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ムンプス

(流行性耳下腺炎)

執筆者:

Brenda L. Tesini

, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry

レビュー/改訂 2019年 8月
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ムンプスは,通常は唾液腺(最も多くは耳下腺)の有痛性腫脹を引き起こす,感染性の強い全身性の急性ウイルス性疾患である。合併症として,精巣炎,髄膜脳炎,膵炎などが起こりうる。診断は通常臨床的に行い,症例は全て速やかに公衆衛生当局に報告する。治療は支持療法による。ワクチン接種が予防に効果的である。

ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼすウイルスについては, 新生児における感染症 新生児感染症の概要 新生児感染症は以下の経路で発生する: 子宮内で経胎盤的に,または破水を介して 分娩時に産道内で(分娩時感染) 出生後に外部の感染源から(分娩後感染) 頻度の高い原因ウイルスとしては, 単純ヘルペスウイルス, HIV, サイトメガロウイルス(CMV), B型肝炎ウイルスなどがある。HIVまたはB型肝炎ウイルスによる分娩時感染は,感染した産道... さらに読む で考察されている。本章は,一般的に小児期に発症するウイルス感染症(多くは成人にも発生しうる)を対象としている。

ムンプスの原因であるパラミクソウイルスは,飛沫または唾液により伝播する。このウイルスは,おそらく鼻腔または口腔から侵入する。唾液腺腫脹が出現する最長7日前には唾液腺内部に存在し,耳下腺炎発生の直前に最も伝染性が高くなる。血中および尿中のほか,中枢神経系感染があれば髄液中にも存在する。通常は1回の感染で終生免疫が成立する。

ムンプスは麻疹よりは感染力が弱い。主に予防接種を受けていない集団で発生するが,予防接種率の高い集団でもアウトブレイクが発生している。それらのアウトブレイクには,一次ワクチン不全(ワクチン接種後に免疫が獲得されない)と免疫減弱が複合的に関与している可能性がある。2006年には,米国で6584例に及ぶムンプスの再流行が発生し,主にワクチン接種歴のある若年成人で発生した。それ以来,散発的なアウトブレイクが主に大学キャンパスなどの人が密集するコミュニティで発生しており,症例数は少ないときで2012年の229例,多いときで2016年の6366例,2017年の6109例と変動している(Centers for Disease Control and Prevention [CDC] Mumps Cases and Outbreaksを参照)。

麻疹と同様に,ムンプスも輸入感染を起こして集団に定着することがあり,特に集団生活環境(例,大学キャンパス)や閉鎖社会(例,伝統を重んじるユダヤ人コミュニティ)でその傾向が強くみられる。ムンプスの発生ピークは晩冬および早春にみられる。あらゆる年齢で発生するが,2歳未満,特に1歳未満の小児ではまれである。約25~30%の症例は臨床的に不顕性感染となる。

症状と徴候

12~24日間の潜伏期の後,大半の患者では頭痛,食欲不振,倦怠感,および微熱から中等度の発熱がみられる。唾液腺は12~24時間後に侵され,39.5~40℃に及ぶ発熱を伴う。発熱は24~72時間持続する。唾液腺腫脹のピークはおおよそ2日目で5~7日間持続する。侵された腺には,発熱期間中極めて強い圧痛がみられる。

耳下腺炎は通常両側性であるが,片側性のこともある(特に発症時)。咀嚼時または嚥下時の疼痛,特に酢や柑橘類の果汁など酸味のある液体を飲み込む際の痛みが,最も早期の症状である。その後は腫脹が耳下腺を越えて耳前部および耳下部まで拡大する。ときに顎下腺および舌下腺も腫脹し,さらにまれには,これらの腺のみが侵される場合もある。顎下腺が侵されると,顎下部で頸部の腫脹が生じるほか,おそらくは腫大した唾液腺によるリンパ管閉塞が原因となって胸骨上部に浮腫が生じることもある。舌下腺が侵されると,舌が腫脹することがある。侵された腺の口腔内の開口部には,浮腫と軽度の炎症がみられる。腺を覆う皮膚は緊満して光沢を呈する。

