乳頭分泌物は妊娠または授乳中でない,特に妊娠可能年齢の女性で一般的な愁訴である。乳頭分泌物は,閉経後女性であっても必ずしも異常ではないが,男性では常に異常である。色に関係なく,自発性で片側性の乳頭分泌物は異常とみなされる。
乳頭分泌物は漿液性(黄色),粘液性(透明で水様性),乳白色,血液性(血性),膿性,複数の色で粘着性,または漿液血性(ピンク色)であることがある。自然に起こることもあれば乳房の触診に反応してのみ起こることがある。
病態生理
乳頭分泌物は乳汁またはいくつかの条件により産生される滲出液であることがある。
妊娠しておらず授乳していない女性での乳汁産生(乳汁漏出症 乳汁漏出症 乳汁漏出症は,男性または授乳していない女性での乳汁分泌である。一般にプロラクチンを分泌する下垂体腺腫が原因である。診断はプロラクチンの測定および画像検査による。治療はドパミン作動薬による腫瘍の抑制であり,ときに腺腫の切除または破壊が行われる。 乳汁漏出症では母乳の分泌がみられる。 乳頭分泌物一般に関する考察は,別の箇所で行っている。 プロラクチンは,下垂体前葉細胞の約30%を占めるラクトトロフという細胞で産生される。ヒトにおけるプロラク... さらに読む )は典型的には,乳房の腺組織を刺激するプロラクチン濃度の上昇による。ただし,プロラクチン濃度が高い患者のうち乳汁漏出症が発生するのは一部においてのみである。
病因
多くの場合,乳頭分泌物の原因は良性である(乳頭分泌物の主な原因 乳頭分泌物の主な原因 の表を参照)。がん(通常,乳管内癌または浸潤性乳管癌)によるものは,症例の10%未満である。残りは,良性の乳管疾患(例,乳管内乳頭腫,乳管拡張, 線維嚢胞性変化 病因 ),内分泌疾患(例,下垂体腫瘍,甲状腺機能低下症),肝疾患,乳房膿瘍または感染,または特定の薬剤の使用から生じる。これらの原因の中で乳管内乳頭腫がおそらく最も一般的である;乳房腫瘤を認めない血性乳頭分泌物の最も頻度の高い原因でもある。
内分泌系の原因にはプロラクチン濃度の上昇(多くの原因による)が関与する。
評価
病歴
現病歴には以下を含めるべきである:
その時点でみられる分泌物が片側性か両側性か
色はどうか
どれくらい持続しているか
自発的に生じるか,乳頭を刺激したときにのみ生じるか
腫瘤 乳房腫瘤(乳房のしこり) 乳房腫瘤は,あらゆる大きさの孤立した触知可能な部位を示す用語として,しこりよりも望ましい。乳房腫瘤は,患者によって偶発的または乳房自己検診中に見つかることや,ルーチンの身体診察中に医師により検出されることがある。 腫瘤は痛みを伴わないことも伴うこともあり,ときに 乳頭分泌物または皮膚変化を伴う。 原因としては 乳癌が最も恐れられているが,大半(約90%)の乳房腫瘤は良性である。最も頻度の高い原因としては以下のものがある:... さらに読む や 乳房痛 乳房痛 乳房痛はよくみられる症状であり,限局性またはびまん性,片側性または両側性の場合がある。 限局性の乳房痛は通常,乳房嚢胞や乳房感染(例, 乳腺炎,膿瘍)など, 腫瘤を形成する局所的な疾患によって生じる。大部分の 乳癌は疼痛を引き起こさない。 びまん性かつ両側性の乳房痛は, 線維嚢胞性変化のほか,まれではあるがびまん性かつ両側性の乳腺炎が原因のことがある。ただし,びまん性かつ両側性の乳房痛は乳房に異常のない女性でも非常によくみられる。これら... さらに読む はあるか
システムレビュー(review of systems)では,以下のような可能性のある原因を示唆する症状がないか検討すべきである:
腹水 腹水 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり( 特発性細菌性腹膜炎),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。... さらに読む または 黄疸 黄疸 黄疸とは,高ビリルビン血症によって皮膚および粘膜が黄色化した状態である。ビリルビン値が約2~3mg/dL(34~51μmol/L)になると,肉眼的に黄疸が明らかとなる。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) ビリルビンの大半は,ヘモグロビンが非抱合型ビリルビン(と他の物質)に分解される際に生成される。非抱合型ビリルビンは,血中でアルブミンと結合して肝臓に輸送され,肝細胞に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受け... さらに読む :肝疾患
