深部静脈血栓症に対する薬剤

執筆者:James D. Douketis, MD, McMaster University
レビュー/改訂 2021年 2月
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深部静脈血栓症(DVT)患者には全例で抗凝固薬を投与するほか,まれな症例では血栓溶解薬を投与する。いくつかの抗凝固薬が深部静脈血栓症の管理に効果的である(深部静脈血栓症も参照)。

非薬物療法としては,手術下大静脈フィルターなどがある。

(American College of Chest PhysiciansによるAntithrombotic Therapy for VTE Diseaseに関する推奨事項も参照のこと [1]。)

抗凝固薬

抗凝固薬(抗凝固薬とその作用部位の図および経口抗凝固薬の表を参照)としては以下のものがある:

  • 低分子ヘパリン(LMWH)

  • 未分画ヘパリン(UFH)

  • 第Xa因子阻害薬:経口(例,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)および注射(フォンダパリヌクス)

  • 直接トロンビン阻害薬:経口(ダビガトランエテキシラート)および注射(アルガトロバン,ビバリルジン[bivalirudin],デシルジン[desirudin])

  • ワルファリン

経口の第Xa因子阻害薬および直接トロンビン阻害薬は,ときに直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)と呼ばれる。一方で,第Xa因子とトロンビンの両方を阻害する注射薬(未分画ヘパリン)や,主に第Xa因子を阻害する注射薬(LMWH),第Xa因子のみを阻害する注射薬(フォンダパリヌクス)もある。これらの薬剤は,DVT患者とPE患者の両者に使用できる。

抗凝固薬とその作用部位

LMWH = 低分子ヘパリン; TF = 組織因子; UFH = 未分画ヘパリン。

表&コラム

DVTに対する抗凝固療法の戦略

DVT患者に対する抗凝固療法にはいくつかの戦略がある:

  • 初期治療として(未分画または低分子)ヘパリンの注射剤,数日後に経口薬(例,ワルファリン,第Xa因子阻害薬,または直接トロンビン阻害薬)による長期治療を開始する。

  • LMWHによる初期治療および長期治療

  • 特定の経口第Xa因子阻害薬(リバーロキサバンまたはアピキサバン)による初期治療および長期治療

全てではないが一部の新しい経口抗凝固薬は,DVTおよび肺塞栓症(PE)に対する第1選択の治療としてワルファリンの代わりに使用することができ,また単剤療法として使用してもよい(経口抗凝固薬の表を参照)。ワルファリンと比較して,これらの薬剤はDVTの再発に対して同程度の予防効果をもたらし,重篤な出血のリスクも同程度である(アピキサバンの場合はおそらくより低い)ことが示されている(1)。

これらの薬剤の長所は,数時間で効果が得られるため,ヘパリンによる重複治療(ブリッジング療法)の期間を必要としないことであるが,エドキサバンおよびダビガトランを使用するには,抗凝固薬の注射剤による5日間以上の前治療が必要になる。また,固定用量で投与するため,ワルファリンとは異なり,継続的な臨床検査を必要としない。

主な欠点は,ワルファリンと比べて費用が高く,出血時や緊急の手術または処置が必要になった際に使用するDOAC拮抗薬の価格が高いことである。

治療期間は一定でない。DVTの一過性の危険因子(例,不動状態,手術)を有する患者は,通常3~6カ月後に抗凝固薬の服用を中止できる。既知の危険因子がない特発性(または原発性)DVT患者,およびDVTを再発した患者は,抗凝固薬の服用を少なくとも6カ月以上,一部の患者では出血性合併症のリスクが高くない限りおそらく生涯にわたって継続すべきである。がん関連血栓症がある患者には,少なくとも3カ月間の抗凝固療法を行うべきである。患者が継続的ながん治療を受けている場合,または進行した転移病変を有する患者では,通常,治療期間が長くなる。一部の凝固亢進状態(例,抗リン脂質抗体症候群またはプロテインCプロテインS,もしくはアンチトロンビン欠乏症)の患者でも,長期にわたる抗凝固療法を考慮すべきである。

低分子ヘパリン(LMWH)

低分子ヘパリン(例,エノキサパリン,ダルテパリン,チンザパリン―血栓塞栓性疾患における低分子ヘパリンの選択肢の表を参照)は外来で使用できるため,初期治療での第1選択薬である。DVTの再発,血栓の進展,およびPEによる死亡リスクを低減する上で,LMWHはUFHと同等に効果的である。UFHと同様に,LMWHもアンチトロンビンの作用(凝固因子プロテアーゼを阻害する)を触媒し,凝固第Xa因子および(程度はやや低いが)凝固第IIa因子の不活化をもたらす。LMWHはまた,アンチトロンビンを介した抗炎症作用もある程度有しており,これは血栓の器質化を促進して症状および炎症を軽減する。

