霧視は最も頻度が高い視覚症状である。これは通常,緩徐に発症する視覚の明瞭さの低下を指し,視力低下と対応している。突然の,片眼または両眼の完全な視力障害(失明)。小さな視野欠損(例,小さな網膜剥離による)のある患者は,自身の症状を「目がかすむ」と症状を表現することがある。
霧視の病因
霧視の原因(霧視の主な原因の表を参照)で最も頻度が高いものには以下のものがある:
霧視には4つの一般的な機序がある:
光線が網膜に達するまでの経路にある,通常は透明な眼内構造物(角膜,水晶体,硝子体)の混濁
網膜を侵す疾患
視神経またはその接続部を侵す疾患
屈折異常
中には複数の機序をもつ疾患もある。例えば,初期の白内障,またはコントロール不良の糖尿病による可逆的な水晶体の膨潤が原因で屈折が障害される場合がある。
霧視を引き起こす特定の疾患(例,急性角膜病変[上皮剥離など],潰瘍,単純ヘルペス角膜炎,眼部帯状疱疹,急性閉塞隅角緑内障)をもつ患者では,眼痛または充血などの他の症状がみられる可能性が高い。
霧視を引き起こしうるまれな疾患には,遺伝性視神経症(例,優性遺伝性視神経萎縮,レーベル遺伝性視神経症)およびビタミンA欠乏症による角膜瘢痕化などがある。
霧視の評価
病歴
現病歴の聴取では,症状の発症,持続,および進行,ならびに両側性か片側性かを確かめるべきである。自由回答式の質問(例,「目がかすむとはどういうことか説明して下さい」)により,症状をできる限り正確に記述すべきである。例えば,細部が見えないことは,コントラストがなくなることとは別のことである。また,患者によっては視野欠損と認識されないこともあり,そのような患者は,階段を踏み外す,または読書中に文字が見えない,などと症状を表現することがある。重要な関連症状としては,眼の充血,羞明,飛蚊症,光を稲妻に似た閃光のように感じる(光視症),眼球静止時または眼球運動時の痛みなどがある。暗所での症状(夜盲),明るい光への反応(例,かすみ,光のぎらつき,暈輪,羞明),物体からの距離の影響,および矯正レンズの効果,ならびに中心視野または周辺視野のいずれがより侵されているようにみえるか,を確かめるべきである。
システムレビュー(review of systems)には,口渇の増加および多尿(糖尿病)など,可能性のある原因の症状についての質問を含めるべきである。
既往歴の聴取では,眼損傷の既往,その他の眼疾患の診断歴,および眼疾患の危険因子とされている疾患(例,高血圧,糖尿病,HIV/AIDS,全身性エリテマトーデス,鎌状赤血球貧血,多発性骨髄腫またはワルデンシュトレームマクログロブリン血症などの過粘稠度症候群を引き起こしうる疾患)に注意すべきである。薬歴には,視覚障害を引き起こしうる薬剤(例,コルチコステロイド)の使用,および視覚を障害する疾患(例,糖尿病網膜症)の治療についての質問を含めるべきである。
身体診察
眼以外の症状は必要に応じて評価する;しかしながら,眼の診察のみで十分なこともある。
視力の検査が鍵である。患者の多くは見える限界まで努力しない。時間を十分かけて患者が努力するよう説得することで,より正確な結果が得られる傾向にある。
視力検査は,壁にかけたスネレン視力表から6m(約20フィート)離れたところに患者を立たせて行うのが理想的である。この検査が行えない場合,眼から36cm(14インチ)離したところに視力表をおいて視力を測定することもできる。40歳以上の患者における近見視力の測定は,読み書き用の視力矯正をした状態で行うべきである。それぞれの眼を別々に測定し,測定していない方の眼を固形物で覆う(患者の指は検査中に開いてしまうことがあるので用いない)。患者が6m離れた位置からスネレン視力表の最上段が読めない場合,3mの位置から視力を測定する。視力表に最大限近づいても何も読めない場合,検者は指で異なる数を示し,患者が正確に指を数えられるか確認する。患者が指の数を数えられなければ,検者は患者が手の動きを認識できるかどうか検査する。患者が手の動きを認識できなければ,光を眼にかざし,患者が光を認識できるかどうか確かめる。
