行動面の問題に基づく緊急事態

執筆者:Michael B. First, MD, Columbia University
Reviewed ByMark Zimmerman, MD, South County Psychiatry
レビュー/改訂 2024年 10月 | 修正済み 2025年 2月
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気分,思考,または行動に重度の変化がみられる患者,および薬剤または違法薬物により生命を脅かす可能性がある重度の有害作用が生じている患者には,緊急の評価および治療が必要である。患者は様々な医療機関を受診することがあり,しばしば救急外来を受診する。身体科の外来および入院患者には,精神科医以外の医師が最初に診療を行う場合が多いが,そのような症例も可能な限り精神科医が評価を行うべきである。さらに,行動の管理が困難な場合には,医療専門職による評価が可能になる前に警察が関与することもある。

患者の気分,思考,または行動が非常に異常または支離滅裂な場合は,その評価では,まず患者について以下の点を判断する必要がある:

  • 患者自身にとって脅威となっているか

  • 他者にとって脅威となっているか

自身への脅威としては,自己管理能力の欠如(セルフネグレクトにつながる)または自殺行動などが考えられる。精神症,認知症,または物質使用症の患者では,食物,衣服,および自然災害に対する適切な保護を得る能力が障害されることから,そのような患者ではセルフネグレクトが特に懸念される。

介護者がいる患者(小児または一部の成人)では,介護者が患者の世話を安全かつ十分にできない状況でないかを確認することも重要である。

他者にとって脅威となっている患者の条件としては,以下のものがある:

  • 積極的に暴力的である(すなわち,スタッフに積極的に暴行を加える,物を投げたり壊したりする)

  • 好戦的かつ敵対的に見える(すなわち,暴力的である可能性がある)

  • 診察者やスタッフにとって脅迫的には見えないが,他者(例,配偶者,隣人,有名人)に危害を加える意図を表明している

医療施設において個人が他者の脅威になっている場合は,害の発生を回避するために,適切な措置を開始すべきである。

病因

コントロール困難な行動(例,攻撃的,暴力的,制御不能な動作)が認められる患者は,しばしば物質使用症を有しており,そのような行動は,アルコールやその他の物質による急性中毒,特にメタンフェタミンコカイン,ときにフェンシクリジン(PCP)またはMDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)による中毒が原因である可能性がある。精神症症状(例,統合失調症短期精神症妄想症)や急性躁病によっても,行動面の問題に基づく緊急事態が発生する可能性がある。その他の原因としては,急性せん妄を引き起こす身体疾患(精神医学的問題の初期評価を参照)や認知症などがある。

暴力または攻撃性の前歴は,将来のエピソードに関する強力な予測因子である。

一般原則

行動面の問題に基づく緊急事態に対しては,典型的には評価(特に考えられる身体疾患に関する評価)と同時に管理を進める(精神症状がみられる患者の医学的評価を参照)。精神疾患や物質使用は異常行動の原因として一般的なものであるが,医師はこれらを原因と決めつけてはならず,たとえ精神疾患の診断をすでに受けている患者やアルコールやその他の中毒性薬物の臭いを放っている患者であっても,同様である。患者が明確な病歴を伝えることができない,あるいは伝えたがらないことも多いため,関連のある他の情報源(例,家族,友人,ケースワーカー,医療記録)を直ちに特定して,情報を求める必要がある。

パール&ピットフォール

  • たとえ精神疾患の診断をすでに受けている患者やアルコールの臭いを放っている患者でも,異常行動の原因を精神疾患や中毒と決めつけてはならない。

臨床医は患者が治療チームや他の患者に暴力を振るう可能性を認識して,安全プロトコルを適用する準備を整えておかなければならない。隔離または拘束は,緊急事態において,かつ比較的制限の少ないあらゆる介入を試みた上で,患者または他者に直接的な害が及ぶのを防止するための最後の手段として,用いるべきである(1, 2, 3)。

明らかな暴力性を示す患者は,まず以下の手段によって拘束しなければならない:

  • 隔離

  • 身体的拘束

  • 薬剤(化学的拘束)