LMWHは典型的には体重ベースの標準用量で皮下投与される(例,エノキサパリン1.5mg/kg,皮下,1日1回もしくは1mg/kg,皮下,12時間毎,またはダルテパリン200単位/kg,皮下,1日1回)。腎機能不全を有する患者には,UFHまたは減量したLMWHによる治療が可能である。LMWHは総合的な凝固検査の結果に有意な延長をもたらさないことから,モニタリングは信頼性が低い。さらに,LMWHは予測可能な用量反応性を示し,LMWHの抗凝固作用と出血との間に明確な関連性は認められていない。治療はワルファリンで十分な抗凝固効果が得られるまで継続する(典型的には5日程度)。経口薬であるリバーロキサバンまたはアピキサバンへの移行はいつでも可能で,重複させる必要はない。エドキサバンまたはダビガトランへの移行には,少なくとも5日間のLMWHによる治療が必要であるが,重複させる必要はない。

LMWHは,がんに関連したDVTを有する患者(中心静脈カテーテルを留置していてDVTを発症した患者を含む)に対する第1選択薬である。ワルファリンは安価であるため,第2選択薬としてLMWHの代わりに使用できるが,使用には注意深いモニタリングが必要である。

未分画ヘパリン(UFH)

未分画ヘパリンは腎臓で除去されないことから,入院患者と腎機能不全または腎不全(クレアチニンクリアランス10~30mL/min)を有する患者には,LMWHの代わりにUFHを使用してもよい。UFHは,十分な抗凝固効果(例,活性化部分トロンボプラスチン時間[aPTT]基準範囲の1.5~2.5倍)を達成するため,急速投与と点滴で投与される(体重に基づくヘパリンの用量設定の図を参照)。外来患者では,歩行を促進するために,最初のUFH 333単位/kgの急速投与に続いて250単位/kgを12時間毎に皮下投与する治療法で静脈内投与の代替とすることが可能であり,aPTTに基づく用量調節は必要ない。治療はワルファリンで十分な抗凝固効果が得られるまで継続する。

ヘパリンの合併症としては,出血血小板減少(LMWHでは比較的少ない),蕁麻疹,まれに血栓症アナフィラキシーなどがある。UFHの長期使用は低カリウム血症,肝酵素値上昇,および骨減少症の原因となる。まれに,皮下投与したUFHによって皮膚の壊死が引き起こされることがある。入院患者には(ときには外来患者にも),継続的な血算および(適切な場合には)便潜血検査による出血のスクリーニングを行うべきである。

第Xa因子阻害薬

リバーロキサバンおよびアピキサバンは,診断後直ちに単剤療法として開始することも,時期を問わずヘパリンの注射剤から移行して重複させずに使用することも可能である。リバーロキサバンは15mgを1日2回,3週間経口投与した後,20mgを1日1回,9週間経口投与する。アピキサバンは10mgを1日2回,7日間経口投与した後,5mgを1日2回,3~6カ月経口投与する。

エドキサバンは,最初にLMWHまたはUFHによる5~7日間の治療を必要とし,その後は60mg,経口,1日1回で投与する。

抗凝固薬の注射剤から移行する場合,典型的には第Xa因子阻害薬を,1日2回のレジメンによるLMWHの最終投与から6~12時間以内,または1日1回のレジメンによるLMWHの最終投与から12~24時間以内に開始する。

がん関連静脈血栓塞栓症(VTE)のある選択された患者に対して,アピキサバン,エドキサバン,およびリバーロキサバンがLMWHによる単剤療法の代替薬として使用できることを示すエビデンスもある(2-4)。

注射剤の選択的第Xa因子阻害薬であるフォンダパリヌクスは,DVTまたはPEの初期治療にUFHまたはLMWHの代替薬として使用することができる。7.5mg,皮下,1日1回(体重が100kgを超える患者では10mg,50kg未満の患者では5mg)の固定用量で投与する。この薬剤は固定用量であることが利点であり,血小板減少を惹起する可能性が低い。