合併症

ムンプスでは唾液腺以外の臓器が侵されることもあり,特に思春期以降の患者でよくみられる。そのような合併症としては以下のものがある:

  • 精巣炎または卵巣炎

  • 髄膜炎または脳炎

  • 膵炎

髄膜炎 髄膜炎の概要 髄膜炎は髄膜および,くも膜下腔の炎症である。感染症,その他の疾患,または薬剤への反応によって起こりうる。重症度および急性度は様々である。典型的な所見には,頭痛,発熱,項部硬直などがある。診断は髄液検査による。治療は適応に応じて抗菌薬を投与する他に,補助的手段などがある。 ( 脳感染症に関する序論および... さらに読む は典型的には頭痛,嘔吐,項部硬直,および髄液細胞増多を伴い,耳下腺炎患者の1~10%に発生する。 脳炎 脳炎 脳炎は脳実質の炎症であり,ウイルスの直接侵襲に起因する。急性散在性脳脊髄炎は,ウイルスまたはその他の外来タンパク質に対する過敏反応によって脳および脊髄に炎症が生じる病態である。どちらの病態も通常はウイルスが誘因となる。症状としては,発熱,頭痛,精神状態変容などがあり,しばしば痙攣発作や局所神経脱落症状もみられる。診断には髄液検査と神経画像検査を要する。治療は支持療法のほか,原因によっては抗ウイルス薬を使用する。... さらに読む は眠気,痙攣,または昏睡を伴い,5000例に1例~1000例に1例の頻度で発生する。中枢神経系へのムンプスウイルス感染の約50%は,耳下腺炎を伴わずに発生する。

前立腺炎,腎炎,心筋炎,肝炎,乳腺炎,多関節炎,難聴,および涙腺感染が極めてまれに生じる。甲状腺および胸腺の炎症によって胸骨上に浮腫および腫脹が引き起こされることがあるが,胸骨部の腫脹は,リンパ流出路の閉塞を伴う顎下線感染から生じる場合の方が多い。

診断

  • 臨床的評価

  • 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法によるウイルス検出

  • 血清学的検査

唾液腺の炎症と典型的な全身症状が認められる患者では,特に耳下腺炎がみられるか,ムンプスのアウトブレイクが判明している場合,ムンプスが疑われる。臨床検査は診断上は必要ないが,公衆衛生上の目的から強く推奨される。他の疾患によっても類似する腺性障害が生じる可能性がある( Professional.see table 耳下腺をはじめとする唾液腺腫大のその他の原因 耳下腺をはじめとする唾液腺腫大のその他の原因 耳下腺をはじめとする唾液腺腫大のその他の原因 )。ムンプスのアウトブレイク中に原因不明の無菌性髄膜炎または脳炎を発症した患者でも,ムンプスが疑われる。髄膜刺激徴候がみられる患者には腰椎穿刺が必要である。

以下の場合には臨床検査によるムンプスの診断が必要である:

  • 片側性

  • 再発

  • 予防接種歴のある患者での発生

  • 唾液腺以外の著明な組織障害

原因が同定されないまま耳下腺炎が2日以上持続する患者にも,全例でムンプスの検査が推奨される。RT-PCR法が最も望ましい診断法であるが,補体固定法または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による急性期および回復期の血清学的検査と咽頭,髄液,ときに尿検体のウイルス培養を行うことも可能である。予防接種歴のある集団では,IgM検査は偽陰性となる可能性があるため,疾患経過のできるだけ初期に唾液または咽頭洗浄検体でRT-PCR検査を施行すべきである。

その他の臨床検査は一般に不要である。鑑別不能な無菌性髄膜炎では,耳下腺炎のない場合でもムンプスの診断において血清アミラーゼ値上昇が役立つ手がかりとなりうる。白血球数は非特異的であり,正常のこともあるが,通常はわずかな白血球減少および好中球減少を認める。髄膜炎では,髄液糖値は通常は正常であるが,細菌性髄膜炎の場合のように,ときに20~40mg/dL(1.1~2.2mmol/L)となる。髄液中のタンパク質値は軽度にしか上昇しない。