  • 複数の対策の併用

そのような介入は,患者および他者に対する危害を防止し,問題行動の原因の評価(例,バイタルサインの測定や血液検査の実施)を可能にするために行う。患者の行動をコントロールできたら,以降は綿密なモニタリング(ときにスタッフによる常時の観察を含む)が必要である。医学的に安定している患者は,安全な隔離室に移してもよい。臨床医は非自発的治療に関する法的問題を認識しておく必要があるが,そのような問題のために救命の可能性がある介入を遅らせてはならない。

潜在的に暴力的な患者には,問題の状況を除去する対策が必要である。激越および攻撃性の緩和に役立つ可能性がある対策としては,以下のものがある:

  • 患者を落ち着いた静かな環境(例,利用できる場合は隔離室)に移す

  • 自身または他者に危害を加えるために使用される可能性がある物体を排除する

  • 患者およびその訴えに対して共感的な配慮を示す

  • 自信に満ちていながらも支持的な態度で対応する

  • 激越または攻撃性の原因を解決するためにできることを尋ねる

直接話をする(怒ったり狼狽したりしているように見える患者を見守り,誰かを傷つけるつもりがあるかどうかを尋ねる)ことによって,患者の感情を認識でき,さらに情報を引き出せることもある;これにより患者が実際に行動に移す可能性が高まることはない。

逆効果となる対策としては以下のものがある:

  • 患者の恐怖や訴えの妥当性に疑いをかける

  • 脅しをかける(例,警察を呼ぶ,精神科病院に入れる)

  • 見下した態度で話す

  • 患者を欺こうとする(例,食べ物の中に薬剤を隠す,拘束することはないと患者に約束する)

スタッフおよび公衆の安全

敵意をもった攻撃的な患者の面接を行う場合は,他の患者,他の一般人(例,患者の家族),およびスタッフの安全を守るための対策を講じなければならない。大半の病院では,問題行動がみられる患者には所持品検査(手作業,金属探知機,またはその両方)を実施して武器を持っていないか確認する方針が採られている。可能であれば,患者の評価は監視カメラ,金属探知機,室外にいるスタッフから内部が見える面接室など,安全対策が講じられた場所で行うべきである。部屋のドアは開けたままにしておくべきである。

敵意はあるがまだ暴力的ではない患者は,典型的には無差別にスタッフを攻撃することはなく,むしろ,怒っているスタッフまたは自身にとって脅威に思われるスタッフを攻撃する。スタッフが患者と同じ高さに座ることで,患者に脅威にみられることを避けられる可能性がある。また,スタッフが患者の敵意に対し同じように大声で怒りに満ちた発言で反応しない,または論争しないことで,患者を怒らせることを避けられる可能性がある。

それでも患者がますます興奮し,今にも暴力を振るいそうに見える場合は,スタッフは迷わず部屋を退出して,攻撃的な行動を阻止ないしコントロールするのに十分な数の追加人員を招集すべきである。典型的には,少なくとも4~5人が同席すべきである。ただし,身体的拘束具は,確実に使用する意図がある場合を除き,部屋の中に持ち込むべきでなく,拘束具を見ることで患者がさらに興奮する可能性がある。

言語的な脅しは真剣に受けとめる必要がある。多くの地域では,患者が特定の人物に危害を加える意思を表明する場合,その評価を行う臨床医には,危害を加えられる可能性がある人物に注意を促すとともに,法執行機関に通知する義務が課せられる。具体的な要件は一様でないため,臨床医は地域の法規制に精通しておくべきである。典型的には,小児,高齢者,および親密なパートナーの虐待が疑われる場合は,州の規制によっても報告義務が課される。

一般原則に関する参考文献

  1. 1.Arriola Vigo JA, Cheung EH, Finnerty MT, et al; Patient Safety Work Group of the Council on Quality Care.Seclusion or restraint.Washington, DC.American Psychiatric Association.APA Resource Document.Approved by the Joint Reference Committee, February 2022, pp 1-21.

  2. 2.American College of Emergency Physicians (ACEP) Policy Statement.Use of restraints.American College of Emergency Physicians, Dallas, TX.Revised and approved February 2020.

  3. 3.National Collaborating Centre for Mental Health (UK). Violence and Aggression: Short-Term Management in Mental Health, Health and Community Settings.London: British Psychological Society (UK); 2015.