ベトリキサバン(betrixaban)は,DVTの予防(治療ではない)にのみ使用される経口第Xa因子阻害薬である。

直接トロンビン阻害薬

ダビガトランは150mg,経口,1日2回とし,LMWHによる5日間の初期投与後にのみ投与する。典型的には,1日2回のレジメンによるLMWHの最終投与から6~12時間以内,または1日1回のレジメンによる最終投与から12~24時間以内に開始する。

注射剤の直接トロンビン阻害薬(アルガトロバン,ビバリルジン[bivalirudin],デシルジン[desirudin])が使用可能であるが,DVTまたはPEの治療ないし予防で果たせる役割はない。アルガトロバンは,ヘパリン起因性血小板減少症を呈するDVT患者の治療に有用となりうる。

ビタミンK拮抗薬(ワルファリン)

ワルファリンなどのビタミンK拮抗薬は,VTE患者に対する第1選択薬であるが,一部の患者は例外であり,妊婦ではヘパリン投与を継続すべきであり,がん関連VTE患者ではLMWHを投与すべきである(エドキサバンまたはリバーロキサバンで代用できることを示すエビデンスも新たに得られている)。

ワルファリンは十分な治療効果が得られるまでに5日程度の期間を要することから,5~10mgの投与をヘパリンとともに直ちに開始することが可能である。高齢患者および肝疾患を有する患者では,一般的にワルファリンは低用量で使用する必要がある。治療目標は国際標準化比(INR)2.0~3.0である。INRのモニタリングを,ワルファリン開始後最初の1~2カ月間は週1回,その後は月1回の頻度で実施する;INRがこの範囲内に維持されるように用量を0.5~3mgずつ増減する。ワルファリンの投与を受けている患者には,起こりうる薬物相互作用(食品や処方箋なしで入手できる薬用ハーブとの相互作用も含む)について情報を提供すべきである。

先天性プロテインCまたはプロテインS欠乏症の患者では,ワルファリンが皮膚壊死を引き起こすことがまれにある

抗凝固薬による治療に関する参考文献

  1. 1.Kearon C, Aki EA, Ornelas J, et al: CHEST Guideline and Expert Panel Report: Antithrombotic therapy for VTE disease.Chest 149:315–352, 2016.doi: https://doi.org/10.1016/j.chest.2015.11.026

  2. 2.Agnelli G, Becattini C, Meyer G, et al: Apixaban for the treatment of venous thromboembolism associated with cancer.N Engl J Med 382:1599–1607, 2020.doi: 10.1056/NEJMoa1915103

  3. 3.Raskob GE, van Es N, Verhamme P, et al: Edoxaban for the treatment of cancer-associated venous thromboembolism.N Engl J Med Dec 12, 2017.doi: 10.1056/NEJMoa1711948

  4. 4.Young AM, Marshall A, Thirlwall J, et al: Comparison of an oral factor Xa inhibitor with low molecular weight heparin in patients with cancer with venous thromboembolism: Results of a randomized trial (SELECT-D).J Clin Oncol 36: 2017–2023, 2018.doi: 10.1200/JCO.2018.78.8034

抗凝固薬使用中の出血

出血は抗凝固薬の最も一般的な合併症であり,軽度のものから重度の生命を脅かすものまであらゆる程度の出血がありうる。

軽度の出血(例,鼻出血)に対しては,出血を止める局所的処置(例,直接圧迫)で十分であることが多い。出血が重症化しない限り,通常は抗凝固薬を中止することも,拮抗薬を投与することもない。

重度の出血(例,重度の消化管出血)がある場合,通常は抗凝固薬を(少なくとも一時的に)中止し,他の手段を講じる。以下の場合,出血は一般に重度と考えられる:

  • 大量(7日以内に2単位以上の失血)

  • 非常に重要な部位(例,頭蓋内,眼内)

  • 止血が困難な部位(例,小腸,鼻腔後部,肺)

重度出血の危険因子としては以下のものがある:

  • 年齢 65歳

  • 消化管出血または脳卒中の既往

  • 最近の心筋梗塞の既往

  • 貧血(ヘマトクリット < 30%),腎機能不全(血清クレアチニン値 > 1.5mg/dL[115µmol/L]),または糖尿病

重度の出血に対する支持療法には,止血のための局所的処置(例,直接圧迫,焼灼,注射)などがある。体液量減少の症候がみられる患者と重度の出血が続いている患者には,輸液蘇生(fluid resuscitation)濃厚赤血球輸血が必要になることがある。多くの出血エピソードにおいてはこれらの処置で十分である。

生命を脅かす出血および/または持続する出血があるか,非常に重要な部位での出血がある患者では,以下の投与も考慮する:

