスクの事象には可能性のある多数の原因があるが,しばしば病因はみつからない。
呼吸器疾患,神経疾患,感染症,心疾患,代謝性疾患,および消化管疾患のほか虐待も考慮すべきであり,臨床所見に基づいて検査を行う。
予後は原因に依存する;神経疾患のある小児,2回以上の既往がある小児,非偶発的な外傷がみられた小児,生後6カ月以上で事象の持続時間が長く,特に心疾患を有する小児では死亡リスクが高い。
診察所見または検査結果が異常であるか,または介入を要したあるいは気がかりな病歴がある小児は入院させる。
治療は原因に照準を当てて行う;在宅モニタリングを行うこともあるが死亡を減少させるとは示されていない。
より詳細な情報
Brief Resolved Unexplained Events (Formerly Apparent Life-Threatening Events) and Evaluation of Lower-Risk Infants guidelines from the American Academy of Pediatrics