隔離または身体的拘束

患者が興奮していて,暴力を振るう可能性があるとみられる場合には,状況を鎮静化させるために隔離措置が用いられることがある。隔離のみで効果がある場合もあれば,身体的拘束に先立つ措置として隔離を行う場合もある。隔離中または拘束中は継続的に患者をモニタリングすべきである。十分な水分と栄養を与え,適切な薬剤を投与するべきである。

身体的拘束の適用については議論があり,他の方法が不成功に終わり,かつ患者が自身または他者に危害を加える有意なリスクを示し続ける場合に限り,考慮すべきである。詳細な評価,薬剤の投与,またはその両方を行うのに十分な時間にわたり患者を引き留めておくために,拘束が必要になることもある。拘束は患者の同意なく適用されるため,特定の法的および倫理的問題について考慮すべきである。

拘束は以下を目的として使用される:

  • 患者または他者に対する明白かつ切迫した危害を防止する

  • 治療に対する同意が得られている場合に,薬物治療の継続が著しく困難になること(例,チューブまたは静脈ラインの引き抜きによる)を防止する

  • 周囲の物理的環境,スタッフ,または他の患者に対する危害を防止する

  • 非自発的治療を必要とする患者がその場を離れることを防止する(鍵のかかる部屋が使用できない場合)

拘束は以下の目的で適用してはならない:

  • 懲罰

  • スタッフの都合(例,徘徊を防止するため)

自殺の可能性が明らかにある患者では,拘束具を自殺の道具として使用する可能性があるため,注意が必要である。

手順

拘束は,十分な訓練を受けたスタッフのみが,正しい方法で,患者の権利と安全を守って適用すべきである。

まず,十分なスタッフを部屋に集めて,拘束を行わなければならないことを患者に伝える。格闘を避けるため,患者に協力するよう促す。しかしながら,拘束が必要であると医師が判断したのであれば,交渉の余地はなく,患者に対して本人の同意の有無にかかわらず拘束を適用するということを告げる。実際には,自らの行動に外的な制限がかけられることを理解して感謝する患者もいる。

拘束適用の準備にあたっては,患者の四肢の各々に1人ずつ,さらに患者の頭部にもう1人を割り当てる。次に,個々のスタッフが割り当てられた四肢を同時に把持し,患者をベッド上で仰臥位にする;大柄で暴力的な患者でも,身体的に健康なスタッフであれば一般的に1人で1つの四肢を抑え込むことができる(全肢を同時に把持した場合)。しかし,拘束を行うには,さらにスタッフが必要となる。まれに,極めて闘争的で立っている患者では,まず2枚のマットレスでサンドイッチ状に挟み込まなければならないことがある。

拘束具は革製のものが望ましい。それぞれの足関節および手関節に1つの拘束具を適用し,それらをベッドの横板ではなく,ベッドフレームに取り付ける。拘束具は胸部,頸部,頭部の周囲には装着しないようにし,さるぐつわの使用(例,唾吐きや罵倒を防ぐため)は禁じられている。拘束状態でもなお闘争的な患者(例,ストレッチャーを倒す,噛みつく,または唾を吐く)には,化学的拘束が必要になることもある。

合併症

興奮している患者に対しては,医学的ケアによって呼吸,水分補給,栄養摂取,排泄,および身体的快適性に関するニーズの充足を保証するべきである。頻回のモニタリングが必要であり,身体的外傷,心停止,静脈血栓塞栓症などの潜在的合併症を回避するための対策を講じるべきである(1)。

合併症に関する参考文献

  1. 1.Kersting XAK, Hirsch S, Steinert T.Physical Harm and Death in the Context of Coercive Measures in Psychiatric Patients: A Systematic Review. Front Psychiatry.2019;10:400.Published 2019 Jun 11.doi:10.3389/fpsyt.2019.00400

化学的拘束

化学的拘束として薬剤を使用する場合は,具体的な症状のコントロールを目標にするべきである。身体的拘束と同様に,化学的拘束も患者または他者への害を防止することを目的として,かつ他の対策が不可能であるか不成功に終わった場合にのみ用いるべきである(1)。