  • 拮抗薬

  • 凝固因子(例,プロトロンビン複合体製剤,新鮮凍結血漿)

  • 抗線溶薬

しかしながら,これらの薬剤はその定義からして血栓の形成を促すものであるため,出血が続くリスクと血栓症のリスク増大とのバランスを考慮すべきである。

抗凝固薬に対する拮抗薬

多くの抗凝固薬には特異的な拮抗薬が存在する。これらが利用できないか効果がない場合は,凝固因子(典型的には4因子プロトロンビン複合体製剤[4-factor prothrombin complex concentrate ]またはときに新鮮凍結血漿)を投与できる。血液透析によって除去したり,活性炭によって吸収を阻害したりできる薬剤もある。

ヘパリンの場合,硫酸プロタミンにより出血を止めるか遅らせることができる。プロタミンはLMWHによる第Xa因子の不活化を部分的にしか中和しないため,LMWHよりもUFHに効果的である。用量はUFH 100単位またはLMWH 1mg当たりプロタミン1mgであり,10~20分かけて緩徐に静注する(最大用量は10分間で50mg)。UFHを投与してからの経過時間に応じて用量を減らす。2回目の投与が必要な場合は,1回目の半量で投与すべきである。点滴中は必ず,患者を観察して低血圧やアナフィラキシー様の反応がみられないか確認すべきである。静脈内投与されたUFHの半減期は30~60分であることから,一般に60~120分以内にUFHが投与された患者にはプロタミンの投与を控えるか,UFHの半減期から推定される血漿中のヘパリンの残存量に基づき用量を減らして投与する。

ワルファリンによる抗凝固作用の中和にはビタミンKを使用することができ,その用量はINRが5~9の場合は1~2.5mg,経口,INRが9を超える場合は2.5~5mg,経口,活動性の出血がある場合は5~10mg,静注(アナフィラキシーを回避するため緩徐に投与)である。出血が重度であれば,プロトロンビン複合体製剤(PCC)を投与すべきであり,PCCが入手できない場合は新鮮凍結血漿を使用してもよい。過剰抗凝固状態(INR 5~9)を呈し,活動性出血がみられず,出血リスクの増大もない一部の患者では,ワルファリンを1~2回休薬して,INRのモニタリングをより頻回に行い,その後にワルファリンを低用量で再開することで管理できる。

ダビガトランの場合,ヒト化モノクローナル抗体であるイダルシズマブ5g,静注が出血に対する効果的な中和剤である。この薬剤が入手できない場合は,4因子PCC 50単位/kgを静注してもよい。ダビガトランはタンパク質とあまり結合しないため,血液透析が役立つ可能性もある。ダビガトランを最後に投与したのが2時間以内である場合は,活性炭の内服が選択肢となる。

第Xa因子阻害薬の場合,米国ではアンデキサネット アルファが中和剤として利用できるが,価格が高いこともあり,その使用には制限がある(1)。第Xa因子阻害薬を高用量(例,リバーロキサバン > 10mgまたはアピキサバン > 5mg)で使用している場合,または受診前8時間以内に服用していた場合は,高用量のアンデキサネット アルファ(30mg/分で800mgの静注後,8mg/分で960mgの静注)を投与する。第Xa因子阻害薬を低用量で使用しているか,受診の8時間以上前にこの薬剤を服用していた場合は,低用量のアンデキサネット アルファ(30mg/分で400mgの静注後,8mg/分で480mgの静注)を投与する。フォンダパリヌクスによる抗凝固作用は,理論的にはアンデキサネット アルファで拮抗できるが,臨床試験での検討はまだなされていない。アンデキサネット アルファが入手できない場合は,4因子PCCを考慮してもよい。第Xa因子阻害薬を受診前数時間(リバーロキサバンでは8時間,アピキサバンでは6時間,エドキサバンでは2時間)以内に内服していた患者では,活性炭の経口投与が選択肢の1つとなる。血液透析は経口第Xa因子阻害薬に対して効果的ではない。

直接作用型経口抗凝固薬に対するその他の拮抗薬の開発が現在進められている(例,シラパランタグ[ciraparantag])。

凝固因子

凝固因子は以下の形で利用できる:

