前庭神経炎

(ウイルス性内耳炎)

執筆者:Lawrence R. Lustig, MD, Columbia University Medical Center and New York Presbyterian Hospital
レビュー/改訂 2020年 4月
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前庭神経炎では,おそらくは第8脳神経の前庭神経部の炎症により,自然に軽快する回転性めまいの発作が生じる;一部の前庭機能障害が残ることもある。

前庭神経炎はときにウイルス性内耳炎と同義で用いられることがある。しかし,前庭神経炎では回転性めまいしかみられないのに対し,ウイルス性内耳炎では耳鳴,難聴またはその両方も伴う。

病因は不明であるが,ウイルス性の原因が疑われる。

前庭神経炎の症状と徴候

前庭神経炎の症状としては,悪心および嘔吐を伴う重度の回転性めまいの単回発作や,7~10日間続く患側方向への持続性眼振などがある。眼振は,一方向性,水平性の自発眼振であり,健側耳の方向に速い律動で動く。耳鳴や難聴が随伴しないことが,前庭神経炎の特徴であり,メニエール病および内耳炎との鑑別に役立つ。

初回発作の後,症状は数日から数週間かけて徐々に治まる。一部の患者には,おそらく永続的な前庭損傷のために,特に急速な頭部の運動に伴う平衡障害が残存する。

前庭神経炎の診断

  • 聴覚検査,電気眼振検査,およびMRI

前庭神経炎が疑われる患者には,聴覚評価,温度刺激検査を伴う電気眼振検査,ガドリニウム造影頭部MRIを行い,MRIでは小脳橋角部腫瘍脳幹の出血,または梗塞など,他の診断を除外するためにも,内耳道に注意する。MRIでは,炎症性神経炎と一致する前庭神経の造影増強が示されることがある。

前庭神経炎の治療

  • 制吐薬,抗ヒスタミン薬,またはベンゾジアゼピン系薬剤による症状緩和

前庭神経炎の症状は,メニエール病と同様に,すなわち,抗コリン薬,制吐薬(例,プロクロルペラジンまたはプロメタジン25mg直腸内投与または10mg経口投与,6~8時間毎),抗ヒスタミン薬またはベンゾジアゼピン系薬剤,およびコルチコステロイドの大量投与と速やかな漸減により,短期間で対症的に治療する。嘔吐が続く場合は,静注による水分と電解質の補充が必要である。前庭機能抑制薬は,特に高齢者において前庭代償機能を遅延させるため,長期間の(すなわち,数週間を超える)使用は全く推奨できない。平衡訓練(通常は理学療法士が行う)は,残存する前庭障害を代償するのに役立つ。

前庭神経炎の要点

  • 患者には,悪心および嘔吐ならびに患側への眼振を伴う持続的な重度の回転性めまいがみられ,症状は数日から数週間持続する。

  • 難聴または耳鳴はみられない。

  • 他の疾患を除外するために検査を実施する。

  • 治療は症状に対して行い,制吐薬および抗ヒスタミン薬またはベンゾジアゼピン系薬剤を使用するが,コルチコステロイドが役立つ場合もある。

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