反社会性パーソナリティ症(antisocial personality disorder)は,結果や他者の権利を軽視する広汎性のパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療法としては認知行動療法,抗精神病薬,抗うつ薬などがある。
(パーソナリティ症の概要も参照のこと。)
反社会性パーソナリティ症の患者は,個人的利益や快楽のために違法行為,欺瞞行為,搾取的行為,無謀な行為を行い,良心の呵責を感じることがなく,また以下のように振る舞うことがある:
自分の行動を正当化または合理化する(例,敗者は負けるべくして負けると考える,自分の利益を追及する)
被害者のことを愚か者または無力だと責める
自分の行動が他者に及ぼす搾取的で有害な影響に関心を示さない
米国と英国から報告されたいくつかの大規模疫学調査の結果によると,反社会性パーソナリティ症の生涯有病率の推定値は2~5%である(1, 2)。反社会性パーソナリティ症は男性の方が女性より多く(3:1)(3),強い遺伝要素がある。有病率は加齢とともに低下するが(4),このことは,患者が時間の経過とともに自身の不適応行動を変容できるようになることを示唆している。
併存症がよくみられる。大半の患者は物質使用症を併発している(また物質使用症患者の約半数は反社会性パーソナリティ症の基準を満たす)(3)。反社会性パーソナリティ症の患者は,衝動制御障害,気分症,不安症,ギャンブル症,注意欠如多動症,またはボーダーラインパーソナリティ症を併発していることが多い。
総論の参考文献
1.Lenzenweger MF, Lane MC, Loranger AW, et al: DSM-IV personality disorders in the National Comorbidity Survey Replication.Biol Psychiatry 62(6):553-564, 2007. doi: 10.1016/j.biopsych.2006.09.019
2.Trull TJ, Jahng S, Rachel L Tomko, et al: Revised NESARC personality disorder diagnoses: Gender, prevalence, and comorbidity with substance dependence disorders.J Pers Disord 24(4):412-426, 2010. doi: 10.1521/pedi.2010.24.4.412
3.Regier DA, Farmer ME, Rae DS, et al: Comorbidity of mental disorders with alcohol and other drug abuse.Results from the Epidemiologic Catchment Area (ECA) Study.JAMA 264(19):2511-2518, 1990.PMID: 2232018.
4.d'Huart D, Seker S, Burgin D, et al: The stability of personality disorders and personality disorder criteria: A systematic review and meta-analysis.Clin Psychol Rev 102:102284, 2023. doi: 10.1016/j.cpr.2023.102284
反社会性パーソナリティ症の病因
遺伝因子および環境因子(例,小児期の虐待)が反社会性パーソナリティ症の発症に寄与している。想定される機序の1つとして,セロトニントランスポーターの機能異常に関連した衝動的な(計画的ではない)攻撃性がある。幼児期に他者の痛みを無視することが青年期後期の反社会的行動と関連づけられている。
反社会性パーソナリティ症は,この疾患を有する患者の第1度近親者において,一般集団よりも高い頻度でみられる(1)。この疾患を発症するリスクは,この疾患を有する親の養子および実子のいずれでも高い。
注意欠如多動症を伴った素行症を10歳以前に発症した場合,成人期に反社会性パーソナリティ症を発症するリスクは増加する(2)。素行症が反社会性パーソナリティ症に進展するリスクは,親から子に対して虐待またはネグレクトがある場合や,しつけや子育てに一貫性がない場合(例,温かく支持的なものから,冷たく批判的なものへの変化)に,増加する可能性がある(3)。
病因論に関する参考文献
1.Polderman TJC, Benyamin B, de Leeuw CA, et al: Meta-analysis of the heritability of human traits based on fifty years of twin studies.Nat Genet 47(7):702-709, 2015. doi: 10.1038/ng.3285
2.Storebø OJ, Simonsen EJ: The association between ADHD and antisocial personality disorder (ASPD): A review.Atten Disord: 20(10):815-24, 2016.doi: 10.1177/1087054713512150
3.Reti IM, Samuels JF, Eaton WW, et al: Adult antisocial personality traits are associated with experiences of low parental care and maternal overprotection.Acta Psychiatr Scand 106(2):126-133, 2002. doi: 10.1034/j.1600-0447.2002.02305.x
