(水とナトリウムの平衡 水とナトリウムの平衡 体液量および電解質濃度は,食事摂取量,代謝活動,環境ストレスの大幅な変化にもかかわらず,正常ではごく狭い範囲内に維持される。体液のホメオスタシスは主に腎臓によって維持される。 水およびナトリウムの平衡は密接に相互依存している。体内総水分量(TBW)は,男性では体重の約60%(肥満者での約50%から痩身者での70%),女性では体重の約50%... さらに読む および 体液量異常の概要 体液量異常の概要 ナトリウムは細胞外液中で浸透圧活性をもつ主要なイオンであるため,体内総ナトリウム量が細胞外液量を規定する。体内総ナトリウム量の不足または過剰により, 細胞外液量の減少または 過剰が生じる。血清ナトリウム濃度は必ずしも体内総ナトリウム量を反映しない。( 水とナトリウムの平衡も参照のこと。) 食事摂取および腎排泄により体内総ナトリウム量が調節される。総ナトリウム量および細胞外液量が少ない場合,腎臓はナトリウム保持を増加させる。総ナトリウム量... さらに読む も参照のこと。)
体内総ナトリウム量の増加が重要な病態生理学的事象である。浸透圧が上昇し,これが水分貯留を引き起こす代償機構を誘発する。細胞外液に十分な水分が蓄積すると(通常,> 2.5L), 浮腫 浮腫 浮腫とは,間質液の増加により軟部組織の腫脹が生じた状態である。液体の主成分は水であるが,感染やリンパ管閉塞がある場合には,タンパク質および細胞を多く含む液体が蓄積する可能性がある。 浮腫は全身性の場合と局所性の場合(例,四肢のいずれかまたはその一部に限局する)がある。ときに浮腫は突然発症し,患者は四肢が極めて突然に腫れたと訴える。一方,浮腫は潜行性に発生することの方が多く,体重増加,朝の起床時に眼が腫れる,夜になると靴がきつくなるなどの... さらに読む が発生する。
細胞外液過剰の最も頻度の高い原因としては以下のものがある:
月経前の浮腫
妊娠
体液量過剰の症状と徴候
体液量過剰の症状は主にその基礎疾患の症状であるが,過剰な水分は,重力のかかる軟部組織では視認および触知可能な圧痕性 浮腫 浮腫 浮腫とは,間質液の増加により軟部組織の腫脹が生じた状態である。液体の主成分は水であるが,感染やリンパ管閉塞がある場合には,タンパク質および細胞を多く含む液体が蓄積する可能性がある。 浮腫は全身性の場合と局所性の場合(例,四肢のいずれかまたはその一部に限局する)がある。ときに浮腫は突然発症し,患者は四肢が極めて突然に腫れたと訴える。一方,浮腫は潜行性に発生することの方が多く,体重増加,朝の起床時に眼が腫れる,夜になると靴がきつくなるなどの... さらに読む として,腹部では 腹水 腹水 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり( 特発性細菌性腹膜炎),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。... さらに読む として,肺では肺の間質液による 呼吸困難 呼吸困難 呼吸困難とは,不快または苦しさを感じる呼吸である。患者による呼吸困難の感じ方および訴え方は原因によって異なる。 呼吸困難は比較的頻度の高い症状であるが,呼吸に伴う不快感の病態生理はほとんど解明されていない。他の種類の有害な刺激に対する受容器とは異なり,呼吸困難に特化した受容器は存在しない(ただし,MRIを用いた研究では,呼吸困難の知覚を仲介している可能性のある特定の領域が中脳でいくつか同定されている)。... さらに読む および断続性ラ音として現れることがある。
体液量過剰の診断
臨床的評価
診断は主に臨床的に行う。主要な特徴としては体重増加や浮腫がある。浮腫の部位および量は,患者が座っているか,寝ているか,立っているかなどを含め,多数の要因によって決まる。
臨床所見は原因によって大きく異なり,本マニュアルの別の箇所で詳細に考察されている。
体液量過剰の患者では(体内総ナトリウム量が増加しているにもかかわらず),血清中ナトリウム濃度は高値,低値,または正常範囲内になる。体液量過剰の患者において,尿中ナトリウム濃度は,急性腎障害とその他の(腎臓以外の)急性の原因とを鑑別するのに役立つことがある。腎不全では尿中ナトリウム濃度が > 20mEq/L(> 20mmol/L)であるのに対し, 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む , 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む ,および ネフローゼ症候群 ネフローゼ症候群の概要 ネフローゼ症候群では,糸球体疾患が原因で尿タンパク排泄量が3g/日を超え,これに浮腫および低アルブミン血症が伴う。小児でより多くみられ,原発性および続発性いずれの原因もある。診断は随時尿検体の尿タンパク/クレアチニン比測定または24時間蓄尿での尿タンパクの測定により,原因は病歴,身体診察,血清学的検査,腎生検に基づき診断される。予後および治療は原因によって異なる。 ( 糸球体疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む では尿中ナトリウム濃度が < 10mEq/L(< 10mmol/L)である。
体液量過剰の治療
原因の治療
治療は原因の是正を目標とする。心不全,肝硬変,腎不全,およびネフローゼ症候群の治療については,本マニュアルの別の箇所で考察されているが,一般的な治療としては,利尿薬を用いるほか,ときに 透析 腎代替療法の概要 腎代替療法(RRT)は, 腎不全患者において内分泌機能以外の腎機能を代替する治療法であり,ときに特定の中毒にも用いられる。RRTの方法としては, 持続的血液濾過および血液透析, 間欠的血液透析, 腹膜透析などがある。いずれの方法でも,透過膜を介した透析および濾過によって溶質を交換し,血液から水分を除去する。... さらに読む や穿刺などの機械的方法で体液を除去する。
食物性ナトリウムの摂取を制限する。心不全,肝硬変,腎機能不全,およびネフローゼ症候群では利尿薬を投与する。
毎日の体重測定が,細胞外液過剰に対する治療の効果を追跡するための最良の方法である。細胞外液過剰の是正速度は,体液量過剰の程度に応じて(過剰の程度が著しければ速く,過剰の程度が小さければ遅くする),また,患者の他の医学的問題に応じて(低血圧症および腎機能不全であれば遅くする),1日当たり体重0.25~0.5kgに制限すべきである。
外来患者に利尿薬治療を行う場合は,注意深くモニタリングする必要がある。比較的重度の臓器機能障害もしくは多臓器機能障害がある場合,または経口利尿薬による改善があまりみられない場合は,入院治療とモニタリングが必要である。