予後

通常,合併症のないムンプスは治癒するが,まれに約2週間後に再発する。髄膜炎患者の予後は通常良好であるが,片側性(まれに両側性)の感音難聴や顔面神経麻痺など,永続的な後遺症が残ることもある。感染後脳炎,急性小脳性運動失調,横断性脊髄炎,および多発性神経炎がまれに発生する。

治療

  • 支持療法

ムンプスおよびその合併症の治療は支持療法による。唾液腺腫脹が沈静化するまで患者を隔離する。軟らかい食物は,咀嚼による疼痛を軽減する。酸っぱいもの(例,柑橘類の果汁)も不快感を起こすため,避けるべきである。

膵炎による反復性の嘔吐には,輸液による水分補給が必要となることがある。精巣炎については,床上安静,両側大腿部の間に粘着テープで橋をかけてその上に綿を置いて陰嚢を支えることにより緊張を緩和する処置,および冷罨法は,しばしば疼痛の軽減につながる。コルチコステロイドが精巣炎の回復を早めるという効果は証明されていない。

予防

  • 12~15カ月時に初回接種

  • 4~6歳時に2回目の接種

1957年以降に出生した成人については,医療従事者によりムンプスと診断されたことがない場合,1回だけ接種すべきである。妊婦および免疫系の機能障害がある人は,そのような弱毒生ワクチンを接種すべきではない。

曝露後ワクチン接種では,その曝露によるムンプスウイルスの感染を阻止することはできない。ムンプス免疫グロブリンは現在入手できなくなっており,免疫血清グロブリンは助けにならない。Centers for Disease Control and Preventionは,耳下腺炎発症後5日間にわたる標準および飛沫感染予防策による感染患者の隔離を推奨している。感受性の高い接触者には予防接種を行うべきであり,すでに予防接種を受けた人でもアウトブレイク中にムンプスに感染するリスクが高い場合には,公衆衛生当局の決定に従い,3回目の接種が推奨される。頑健なデータはないものの,3回目の接種と追加の対策がアウトブレイクの制御に役立つ可能性がある(1 予防に関する参考文献 ムンプスは,通常は唾液腺(最も多くは耳下腺)の有痛性腫脹を引き起こす,感染性の強い全身性の急性ウイルス性疾患である。合併症として,精巣炎,髄膜脳炎,膵炎などが起こりうる。診断は通常臨床的に行い,症例は全て速やかに公衆衛生当局に報告する。治療は支持療法による。ワクチン接種が予防に効果的である。 ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼすウ... さらに読む 予防に関する参考文献 )。予防接種歴のない無症状の医療提供者は,最初の曝露後11日目から最終の曝露後25日目まで休職すべきである。

予防に関する参考文献

  • 1.Marin M, Marlow M, Moore KL, Patel M: Recommendation of the Advisory Committee on Immunization Practices for use of a third dose of mumps virus–containing vaccine in persons at increased risk for mumps during an outbreak.MMWR Morb Mortal Wkly Rep 67:33–38, 2018.doi: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6701a7.

要点

  • ムンプスは唾液腺(耳下腺が最も多い)の有痛性腫脹を引き起こす。

  • ワクチン接種者も一次ワクチン不全や免疫減弱のために発症することがある。

  • 感染した思春期以降の男性の約20%が精巣炎を発症し,通常は片側性である;精巣萎縮も生じることがある,テストステロン産生と妊孕性は維持されるのが通常である。

  • その他の合併症として髄膜脳炎や膵炎などがある。

  • 臨床検査は主に公衆衛生上の目的で行うほか,耳下腺炎の欠如,片側性または再発性の耳下腺炎,予防接種歴のある患者での耳下腺炎,唾液腺以外の著明な組織障害など,病状が非定型の場合にも行う。

  • 禁忌(例,妊娠または重度免疫抑制)がない限り,全例対象の予防接種が必須である。

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