反社会性パーソナリティ症の症状と徴候
反社会性パーソナリティ症の患者では,他者や法律を軽視する態度が器物の破壊や他者への嫌がらせ,窃盗などの形で現れることがある。患者は欲しているもの(例,金,権力,性的快楽)を手に入れるために,人を騙したり,搾取したり,言いくるめたり,操作したりすることがある。偽名を使うこともある。
患者は衝動的で,前もって計画を立てることがなく,自己や他者に対する行動の結果や自己や他者の安全を考慮することがない。その結果,患者は突然転職したり,引っ越したり,人間関係を変えたりする。運転中にスピードを出したり,酩酊しながら運転したりすることがあり,ときに事故につながる。過剰な量のアルコールを摂取したり,違法薬物を使用したりすることもある。
反社会性パーソナリティ症の患者は社会的,金銭的に無責任である。別の仕事に就く計画もなく,仕事を辞めることがある。機会があっても職を求めないことがある。請求書の支払いをしなかったり,ローン返済を怠ったり,子供の養育費を支払わなかったりする。
このような患者はしばしばすぐに怒り,身体的攻撃性を示す;配偶者やパートナーと喧嘩を始めたり,虐待したりする。性的関係では,患者は無責任で,パートナーを利用し,パートナーを1人だけに留めることができない場合がある。
行動に対する後悔の念がない。反社会性パーソナリティ症の患者は,自分が傷つけた相手や(例,傷つけられて当然である)世の中のあり方(例,不公平である)を責めることで自分の行動を合理化することがある。彼らは人のいいなりになるまいとし,いかなる犠牲を払っても自分にとって最善と考えることをしようとする。
このような患者は他者に対する共感に欠け,他者の感情,権利,および苦しみを馬鹿にしたり,それらに無関心であったりする。
反社会性パーソナリティ症の患者は,非常に独断的,自信家,または傲慢であることがある。望むものを手に入れるためには,感じよく,能弁で,流暢に話すことがある。
反社会性パーソナリティ症の診断
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed, Text Revision(DSM-5-TR)の診断基準
反社会性パーソナリティ症の診断(1)を下すには,患者に以下が認められる必要がある:
他者の権利に対する持続的な軽視
この軽視は,以下のうちの3つ以上が認められることによって示される:
逮捕の対象となる行為を繰り返し行うことにより示される法律の軽視
反復的な嘘,偽名の使用,または個人的な利益や快楽のために他者をだますことにより示される虚偽性
衝動的に行動する,または事前に計画を立てない
いつも身体的な喧嘩を始めたり,他者を攻撃したりすることにより示される易怒性または攻撃性
無謀なまでに自分または他者の安全を軽視する
別の仕事のあてもなく仕事を辞めたり,請求書の支払いをしなかったりすることにより示される一貫した無責任な行動
他者を傷つけたり虐待したりすることに対する無関心やそのような行為の正当化により示される良心の呵責の欠如
また,15歳未満で素行症を発症していた証拠がなければならない。反社会性パーソナリティ症は18歳以上の人でのみ診断される。
鑑別診断
反社会性パーソナリティ症は以下と鑑別する必要がある:
物質使用症:衝動性や無責任が物質使用症と反社会性パーソナリティ症のどちらによるものかを判断するのが難しいことがあるが,幼少期を含む患者の病歴の検討に基づいてしらふの時期を確認することで可能となる。併存する物質使用症が治療された後に,反社会性パーソナリティ症がより容易に診断できることがあるが,反社会性パーソナリティ症は物質使用症がみられる場合でも診断可能である。
素行症:素行症は社会規範および法律に違反する同様の広汎なパターンを有するが,素行症は15歳以前にみられる必要がある。
自己愛性パーソナリティ症:患者は同様に搾取的で,共感性に欠けるが,反社会性パーソナリティ症でみられるように攻撃的でも虚偽的でもないことが多い。
ボーダーラインパーソナリティ症:患者は同様に操作的であるが,反社会性パーソナリティ症患者のように自分の望むもの(例,金,権力)を手に入れるためではなく,面倒を見てもらうためにそのようにする。
診断に関する参考文献
1. American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed, Text Revision (DSM-5-TR).Washington, DC, American Psychiatric Association, 2022, pp 748-752.
反社会性パーソナリティ症の治療
随伴性マネジメント
選択された症例では薬剤
特定の治療法により長期的改善が得られるという証拠はない。このため,治療の目的は,患者を変容させることではなく,法的責任を避けるなどの他の短期的目標を達成することである。随伴性マネジメント(すなわち,患者の行動に応じて患者が望むものを与えたり,与えなかったりする)が,効果は限定的ながら有益となる可能性がある(1)。併存疾患(例,気分症,物質使用症)についても,患者が希望するアプローチに従って治療すべきである。
顕著な衝動性と情緒不安定がみられる攻撃的な患者では,薬剤(例,非定型抗精神病薬,リチウムとバルプロ酸[双極症の薬物療法を参照],選択的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療が有益となる可能性がある。
治療に関する参考文献
1.Gibbon S, Khalifa NR, Cheung NH-Y, et al: Psychological interventions for antisocial personality disorder.Cochrane Database Syst Rev 9(9):CD007668, 2020. doi: 10.1002/14651858.CD007668.pub3



