(パーソナリティ障害の概要 パーソナリティ障害の概要 一般に,パーソナリティ障害は知覚,反応,および対人関係における広汎で永続的なパターンによって,著しい苦痛または機能障害が生じている場合とされる。パーソナリティ障害ごとで臨床像は著しく異なるが,いずれも遺伝因子と環境因子の組合せによって引き起こされると考えられている。多くは加齢とともに徐々に軽症化するが,特定の特性は,障害の診断を促した急性... さらに読む も参照のこと。)
反社会性パーソナリティ障害患者は,個人的利益や快楽のために違法行為,欺瞞行為,搾取的行為,無謀な行為を行い,良心の呵責を感じない;患者は以下のことを行うことがある:
自分の行動を正当化または合理化する(例,敗者は負けるべくして負けたと考える,自分自身の利益を追及する)
被害者を馬鹿だったまたは無力だったと責める
自分の行動が他者に及ぼす搾取的で有害な影響に関心を示さない
反社会性パーソナリティ障害について,米国における12カ月間の推定有病率(過去の版のDSM[Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders]基準に基づく)は約0.2~3.3%である。反社会性パーソナリティ障害は男性の方が女性より多く(6:1),強い遺伝要素がある。有病率は加齢とともに減少し,患者が時間の経過とともに自分の不適応行動を変化させることを学び,人生を築く努力を払えることを示唆している。
併存症がよくみられる。大半の患者は 物質使用障害 物質使用障害 物質使用障害は 物質関連障害の一種であり,物質の使用に関連する重大な問題を体験しているにもかかわらず,患者がその物質を使用し続ける病的な行動パターンを伴う。脳内神経回路の変化などの生理学的臨床像が認められることもある。 関わる物質は多くの場合, 一般的に物質関連障害を引き起こす10の薬物クラスに含まれるものである。このような物質はいずれも脳内報酬系を直接活性化し,快感をもたらす。活性化が非常に強いために,患者はその物質を強く渇望し,その... さらに読む も有している(また物質使用障害患者の約半数は反社会性パーソナリティ障害の基準を満たす)。反社会性パーソナリティ障害患者は,しばしば 衝動制御障害 学習障害の概要 学習障害とは,学業成績において個人の知的能力から予測される潜在的な水準と実際の水準との間に乖離を生じさせる病態のことである。学習障害では,集中または注意,言語発達,視覚および聴覚情報処理に機能障害や困難がみられる。診断では,認知的,教育的,言語的,内科的,心理学的評価が行われる。治療は主に教育的管理であり,ときに内科的治療,行動療法,および精神療法も行われる。 学習障害は神経発達障害の一種と考えられている。神経発達障害とは,小児期早期,... さらに読む , 注意欠如・多動症 注意欠如・多動症(ADD,ADHD) 注意欠如・多動症(ADHD)は,不注意,多動性,および衝動性から構成される症候群である。不注意優勢型,多動性・衝動性優勢型,混合型の3つの病型に分類される。診断は臨床的な基準により下される。治療では通常,精神刺激薬による薬物療法,行動療法,教育的介入などが行われる。 注意欠如・多動症(ADHD)は,神経発達障害と考えられている。神経発達障... さらに読む ,または 境界性パーソナリティ障害 境界性パーソナリティ障害(BPD) 境界性パーソナリティ障害は,対人関係の不安定性および過敏性,自己像の不安定性,極度の気分変動,ならびに衝動性の広汎なパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療は精神療法および薬剤による。 ( パーソナリティ障害の概要も参照のこと。) 境界性パーソナリティ障害患者は孤独に対する耐え難さを有する;見捨てられることを避けるために死に物狂いの努力を払い,他者が救助またはケアをしてくれるよう仕向ける形で... さらに読む も有している。
反社会性パーソナリティ障害の病因
遺伝因子および環境因子(例, 小児期の虐待 小児虐待の概要 小児虐待は,小児に対する常軌を逸した行動であり,身体的または情緒的な危害を与える多大なリスクを伴う。一般的に4種の虐待が認識されている;身体的虐待,性的虐待,情緒的虐待(心理的虐待)【訳注:米国では"emotional abuse"と"psychological abuse"が同義で使用されている[参考:NATIONAL... さらに読む )が反社会性パーソナリティ障害の発症に寄与している。考えられる機序は,異常なセロトニントランスポーター機能と関連する衝動的攻撃性である。幼児期に他者の痛みを無視することが青年期後期の反社会的行動と関連づけられている。