既往歴の聴取では,不妊,高血圧,抑うつ,授乳,月経パターン,およびがんの既往だけでなく,慢性腎不全,妊娠,肝疾患,甲状腺疾患などの高プロラクチン血症の原因となりうる病態を対象に含めるべきである。医師は,経口避妊薬,降圧薬(例,メチルドパ,レセルピン,ベラパミル),H2受容体拮抗薬(例,シメチジン,ラニチジン),オピオイドおよびドパミンD2拮抗薬(例,フェノチアジン系薬剤および三環系抗うつ薬を含む多くの向精神薬)などのプロラクチン放出を起こしうる薬剤について具体的に尋ねるべきである。
身体診察
身体診察では乳房に焦点を置く。乳房を視診して,対称性,皮膚の陥凹,紅斑,腫脹,乳頭と皮膚の色の変化,痂皮形成,潰瘍,または乳頭陥没がないか確認する。乳房を触診して,腫瘤および腋窩または鎖骨上部のリンパ節腫脹の所見がないか確認する。自発性の乳頭分泌がなければ,乳頭周囲を系統的に触診して分泌を誘発し,分泌に関連する特定の部位があれば同定する。
乳頭分泌物が単独の乳管に由来するものか複数の乳管に由来するものかを判定するには,明るい照明下で拡大レンズを使用することが役に立つ。
警戒すべき事項(Red Flag)
特定の所見には特に注意が必要である:
自発性の分泌物
年齢40歳以上
片側性の分泌物
血性またはグアヤック法陽性の分泌物
触知可能な腫瘤
男性
所見の解釈
重要な鑑別点を以下に示す:
腫瘤が存在するか
分泌物を片方または両方の乳房に認めるか
分泌物は血性(グアヤック法陽性を含む)であるか
腫瘤が存在する場合は,がんを考慮しなければならない。初診時からがんが両側乳房や複数の乳管を侵していることはまれであるため,両側性かつグアヤック法陰性の分泌物は内分泌系の原因を示唆する。しかしながら,分泌物がグアヤック法で陽性の場合は,両側性であってもがんを考慮しなければならない。
以下のいずれかが存在する場合,乳房疾患の経験が豊富な外科医とのフォローアップが必要である:
乳房腫瘤
血性(またはグアヤック法陽性の)分泌物
自発性で片側性の分泌物
マンモグラフィーまたは超音波検査で過去に異常が認められたことがある
他の示唆する所見については, 乳頭分泌物の主な原因 乳頭分泌物の主な原因 の表を参照。
検査
内分泌系の原因が疑われる場合は,以下を測定する:
プロラクチン濃度
甲状腺刺激ホルモン(TSH)値
分泌物がグアヤック法陽性の場合,以下を行う:
細胞診
触知可能な腫瘤を認める場合,乳房腫瘤同様の評価を行い,通常以下から始める:
超音波検査
嚢胞様病変はときに吸引し,充実性腫瘤および吸引後残存する腫瘍はマンモグラフィーで評価し,その後画像ガイド下に生検を行う。
腫瘤は認めないが,その他の点ではがんが疑われる場合または他の検査が確定的でない場合は以下を行う:
マンモグラフィー
異常結果は画像ガイド下生検で評価する。マンモグラフィーと超音波検査で原因が同定されず,分泌物が自発性で単一の乳管または片側乳房から生じる場合は,乳管造影(乳管に造影剤を注入して撮影)を行うことがある。
治療
乳頭分泌物の治療は原因に基づいて行う。
原因が良性で,分泌が持続し不快な場合は,外来で終末乳管を切除することができる。
要点
乳頭分泌物はほとんどの場合良性である。
両側性で複数の乳管から生じるグアヤック法陰性の分泌物は,通常良性で内分泌的病因をもつ。
自発性で片側性の分泌物は診断検査が必要である;このタイプの分泌物は,特に血性(またはグアヤック法陽性)の場合にがんであることがある。
乳房腫瘤,血性(またはグアヤック法陽性)分泌物,マンモグラフィーまたは超音波検査で過去に異常を指摘されている場合は,乳房疾患の経験豊富な外科医によるフォローアップが必要である。