薬剤

化学的拘束として一般的に使用される薬剤としては以下のものがある:

  • ベンゾジアゼピン系薬剤

  • 抗精神病薬(典型的には従来型抗精神病薬であるが,第2世代抗精神病薬も使用される)

これらの薬剤は用量を調節しやすく,静脈内投与することで,より迅速かつ確実に効果がえられるが(の表を参照),暴れている患者で静脈ラインを確保できない場合,筋肉内投与が必要になることがある。両クラスの薬剤とも,興奮して暴力的な患者に効果的な鎮静薬である。中枢刺激薬の過剰摂取とアルコールおよびベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症候群に対しては,一般にベンゾジアゼピン系薬剤が望ましく,既知の精神疾患の明らかな増悪に対しては抗精神病薬が望ましい。ときに両薬剤を併用することで,さらに効果的となる;1剤の高用量の使用で望む効果が十分に得られない場合は,最初の薬剤を増量するのではなく,別のクラスの薬剤を使用することで,有害作用を制限する場合がある。

表&コラム
表&コラム

ベンゾジアゼピン系薬剤の有害作用

ベンゾジアゼピン系薬剤の注射剤は,特に極度に暴力的な患者に必要となることのある高用量で投与された場合,呼吸抑制を引き起こすことがある。挿管による気道管理および補助換気が必要になることがある。ベンゾジアゼピン拮抗薬であるフルマゼニルを使用してもよいが,鎮静効果が全く消失すると,当初の行動症状が再び現れることがあるため,注意が必要である。

ときにベンゾジアゼピン系薬剤は,行動のさらなる脱抑制につながる。

抗精神病薬の有害作用

抗精神病薬,特にドパミン受容体拮抗薬は,中毒量のみならず治療量でも,急性ジストニアおよびアカシジア(運動性不穏の不快な感覚)を含む急性錐体外路系の有害作用(の表を参照)を示すことがある。これらの有害作用は用量依存性を示す場合があり,投薬を中止すると軽快する可能性がある。

いくつかの抗精神病薬(チオリダジン【訳注:本邦では製造中止】,ハロペリドール,ドロペリドール,オランザピン,リスペリドン,およびジプラシドンを含む)は,QT延長症候群を引き起こす可能性があり,究極的には致死的不整脈のリスクを増大させる。神経遮断薬による悪性症候群の可能性もある。

その他の有害作用については,抗精神病薬の有害作用を参照のこと。

表&コラム
表&コラム
医学計算ツール(学習用)

化学的拘束に関する参考文献

  1. 1.Thiessen MEW, Godwin SA, Hatten BW, et al; ACEP Clinical Policies Writing Committee on Severe Agitation: Clinical policy: Critical issues in the evaluation and management of adult out-of-hospital or emergency department patients presenting with severe agitation.Ann Emerg Med 83:e1-e30, 2024.

同意および非自発的治療

気分,思考,または行動に重度の変化がみられる患者で,精神医学的介入なしでは病状が悪化する可能性が高い場合やほかに適切な選択肢がない場合には,入院させるのが通常である。

患者が入院を拒否した場合,医師は患者の意思に反して入院させるかどうかを決定しなければならない。患者もしくは他の人の当面の安全を確保するため,または評価を完了して治療を行うために,そうすることが必要になる場合がある。

自身に対する危険としては,例えば以下のものが挙げられる:

大部分の行政管轄区域では,患者の自殺の意図を知った医療専門職に対して,自殺予防のための行動(例,警察や他の責任機関に通告する)を即座に起こすことが要求されている。

他者に対する危険には,以下のものが挙げられる:

  • 殺人の意思を表明する

  • 他者を危険に曝す

  • 精神疾患のために扶養家族のニーズまたは安全を確保できない

非自発的入院の基準や手続きは地域のガイドライン,法律,および規制によって異なる。通常,非自発的入院を実施するには,1名の医師または心理士に加えて1名の臨床医療従事者,家族,または密接な関係者が,患者に精神疾患があること,自傷他害行為の恐れがあること,ならびに患者が任意の治療を拒否していることを認定する必要がある。未成年者に対して薬剤投与を行う場合は,医師は事前に親または保護者から同意を得るべきである。

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