反社会性パーソナリティ障害は,この障害を有する患者の第1度親族において,一般集団よりも高い頻度でみられる。この障害を発症するリスクは,この障害を有する親の養子および実子のいずれでも高い。
注意欠如・多動症 注意欠如・多動症(ADD,ADHD) 注意欠如・多動症(ADHD)は,不注意,多動性,および衝動性から構成される症候群である。不注意優勢型,多動性・衝動性優勢型,混合型の3つの病型に分類される。診断は臨床的な基準により下される。治療では通常,精神刺激薬による薬物療法,行動療法,教育的介入などが行われる。 注意欠如・多動症(ADHD)は,神経発達障害と考えられている。神経発達障... さらに読む を伴う 素行症 素行症 素行症は,他者の権利を侵害する行為や年齢相応の主要な社会規範または規則に違反する行動を反復的または持続的に起こそうとする状態である。診断は病歴に基づいて行う。併存症の治療と精神療法が助けになることもあるが,多くの小児でかなりの程度の監督が必要である。 程度を問わない素行症の有病率は約10%である。発症は通常,小児期後期または青年期前期であり,女児よりも男児の方がはるかに多い。... さらに読む を10歳以前に発症した場合,成人期に反社会性パーソナリティ障害を発症するリスクは増加する。素行症が反社会性パーソナリティ障害へと進展するリスクは,親が子供を虐待したり,ネグレクトしたりする場合,またはしつけもしくは子育てに一貫性がない場合(例,温かく支持的なものから,冷たく批判的なものへの変化)は増加する場合がある。
ASPDの症状と徴候
反社会性パーソナリティ障害患者は,器物の破壊,他者への嫌がらせ,窃盗により他者や法律の軽視を示すことがある。彼らは自分の欲しいもの(例,金,権力,セックス)を手に入れるために,人を欺き,利用し,言いくるめ,操作することがある。患者は偽名を使うことがある。
このような患者は衝動的であり,前もって計画を立てることがなく,自己もしくは他者に対する行動の結果または自己もしくは他者の安全性を顧慮しない。その結果,患者は突然転職したり,引っ越したり,人間関係を変えたりする。運転中にスピードを出したり,酩酊中に運転したりして,ときに事故につながることがある。過剰な量のアルコールを摂取したり,有害作用が生じうる違法薬物を使用したりする。
反社会性パーソナリティ障害患者は社会的,金銭的に無責任である。別の仕事に就く計画もなく,仕事を辞めることがある。機会があっても職を求めないことがある。請求書の支払いをしなかったり,ローン返済を怠ったり,子供の養育費を支払わなかったりする。
このような患者はしばしばすぐに怒り,身体的攻撃性を示す;配偶者やパートナーと喧嘩を始めたり,虐待したりする。性的関係では,患者は無責任で,パートナーを利用し,パートナーを1人だけに留めることができない場合がある。
行動に対する後悔の念がない。反社会性パーソナリティ障害患者は自分が傷つけた相手や(例,傷つけられて当然である)世の中のあり方(例,不公平である)を責めることで自分の行動を合理化することがある。彼らは人のいいなりになるまいとし,いかなる犠牲を払っても自分にとって最善と考えることをしようとする。
このような患者は他者に対する共感に欠け,他者の感情,権利,および苦しみを馬鹿にしたり,それらに無関心であったりする。
反社会性パーソナリティ障害患者は自己評価が高い傾向があり,非常に独断的,自信家,または傲慢なことがある。望むものを手に入れるためには,感じよく,能弁で,流暢に話すことがある。
ASPDの診断
診断基準(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition[DSM-5])
反社会性パーソナリティ障害の診断を下すには,患者に以下が認められる必要がある:
他者の権利に対する持続的な軽視
この軽視は,以下のうちの3つ以上が認められることによって示される:
逮捕の対象となる行為を反復的に行うことにより示される法律の軽視
反復的な嘘,偽名の使用,または個人的利益もしくは快楽のために他者を言いくるめることにより示される欺瞞的態度
衝動的に行動したり,事前に計画を立てなかったりする
絶えず身体的喧嘩を始めたり,他者を攻撃したりすることにより示される易怒性または攻撃性