  • プロトロンビン複合体製剤

  • 新鮮凍結血漿

  • 個々の凝固因子

プロトロンビン複合体製剤(PCC)はいくつかの剤形で利用できる。3因子PCCは第II,第IX,および第X因子を高濃度に含有し,4因子PCCはそれに第VII因子を加えたものである;いずれもプロテインCおよびSも含有する。PCCは活性化されていない場合もあれば,活性化されている場合もあり,後者の場合は一部の因子が活性型に切断されている。3因子PCCよりも出血の停止に効果を示す傾向があることから,4因子PCCがより望ましい。3因子PCCを使用する場合は,新鮮凍結血漿(FFP)も投与することができるが,これはFFPには3因子PCCにはない第VII因子が含まれているためである。典型的な用量は50単位/kg,静注である。便益のエビデンスは不確かであり,凝固のリスクが有意であるため,PCCは生命を脅かす出血にのみ使用すべきである。

新鮮凍結血漿には全ての凝固因子が含まれているが,その濃度は正常な血漿中濃度に過ぎない。現在では一般的にPCCが利用できない場合にのみ使用される;第Xa因子阻害薬による出血に効果的であることを示すエビデンスはない。

活性化組換え第VII因子などの個々の凝固因子もあるが,抗凝固薬に関連する出血には役に立たないと考えられている。

抗線溶薬およびその他の薬剤

抗線溶薬を試すこともできるが,抗凝固薬を投与されている患者での出血の停止を目的とした使用については研究されていない。トラネキサム酸10~20mg/kgを急速静注した後,10mg/kgを6~8時間毎に静注することがある。イプシロン-アミノカプロン酸を2g,静注,6時間毎で開始することもある。

出血後の抗凝固療法の再開

抗凝固薬を永久的に中止するか減量するかを決定する際には,臨床的な判断が必要である。

患者が抗凝固薬の治療コースをほぼ完了しており,重度の出血エピソードがある場合は,抗凝固薬を中止できる。しかしながら,患者が治療を開始したばかりか治療の中盤にあり,重度の出血がみられる場合,抗凝固薬を中止するか減量するかの決定はそれほど単純ではなく,集学的チームと相談しながら,その患者の優先事項を考慮して決定を下すべきである。

抗凝固薬による出血に関する参考文献

  1. 1.Connolly SJ, Crowther M, Eikelboom JW, et al: Full study report of andexanet alfa for bleeding associated with factor Xa inhibitors.N Engl J Med 380:1326–1335, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1814051

血栓溶解薬

血栓溶解薬(アルテプラーゼ,テネクテプラーゼ[tenecteplase],ストレプトキナーゼなど)は,血栓を溶解する作用を有し,一部の患者でヘパリン単独よりも効果的である可能性があるが,出血リスクがヘパリン単独よりも高い。DVT患者に対しては,臨床試験で血栓溶解療法では従来の抗凝固療法と比較して静脈炎後症候群の発生率が低下しないことが示された(1)。したがって,血栓溶解薬を考慮するのは慎重に選択したDVT患者にのみにすべきである。血栓溶解薬が有益となりうる患者は,腸骨-大腿静脈領域の広範なDVTを有する若年(60歳未満)かつ出血の危険因子がない患者などである。肢の虚血が発生しつつあるかすでに存在している広範なDVT(例,有痛性青股腫)の患者では,血栓溶解療法を強く考慮すべきである。

PE患者に対しては,臨床的に広範型の(massive)PE(全身性低血圧[収縮期血圧90mmHg未満]に関連するPEと定義される),心原性ショック,または呼吸不全がある場合に血栓溶解療法を考慮すべきである。それ以外の大半の亜広範型(submassive)PE患者では,血栓溶解療法は有益とならないようである。しかしながら,一部の亜広範型PE患者において,従来の抗凝固療法にもかかわらず臨床的な増悪がみられた場合は血栓溶解療法を考慮してもよい。亜広範型PEと右室機能障害を有する患者では,血栓溶解療法をルーチンに用いてはならない。

DVTとPEのどちらについても,留置カテーテルを用いた(経皮的血栓除去術施行中の)血栓溶解療法の局所(すなわち直接)投与が静脈内投与より望ましいという知見は示されていない。

出血が起こる場合,動脈または静脈の穿刺部位であることが最も多い。この合併症は,血栓溶解薬を中止し,穿刺部位の機械的圧迫または外科的修復を行うことにより治療できる。生命を脅かす出血は,血栓溶解薬の中止に加え,クリオプレシピテートと新鮮凍結血漿を投与して治療する。

血栓溶解薬による治療に関する参考文献

  1. 1.Vedantham S, Goldhaber SZ, Julien JA, et al: Pharmacomechanical catheter-directed thrombolysis for deep-vein thrombosis.N Engl J Med 377:2240–2252, 2017.doi: 10.1056/NEJMoa1615066

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