視力は患者が眼鏡をかけた場合および外した場合の両方で測定する。視力が眼鏡で矯正されれば,屈折異常である。患者が眼鏡をもっていなければ,ピンホールを用いる。市販のピンホールが手に入らなければ,厚紙に18G針で穴をあけ,それぞれの穴の直径をわずかに変えることで,ベッドサイドでピンホールを作製できる。患者は視力を最も良く矯正する穴を選ぶ。視力がピンホールにより矯正されれば,屈折異常である。ピンホールは,速く効果的に屈折異常を診断できる方法であり,屈折異常は霧視の原因として最も頻度が高い。しかしながら,ピンホールでは矯正力が最大で通常およそ20/30しかなく,20/20には届かない。
眼科診察も重要である。交互対光反射試験により,直接および間接対光反射を検査する。対座検査およびAmslerグリッドを用いて視野を検査する。
角膜を診察して,理想的には細隙灯顕微鏡によって混濁がないか確認する。前房を診察して,できれば細隙灯顕微鏡によって細胞およびフレアがないか確認するが,この検査結果により,眼痛または充血のない患者における視力障害を説明できる可能性は低い。
水晶体を診察して,検眼鏡,細隙灯顕微鏡,またはその両方により混濁がないか確認する。
直像検眼鏡を用いて眼底検査を行う。検眼鏡検査のために交感神経刺激薬(例,2.5%フェニレフリン),調節麻痺薬(例,1%トロピカミドまたは1%シクロペントラート),またはその両方の点眼によって散瞳すれば,より詳細な所見がみられる;瞳孔径は点眼後約20分でほぼ最大となる。網膜,黄斑,中心窩,血管,ならびに視神経乳頭およびその周辺を含め,見える限り眼底を広く観察する。眼底全体を観察する(すなわち,周辺部網膜剥離を確認するため)には,通常は眼科医の検者が倒像検眼鏡を用いなければならない。
眼圧を測定する。
警戒すべき事項(Red Flag)
所見の解釈
症状と徴候は原因の推定に役立つ(霧視の主な原因の表を参照)。
視力が眼鏡またはピンホールによって矯正されれば,霧視の原因は単純な屈折異常である可能性が高い。コントラストの消失またはグレアも白内障によって引き起こされる可能性があるため,白内障を考慮すべきである。
しかしながら,レッドフラグサインはより重篤な眼科疾患を示唆するため(レッドフラグサインの解釈の表を参照),細隙灯顕微鏡検査,眼圧検査,散瞳下での眼底検査を含む完全な診察を要し,所見によっては,場合により即時または緊急に眼科へ紹介する必要がある。
特定の網膜所見は原因の推定に役立つ(網膜所見の解釈の表を参照)。
検査
視力が屈折により適正に矯正されれば,ルーチン屈折矯正のため,患者をオプトメトリストまたは眼科医に紹介する。視力が屈折により矯正されないが,レッドフラグサインもない場合は,ルーチン評価のため患者を眼科医へ紹介する。特定のレッドフラグサインがあれば,即時または緊急眼科的評価のため,患者を眼科医へ紹介する。
全身性疾患の症状または徴候のある患者は,以下のように適切な検査を受けるべきである:
糖尿病:指先採血または任意の部位からの採血によるグルコース測定
コントロール不良の高血圧および急性高血圧網膜症(出血,滲出液,または乳頭浮腫):尿検査,腎機能検査,血圧モニタリング,および心電図検査
HIV/AIDSおよび網膜の異常:HIV血清学的検査およびCD4陽性細胞数の測定
全身性エリテマトーデス(SLE)および網膜異常:抗核抗体,赤血球沈降速度(赤沈),および血算
ワルデンシュトレームマクログロブリン血症,多発性骨髄腫,または鎌状赤血球貧血:血算および血球分画ならびに臨床的適応によるその他の検査(例,血清タンパク質電気泳動)
霧視の治療
基礎疾患を治療する。たとえ霧視の原因となる疾患が純粋な屈折異常でなくとも(例,早期の白内障),視力を改善するために矯正レンズを用いることがある。
老年医学的重要事項
光の少ない場所での視力の低下またはコントラスト感度の喪失は,正常でも加齢とともに起こりうるものの,たとえかなりの高齢患者でも,屈折により20/20まで視力が正常に矯正可能である。
霧視の要点
視力がピンホールによる屈折で矯正されれば,屈折異常である可能性が高い。
ピンホールによる屈折で視力が矯正されず,明らかな白内障または角膜異常もなければ,瞳孔拡大下で眼底検査を行うべきである。
眼底検査で多くの異常がみられ,特に最近症状が悪化している場合は,即時または緊急に眼科へ紹介する必要がある。