自分または他者の安全性の向こう見ずな軽視
別の仕事のあてもなく仕事を辞めたり,請求書の支払いをしなかったりすることにより示される一貫した無責任な行動
他者を傷つけたり虐待したりすることに対する無関心またはそのような行為の合理化により示される後悔の念の欠如
また,素行症が15歳以前には存在したという証拠を有している必要がある。反社会性パーソナリティ障害は18歳以上の人でのみ診断される。
鑑別診断
反社会性パーソナリティ障害は以下と鑑別する必要がある:
物質使用障害 物質関連障害群の概要 物質関連障害群には,脳内報酬系を直接活性化する薬物が関与する。報酬系が活性化されると,典型的には快感が生じるが,具体的にどのような快感が誘発されるかは,薬物に応じて広い幅がある。このような薬物は,薬理学的機序の差異(全く別とは言えない)に基づき10のクラスに分類される。該当する薬物クラスとしては以下のものがある:... さらに読む :衝動性および無責任性が物質使用障害によるものなのか,または反社会性パーソナリティ障害によるものなのかの判断が困難な場合があるが,幼少期を含む患者の病歴の検討に基づいてしらふの時期を確認することで可能となる。併存する物質使用障害が治療された後に,反社会性パーソナリティ障害がより容易に診断できることがあるが,反社会性パーソナリティ障害は物質使用障害がみられる場合でも診断可能である。
素行症 素行症 素行症は,他者の権利を侵害する行為や年齢相応の主要な社会規範または規則に違反する行動を反復的または持続的に起こそうとする状態である。診断は病歴に基づいて行う。併存症の治療と精神療法が助けになることもあるが,多くの小児でかなりの程度の監督が必要である。 程度を問わない素行症の有病率は約10%である。発症は通常,小児期後期または青年期前期であり,女児よりも男児の方がはるかに多い。... さらに読む :素行症は社会規範および法律に違反する同様の広汎なパターンを有するが,素行症は15歳以前にみられる必要がある。
自己愛性パーソナリティ障害 自己愛性パーソナリティ障害(NPD) 自己愛性パーソナリティ障害は誇大性,賞賛への欲求,および共感の欠如の広汎なパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療は精神力動的精神療法による。 ( パーソナリティ障害の概要も参照のこと。) 自己愛性パーソナリティ障害患者は自尊心の調節に困難を有するため,賞賛および特別な人物または機関との関係を必要とする;優位性を維持するために,他者を低く評価する傾向もある。 自己愛性パーソナリティ障害の推定生涯有病率には大きな幅があるが,米国の... さらに読む :患者は同様に搾取的で,共感性に欠けるが,反社会性パーソナリティ障害でみられるように攻撃的でも虚偽的でもないことが多い。
境界性パーソナリティ障害 境界性パーソナリティ障害(BPD) 境界性パーソナリティ障害は,対人関係の不安定性および過敏性,自己像の不安定性,極度の気分変動,ならびに衝動性の広汎なパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療は精神療法および薬剤による。 ( パーソナリティ障害の概要も参照のこと。) 境界性パーソナリティ障害患者は孤独に対する耐え難さを有する;見捨てられることを避けるために死に物狂いの努力を払い,他者が救助またはケアをしてくれるよう仕向ける形で... さらに読む :患者は同様に操作的であるが,反社会性パーソナリティ障害患者のように自分の望むもの(例,金,権力)を手に入れるためではなく,ケアをしてもらうためにそのようにする。
ASPDの治療
一部の症例では,認知行動療法のほか,ときに特定の薬剤
特定の治療法により長期的改善が得られるという証拠はない。このため,治療の目的は,患者を変容させることではなく,法的責任を避けるなどの他の短期的目標を達成することである。随伴性マネジメント(すなわち,患者の行動に応じて患者が望むものを与えたり,与えなかったりする)が適応となる。
顕著な衝動性と情緒不安定がみられる攻撃的な患者では,認知行動療法または薬剤(例,リチウム,バルプロ酸,選択的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療が有益となる場合がある。非定型抗精神病薬が役立つ可能性があるが,その使用についてのエビデンスはあまりない。