アンチトロンビンはトロンビンおよび第Xa,第IXa,第および第XIa因子を阻害するため,アンチトロンビン欠乏症は静脈血栓症の素因となる。
(血栓性疾患の概要も参照のこと。)
アンチトロンビンはトロンビンと第Xa,第IXa,第XIa因子を阻害する血漿タンパク質であり,それにより血栓症を抑制する。
ヘテロ接合体のアンチトロンビン欠乏症の有病率は約0.02~0.2%であり(1),そのうち約半数が静脈血栓症を発症する。 ホモ接合体の欠乏症は,おそらく子宮内の胎児にとって致死的である。
後天的な欠乏症は,播種性血管内凝固症候群,肝疾患,もしくはネフローゼ症候群を有する患者,またはヘパリン療法中に生じる。ヘパリンは,アンチトロンビンの活性化によって抗凝固作用を発揮する。
総論の参考文献
1.Pabinger I, Thaler J.How I treat patients with hereditary antithrombin deficiency. Blood 2019;134(26):2346-2353.doi:10.1182/blood.2019002927
アンチトロンビン欠乏症の診断
原因不明の血栓がみられる患者に対して臨床検査を実施し,ヘパリン存在下で患者の血漿によるトロンビンの抑制能を定量する。ヘパリンは正常では,アンチトロンビンによるトロンビンの不活化を促進することによって凝固を阻害する。アンチトロンビン欠乏症患者では,トロンビンの不活化が低下する。検査検体中のトロンビンの残留量は,患者血漿中の機能しているアンチトロンビンの濃度に反比例する。アンチトロンビンは免疫学的測定法でも測定可能であるが,それらの検査は検体中のアンチトロンビンの量を測定するだけで,このタンパク質の機能を評価することはできない。アンチトロンビン欠乏症の患者はまれに機能異常を有するアンチトロンビンを発現するため,アンチトロンビン欠乏症の診断には抗原検査よりも活性検査の方が好ましい。
アンチトロンビン欠乏症の治療
抗凝固療法
アンチトロンビン欠乏症および静脈血栓塞栓症を有する患者における長期の抗凝固療法には,直接作用型経口抗凝固薬またはワルファリンを使用できる(1, 2)。
治療に関する参考文献
1.Campello E, Spiezia L, Simion C, et al.Direct Oral Anticoagulants in Patients With Inherited Thrombophilia and Venous Thromboembolism: A Prospective Cohort Study. J Am Heart Assoc 2020;9(23):e018917.doi:10.1161/JAHA.120.018917
2.Pabinger I, Thaler J.How I treat patients with hereditary antithrombin deficiency. Blood 2019;134(26):2346-2353.doi:10.1182/blood.2019002927